TRAILS REPORT

LONG DISTANCE HIKER #07 河西祐史 | ロングトレイルを通してアメリカを遊びたおす

2021.03.17
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話・写真:河西祐史 取材・構成:TRAILS

What’s LONG DISTANCE HIKER? | 世の中には「ロング・ディスタンス・ハイカー」という人種が存在する。そんなロング・ディスタンス・ハイカーの実像に迫る連載企画。

何百km、何千kmものロング・ディスタンス・トレイルを、衣食住を詰めこんだバックパックひとつで歩きとおす旅人たち。自然のなかでの野営を繰りかえし、途中の補給地の町をつなぎながら、長い旅をつづけていく。

そんな旅のスタイルにヤラれた人を、自らもPCT (約4,200km) を歩いたロング・ディスタンス・ハイカーであるTRAILS編集部crewの根津がインタビューをし、それぞれのパーソナルな物語を紐解いていく。

* * *

第7回目に紹介するロング・ディスタンス・ハイカーは、河西祐史 (かさい ゆうし) さん。

河西さんは、2010年にスルーハイクしたアパラチアン・トレイル (AT ※1) を皮切りに、パシフィック・クレスト・トレイル (PCT ※2)、コンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT ※3)、タホ・リム・トレイル (TRT ※4)、ヘイデューク・トレイル (※5)、パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT ※6) など、毎年のようにアメリカのトレイルをスルーハイクしてきた。

日本人で、河西さんほどアメリカのトレイルを歩いているハイカーはいないだろう。しかし河西さんは『踏破』という言葉を使わないようにしている、という。「遊び」の話が、「挑戦」の話にすり替わってしまうのを嫌うのだ。

そんな河西さんは、スルーハイクのたびに、驚くほど寄り道をしている。トレイル沿いの町に立ち寄るといったレベルではなく、トレイルとまったく関係ない町にも、バスや電車、レンタカーを使ってサイドトリップへと出かけてしまう。

とにかくアメリカを自由に楽しんでいる、ロング・ディスタンス・ハイカーなのだ。

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河西さんと言えばハンモック。これはPCTの時のもので、ハンモックは、ByerのAmazonas Moskito Hammockというすでに廃番のモデル。タープは、ZPacksのオーダーメイドで、DCF (キューベンファイバー) 製。


30代になって、「遊び」にテーマが欲しくなった。


—— 根津:河西さんは、2010年、当時37歳の時に人生初のロングトレイルとしてATを歩きましたよね。もともとロングトレイルへの憧れとか興味があったんですか?

河西:「その頃は、ちょくちょく近場で1泊2日くらいのキャンプをしたりしてたんです。20代の頃はどんなことでも楽しかったんですけど、30代になって物足りなくなってきたというか、なんのテーマ性もない遊びがつまらなくなってきたんですよね。

カヌーでユーコン川を半年くらいかけて下るとか、自転車でアメリカを横断するとか、なにか大きなテーマがほしいと思っていて。

ATのことは、2000年代の初めに、NHKで放映していたATのドキュメンタリー番組をたまたま見て知りました。森の中をキャンプしながら歩く旅があるんだなぁと思って、興味を持ちました」

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雨が多くて有名なATでは、渡渉も経験した。

—— 根津:遊びのテーマとしてはいろんな選択肢があったわけですが、その中でロングトレイルを選んだと。

河西:「さかのぼると、学生時代は、カヌーや自転車、バイク、クルマなど、いろいろな手段で旅をしてたんです。でも次第に、自分のスタイルがどんどん歩くほうに寄っていったというのは自覚しています。

旅先では自然と移動が歩きになりましたし、たとえば自転車だと道路を離れられないじゃないですか。さまざまな遊びの中で、自然の中を歩くのが一番おもしろいと感じるようになってきてはいたんです。

NHKの番組を見た後も、いろいろブログをチェックしているなかで、またATの情報が出てきて。それを見た時に、これだったら仕事さえ辞めれば行けるなと思ったんです」

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湖畔にて。正面に見えるのは、ATのゴール地点であるカタディン山。

—— 根津:行きたい!というより、行ける!って感じだったんですね。

河西:「まあ逆を言うと、今はユーコン川を半年下るのは厳しいなと思ったんですけどね。スルーハイクするかどうかも決めてなくて、とりあえず長期間歩いて楽しければいいかなって思って、行くことにしました」


ゴールにたどり着くことが目的ではない。やっぱ途中がおもしろい。


—— 根津:僕は2012年にPCTをスルーハイクしていた時に、河西さんと会いました。当時の河西さんは、いつの間にかNBAを観戦していたりと、トレイルとは関係ないところに遊びに行ってる印象が強かったです。ATはどうだったんですか?

河西:「まあ、いろいろ行きましたね。ATって、2回電車に乗れる機会があるんですけど、2回とも東海岸まで出て何日か遊んでました。

あとは夏のすごく暑い日に、こんな日に歩いてられるか! ってことで、ハイカーの仲間と一緒に、レンタカーを借りて東海岸のビーチにも行きましたね。

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ATのスルーハイク中に、仲間のハイカーと遊びに行ったマートルビーチ。

そこはマートルビーチっていう、サウスカロライナ州の有名なビーチで。冬は閑散としているけど、夏だけ大騒ぎするような場所なんです。

そもそも自分としては、大西洋自体見たことがないわけですよ。アメリカ好きとしては、一度は見てみたいっていうのもありましたし、バカ騒ぎのビーチも、自分からすればそれこそがアメリカなわけで。行けるチャンスがあれば行かないわけがないんです」

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ATを歩いている時に立ち寄った湖畔。手前にたむろしている連中は全員スルーハイカー。

—— 根津:2012年に歩いたPCTは、なぜまたNBAを観に行ったんですか?

河西:「あの時は、ロサンゼルス・クリッパーズの試合でした。90年代にド底辺にいた弱小チームだったんですけど、当時ちょうど強化策がうまく行って勝てるようになり、ファンとしては狂喜乱舞なわけですよ。

PCTをスルーハイクしている途中、ここから試合会場まで1日でいけるな! と気づいた時があって。それで急遽行くことにしたんです。

おかげで、ずっと負けつづけていたチームが強豪チームに生まれ変わる瞬間を、この目で見ることができたんです。オレは、あの試合を生で見れて幸せでしたよ」

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PCTのスルーハイクでは、途中トレイルを離れて、ロサンゼルスにあるステイプルズ・センターへ。クリッパーズの本拠地でビール片手に試合観戦!

—— 根津:寄り道を楽しんでいるのが河西さんらしいです。

河西:「やっぱり途中がおもしろいんですよね。ゴールにたどり着くことが目的ではないじゃないですか。

だからオレは『踏破』って言葉を使わないようにしてるんです。ロングトレイルを歩いてきた話をすると、大変なことに挑戦して歩き切ってきたという話にすり替えられちゃうことが多いんですよね。

1日1日で見れば、そりゃしんどい日もありますけど、まあやっぱりトータルで見るとずば抜けておもしろいですからね。

踏破がしたいんじゃないんです。半年休みとって半年遊ぶっていうのを、ただただ満喫したいんです」

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ATの有名なフェス『TRAIL DAYS』のハイカーパレードにも参加した。


アメリカのトレイルをまとめた『おもしろそうリスト』は、つねにパンパン。


—— 根津:アメリカのトレイルばかりを歩いてますけど、アメリカへのこだわりがあるんですか?

河西:「昔から、アメリカへの憧れは強烈にありますね。アメリカのお国柄とか文化はすごく好きですよ。特別、何かきっかけがあったわけではないんですけど、まあこれは世代じゃないんですかね。自分の世代は、みんな少なからずアメリカへの憧れみたいなのはあると思います」

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PCTをスルーハイクしている時に、TRTを歩いているグループにたまたま出会い、そのサポートクルーに食事をごちそうになった。これぞトレイルマジック!

—— 根津:これまでもかなり歩きまくってきましたけれど、まだアメリカのトレイルで行きたいところはあるんですか?

河西:「自分が行きたいと思うアメリカのトレイルをまとめた『おもしろそうリスト』は、つねにパンパンですよ (笑)。

一回歩いたトレイルでも、季節をずらすおもしろさもありますし。あと、歳をとったらとったなりのおもしろさがあるはずで。ATにしてもPCTにしても、次は何歳で行こうかなっていうのはあります。

だから、アメリカ以外に手をつける余裕がないですね」

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2017年にスルーハイクしたヘイデューク・トレイル。アメリカには、まだまだ歩きたいトレイルが山ほどある。


This is LONG DISTANCE HIKER.



『 半年間の長い遊び 』

ロング・ディスタンス・ハイキングを、冒険でもなく、挑戦でもなく、ただの遊びだと胸を張って言える人は、実際はそういないんじゃないだろうか。特にスルーハイクした人は、その自分の行為に、何かしらの価値や意味を見出したくなるものだ。

でも、河西さんは「半年休みを取って半年遊べるっていうシステムを、フルに使いたい」と表現する。彼にとってロング・ディスタンス・ハイキングは、正真正銘、遊びなのだ。だから、毎日毎日がおもしろくてしようがないと言う。

トレイルを軽々と離れてビーチに行ったり、NBA観戦に行ったり。次のロング・ディスタンス・ハイキングでは、どこでどうトレイルを離れるのか。その番外編がすごく気になるのだ。

根津貴央

※1 AT:Appalachian Trail (アパラチアン・トレイル)。アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州をまたぐ、2,180mile (3,500km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※2 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※3 CDT:Continental Divide Trail (コンチネンタル・ディバイ・トレイル)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※4 TRT:Tahoe Rim Trail (タホ・リム・トレイル)。カリフォルニア州とネバダ州にまたがるタホ湖を一周する170mile (274km) のトレイル。

※5 ヘイデューク・トレイル (Hayduke Trail):ユタ州南部、アリゾナ州北部の砂漠地帯を横断する812mile (1,307km) のルート。ほとんどの部分がオフトレイルであり、セクションハイクにしてもスルーハイクにしても危険であり、過酷極まりない。

※6 PNT:Pacific Northwest Trail (パシフィック・ノースウエスト・トレイル)。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200mile(1,930km)のロングトレイル。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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