2年振りに再会する仲間と歩くノーザン・シエラ|by リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#38
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文: リズ・トーマス 写真:ダンカン・チェウン, ナオミ・フデッツ 訳・構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーである、リズの連載。今回は、久しぶりのトリップ・レポートだ。
リズの過去記事にも何度か登場している、ハイキング・パートナーのひとりであるナオミ・フデッツ。実は、彼女とはもう2年以上も直接会っていなかった。
2020年2月に一緒にハイキングをして以来、ずっとzoomでのやりとりを続けていたそうだ。
そこでコロナが落ち着いてきたこのタイミングで、リズとナオミ両方の親友でもあるダンカン・チェウンと3人で、再会も兼ねた4泊5日のハイキングを計画した。
行き先は、ジョン・ミューア・トレイル (JMT) の近くでありながら、ハイカーも観光客も少ないエリアが多い、ノーザン・シエラ。
ノーザン・シエラの豊かな自然の魅力と、仲間と一緒に行くハイキングの楽しさが伝わってくるトリップ・レポートです。
ノーザン・シエラで、コロナで会えなかった友人と旅する理由。
ノーザン・シエラは、ハイシエラの一部であるジョン・ミューア・トレイル (JMT) ほど壮大で高所ではないですが、素晴らしい景色が広がり、野花もたくさん咲いていています。そして混雑することもありません。
また、ノーザン・シエラのトレイルは、人数制限がなくオンライン登録も必要ないため、バックパッキング・パーミット (許可証) を取得するのがとても簡単です。
この夏、私はツリーライン・レビュー (※) のチームと、ノーザン・シエラにあるエミグラント・ウィルダネスを訪れました。仲間たちとは、コロナ禍がはじまって以来の再会でした。
私たちは再会するにあたって、美しい場所で、理想としては誰もいないところで数泊のキャンプをしたいと考えていました。
この旅は、2年間離れていた私たちが、元気であることを確認し合うために、必要なものだったのです。
友人と再会し、出発前夜はトレイルヘッドで贅沢なキャンプ。
今回の旅の場所であるエミグラント・ウィルダネスは、ヨセミテ国立公園のすぐ北にあります。ここでのハイキングの許可証は、国立公園内のような複雑なものではなく、人数制限などのルールもありません。
トレイルヘッドに向かう途中にあるレンジャーステーションで、直接許可証が取得できるのです。レンジャーステーションが閉まっている場合は、自己申請で許可証を取得することも可能です。
私たちは、無料のバックパッカー用キャンプ場があるクラブツリー・トレイルヘッドに集まりました。トレイルヘッドにキャンプ場があるのは、ロサンゼルスから車で6時間半かかる私には好都合でした。ちなみに、他のメンバーは車で3時間でした。
初日の夜は、車のそばで、ぶ厚くて重いキャンプ用のマットレスで一晩寝るという贅沢なキャンプをしました。そして翌日、それらを車にしまい、ウルトラライトなスリーピングマットと交換して、トレイルに向かいました。
美しいエミグラント・ウィルダネスの、オフトレイルを旅する。
私たちは、オントレイル (既存のトレイル) とオフトレイル (トレイルに指定されていない道) を織り交ぜたループを計画していました。
そしてまず、パインバレーに向かう歩きやすいトレイルからスタートしました。途中、初めてのハイキング・トリップの家族が何組かいて、いずれも子どもたちを連れてキャンプ・レイクに向かっていました。
エミグラント・ウィルダネスが魅力的なのは、オフトレイルの景色が素晴らしく、比較的簡単に歩けることです。低い位置には白い花崗岩のスラブ (傾斜が緩くツルッとしている岩) がたくさんあります。岩が濡れていなければ、たいていは藪の中を歩くよりも歩きやすいです。
私たちは、チェリークリークのウエストフォークという場所から原野のセクションを歩きはじめ、ラウスキャニオンに入っていきました。ルート自体は険しいですが、岩だらけのエリアを通り抜けられる、昔のトレイルを見つけました。
岩場のオフトレイルは日陰が少ないのですが、今回の行程には、飲み水が汲める場所がたくさんありました。しかし、枯れそうになっている小川もいくつかありました。
この渓谷の水路はチェリクリーク貯水池に通じていて、私が育った街であるサクラメントに水を供給しています。故郷の飲み水の源流を見ることができたのは、とても良い体験でした。
花崗岩の台地に広がる大自然のなか、オフトレイルをハイキングする。
今回の旅では、野花の開花がピークを迎えていました。私は、iNaturalist (アイナチュラリスト) というアプリを使って植物を識別して楽しみました。
このアプリは、植物や野生動物、菌類の写真を撮ると、それが何であるかを教えてくれるのです。それが驚くほど正確で、新しい種類の植物や動物を発見するとバッジがもらえるので、それを集めるのも楽しいです。
最初のキャンプ地はビッグ・レイク。花崗岩の大きな窪地にあるオフトレイルの湖で、深い谷の頂上にぶら下がっているような感じでした。
花崗岩の稜線にある巨大なスラブに沈んでいく夕日を見ることができたのは、最高でした。ヨセミテと国有林の境界をなすその稜線は南へ1mile (1.6km) 以上続いていて、まるで国立公園の裏側を覗いているような気分がしました。
翌日もオフトレイルで、いくつもの隠れた高山湖を訪れました。標高差はわずかで、それぞれの湖を独り占めすることができました。
原野の移動は簡単で、ほとんどが緩やかな傾斜のスラブか草地でした。泳ぐには少し寒かったですが、水が綺麗でかつ浅くて暖かい場所がたくさんありました。そこにあった湖には、ウォータースライダーとして使えるスラブがあり、10feet (約3m) の高さから湖に落ちるようになっていました。
その夜、私たちはバック・レイクの北と南の間にある半島でキャンプをしました。このエリアはトレイルからアクセスできるため、祭日だったこの週末は、かなりの数のキャンパーを見かけました。でも私たちは、スラブの上に他の人たちから見えない場所を見つけることができました。
私たちのキャンプ場からは、パシフィック・クレスト・トレイル (PCT) がある東側の高い尾根を眺めることができました。この荒野の一角は、2つの地殻プレートの分かれ目にあります。
赤い火山岩のすぐ隣に花崗岩の断崖があります。この2つのプレートの違いにより、土壌も違えば、その環境に適応した植物も異なるのです。
トレイルから離れたところで、自然を独り占めしながらの野営。
翌日はまた別のトレイルを歩き、今回のループを西に進みました。ここでもまた、次々に現れる美しい湖や野花が咲き乱れる草原を通り過ぎました。
湖ではたくさんの人が泳いでいました。なかにはプール用のエアマットや浮き輪を持ってきている人もいました。
祭日の週末ということもあってにぎわっていましたが、私たちはトレイルを外れたところにある谷にキャンプ場を見つけました。私たち以外には誰もいませんでした。
トレイルから数分離れるだけで、キャンプサイトや小さな湖を独り占めできるなんて、信じられないことです。私たちは、夕食をキャンプ近くの高台で食べました。パインバレーを見下ろし、今回のハイキングのスタート地点であるラウスキャニオンまで見渡すことができました。
ハイカーを惹きつけてやまないウィルダネス (原野)。
翌朝、私たちはさらに湖を越えてトレイルを進みました。カリフォルニアの乾燥地帯に住んでいる私としては、こんなにたくさんの水場があることに感動しました。
トレイルヘッドに近づくにつれ、子ども連れの家族から、引率者なしで初めてバックパッキングに参加する大学生まで、多くの人に出会いました。定年退職した人や、デザイナーズブランドの服を着たおしゃれな日帰りハイカーも見かけました。
私は、ハイカーを惹きつけてやまないウィルダネス (原野) が、とても好きです。そこは、さまざまな経験レベルの人たちと自然を共有することができる場所です。
道路や町や携帯電話の電波塔が見えないくらい高い尾根にいると、謙虚な気持ちにもなります。
ウィルダネス (原野) に身を置くことは、ツリーライン・レビューのチームが今回経験したように誰かとつながることはもちろん、自分自身とつながるための確かな方法なのです。
これまで日本ではあまり紹介されることのなかった、ノーザン・シエラ。
パーミットの取得も簡単で、人もあまり多くはなく、それでいてシエラらしい雄大な自然が広がっている。
そして今回の旅は、何よりリズの楽しそうな顔が印象的であった。コロナでずっと会えなかった、ハイキング・バディのナオミとの再会。リズにとって、この旅がとても大切な旅であったことが伝わってくる写真に、感動せずにはいられなかった。
TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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