TRIP REPORT

信越トレイル延伸 〜約40kmの新セクションの全容〜(前編)

2021.06.25
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文・写真・構成:TRAILS

2021年秋 (9月末にオープン予定)、いよいよ信越トレイルの延伸が実現する。

天水山から苗場山までの約40kmの区間を延伸し (Section7〜10) 、信越トレイルは約110㎞のトレイルとして生まれ変わる。

延伸によって、秘境の秋山郷 (あきやまごう) と呼ばれるエリアや、米どころの信越らしい稲田の広がる田園風景、そして広大な高層湿原の広がる苗場山までをつなぐロングトレイルとなる。今までの関田山脈のブナの森をゆく山道だけではなく、一気に道のバラエティが広がるアップデートだ。

山と町をつなぎながら長く歩く旅をすることが、ロング・ディスタンス・ハイキングの醍醐味であるが、まさにその意味においても、信越トレイルはより「ロングトレイル」らしくなる。

TRAILS編集部は、他のハイカーに先がけ、延伸ルートを踏破する最初のハイカーとして歩かせてもらった。その3泊4日の延伸ルートの旅を、前・中・後編の3つにわけてお届けしたい。

まず前編 (Section10) では、新潟県側から信越トレイルのあらたな起点となる苗場山に登り、長野県側にある秘境・秋山郷へと下りていくセクションのストーリーを紹介する。

※本取材は、特別に信越トレイルクラブ事務局よりルート情報の提供、および取材許可を得て実施しました。延伸区間の正式オープンおよび詳細ルート公開は、2021年9月25日の予定です (それまでは延伸区間を歩くことはできません)。

信越トレイル・ストーリーズ

本稿は信越トレイルHP(ホームページ)の全面リニューアル(2020年3月)にともない、HP内の特集記事として企画された「信越トレイル・ストーリーズ」という記事シリーズのために制作された。「信越トレイル・ストーリーズ」では信越トレイルが他にはない魅力を持つトレイルとなった背景が、加藤則芳氏が込めた理念、トレイル誕生秘話、地域の人々の思いなどを通して語られていく。長年、信越トレイルを取材してきたTRAILS編集部が監修/制作を担当。(信越トレイルHP http://www.s-trail.net/


加藤則芳氏が夢見た壮大な信越トレイル


東京から上越新幹線に乗って、約1時間半。越後湯沢駅のホームに降り立つと、短パンだった僕は、肌にひんやりとした空気を感じた。9月半ばの湯沢町は、すでに秋の気配が漂っていた。

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上越新幹線の越後湯沢駅から、新たな信越トレイルの東側の起点になる苗場山へ。

信越トレイルを苗場山まで伸ばす計画は、加藤則芳氏の生前の夢であった。(詳細は「信越トレイル・ストーリーズ#01」)

「信越トレイルへの私の思いはさらに続きます。関田山脈から東西に距離を延ばすことです。東は秋山郷から苗場山、白砂山へ、西は笹ヶ原高原を通って雨飾山から白馬岳までと、信越国境すべてを貫く壮大な『信越トレイル』を夢見ているんですよ。」(「信越トレイル公式ガイドブック『信越トレイルを歩こう!』」より)

僕は加藤氏がかつて語っていた言葉を噛みしめながら、苗場山へと向かった。1日目の行程は、まずは東の起点である苗場山山頂に行くところまでだ。

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今回の延伸ルートの旅の行程。

越後湯沢の駅前でタクシーに乗り、祓川 (はらいがわ) 登山口まで約30分。降りると、小雨がぱらついていた。雨か……と思いながら、傘をさして舗装路を歩き始める。

ほどなくして和田小屋が見えてくる。ここはかぐらスキー場のゲレンデであり、冬になると、早朝のファーストトラックを狙うスキーバムたちが投宿する。この和田小屋からゲレンデの斜面を登り、さらに樹林帯へと入っていく。

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和田小屋からかぐらスキー場のゲレンデを登っていく。

登山口から1時間半ほどたったあたりから、徐々に視界が開けてくる。下ノ芝、中ノ芝、上ノ芝といった湿原が続き、分岐を左に曲がると、標高2,000m前後の斜面のトラバースが始まる。

進むごとに景色が移り変わり、山の表情の豊かさに目を奪われる。もはや雨など関係なかった。むしろ視界が制限される雨だからこそ、目の前の自然とまっすぐに向き合えたのかもしれない。

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登りの途中にある湿地帯を気持ち良く歩く。

でもそんな自然の景色以上に僕の心の中を占めていたのは、信越トレイルの起点としての苗場山であり、それを望み続けていた加藤則芳氏の想いだった。

信越トレイルが2008年に全線開通 (80km) してから、12年。ようやく約40kmの延伸が実現する。そして、そのスタート地点である苗場山の山頂が、もう間近に迫ってきていた。

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標高2,000m前後の斜面のトラバース。視界は悪いが、幻想的な雰囲気がただよっていた。


苗場山の上に広がる、幻想的な高層湿原


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苗場山の山頂の台地に出る。

雲尾坂の急登を登りきったとき、突如として目の前がパーッと開け、広漠とした草原の台地が姿を現す。

標高2,145mの苗場山の山頂は、だだっ広い台地状の形をしている。周囲約10kmのその台地に、高層湿原が広がっている。これだけ広大な湿原が山頂に広がっている山は、他にはあまりないだろう。

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高山植物が湿原に生えるさまが、田植え後の苗田に似ていることから、苗場となった。

山上にある別世界。まるで山頂感がない不思議な景色。

湿原には、無数の池塘 (ちとう) があちこちに存在している。この日は霧が立ち込めていて、より幻想感が増していた。

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ついに、信越トレイルの新しい起点にたどり着いた。

長野県と新潟県の県境にそびえる苗場山。ここが新しい信越トレイルの起点となる場所だ。今までの信越トレイルを特徴づけていた、標高1,000km程度の里山とは、まったく異なる景色がそこにはあった。

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1日目の宿は、苗場山頂ヒュッテ (苗場山自然体験交流センター)。営業期間は6月1日〜10月下旬まで (要事前予約・冬季休業)。


秘境・秋山郷の集落をつないで行く


2日目は、湯沢側から苗場山を越えた先にある、秋山郷 (あきやまごう) へと向かう。苗場山を下り、その麓に点在する秋山郷の集落をつないで歩く。

秋山郷は複数の集落からなるエリアの総称であり、あたらしい信越トレイルは、そのなかの小赤沢 (こあかさわ)、大赤沢 (おおかさわ)、見倉 (みくら)、結東 (けっとう) と4つの集落をつないでいる。

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雨も降ってスリッピーだったこともあり、ややスリリングな下山道。

この日の行程はかなり長い。苗場山山頂を早朝に出発し、小赤沢コースを下っていく。ゴツゴツとした大きな岩があったり、巨木の根が地上に張っていたりと、なかなか手強い道だ。

苗場山を下り終えると、秋山郷の小赤沢の集落にたどり着いた。

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静かで落ち着いた雰囲気の小赤沢集落。豪雪地帯ならではの特徴的な屋根の造り。

信越国境の苗場山と鳥甲山 (とりかぶとやま) との間に、中津川渓谷という深い峡谷がある。その中津川渓谷沿いに点在する13の集落を総称して、秋山郷と呼ばれている (※1)。

秋山郷はなぜ秘境と呼ばれるのだろう。そう思って少し調べてみると、信越の豪雪地帯のなかでも、秋山郷はとりわけアクセスが困難な「陸の孤島」であったらしい。そこに長らく外界から切り離された辺境の世界があった。それゆえ古来からの生活文化が数多く残り、豊かな民俗学の宝庫にもなっている。

山を歩くだけでは味わえない、地元の生活文化に触れながら歩く道。ここはそんな新しい信越トレイルの特徴を、十二分に堪能できるセクションだ。

※1 秋山郷:以下の13集落を総称して秋山郷と呼ばれている。新潟県津南町に属する見玉、穴藤、逆巻、清水川原、結東、見倉、前倉、大赤沢の8集落、長野県栄村に属する小赤沢、屋敷、上野原、和山、切明の5集落。

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遠くからひときわ目立つ建物だったが、目の前まできて温泉施設の楽養館であることがわかった。営業期間は4月〜11月末まで (冬季休業)。

小赤沢の集落に着くと、僕は気になっていた楽養館 (らくようかん) という温泉に立ち寄った。ロングトレイルの旅には、寄り道がつきものだ。

建物の見た目から異彩を放っているが、温泉もまたパンチがある。個性的な濃厚な赤褐色のお湯に、浴室の雰囲気も秘湯感が溢れている。この日は長い行程なので、長湯は禁物と思いながらも、ついついゆったりとお湯に浸ってしまった。

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楽養館の湯上りに昼食でいただいた名物の岩魚 (イワナ) 丼。

次回の踏破レポート・中編は、秋山郷の集落をつなぎながらの歩き旅。

秋山郷の自然はもちろん、歴史や文化にも触れることができる、ロング・ディスタンス・ハイキングならではの旅の魅力が詰まった内容となっている。【中編へつづく】

信越トレイル・ストーリーズ

本稿は信越トレイルHP(ホームページ)の全面リニューアル(2020年3月)にともない、HP内の特集記事として企画された「信越トレイル・ストーリーズ」という記事シリーズのために制作された。「信越トレイル・ストーリーズ」では信越トレイルが他にはない魅力を持つトレイルとなった背景が、加藤則芳氏が込めた理念、トレイル誕生秘話、地域の人々の思いなどを通して語られていく。長年、信越トレイルを取材してきたTRAILS編集部が監修/制作を担当。

  

— Contents —

#01 加藤則芳スペシャルインタビュー

#02 ロングトレイルのつくり方

#03 ボランティアがトレイルを守りつづける

#04 地域の人々がつくるロングトレイル

#05 加藤則芳のあゆみ

#06 信越トレイル延伸

  

信越トレイルHP http://www.s-trail.net/

※TRAILS webmagazineでも#02〜#05のコンテンツを公開。

 

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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