TRAILS REPORT

IN THE TRAIL TODAY #10|ラップランドの北極圏トレイルをのんびり旅する1週間のセクションハイキング

2021.06.04
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話・写真:松本卓也 取材・構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY? | トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

* * *

長旅をあきらめていた人にも、ロング・ディスタンス・ハイキングの世界への扉は開かれています。セクション・ハイキングという旅の視点を得ることによって、たくさんの人にロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出かけてほしい。そんな強い想いから生まれたZINE#02『SECTION HIKING』と、ZINE#03『SECTION HIKING 2』

今回紹介するトレイルは、北極圏トレイル (ノルドカロッドレーデン ※1)。

このトレイルがあるのは、スカンジナビア半島北部、ノルウェー,スウェーデン,フィンランド、ロシアにまたがるラップランド (※2) と呼ばれるエリア。そのほとんどが北極圏 (北緯66度33分以北の地域) であるため、冷涼な気候が特徴です。

ラップランドには数多くのトレイルがありますが、そのなかでも最長のトレイルが全長800kmの北極圏トレイルです。今回、2015年にこのトレイルの約500kmを1カ月間かけて旅した松本卓也 a.k.a. SHOBO (以下、ショボウ) が、お気に入りのセクションを紹介します。

ショボウさんはTRAILSとの親交も深く、『LONG DISTANCE HIKERS DAY 2019』のスピーカーとして登壇し、その際は、TRAILS編集長の佐井と一緒に、ラップランドの魅力を語ってくれました。

今回、ショボウさんが選んだセクションは、パジェランタレーデン (140km)。北極圏トレイルと一部重複しているトレイルです。

このセクションは、ZINE『SECTION HIKING』でもショボウさんが紹介してくれているものですが、今回は特別にスピンオフ企画として、あらたなエピソードも追加してお届けします。

※1 北極圏トレイル:Nordkalottleden (ノルドカロッドレーデン) のこと。スカンジナビア半島北部のラップランドにある、全長800kmのトレイル。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの国境沿いに位置している。

※2 ラップランド:スカンジナビア半島およびコラ半島の北部、ノルウェー,スウェーデン,フィンランド、ロシアの4カ国にまたがるエリアを指す。先住民族のサーミ人が住んでいる地域であり、ラップランドの人口はおよそ200万人で、5%程度 (8~10万人) がサーミ人。大部分が北極圏内 (北緯66度33分以北の地域) に位置しているため、寒帯もしくは冷帯に属する地域がほとんどで、冷涼な気候である。


サハラマラソン完走など、ウルトラランナーでもあるショボウさん。海外のロング・ディスタンス・ハイキングは、この北極圏トレイルが初めて。


海外トレイル初心者でも、気軽に行けるトレイル。


—— まず、北極圏トレイルを歩こうと思ったきっかけを教えてください。

そもそも興味を持ったきっかけは、2014年に『北緯66.6° ~北欧ラップランド歩き旅~』(本の雑誌社、森山伸也 著) という本を読んだことですね。

トレイルはあるものの、どこを歩いてもいいし、どこで寝てもいいし、どこでテントを張ってもいいという、自由度の高さに惹かれました。妻が、ここに行きたい! と強く言ってきたのも大きかったですね。


妻の念願でもあったラップランドの旅。冷涼で湿潤な環境は、北極圏にあるこの土地ならでは。

—— 自由度の高さでいうと、アメリカのトレイルも候補になりそうですよね。

LONG DISTANCE HIKERS DAYにも参加していますし、仲間からアメリカの情報はたくさん聞いていました。もちろん私も、いつかアメリカ3大トレイルのどれかをスルーハイクしたい! という思いはありますよ。

でもアメリカだと、パーミットも取らないといけないし、ヒッチハイクもやらないといけないし……私たち夫婦にとってはいろいろハードルが高かったんですよね。それで、そのいずれも必要のないラップランドに行くことにしたんです。


なだらかで開放感のあるトレイルが、どこまでもつづくセクション。


—— 今回、パジェランタレーデンという140kmのセクションを選んだ理由を教えてください。

とにかく歩いていて気持ちいいんです。高木がなく、平坦で、どこまでも見わたせる景色のなかを、ずっと歩いていく。ベリー類もそこかしこに自生しているので食べ放題です。


ビルベリーをはじめさまざまなベリーが自生していて、食べながらハイキングするのが楽しい。

このスウェーデンのセクションは、整備も行き届いているし、小屋もたくさんあるので、海外トレイルが初めて、ハイキングの経験が少ない、といった人も安心して歩くことができると思います。

北極圏トレイルのなかには、けっこう険しいセクションもあるんです。ノルウェーのトレイルとかは、そこそこ標高も高く、踏み跡も明瞭じゃなくて迷ってばかりでした。


140kmのトレイルに、スタート地点とゴール地点も含めて12個の小屋がある。

—— 同じ北極圏トレイルでも、その国によってずいぶんと様相が異なるんですね。

スウェーデンでいうと、日本では王様の散歩道と呼ばれている『クングスレーデン』もあって、ここも歩きやすいんですが、超メジャールートなので人が多いんですよね。日本でいうなら上高地みたいな。

私たち夫婦はシャイなこともあって、のんびり静かに歩けるパジェランタレーデンが好みですね。

地形がなだらかなので、遠くまで見渡すことができるのも、魅力のひとつ。


小屋で買ったトラウトが新鮮で、最高に美味しかった。


—— トレイル上の小屋は利用しましたか?

基本的にテント泊だったので宿泊はしていませんが、食料補給のために何度か立ち寄りました。小屋では食料を販売しているので、全行程分を背負うことなく、都度都度、補給できるのがいいですね。


ドゥッタラ小屋では、小屋番の夫婦にいろいろとお世話になった。

中盤にあるドゥッタラ小屋では、小屋番のご夫婦に、「チョコレートのお菓子作ったから食べていかない?」って招かれました。そしたら旦那さんが釣りをする人で、釣り談義がはじまって。携行していたテンカラ竿の話をしたら、湖でやって見せてくれ! と言われて、いやいや湖じゃ無理だからといいつつ、とりあえずやって見せたりして。もちろん釣れませんでしたが (笑)。

帰りがけに、ご主人が昨日湖で釣ったトラウトを買って、またトレイルに戻りました。


シャイなショボウさん夫妻も、釣り談議で現地の人と打ち解けた。

—— トラウトの味はどうでしたか?

焼いて食べたんですが、新鮮でしたし、それはもう最高に美味しかったです。これまでずっとドライフードばかりだったんで、なおさらでしたね。

でもそれ以上に、彼らの優しさが嬉しかったですね。もともとウチの夫婦は、ハイキング中に他の人に積極的に話すタイプじゃないんです。一緒の場に居合わせたとしても、英語もあまり話せないし、世間話も苦手なので、声をかけたりしないんです。

それでもこういう出会いが生まれたのは、すごく嬉しかったですし、印象深かったです。


釣ったばかりの新鮮なトラウトは、塩のみのシンプルな味付けで。使用した火器は、スウェーデンのブランド、トランギアのストームクッカー。


毎日、野営地は選びたい放題。最高のロケーションで、極上のテント泊。


——— 宿泊に関しては、毎日テント泊だったんですね。

どこにテントを張ってもいいのは、本当にラクでしたね。あたり一面、テント泊適地ばかりなので、泊まる場所をすぐに見つけることができます。

気に入った場所があったら時間が早くても、そこで切り上げてテントを張っていました。何時であろうと、好きなところで1日を終えることができるというのは、すごくよかったですね。見晴らしが良く開放的なところが多いので、テント泊が好きな人には天国とも言える場所だと思います。


マイベストテント泊は、この眼下に湖がある展望抜群のロケーション。

あと私たち夫婦にとって、テント泊をすることは、人に煩わされず、いつでもプライベートな空間が作れるという点においても重要でした。どんな状況であっても、ここだけはホッとできる安息の地なんです。


この旅では、TRAILSの二人用スリーピングバッグのBUDDY BAGをチョイス。湿気にも強い。組み合わせたマットは、断熱性に優れたEXPEDのDownMat。


自分好みのところだけを楽しむことができる、という贅沢。


—— ショボウさんが思うセクションハイキングの魅力とは?

いいとこ取りができることですかね。苦手なところとか、嫌なところを歩く必要がなく、自分好みのところだけを選んで、歩けるわけですから。スルーハイキングではそうはいきません。


歩いている途中、遠くに見えたトナカイ。

私みたいに基本夫婦2人で旅する人にとっては、自分ひとりだけではなく2人の問題になるわけじゃないですか。そういう点においても、セクションハイキングは場所を選びやすいですし、満足度が高いと思います。

特に今回のセクションは、スタート地点もゴール地点も、ストックホルムから1日あれば行ける距離にあります。歩く期間は1週間なので、現地で必要な日数は最短8日です。2週間足らずで日本から行って帰ってこられるので、会社員の人でも大型連休と組み合わせて休みを取れば、行くことが可能になるんじゃないでしょうか。


南端にあるゴール地点のクビックヨックには、ボートに乗って行く。


TRIP INFORMATION



 
■トレイル名
北極圏トレイル (ノルドカロッドレーデン)
■セクション名
パジェランタレーデン
■歩く距離・日数
140km・6〜7日
■旅全体の日数
13日前後
■WEBサイト
DISTANT NORTH (https://www.distantnorth.com/destinations/padjelantaleden-introduction/)
BADJELANNDA LAPONIA TURISM (http://padjelanta.com/)
■ベストシーズン
8月~9月
■パーミッション / ブッキング
不要
■予算目安
30〜35万円 (総額)
[内訳]
エア代:17万円程度
現地宿代:1泊6,000円 (目安)
現地交通費:7万円程度
その他(食費など):5万円程度
■アクセス方法
[空港] ストックホルム・アーランダ空港(スウェーデン):日本から約12時間
[空港から近くの町へ] ストックホルム市街地へ電車で約20分
[IN:町からトレイルへ] 電車とバスで、北側のトレイルヘッド・リッツェムへ約19時間。そこからトレイルヘッドへはボートで約20分 (南側から入る場合はクビックヨックから)
[OUT:トレイルから町へ] バスと電車でストックホルムへ1日
■宿泊(町)
リッツェムとクビックヨックにはホステルあり。
■宿泊(トレイル)
キャンプ適地を見つけてテント泊 (どこでも可) もしくは山小屋。
■補給方法(水、食料、燃料など)
水は、適宜川から補給できるので困ることはない。食料は、小屋ごとに購入可能。ただし、ラボニア地区の小屋は在庫が少なく、12〜16時は閉まっているため到着時間に注意。燃料は、アルコールおよびガス缶ともに小屋 (一部除く) で購入可能。


ZINE 『SECTION HIKING』


アメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、スペイン、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイルを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスした内容になっている。今回のショボウさんおすすめのパジェランタレーデンも掲載している。

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トレイルズ

トレイルズ

佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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