TRIP REPORT

TOKYO ONSEN HIKING #13 | 鷹取山・あづま湯

2021.07.21
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TRAILS編集部crewの根津による『TOKYO ONSEN HIKING』、第13回目。

今回の温泉は、神奈川県は逗子市にある『あづま湯』。

逗子唯一の銭湯として地元の人の貴重な憩いの場であり、逗子の山を歩くハイカーからも人気の公衆浴場である。


鷹取山の山頂展望台からの眺め。

TOKYO ONEN HIKINGのルールはこれ。

① TRAILS編集部 (日本橋) からデイ・ハイキングできる場所
② 試してみたいUL (※1) ギアを持っていく (※2)
③ 温泉は渋めの山あいの温泉宿がメイン (スーパー銭湯に非ず)

逗子といえば海のイメージが強いが、いい山もたくさんある。今回はそんななかでも、温泉ハイキングにピッタリの鷹取山へ。

標高139mと標高は低いものの、その数字からは想像できないほど素晴らしい眺望が楽しめる低山だ。


ひっそりとはじまる神武寺の裏参道。


これまで逗子の山のついでに海に行くことはあっても、銭湯に行ったことはなかった。というのも、銭湯の存在を知らなかったからだ。

それで今回、逗子唯一の銭湯があると聞き、すぐさま駆けつけたのである。


神武寺駅〜鷹取山〜あづま湯までのコースタイムは、約2時間。比較的優しいルートだが、神武寺から鷹取山の間は、鎖場などもあるので注意して歩こう。


京浜急行逗子線「神武寺駅」。駅からすぐのところにコンビニがあるため、食料や飲料を補給できる。

鷹取山のルートはいくつかある。僕が今回選んだのは、神武寺 (じんむじ) 駅からスタートする裏参道だ。

べつにお目当てがあったというわけではない。ただ「裏参道」という響きに、マイナー感や邪道感があって惹きつけられてしまったのだ。


登山道に入る前にとおる逗子中学校。


山岳信仰の霊場へとつづく、険しい山道。


ただの直感、思いつきで選んだルートだったが、裏参道と呼ばれるだけあって、裏手感が満点。あれ? この道であってるのかな? と不安を抱きながら進んでいくと、いつのまにか登山道に足を踏み入れていた。


登山口を入ってすぐのところに、石切場跡がある。

しかもここ一帯は、火山灰などが堆積することでできた岩石である凝灰岩 (ぎょうかいがん) で形成されている。

この岩は、建築土木材として重宝され、明治から昭和初期にかけて盛んに採掘されていた。そのため、登山道の脇には切り立った岩が立ち並んでいて、なんとも異様な光景が広がっている。


神武寺の晩鐘 (ばんしょう) は、逗子八景になっているだけあって絵になる。

しばらく鬱蒼とした樹林帯を登っていくと、神武寺が現れる。ここは山岳信仰の霊場 (れいじょう) として知られ、鎌倉時代には源頼朝や源実朝も参詣したそうだ。

逗子八景にも選ばれている「神武寺の晩鐘 (ばんしょう)」と呼ばれる大きな鐘もあって、裏参道の急登でがっつり汗をかいた僕は、ここでひと休みすることにした。

行動食は、TRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM(Make Your Own Mix)』。素材はすべてオーガニックで、素材の味わいが楽しめる。

バテないようにと、TRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM (Make Your Own Mix)』をほおばる。今日は、ハイカロリーのピーカンナッツと、ビタミン、ミネラル豊富なドライフルーツをバランス良く詰め合わせてきた。


巨岩のあいだをすり抜けるようにして歩いていく。

神武寺を過ぎると、険しさが増した。足元はややスリッピーで、巨岩あり、鎖場あり、急登ありと、アドベンチャラス。

自然とアドレナリンが出てきたのか、僕はがぜんテンションが上がって前へ前へとガシガシと歩みを進めていった。


ULギアで、山上炊飯!


樹林帯が終わると、視界が開け、一面に青空が広がり、その下には切り立った崖がいくつも現れた。


石切場跡にもなっている鷹取山。昔からクライマーに利用されてきたクライミングスポットとしても有名。

これは自然の造形物ではなく、石切場跡。そういえば、以前にTRAILS編集部で旅した房総半島トリップでも、鋸山に似たような石切場があった。

調べてみると、ここ三浦半島と房総半島には、同時代 (約2,300万年前) に形成された岩石や地層が分布しているとのこと (※)。東京湾で隔てられているものの、実は意外な共通点があったのだ。

※ 「葉山–嶺岡帯」と呼ばれ、三浦半島から房総半島南部までつづく地質帯のことを指す。新第三紀 (2,303万年前〜258万年前) 以降の地層が主体となっている。


山頂展望台からの景色。追浜工業団地とその先に広がる東京湾。

山頂には展望台があり、そこに登ると360度のパノラマが広がっている。標高139mとは思えないほどの絶景だ。

今日のランチは、この連載初の白ごはん! お湯で戻すだけのアルファ米ではない。お米を炊いて、アツアツの白ごはんを食べるのだ。


『Lotus / Almi Pot』は実測138g。『FREELIGHT / BLAST BURNER』は実測32g。ごはんをおいしく炊くためのULギアとして、この2つのギアの組み合わせは、TRAILS的おすすめセット。

使用したクッカーは、『Lotus / Almi Pot』(ロータス / アルミポット)。厚手のアルミを採用しているため熱で変形しにくく、焚き火でもガンガン使える。しかも炊飯を想定しているため、このように重しが乗せやすいフラットなフタになっているのがいい。


『FREELIGHT / BLAST BURNER』は、ガスストーブ並みの火力。

ストーブは、『FREELIGHT / BLAST BURNER』(フリーライト / ブラストバーナー)。一般的なアルコールストーブとは、構造がまったく異なる密閉加圧の噴射式ストーブだ。

燃焼がはじまるとゴーーーッという音が鳴り響くのが特徴で、そのさまは、まるでガスストーブのよう。火力も引けをとらず、多少の風にはビクともしない勢いの炎。

強火で一気に加熱し、吹きこぼれを確認しつつ香りが変化したタイミングで、ポットを火からおろして蒸らしタイム。

10分後にできあがったのがこれだ! これまで何度も外でごはんを炊いてきたが、トップクラスのできばえである。


甘みがあって味わいぶかい、極上の白ごはんが完成。

おいしいごはんを炊くには序盤の強火が肝。アルコールストーブを用いたULメシ炊きにおいて、このブラストバーナーとアルポットのセットは、もしかしたらベストな組み合わせかもしれない。

白ごはんをかきこんでお腹いっぱいになった僕は、登山道をちょっと下ったところにあるハンモックポイント (行きしなにチェック済み) に向かった。ここで、前方に広がる相模湾を眺めながら、しばらくハンモックに揺られた。


『HENNESSY HAMMOCK Hyperlite A-sym Zip』は「宿泊道具としてのハンモック」の代表格。タープとバグネットもセットになったオールインワンタイプだが、今回はタープを外して使用。

今回は季節柄、虫除けもふまえてバグネットもセットになっている、『HENNESSY HAMMOCK Hyperlite A-sym Zip』(ヘネシーハンモック / ハイパーライト アシンメトリー ジップ) を使用した。

特許を取得しているシステム (※) だけあって、寝心地は最高。この安心感と気持ちよさは、いつの時代になっても色あせることがないなとあらためて実感した。

※ 寝た際、自然にもっとも快適で寝心地がいいポジションになるよう、ハンモック本体が “非対称の構造” になっている。これはヘネシーハンモック独自のシステムで、特許も取得している。


2020年にリニューアルオープンした、逗子唯一の銭湯。


帰りは、表参道を下っていく。裏参道とはうってかわって整地されていて、とにかく歩きやすい。

傾斜もなだらかだったので、僕は一気に駆け抜け、あっという間に目的地である『あづま湯』へとたどり着いた。


表参道は、極上のトレイル。

あづま湯は、1947年創業。現在は3代目だが、銭湯に多い家族経営ではなく、1代ごとにまったく別の人が受け継いでいる。

3代目のオーナーは唐澤さん夫妻で、奥さんの弟さんが店主を務めている。今回は、オーナーの唐澤晴子さんにお話をうかがった。


あづま湯の外観。営業時間は、平日 15時~22時30分、土日祝 13時~22時30分。木曜定休。

銭湯を受け継いだのは2004年。老朽化が進んでいたこともあり、2018年8月末から休業し、改装工事に着手。2020年8月に再オープンした。

リニューアルにあたって唐澤さんは、勉強とリサーチのために東京の銭湯を数十件まわった。そして予算内でできるかぎり理想に近い銭湯をつくりあげた。


山帰りの人のことも考えて、ロッカーは大きめサイズ。

ちなみに、ロッカーはハイカーのお客さんのことも考えて大きめにしたそうで、嬉しいかぎり。温泉ハイキングに持ってこいだ。


さまざまなタイルを組み合わせてつくりあげた、こだわりの浴場。

炭酸風呂は、高濃度人工炭酸泉を使用。血行促進効果が期待できる。

浴場は白色が基調で、とにかく清潔感があって気持ちがいい。お風呂は、炭酸風呂、超音波風呂、気泡風呂、電気風呂、熱湯 (あつゆ) 風呂の5種類。くわえて、月に2回、生薬を入れた薬湯も実施している。


色違いのタイルを用いて描いた壁画も、ほのぼのしていて癒される。このデザインは、逗子海岸から見た富士山と江の島、ヨットとのこと。

こぢんまりとしていながら、これだけのお風呂を楽しめるだなんて、とても贅沢だ。なかでも、唐澤さんのおすすめは炭酸風呂。銭湯巡りをしているなかで、とにかく気持ち良くてこのリニューアルでどうしても入れたかったそうだ。僕も5種類すべてに入り、心ゆくまで堪能させてもらった。

さっぱりしてフロアに出てくると「お風呂上がりにはコーヒー牛乳がおすすめですよ!」と唐澤さん。そんなフレンドリーな提案も心地よく感じられた。


ハンモックから眺めた相模湾。

逗子は海もいいけど山もいい。そして銭湯もいい。

逗子に行く楽しみがまたひとつ増えた、うれしいハイキングとなった。

さて、次の『TOKYO ONSEN HIKING』はどこにしよう。

※1 UL:Ultralight (ウルトラライト) の略であり、Ultralight Hiking (ウルトラライトハイキング) のことを指すことも多い。ウルトラライトハイキングとは、数百km〜数千kmにおよぶロングトレイルをスルーハイク (ワンシーズンで一気に踏破すること) するハイカーによって、培われてきたスタイルであり手段。1954年、アパラチアン・トレイルをスルーハイクした (女性単独では初)、エマ・ゲイトウッド (エマおばあちゃん) がパイオニアとして知られる。そして1992年、レイ・ジャーディンが出版した『PCT Hiker Handbook』 (のちのBeyond Backpacking) によって、スタイルおよび方法論が確立され、大きなムーヴメントとなっていった。

※2 実は、TRAILS INNOVATION GARAGEのギャラリーには、アルコールストーブをはじめとしたULギアが所狭しとディスプレイされている。そのほとんどが、ULギアホリックの編集長・佐井の私物。「もともと使うためのものなんだし、せっかくだからデイ・ハイキングで使ってきてよ!」という彼のアイディアをきっかけにルール化した。

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根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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