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シエラ山脈のオフトレイルを歩くサザン・シエラ・ハイルート(後編)|by リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#36

2021.10.22
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(English follows after this page.)

文: リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス, フェリシア・エルモシージョ 訳・構成:TRAILS

ジョン・ミューア・トレイル (JMT) で有名なシエラ山脈のエリア。エッジーなハイカーたちは、JMTのオルタナティブ・ルートとして、シエラの山々のさらに奥深くを歩くオフトレイルに注目している。それが「シエラ・ハイ・ルート (SHR)」だ。

2021年の夏。リズは、JMTの南側のセクションを並走するように歩く「サザン・シエラ・ハイ・ルート (SoSHR)」を旅してきたそうだ。今回はそのトリップ・レポートの後編。


レイ・レイクの湖面に映る山容。

サザン・シエラ・ハイ・ルートの南端をスタートしたリズは、トレイルも標識もないオフトレイルを北上しながら、シエラの核心部を進んでいく。

今回の後編の、難所あり見所ありのバクスターのエリアは、長時間かけて岩場を抜けていくスリリングなセクション。オフトレイルならではの荒々しい自然も含め、後編のレポートをお楽しみください。


JMTの裏のオフトレイルを進んでいく。



JMTと並走するように、シエラ山脈の高所のオフトレイルを歩く約160kmのルート。

難易度の高いスクランブリングが続き、その後は比較的、簡単なところを半日ほどリラックスして歩きました。草が茂る穏やかな渓谷を下っていき、人が泳げる小さな池の脇などをとおって進んでいきました。

ウォーレス盆地は、JMTのルートとも近いところなのですが、私たちは引き続きオフトレイルを歩き、ライト盆地へと向かって進みます。たくさんの花が咲いている牧草地を抜けると、ロックウェル・パスにたどり着きました。草が生い茂るひらけた峠です。


シェパード・パスでの夕暮れ。

その夜は、シェパード盆地でキャンプをしました。このシェパード盆地は、JMTのルート上から見える場所です。JMTはフォレスター・パスを通るルートがトレイルとなっていますが、このトレイルができる前は、シェパード・パスとその近くのジャンクション・パスが、JMTの古いルートだったのです。

シェパード・パスからは大きく開けた景色が見え、頂上付近には小さな湖があります。ジャンクション・パスまでの狭い渓谷は、あまり景色が良くなくて残念だったのですが。


サザン・シエラ・ハイルートから、JMTの景色を眺める。



ジャンクション・パスへの登り。

ジャンクション・パスまでの道は、何十年も前に作られた古いトレイルで、いまはもう何年もメンテナンスをされていませんでした。峠に登るまでの最後の1時間は、また砂の斜面をまっすぐに登っていくことになりましたが、トレイルは問題なく通れる状態でした。

しかし、ジャンクション・パスからの眺めは、苦労して登ってくる価値があるものでした。ジャンクション・パスから見える谷の向こう側には、フォレスター・パスまで曲がりくねって進むJMTのトレイルも眺めることができました。


ジャンクション・パスの頂点。

向こう側に見えるJMTの道は、素晴らしい景色で、トレイルのまわりは紫色のスカイパイロット (シエラネバダで群生している高山植物) で覆われていました。

ゴールデン・ベア・レイクに到着したところで、私たちはその湖でひと泳ぎしました。その後、JMTのグレン・パスを登って越えていきました。


今回、最大の難所。落石の多い岩場を6時間かけて歩き続ける。


次の日は、これまでのシエラのハイキングのなかで、もっともきつい日になりました。

最初はJMTからバクスター・レイクへと向かう、歩きやすそうなトレイルに出たのですが、すぐに林の中で迷子になってしまったのです。

ようやく湖にたどり着いたものの、暑さと標高、そして脱水症状で体力を消耗してしまいました。


バクスター・ピークにて。

その後も厳しい状況が続きます。私たちの地図には、次の盆地に行くための2つの方法が書かれていました。1つは、穏やかな峠を越えるルート。もう1つは、急登を登って尾根に上がり、4,003mのバクスター・ピークを越えるルートでした。

パートナーであるPODと話しあった結果、私たちは穏やかな峠を登っていくルートを選択しました。ところが、この「緩やかな」と書かれていた500mの急登は、浮石ばかりの場所だったのです。

そこでは、10歩くらい進むごとに、ぐらっと動く岩がでてきます。誤って岩を転がしてしまったら、その何百kgもの岩で、腕や足が押しつぶされてしまいます。


バクスター・ピークからのトラバース。

私たちは、このガレ場では、お互いの距離をとりながら、ゆっくりと登りました。私もPODも、電子レンジくらいの大きさの岩を崩してしまい、それが急斜面を転がり落ちていきました。頂上に着いたときに、私たちはどのルート取りが正しかったのかがわかりました。登りきった峠には、長くて、脆くなっている氷帯がありました。

ここから先は、バクスター・ピークの北側にある、足場の緩い尾根をトラバースしなければならなりません。そのためには、下側に300mも伸びているガリー (岩溝) を通過する必要もありました。

頭上に暗い雲が立ち込める中、私たちはゆっくりと進みました。いくぶんか安定した場所にたどり着いたところで、雨が降ってきました。不安定な岩場を6時間も進んだ後だったので、足元が安定した地面が、これほど嬉しいことなのかと感じました。


バクスター・ピークを下った後の、至福のひと時。


ついに、サザン・シエラ・ハイルートのゴール地点へ。


この先にあるサザン・シエラ・ハイ・ルート (SoSHR) の最後のセクションは、マウント・セドリックライトのエリアです。ここも、オフトレイルを進んでいきます。

しかし、そこは北側のシエラ・ハイ・ルート (SHR) のように、草地の斜面 (グリーンランプ) を登り下りするようなところです。手を使って登る必要があるような場所はなく、ここまでの行程に比べれば、楽なものでした。


マウント・セドリックライトでのテント泊。

ここからさらに北上すると、サザン・シエラ・ハイルートの道は、もっと簡単に歩ける場所になっていきます。この先のところで、JMT、PCTと合流し、ピンショー・パスとマザー・パスを越えるトレイルへと入っていきます。

パリセード・レイクでは、サーク・パスとポットラック・パスに向かってスクランブリングして登っていくと、そこで北側のシエラ・ハイ・ルートに合流します。

このバレット・レイクス盆地の上は、シエラのなかで一番高い山があり、そこにはパリセード氷河があります。サザン・シエラ・ハイルートは、デュジー盆地のところで、ビショップ・パスにつながる素晴らしいトレイルと合流し、トレイルヘッドへと下りていきます。


ピンショー・パス近くのウッズ・レイクに向かう。

PODと私は数年前に、このセクションを歩いていたので、今回は前回とは別のルートを選択して、交通の便が良い西側のトレイルヘッドに下りることにしました。

ハイシエラのルートを歩くのは、忍耐力と勇気が必要です。しっかりしたスキルがあるハイカーにとっては、このようなオフトレイルのルートは、新たなチャレンジの場となるでしょう。


ウッズ・レイク盆地にて。

既存のトレイルではなく、およそ人が訪れないようなオフトレイルにルートを見出し、ハイキングする。

アメリカでにわかに注目されつつある、この新しいハイキングのあり方、ムーヴメントは、今後さらに加速するのではないだろうか。

今回のリズのレポートを読んで、正直ワクワクしたし、ロング・ディスタンス・ハイキングのさらなる可能性も感じた。次の、リズのトリップにも期待したい。

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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