フォロワーゼロのつぶやき 中島悠二 #20 よこになりたい
<フォロワーゼロのつぶやき> 中島君(写真家)による、山や旅にまつわる写真と、その記録の断面を描いたエッセイ。SNSでフォロワーゼロのユーザーがポストしている投稿のような、誰でもない誰かの視点、しかし間違いなくそこに主体が存在していることを示す記録。それがTRAILSが中島君の写真に出会ったときの印象だった。そんな印象をモチーフに綴られる中島君の連載。
#20「よこになりたい」
よこになりたい。いろんな人に会って、話しすぎた。昨日の酒も残っているとなおさら。生きて話してばかりだとこの世は人間が中心だが、人が舞台から消えていなくなっても、舞台はそのまま、消えないであること、地面も床も残る。そのことを感じたくて山にいくのか?近頃は山だけではなくて、みちのく潮風トレイルにいくから海にもいく。「夜の浜辺でひとり」のキム・ミニみたいに浜辺で砂がつくのもきにせず、よこになりたい。「あぶないですよ」と起こされたら、砂をはらってまた歩き出す。
休憩が好き。どこぞの海岸で、浜辺の手前の、コンクリートの堤に座る。太陽の位置が高い、光が細かい海のひだに反射して金平糖みたいなつぶつぶが無数に点滅するその光が目にまぶしい。そのキラキラの中にすべる、小さくおもちゃみたいな船がみえる。じっとみていても動いているのかわからない。
しばらく目を離して、もう一度みてみる。やはり動いていないようだ。弁当か?船の中には、船を運転する人がいて、腹が減ったら、弁当は船を停めてから食べるのだろうか。こちらも休憩だが、向こうも休憩か。こちらは鍋を出して、コンクリートに置くと、乾いたいい音がする。
サッポロ一番塩ラーメンの袋を出す。お湯が煮立ったら、麺をいれて、それにこないだ机浜の売店に100円で売っていた、三陸の乾燥ワカメを入れる。わかめはお湯を吸い込むと想像をこえてふくらんで広がり、鍋の表面を覆いつくした。フォークで一枚ひっかけてもち上げると、濃いグリーンが光を透かして明るくなった。口に入れると、つるんとして、塩の味がする、おいしい。
食べ終わると、よこになってみる。風景は静かで、無駄なものがない。しいていえば自分だけが外からきた、不純なざわつきがある。「余計なことは言わないので、僕も風景の仲間に入れてもらえないでしょうか」。そんなつもりで、じっとしている。
ここが舞台なら、樹の役、石の役、コンクリートの堤の役がいい。あとは下草。なにもせず、ただ風を受けて、ふわふわと前髪を揺らすだけの存在でいい。そういえば、さっきの船がいなくなった。それとは別の船がよこからきた。あれも、動いているのかわからない。
ここにはひとつも、台詞がない。
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