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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #10 パシフィック・ノースウエスト・トレイルのスルーハイキング (その6)

2021.08.18
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(English follows after this page.)

文・写真:ジェフ・キッシュ 訳・構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

* * *

ジェフがハイカーとして旅した、PNTのスルーハイキング・レポート (全7回) の6回目。他のメディアでは読めない、日本語による貴重なPNTのレポートだ。

ジェフはこれまで、ディレクターという立場からPNTの魅力を伝えてきてくれたが、この全7回の記事では、ハイカー・ジェフとして旅のエピソードを綴ってもらった。

前回、ガールフレンドと合流してパートナーとの旅を楽しんだジェフは、ふたたび一人旅へと戻る。

PNTのスルーハイキングも、いよいよ終盤戦。このスルーハイキング・レポートも残すところ、今回を入れてあと2回だ。

今回のセクションでも、PNTらしい大自然が次々と現れる。ウエスタンレッドシダーの巨木群、氷河の残るチャレンジャー山。今までの旅でも、ものすごい景色の写真がたくさんあったが、どこまでも圧倒的な景色が続いていくのがPNTだ。

最終話を前にして永久保存版確定といえる、このPNTの貴重なレポート。最後まで、お楽しみください。


パサイテン・ウィルダネスを後にして、ロス・レイク・ナショナル・レクリエーション・エリアに向かって歩いていく。遠くに見えるのがロス・レイク。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


ガールフレンドとのハイキングを終え、ふたたび一人旅がはじまる。



ハイ、ジェフです! 僕のPNTスルーハイキング・レポートの第6回目をお届けするよ。

パサイテン・ウィルダネスを後にした僕は、ロス・レイクの東岸へと下っていった。ロス・レイクは、1937年から1949年にかけて3段階に分けて建設された人工の貯水池で、シアトルの電力需要の増加に対応するために開発されたものだ。

湖は国境を越えてカナダ側の23mile北方まで伸びている。PNTは湖の上に沿って通っているため、その湖面を眺めながら歩くことができるんだ。

そのダムの上を歩いていると、ロス・レイク・リゾートが見えてくる。ここには舗装路が通ってないから、宿泊客や物資はすべてボートで運ばれるか、徒歩で移動するんだ。

ロス・レイク・リゾートには、湖の南西岸に水上キャビン (小屋) が並んでいて、ここにある港が、この町の中心になっている。この港には、カヌーのレンタルや、湖畔のキャンプ場までのモーターボートの貸し出しをしているところがあるんだ。


ロス・レイク・リゾートのマリーナにはレンタルボートがあり、それを使って湖の奥にあるキャンプ場にアクセスできる。

僕とハンナは、ロス・レイク・リゾートに補給物資を送っておいたんだ。ただ、この人里離れた場所に物を運ぶのは大変なので、20ドルもの手数料がかかってしまうんだけどね。それでもこんなバックカントリーの世界で過ごせるんだから、その料金を払う価値は十分にあると思うよ。

でも、町に行きたい人は、湖から最寄りのハイウェイまで短いサイドトレイルがあるから、ヒッチハイクでマザマやウィンスロップといった近くの町に行くこともできる。

ここで僕はハンナと別れることにした。彼女は、このサイドトレイルでヒッチハイクをして、トレイルヘッドから家まで帰っていったよ。


PNTは、モンタナ州、アイダホ州、ワシントン州の3州をまたぐ1,200mile (1,930km) のロングトレイル。今回のレポートでは、ワシントン州のロス・レイク〜セドロ・ウーリーまでの約144mile (約230km) を紹介してくれた。


ウエスタンレッドシダーの巨木が現れる。


それから僕はPNTを西に進み、ビッグ・ビーバー・クリークに沿って、湖から離れるように緩やかな登り道を進んでいった。

ロス・レイク・ダムは当初、第4期工事が計画されていて、その計画が実行された場合はダムの高さがさらに38m上がり、この渓谷が水没してしまう予定になっていたんだ。


ビッグ・ビーバー・クリーク沿いにある巨大なウエスタンレッドシダーの古木。

でも、1968年にこのエリアを旅したバックパッカーのグループが、巨大なウエスタンレッドシダーの古代の森を発見したんだ。そして、その森を守るためにダムを当時の高さにとどめる活動をして、それが実を結んだんだよね。

現在PNTは、この素晴らしい森のなかを曲がりくねりながら通っていて、この一帯ではPNTの中でも最大クラスの巨木を見ることができるんだよ。


スルーハイク中に “人力ケーブルカー” で渓谷越え。



ワットクーム・パスの登りの途中で見えるチャレンジャー山。

PNTは、ノース・カスケード国立公園を通って北西に向かって進んでいく。PNTに並走するように、ピケット山脈という、このエリアでもっとも僻地にあり、かつ、ひときわ目立つ山脈がそびえているんだ。トレイルがワットクーム・パスに向かって徐々に登っていくと、南側に氷河を冠したチャレンジャー山の山頂が見えてくる。

ワットクーム・パスと、そこに至るまでの道も、とても素晴らしい景観だったね。規則的なスイッチバックが樹林帯を抜けて、のどかな高山帯の景色に入ると、周囲の景色が湖面に映る小さな湖が点在している光景が見えるんだ。


ハイカーは、このユニークなケーブルカーで、ロープを引っ張りながらチリワック川を渡る。

ワットクーム・パスを越えると、PNTはチリワック川に向かって急坂を下り、ハネガン・パスまでふたたび登り返していく。

チリワック川を渡るときには、アメリカのナショナル・トレイルのなかでもとても珍しい体験ができるよ。ここでは川を渡るために、ハイカーはケーブルカーに乗って、自分でロープを引っ張って渓谷を渡っていくんだ。


マウント・ベイカー・ウィルダネスの豊かな大自然。


ハネガン・パスのところで、PNTはノース・カスケード国立公園を抜け、次にマウント・ベイカー・ウィルダネスへと入っていく。トレイルはこのウィルダネス・エリアのなかを通って、ルース川の流域を下っていく。そして、このマウント・ベイカー・ウィルダネスの出口までたどり着くと、そこで160mileぶりの舗装道路にぶつかる。


ハネガン・パスからの眺め。

そこからのPNTの数mileは、カーブが連続する舗装道路に沿っている。この道路は、ベイカー山のスキー場をはじめ、ヘザー・メドウズやアーティスト・ポイントと呼ばれるハイキングやバックパッキングに人気のトレイルヘッドに、車でアクセスするための道でもあるんだ。

ここでは、ピクチャー・レイクと呼ばれる湖に映る、シュクサン山の素晴らしい景色を眺めることができるよ。


ピクチャー・レイクに映るシュクサン山。

そこから人混みを離れて、人がめったに通らないスウィフト・クリーク・トレイルを南下していく。スルーハイクのシーズン初めは、水量が多いためスウィフト・クリークを通れないことがあるんだ。

しかしここは、ベーカー山とノース・カスケード国立公園を南北に結ぶ唯一のルートであるため、通らないわけにはいかない。別の方法でスイフト・クリークを渡るためには、10mileほど戻って最寄りの道路に出て、ヒッチハイクをして山のまわりを100mileほど進んで反対側のトレイルを目指すしかない。

でも幸いにも、シーズン後半にスウィフト・クリークに到着した僕は、膝より上を濡らすことなく渡渉することができたんだ。


スウィフト・クリーク・トレイルのスタート地点付近で雲間から顔を出すシュクサン山。

スウィフト・クリークを越えてさらに数km進んだベイカー山のあたりに温泉があって、PNTハイカーのなかには、そこに寄っていく人もいるよ。

地元の人たちは、温泉を掘って小さなプールをつくり、そこに浸かっているんだ。筋肉をほぐすのにとてもいい場所なんだけど、地元の人たちがお祭り騒ぎをしていることもあるから、ハイカーは要注意だね。


ほとんどのハイカーが訪れる、パークビュートという絶景ポイントへ。



ベイカー・レイク近くの大きなレッドシダー。右側にいるのは、友人のロング・ディスタンス・ハイカーであるリズ・トーマス。

温泉を過ぎると、PNTはベイカー・レイクという貯水池に沿って進んでいく。この湖畔は、比較的平坦なハイキングコースになっていて、前のセクションの険しい地形とはうって変わって、西にあるベイカー山の素晴らしい眺めを楽しみながら歩くことができるんだ。

この湖からは、ベイカー山にどんどん近づきながら、登っていく。PNTのこのセクションは、デイハイカーやバックパッカー、登山者にも人気がルートなんだ。みんな、山の南側にある登山口に、この道を通ってアクセスするんだ。


パーク・ビュート付近に自生しているベニテングダケ。

ほとんどのハイカーは、PNTから少し離れたパークビュートというエリアの展望台まで登っているね。というのも、ここは北側にあるベイカー山の氷河を一望できる場所なんだ。ここを越えると、PNTはふたたび人の多いエリアから離れていく。


PNTAのオフィスがある、スカジット渓谷の町。


パークビュートから下ってくると、トレイルはマザマパークを通っていく。ここは、西にツインシスターズ山脈の最高の眺めが広がる高山の牧草地だ。

ここを過ぎると、マウンテン・ヘムロック (ベイツガ) やアラスカ・イエロー・シダーの見事な原生林の中を、南に向かって進むことになるんだ。


マザマキャンプからは、ツインシスターズ山の絶景を眺めることができる。

ベイカー山国有林から出ると、スカジット渓谷に入る。ここには川に沿っていくつかの町があるから、ハイカーはここで補給をすることができるんだ。そのなかのセドロ・ウーリーという町に、僕がいま働いているPNTA (PNTの運営組織) のオフィスがあるんだよ。だから、PNTを歩くときは、ぜひ訪れてね!

このときの旅では、僕はこのスカジット渓谷の町で食料を補給し、2日間のゼロデイ (歩かない日) を過ごした。僕のプランでは、ここから最後のひとがんばりで、ソルトウォーター州立公園を向け、オリンピック半島を横断して、そしてこのPNTのスルーハイキングをコンプリートをしようと思い描いていたんだ。その話は次の最終回で紹介するね。


ノース・カスケード国立公園を通るPNTから見たピケット山脈。

トラブルもなく、順調にスルーハイクをつづけるジェフ。長らく歩きつづけてきたこともあってか、ジェフ自身もかなり落ち着いている印象を受けた。

いよいよ次回、ジェフはこのPNTのスルーハイクのフィナーレを迎える。どんな思いで、どんなゴールを迎えるのだろうか。PNTの旅の完結編だ。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

 
(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Jeff Kish

Jeff Kish

2012年にPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)、2014年にPNT(パシフィック・ノースウエスト・トレイル)をスルーハイキングした、ロング・ディスタンス・ハイカー。アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティに最も強くコミットしているハイカーのひとり。2017から2年間にわたり、アメリカで有名なハイキング関連の組織であるALDHA-West(American Long Distance Hiking Assosication-West)の理事に従事。また2014年からPNTの管理・運営組織(PNTA)の仕事に携わりはじめ、2016年にはPNTAのエグゼクティブ・ディレクター(現職)に就任。PNTは、アメリカにある11のNational Scenic Trailのなかで、もっとも最近(2009年)に認定されたトレイルゆえ発展途上であり、各方面の体制や組織づくり、運営に奔走中。現在は、PNTのトレイルタウンでもある、ワシントン州ベリンハム在住。
https://www.pnt.org

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