TRIP REPORT

信越トレイル延伸 〜約40kmの新セクションの全容〜(中編)

2021.06.30
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文・写真・構成:TRAILS

信越トレイルの延伸区間の踏破レポート、第2回(前回の記事はコチラ)。

2021年秋 (9月末にオープン予定)、いよいよ信越トレイルの延伸が実現する。

天水山から苗場山までの約40kmの区間を延伸し (Section7〜10) 、信越トレイルは約110㎞のトレイルとして生まれ変わる。

延伸によって、秘境の秋山郷 (あきやまごう) と呼ばれるエリアや、米どころの信越らしい稲田の広がる田園風景、そして広大な高層湿原の広がる苗場山までをつなぐロングトレイルとなる。今までの関田山脈のブナの森をゆく山道だけではなく、一気に道のバラエティが広がるアップデートだ。

TRAILS編集部は、他のハイカーに先がけ、延伸ルートを踏破する最初のハイカーとして歩かせてもらった。その3泊4日の延伸ルートの旅を、前・中・後編の3つにわけてお届けする。

今回の中編 (Section8〜9) では、トレイルの新たな東の起点となる苗場山を越えた僕たちが、秘境・秋山郷があるエリアを歩いていく。

秋山郷を世に広めた旅人・鈴木牧之 (すずきぼくし) ゆかりの地から、4戸しかない小さな集落、廃校となった小学校を改築した宿でのテント泊まで、この延伸区間の真骨頂でもある里歩きを楽しんだ。

※本取材は、特別に信越トレイルクラブ事務局よりルート情報の提供、および取材許可を得て実施しました。延伸区間の正式オープンおよび詳細ルート公開は、2021年9月25日の予定です (それまでは延伸区間を歩くことはできません)。

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延伸ルートの全行程。今回の中編は、小赤沢〜結東を越えたあたりまで (Section8〜9)。

信越トレイル・ストーリーズ

本稿は信越トレイルHP(ホームページ)の全面リニューアル(2020年3月)にともない、HP内の特集記事として企画された「信越トレイル・ストーリーズ」という記事シリーズのために制作された。「信越トレイル・ストーリーズ」では信越トレイルが他にはない魅力を持つトレイルとなった背景が、加藤則芳氏が込めた理念、トレイル誕生秘話、地域の人々の思いなどを通して語られていく。長年、信越トレイルを取材してきたTRAILS編集部が監修/制作を担当。(信越トレイルHP http://www.s-trail.net/


秋山郷を世に広めた鈴木牧之の足跡をたどる


先を急がねばならないところだが、小赤沢集落でもうひとつ寄り道したいところがあった。「苗場荘」という民宿だ。なぜ行きたかったのかというと、ここは、鈴木牧之 (すずきぼくし ※2) ゆかりの宿だからだ。

鈴木牧之は、雪国の生活風俗を描いた名著『北越雪譜』(ほくえつせっぷ) を著した人として有名だ。その牧之は、江戸後期の秋山郷を旅して、それを『秋山記行』としてまとめた。僕は旅人としての鈴木牧之に興味を惹かれた。

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鈴木牧之が泊まった「苗場荘」の屋根裏は、当時のまま残されている。

牧之は、当時たいへんな辺境であった秋山郷に興味を持ち、1828年 (文政11年) に案内人をともなって旅をした。

牧之が秋山郷を旅した際に泊まった民家のひとつが、現在の苗場荘だった。牧之が泊まった宿である苗場荘のなかに入り、女将さんにご挨拶。僕も牧之よろしく、旅の途中に立ち寄りお茶をいただきながら、当時の面影をそのまま残した造りとなっている、天井の屋根裏や柱を見させてもらった。

※2 鈴木牧之 (1770 ~ 1842):越後の国、魚沼郡塩沢町の商人、文人。旅人でもあり、多くの記行文も残している。19歳で江戸へ。27歳の伊勢から西国への旅。42歳の苗場登山。47歳の草津温泉への旅。そして58歳で秋山探訪と、生涯を通して多くの旅をしてきた。

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宿のなかには、鈴木牧之が描いた絵が飾られている。

できればこの「苗場荘」でゆっくり1泊したかったと、後ろ髪を引かれつつ、もう秋山郷の次の集落に向かわなくてはならない。ちょっと寄り道に時間をかけすぎた。

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小赤沢を出た後は、「牧之の道」として整備された道を進む。


集落をつなぎながら歩き、校庭での野営を楽しむ


苗場荘をあとにして集落の外れに行くと、森の中に「牧之の道」として整備された道があり、その道が次の集落の大赤沢のほうまで続いている。

大赤沢集落からはしばらく舗装路歩きだ。見倉トンネルの脇から旧道へ入り、トンネルを迂回するようなトレイルを歩き終えると、民家が見えてくる。

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見倉トンネルの手前から、トレイルに入っていく。

次に出てきた集落は、これまで通ってきたところとは異なる空気感だった。聞けば、ここは見倉という集落で、わずか4戸しかなく、現在も昔ながらの暮らしが色濃く残っているそうだ。

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見倉集落。日本昔話の世界に入り込んでしまったかのよう。

さらに進むと、木造の吊り橋が現れる。見倉集落とこの先にある結東集落をつなぐ見倉橋だ。

見倉橋の上からは、中津川渓谷の絶景が望める。橋の下を流れる中津川も、その青みがかった水の流れが美しい。西川美和監督の映画『ゆれる』の舞台にもなった吊り橋であり、なにかこの場所がもっている強さを感じずにはいられない。

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見倉集落と結東集落をむすぶ見倉橋。

そして、日が沈もうとしているタイミングで、ようやく今日の目的地である結東集落の「かたくりの宿」に到着。よく歩いた、長い1日であった。

ここは廃校となった小学校を改築した宿だ。源泉かけ流しの温泉もある。しかも、信越トレイルを歩いている人に限っては、校庭でテント泊が可能なのだ (要事前予約)。

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廃校を利用した秋山郷結東温泉「かたくりの宿」。

宿の食事も本当に素晴らしく、山菜や野菜をふんだんに使った手作り料理の美味しさに、1日の疲れが吹っ飛んだ。

僕は、温泉に浸かって美味しいごはんを食べて、幸せいっぱいのなか、校庭の真ん中に張ったテントに横になり、あっという間に眠りについた。

大自然の中でのテント泊もいいけど、こういう里の中でのテント泊も、山と町をつなぎながら旅するロング・ディスタンス・ハイキングの魅力だと思う。

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山菜や野菜など、地のものをふんだんに使った料理。地元の郷土料理をアレンジしたメニューもあったり、細やかな気配りがゆき届いた料理は絶品。 (メニューは季節による)


ブナ林を抜けて広大な牧場地帯へ


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のんびり幸せな朝の時間。

3日目は、校庭の真ん中で目を覚ます。朝から晴れ間も見えて、この旅一番の天気だった。僕はお湯を沸かしてコーヒーを淹れ、朝の時間を楽しんだ。

加藤則芳氏は、ロングトレイルは長ければ長いほどよいと語っていた。距離が長いほど、自然だけでなく、文化や歴史、その地域の暮らす人たちとのふれあいを感じられるからだと。信越トレイルの延伸ルートを歩いていると、それを強く、深く感じることができる。

今日は、結東の集落から北上し、牧場や田園風景のなかを進み、森宮野原の駅の近くまで歩く。どんな出会いがあるだろうか。

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「あずき坂」はブナ林で覆われている。

かたくりの宿を出発すると、つづら折りの登りが始まる。

現在は、「あずき坂」と呼ばれているようだが、以前は、結東登止 (とど) に通じる「登止の道」という呼び名もあったらしい。登止というのは「登りつめたところ」という意味で、深い峡谷にある秋山郷には、登止という地名はいくつもあった。

この結東の「あずき坂」は、ブナ林がとても美しかった。ちなみに「あずき坂」という名前は、坂の上から集落に下りてくるまでの時間が、ちょうど小豆が煮える時間ということが、その由来であるらしい。

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「あずき坂」を登りきったところにある石仏。旅人を見守ってくれている気がした。

ブナ林が終わると、今度は広大な牧場エリアに出た。ここは新潟県妙法育成牧場という、乳牛を育成する施設だ。それまでの景色とはまったく異なる、見渡す限り牧草地の景色のなかを歩く。

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広大な敷地に広がる牧場。しばらく舗装路だけに疲労はたまるが、開放感は満点だ。

次回の踏破レポート・後編は、ゴール地点の天水山 (あまみずやま) 山頂までのエピソード。

ジオパークに指定されている苗場山麓エリアならではのユニークな地形を体感しつつ、信越トレイルのこれまでのルートと接続するところまで歩いていく。【後編へつづく】

信越トレイル・ストーリーズ

本稿は信越トレイルHP(ホームページ)の全面リニューアル(2020年3月)にともない、HP内の特集記事として企画された「信越トレイル・ストーリーズ」という記事シリーズのために制作された。「信越トレイル・ストーリーズ」では信越トレイルが他にはない魅力を持つトレイルとなった背景が、加藤則芳氏が込めた理念、トレイル誕生秘話、地域の人々の思いなどを通して語られていく。長年、信越トレイルを取材してきたTRAILS編集部が監修/制作を担当。

  

— Contents —

#01 加藤則芳スペシャルインタビュー

#02 ロングトレイルのつくり方

#03 ボランティアがトレイルを守りつづける

#04 地域の人々がつくるロングトレイル

#05 加藤則芳のあゆみ

#06 信越トレイル延伸

  

信越トレイルHP http://www.s-trail.net/

※TRAILS webmagazineでも#02〜#05のコンテンツを公開。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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