TRIP REPORT

信越トレイル延伸 〜約40kmの新セクションの全容〜(後編)

2021.07.02
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文・写真・構成:TRAILS

信越トレイルの延伸区間の踏破レポート、最終回(初回の記事はコチラ)。

2021年秋 (9月末にオープン予定)、いよいよ信越トレイルの延伸が実現する。

天水山から苗場山までの約40kmの区間を延伸し (Section7〜10) 、信越トレイルは約110㎞のトレイルとして生まれ変わる。

延伸によって、秘境の秋山郷 (あきやまごう) と呼ばれるエリアや、米どころの信越らしい稲田の広がる田園風景、そして広大な高層湿原の広がる苗場山までをつなぐロングトレイルとなる。今までの関田山脈のブナの森をゆく山道だけではなく、一気に道のバラエティが広がるアップデートだ。

TRAILS編集部は、他のハイカーに先がけ、延伸ルートを踏破する最初のハイカーとして歩かせてもらった。その3泊4日の延伸ルートの旅を、前・中・後編の3つにわけてお届けする。

今回の後編 (Section7〜8) では、秋山郷を抜けた僕たちが、今までの信越トレイルへと接続する天水山 (あまみずやま) 山頂を目指す。

ジオパークに指定されている苗場山麓エリアならではのユニークな地形を目の当たりにし、集落に住む人々とその営みに触れ、そしてゴールの天水山へとブナ林のなかを登っていく。日本のロング・ディスタンス・ハイキング特有の旅感あふれる、エピソード満載の最終回だ。

※本取材は、特別に信越トレイルクラブ事務局よりルート情報の提供、および取材許可を得て実施しました。延伸区間の正式オープンおよび詳細ルート公開は、2021年9月25日の予定です (それまでは延伸区間を歩くことはできません)。

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延伸ルートの全行程。今回の後編は、結東の北側〜天水山まで (Section7〜8)。

信越トレイル・ストーリーズ

本稿は信越トレイルHP(ホームページ)の全面リニューアル(2020年3月)にともない、HP内の特集記事として企画された「信越トレイル・ストーリーズ」という記事シリーズのために制作された。「信越トレイル・ストーリーズ」では信越トレイルが他にはない魅力を持つトレイルとなった背景が、加藤則芳氏が込めた理念、トレイル誕生秘話、地域の人々の思いなどを通して語られていく。長年、信越トレイルを取材してきたTRAILS編集部が監修/制作を担当。(信越トレイルHP http://www.s-trail.net/


中子集落で出会った90代のおばあちゃんと小学生


2時間半ほど歩くと、眼下に中子 (なかご) の集落が見えてくる。ここからの眺めが最高なのだ。この眺望をつくっているのは、河岸段丘と呼ばれる階段上の特殊な地形だ。

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高台から眺める中子集落。河岸段丘の、階段の上の面「段丘面」が一望できる。

苗場山麓エリアは、ジオパークに指定されるほど、ユニークな地形的特徴がある。この日に歩いてきたエリアも、苗場山や鳥甲山の噴火によってできた溶岩の大地の上だ。

縄文の遺跡が多く発掘されている場所であり、自然と人とが長く共生してきた場所としても興味深い。

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中子集落を眺めながらひと休み。ついでに、夜露で濡れたテントを乾かす。

中子集落に入りしばらく進むと、道端で、手押し車 (シルバーカー) を持つおばあちゃんと、大人と子どもの女性が話をしていた。

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地元の人とふれあうのも、ロング・ディスタンス・ハイキングの魅力のひとつ。

中子のおすすめスポットを聞いてみたところ、すぐそこに「中子の池」があるとのことで、案内してくれることになった。聞けばおばあちゃんは、中子生まれ中子育ちの90代。この辺りの情報をいろいろ教えてくれた女の子は、おばあちゃんの親戚の小学6年生だった。

池で3人とは別れ、僕はしばらく池のほとりで佇んでいた。この池は、中子集落のすべての田んぼを潤すために築造されたため池である。現在は「中子の桜」と呼ばれるほど桜の名所としても有名で、春になるとカメラを手にした人で賑わうそうだ。

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桜の名所としても有名な「中子の池」。


稲刈りシーズン真っただなかの田んぼを歩く


中子の池のまわりには、収穫期を迎えた田んぼが一面に広がっていた。黄金色に実った稲穂だらけの光景は美しく、その田んぼのあぜ道を歩くのが気持ち良かった。

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黄金色に実った稲穂を眺めながら歩く。

しかも、ふと後ろを振り向くと、遠くには1日目に登頂した苗場山が見えていた。そんな苗場山に見守られながら歩みを進めていく。

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トンボがたくさん飛んでいたので、少したわむれてみた。

田園地帯を抜けて国道117号に出ると、風月堂という和菓子屋さんが目に入った。ちょうど良かった、明日の行動食を買いたかったんだ! と思い、中に入る。

女将さんが、バックパックを背負った僕にやや驚きながらも、笑顔で迎え入れてくれた。さすがに出で立ちが怪しいかと思い、いま旅をしていて苗場山からここまで歩いて来たんですよ、と説明した。まあさらに驚かれてしまったわけだが、理解はしてもらえたようで、とても親切に応対してくれた。

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国道117号で、たまたま見つけた風月堂という和菓子屋さん。

女将さんいわく、19歳でここに嫁いできてもう60年も営業しているとのこと。売りは羊羹だそうだが、今は、娘さんがパンや焼き菓子も手がけているということで、羊羹と焼き菓子を買うことにした。

今日の宿泊地は、旧上郷中学校を2015年夏にリノベーションして誕生した越後妻有「上郷クローブ座」だ。ここは「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の拠点のひとつでもある。ハイカーの宿泊には対応していないが、今回は、特別に許可をもらって泊まることができた。


一面のブナ林に祝福されながら、天水山山頂にゴール


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雨の中、天水山に向かってスタート。信濃川を渡る橋。

最終日は、いよいよ信越トレイルのこれまでのルートと接続するところまで歩く。目指すのは、関田山脈の天水山 (あまみずやま) の山頂だ。

明け方からあいにくの雨だった。徐々に晴れる予報だったので、しばらく待とうかとも思ったが、待たないことにした。

1日目だって2日目だって雨は降った。でも、そんなの関係なく楽しかったじゃないか。そう思ったら、雨が上がるのを待つ必要なんてないと思ったのだ。

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農道を気持ち良く闊歩する。でも、今日が旅の最終日かと思うと少しさみしい。

森宮野原の駅を過ぎると、天水山の山頂まではずっと登りだ。けっこうハードかなと思っていたが、この3日間歩き続けてきてカラダが慣れてきたのか、快調なペースでグングン登ることができた。

トレイルに入る前の農道セクションは、左右に黄金色の稲穂、バックには山を覆う雲海。最高のロケーションに気分も昂る。苗場山から始まった旅は、ふもとの秋山郷の集落をつなぎ、牧場や田園地帯を通って、また山へと向かっていく。

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信越トレイルの代名詞とも言えるブナ林。

トレイルに入ると、さすがは信越トレイル、ブナ林が美しく、瑞々しく、癒しの空間そのものだった。

ランナーズハイならぬハイカーズハイ状態で、無心で歩き続けていると、気づけば天水山の山頂まできてしまっていた。

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天水山への登りの途中で見える景色。これまで歩いてきた河岸段丘を見渡すことができた。

ついに、信越トレイルの延伸ルートを踏破することができた。たった4日間だったが、この4日間のことをすぐには思い出せないほど、さまざまな出来事があった。

苗場山から秋山郷に入り、この地域で育まれてきた文化や食を味わい、トレイルも舗装路も歩きながらいくつもの集落を経て、天水山へ。

山から里へ、里から山へ。まさにこれこそがロング・ディスタンス・ハイキングの醍醐味、と呼べる旅だった。

できることなら、この天水山山頂から折り返して、また4日間かけて苗場山まで歩きたい! 本当にそう思うくらい楽しかった。今回は、天水山に登った後に松之山口に下山し、松之山温泉に寄って最後の夜を過ごした。それもまたよしだ。

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天水山の山頂。4日間をかけて延伸区間を踏破した。

信越トレイルを苗場山まで伸ばす計画は、壮大な『信越トレイル』を思い描いていた加藤則芳氏の生前の夢であった。

今回歩いてみて、その壮大さを体感するとともに、山だけではなく里のセクションが加わったことで、あらたな歩き旅の魅力が生まれ、よりロングトレイルらしいロングトレイルになったことを実感した。

世界に誇れる、日本らしいロングトレイルではないだろうか。信越トレイルを歩いたことがない人はもちろん、すでに信越トレイルを歩いたことがある人も間違いなく楽しめるので、今秋のオープンにぜひ期待してほしい。

信越トレイル・ストーリーズ

本稿は信越トレイルHP(ホームページ)の全面リニューアル(2020年3月)にともない、HP内の特集記事として企画された「信越トレイル・ストーリーズ」という記事シリーズのために制作された。「信越トレイル・ストーリーズ」では信越トレイルが他にはない魅力を持つトレイルとなった背景が、加藤則芳氏が込めた理念、トレイル誕生秘話、地域の人々の思いなどを通して語られていく。長年、信越トレイルを取材してきたTRAILS編集部が監修/制作を担当。

  

— Contents —

#01 加藤則芳スペシャルインタビュー

#02 ロングトレイルのつくり方

#03 ボランティアがトレイルを守りつづける

#04 地域の人々がつくるロングトレイル

#05 加藤則芳のあゆみ

#06 信越トレイル延伸

  

信越トレイルHP http://www.s-trail.net/

※TRAILS webmagazineでも#02〜#05のコンテンツを公開。

 

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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