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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#32 / 2021年、アメリカでスルーハイキングはできるのか?

2021.04.23
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(English follows after this page.)

文:リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス、ジョン・カー、ナオミ・フデッツ 訳・構成:TRAILS

新型コロナウイルスのワクチン接種が急速に進んでいるアメリカでは、ワクチンを接種してからトレイルを歩きだすハイカーもいるようだ。アメリカでは、海外からのハイカーも、可能な限りワクチン接種をしてから旅することを推奨している。

またリズは今年、スルーハイキングを予定しているハイカーに、以下のような準備を促している。

例年のスルーハイキングよりも自給自足の用意が必要であること。コロナウイルスに対する医療費や保険の準備をしておくこと。トレイル・エンジェルやトレイルタウンから例年のようなサポートを得られない場合のバックアップも計画しておくこと。ハイカーにとって、きわめて実践的なアドバイスだ。

ということで、今回のリズの記事では、2021年におけるアメリカでのスルーハイキングの実情や注意点をレポートしてもらった。

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PCTの南カリフォルニアを歩くハイカーたち。


「スルーハイキングをしない」ことが勧告されている。


今年の春先、以下に挙げるロングトレイル関連団体は、新型コロナウイルスを理由に「スルーハイキングをしない」ことを勧告する発表をしました。発表したのは、ATC (アパラチアン・トレイル・コンサーバンシー)、PCTA (パシフィック・クレスト・トレイル・アソシエーション)、CDTA (コンチネンタル・ディバイド・トレイル・コーアリション)、ALDHA-West (アメリカン・ロング・ディスタンス・ハイキング・アソシエーション・ウエスト) などの団体です。

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アパラチアン・トレイルの管理団体ATCのホームページでも、今年のハイキングを延期することを勧めています。

一方、PCTをはじめ国有林や国立公園内のすべてのトレイルで、パーミット (許可証) は発行されています。

新型コロナウイルスの感染拡大について、科学者たちの研究結果によれば、野外の活動であるハイキングは、コロナ期に私たちができる比較的安全なアクティビティのひとつです。

アメリカにおいては、ここ数カ月で急速にワクチン接種が実施され、渡航制限も解除されつつあります。しかし科学者たちは、ワクチンを接種した旅行者であっても、新型コロナウイルスの新たな変異種に感染し、それを広めてしまう危険性があることを警告しています。

スルーハイカーたちは、こういった状況に困惑しています。はたして、今年は海外でスルーハイキングをしてもよいのでしょうか。


スルーハイキングを始める前にワクチン接種を。


アメリカは、最近まで新型コロナウイルスの感染者数・死亡者数が、世界でもっとも多い国でした。しかし、今はとてもしっかりしたワクチン接種の体制が整えられています。

2021年4月19日までには、アメリカでは誰でもワクチン接種を受けられるようになる予定です。これにより、多くの人が安全に旅行やスルーハイキングを、できるようになりつつあります。

私の知っているハイカーのなかでも、ワクチンを接種して、すでに今年のスルーハイキングをはじめているハイカーがいます。

また、6月まで待ってロングトレイルを歩きはじめるハイカーもいます。というのも、それまでには希望する人全員が、ワクチンを接種することができるようになるからです。そしてウイルスに対するワクチンの効果も、より明確になってくるでしょう。

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2021年は、ロングトレイルをサウスバウンド (南下) するのがいいでしょう。

ただ6月のスタートになると、最長クラスの距離の長いトレイルは、ノースバウンド (北上) で踏破するこができなくなるでしょう。それによって、セクションハイキングになってしまったり、アリゾナ・トレイルやコロラド・トレイルのような短いトレイルを選ばざるを得なくなったりします。

このような状況なので、今年はサウスバウンド (南下) を選択する人が多くなると思います。とはいえ、2021年は、前年ほどスルーハイキングが難しい年にはならないと思います。


海外からのスルーハイカーは、ワクチンの事前接種を推奨。


海外からのスルーハイカーには、ハイキングをはじめる前にワクチン接種を受けることをお勧めします。

最新のガイドラインによると、ワクチンを接種した人は、病気になったり、ウイルスを広めたりする可能性が非常に低いことがわかっています。また最新のデータによると、ワクチンを接種した人は、ウイルスの変異を広げるリスクも少ないとされています。

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トレイルの管理団体は、大人数でのキャンプを避けるように勧告していますが、それはソーシャルディスタンスを保つためです。

CDC (アメリカ疾病予防管理センター) では、ワクチンを接種した人に対しても、海外渡航に関する次のようなことを勧告しています。

CDCでは「海外渡航の間に変異ウイルスにさらされる可能性があるため、フライト後3~5日後に検査を受け、短期間の隔離を行なうこと」と勧告しています。これに従えば、陰性の結果が出るまで、トレイルを歩きはじめることができません。ただし、「ワクチン接種が完了している場合は、ワクチンを接種していない旅行者に義務付けられている10日間の自主隔離は必要ない」とされています。(※1)

※1 CDCによるコロナ期における海外渡航者についてのガイドライン “International Travel During COVID-19” https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/travelers/international-travel-during-covid19.html


ハイキング前の隔離と、コロナ用の医療費と保険の準備を。


約1年前から、カリフォルニア州からニューメキシコ州までの各州では、他の州や国からの訪問者に対して、他の人と接触する前に10~14日間の隔離を行なうことを義務付けています。

他の国からのスルーハイカーは、ハイキングをはじめる前に、ホテルやAir BnB、短期賃貸物件で隔離できるよう、旅程に対して余裕を持った資金と時間を準備しておく必要があります。ハイキングのためのビザ申請に影響がでる可能性もあるため、アメリカでの滞在期間を延長する必要があるかもしれません。

幸いなことに、多くの海外からのハイカーは、スルーハイキングの前にアメリカで十分な時間を確保し、計画を立てようとしています。

通常の年であれば、海外発送に費用をかけて、ギアやハイキング用の食料を揃えていました。しかし、今年は10日間の隔離期間に、オンライン・ショッピングによって、ドア・ツー・ドアの配送 (および郵便物の受け取り) を利用できるので、これはある意味で理想的な方法とも言えます。

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ハイカーがトレイルヘッドでギアを乾かすのはよくあることです。しかし、今年はお互いに距離を置かなければなりません。

事前の隔離期間の間に、地図を見直したり、リサプライボックス (※2) を作ったり、ギアを整理して集めたりするにもいいでしょう。郵送が必要なリサプライボックスを、郵便局や宅配業者に取りに来てもらうこともできます。

ワクチンを接種せずにトレイルを歩きはじめるハイカーは、2週間分の隔離費用と、新型コロナウイルスで予想される医療費を用意しておいてください。アメリカの医療費は他の国に比べて非常に高いので、加入する旅行保険がコロナウイルス関連の費用をカバーしていることも確認してください。

※2 リサプライボックス:スルーハイキング中に必要となる食料やギアを入れた箱のこと。これを事前に、先の地点 (補給で立ち寄る町の郵便局やモーテルなど) に送っておく。


2021年のスルーハイカーが注意すべきこと。


スルーハイキングでは、デイハイキングや一般的なバックパッキングと異なり、人と交流することが多いです。

スルーハイカーは、補給のためやゼロデイを取るために、町に立ち寄らなくてはなりません。このような交流が、コロナウイルスの拡散につながる可能性があるのです。だからこそ、2021年にロングトレイルを歩くすべてのハイカーは、ワクチン接種の有無にかかわらず、次の3つのことが必要になります。

1. 例年のスルーハイキングよりも自給自足をすること。
2. ハイキングのための費用を多めに用意し、隔離期間や病気にかかった場合を想定して、スルーハイキングに必要な期間を多めに設定すること。
3. さまざまなサービスやトレイル・エンジェルを頼ることができない場合に備えて、可能な限りの計画やリサーチを行ない、バックアップ・プランを用意すること。

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2021年のスルーハイカーは、他の人と離れて補給する方法とゼロデイを取る方法を、考えなくてはいけません。

今年は多くのトレイル・エンジェルが、スルーハイカーへのサポートを行なっていません。これは、ワクチン接種の有無にかかわらず、今年のスルーハイカーが直面する問題です。

たとえば、有名なトレイル・エンジェルであるバーニー&サンディ・マン夫妻は、20年ほど前から何千人ものスルーハイカーに自宅を開放してきました。

彼らはハイカーを空港に迎えに行き、夕食と無料の宿泊場所を提供し、PCTの南の起点まで車で送ってくれていました。でも今は、ハイカーは空港からスタート地点まで行く手段を自分で探さなければなりません。これだけでも、より多くのお金と自助努力が必要になります。

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トレイルエンジェルの中には、2021年もハイカーのために水を提供している人がいますが、消毒液を入れた桶を用意して、ハイカーに対して補給の前後で使用するように求めています。

さらに2021年は、多くのキャンプ場、シャトルバス、ハイカーホステル、食料品店などが、閉鎖される可能性があります。実際、アパラチアン・トレイルにある200以上のシェルターと併設のトイレが閉鎖されています。シェルターのトイレについては、メンテナンスができておらず、溢れてしまう可能性があるのです。

コロナウイルスの影響で、トレイルタウンも経済的な打撃を受け、廃業してしまった場所もいくつかあります。ガイドブックには、どこの食料品店やギアショップが営業しているかといった、最新の情報が反映されていないこともあります。

そのため、2021年のスルーハイカーは、いつも以上にたくさんのことを調べておく必要があります。一度計画を立てた上で、さらにトレイルヘッドへの行き方や、どこでキャンプするか、食料や水をどこで調達するか、その他の宿泊場所など、バックアッププランも立てておきましょう。

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コロナウイルスの影響で、多くの零細企業が廃業に追い込まれました。


ガイドラインを遵守し、アメリカの実情を理解した上で歩く。


2021年のスルーハイカーは、コロナ期におけるアウトドア・アクティビティに関する倫理規定をまとめた、「レクリエイト・レスポンシビリティ」のガイドラインの内容をしっかり覚えておく必要があります。

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レクリエイト・レスポンシブル・コーアリションが作成したガイドライン。(https://www.recreateresponsibly.org/より)

ハイカーはマスクと手指の消毒剤を必ず携帯してください。ワクチンを接種していても、頻繁に手を洗うようにしてください。また、食べ物や調理器具、水筒、リップクリームなどを他のハイカーと共有してはいけません。他のハイカーと握手するのもやめましょう。水場やキャンプ場ではハイカーが集まることもありますが、2021年はそれすらリスクになります。

海外からのハイカーが気をつけるべきことは、アメリカでは誰もがワクチン接種を望んでいるわけではないということです。

アメリカ全体ではウイルスに対する集団免疫を獲得していくと思いますが、スルーハイカーはワクチン接種を拒否している人々と出会うこともあります。現地で出会った人が予防接種を受けたどうかは見分けられないので、ワクチンを接種せずに渡米したハイカーは、より気をつけなければなりません。

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2021年は、夏の後半に短いトレイルをスルーハイクするのに適しているかもしれません。中でも、コロラド・トレイルは良い選択肢です。

私は、ワクチンを接種したら、PCTを歩く予定でいます。ヨーロッパでのハイキングもしたいですが、ワクチンを接種してもヨーロッパには行かないと思います。

ヨーロッパでは変異株が拡散していて、病気にかかったり変異株を広げたりする可能性があるので、行くことはお勧めできません。また、公共交通機関を使って移動する必要がありますし、ヨーロッパのハイキングでは、多くの場合、共同の小屋で寝る必要があります。いずれも人混みにさらされることになるのです。

そのため、2021年は、アメリカの広大なトレイルを歩くほうが、より安全なのではないかと思っています。

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PCTのハイライトのひとつ、ワシントン州にあるナイフエッジ。

ワクチン接種がなかなか進んでいない日本とは状況が異なり、アメリカではワクチンによる集団免疫の獲得を前提に、アフター・コロナのハイキングが徐々に始まっている印象を受けるレポートであった。

今年、アメリカでのスルーハイキングを断念したハイカーにとっても、今回のリズのレポートは、来年以降の旅のプランニングにおいて、参考になる部分が多くあったのではないかと思う。

またロング・ディスタンス・ハイカーが、コロナ期において注意すべき点、事前に準備すべきことについては、アメリカだけでなく日本での旅において取り入れるべきものが多い。

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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WRITER
Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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