ベンチュラのブリュワリー・スルーハイキング (前編)|by リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#39
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文: リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス, シャウント・サラベルト 訳・構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーである、リズの連載。今回のテーマは、ベンチュラの町での、ブリュワリー (ビール醸造所) をめぐるアーバン・ハイキング。これは最高のハイキングにならないはずがない。
ベンチュラといえば、パタゴニア本社がある場所として認識している人が多いだろう。ベンチュラは、サーフィンやクライミングが楽しめるアウトドアの町として有名だが、それだけでなくクラフトビールのブリュワリーの町としても知られているのだ。
またリズはオフシーズンのトレーニングも兼ねて、町を長く歩く「アーバン・ハイキング」を過去に何度も実践してきた (※1)。今回は「アーバン・ハイキング」 と「クラフトビールのブリュワリー」を組み合わせた旅だ。
ちなみにリズによると、TRAILSの「TODAY’S BEER RUN」(※2) にインスパイアされて、これを自分の住むカリフォルニア州でやったら?と考えて、この旅が生まれたとのことだ。
ベンチュラの町を、3日間で60mile (約97km) をハイキングし、14ヶ所のブリュワリーをめぐった「ベンチュラ・ブリュワリー・スルーハイキング」。
このレポートは前編・後編に分けてお届けします。今回の前編はDAY1〜DAY2の朝までのレポートです。
パタゴニア本社もあるベンチュラの町で、ブリュワリーをめぐるアーバン・ハイキング。
カリフォルニア州ベンチュラは、ロサンゼルス北部にある海辺の町です。ベンチュラは、サーフィンの町としてだけでなく、ブリュワリー (ビールの醸造所) の町としてもよく知られています。
パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードはサーファーでありクライマーでもあり、海にも山にも近く、美しいこの町をパタゴニアの本社に選びました。そのベンチュラには、実はブリュワリーが14ヶ所もあるのです。
美しい場所をロング・ディスタンス・ハイキングすることと、ビールを愛するスルーハイカーである私は、3日間で60mile (約97km)を歩く「ブリュー・スルーハイク (Brew-Thru-Hike)」をベンチュラで実行することにしました。
今回、一緒に旅したのは、以前この町について書いたことがあり、ベンチュラの歴史を私に教えてくれる友人である、旅作家のシャウント・サラベルトです。
ベンチュラ郊外にあるトレイルを歩き、ブリュワリーを目指す。
彼女と私は、チャネルアイランド国立公園のビジターセンターから出発しました。ここはチャネルアイランドへのフェリーが、発着する港でもあります (ベンチュラ・ハーバー)。ちなみにチャネルアイランドは、アメリカで最も訪問者の少ない国立公園のひとつです。
この国立公園についての記事を『Outside』誌で書いたことがあるシャウントは、そこでキャンプ場からカヤックをしたり、ゾウアザラシや、世界でも珍しい小さなアイランドフォックスを見たことなどを、私に話してくれました。
アウトドアの町として有名なベンチュラには、その郊外にあまり知られていない自転車用のバイク・トレイルがあります。このトレイルは、アルンデル・バランカ (スペイン語で「曲がりくねった細い峡谷」の意) 周辺にある畑や、ビール工場などの工業地帯があるエリアを通っています。
1つ目のブリュワリー「メイドウエスト」に到着。
スタート地点から4mile (約6km) ほど歩くと、今回の旅で訪れる最初のブリュワリーである「メイドウエスト・ブリューイング (MadeWest Brewing)」に到着しました。ヒップなアートやモダンな内装、おしゃれなガラス製品などがあり、ここが倉庫街であることを忘れてしまうほどです。
カリフォルニアの海岸はフィッシュタコスが有名で、ビールと一緒にタコスを食べるのが、今回のスルーハイキングのテーマになりました。
アメリカのブリュワリーの多くは、フルキッチンを備えていません(場所によっては、ブリュワリーでの食事提供は違法となっています)。そのためにブリュワリーでは、フードトラックを近くに駐車して、そこで食事と一緒にビールを楽しめるようにしています。
「ハウス・オブ・タコス」ではフィッシュタコスを売っていて、私はこの旅における最初の (そして最高の) フィッシュタコスをおいしくいただきました。
ベンチュラは温暖な気候なので、カリフォルニアでも有数の新鮮な食材の産地になっています。最初のブリュワリーに向かう途中に、道ばたのフルーツスタンドを通りかかり、そこでは今まで味わったことがないような、甘いイチゴを食べました。
ある農産物の直売所では、農家の人が畑の中を歩いてイチゴを摘ませてくれたりもしました。
パタゴニア社員も仕事帰りに立ち寄る、お気に入りブリュワリー。
ベンチュラの南部はダウンタウンと比べて広い土地があるので、缶入りのビールを製造しているブリュワリーが多く、その流通拠点がこのあたりにあります。
ダウンタウンのサーフショップの近くにある「トパトパ・ブリューイング (Topa Topa Brewing ※3)」は、パタゴニアの社員が仕事帰りに立ち寄る、お気に入りの場所になっています。
トパトパ・ブリューイングとパタゴニアのつながりについては、町はずれにあるトパトパの醸造施設は、以前はパタゴニアの配送センターであった、という話もあるそうです。
トパトパには、芝生の庭や、犬や子ども連れにもやさしいスペースもあり、私たちはそこでトパトパの「Nitro Ube stout」をおいしく飲みました。
地元の人が集まるこじんまりしたブリュワリー。
「シーワード・ブリューイング (Seaward Brewiing)」と「ポセイドン・ブリューイング (Poseidon Brewing)」のお店は、路地裏にある地元の人たちが通うバーのような雰囲気のお店です。
シーワード・ブリューイングは、海にちなんだ記念品が飾られた店内に、地元のお客さんがたくさん入っている、こじんまりとしたブリュワリーです。ここはベンチュラの他のブリュワリーとは違う雰囲気を醸し出しています。
ポセイドン・ブリューリング は、広く開放的なバーで、大きなイベントスペースもあります。バンドがライブ演奏を準備しているところで、私たちは屋台で鴨肉のナチョスを食べました。通りの向かい側には、パンデミックのときに廃業してしまった「コンクリート・ジャングル・ブリュワリー (Concrete Jungle Brewery)」がありました。
ラストオーダー前に滑り込みで入ったお店でDAY1の締めくくり。
アーバン・スルーハイクでは、町を楽しんでいると、マイルを稼ぐことなんて、たいして気にならなくなります。
私たちは初日の夜の最後に、「リンコン・ブリュワリー (Rincon Brewery)」というブリュワリーを見つけました。ちょうどキッチンがクローズになる直前のタイミングでした。
郊外にあるこのブリュワリーは、レストランと醸造施設が併設されていて、パーティーのための大きなスペースもあります。リンコン・ブリュワリーでは、この旅で一番おいしい魚を、ごはんとビールと一緒に食べました。
お腹がいっぱいになった私たちは、月明かりの下、ベンチュラ・ビーチ・バイク・トレイルでビーチ沿いの最後の数マイルを歩きました。波の音と砂の音を聞きながら、この日の全行程20mile (約32km)を歩き終え、ホテルに入りました。
DAY2、ベンチュラのファーマーズ・マーケットでの朝食からスタート。
2日目は、世界的にも有名なベンチュラ・ファーマーズ・マーケットでの朝食から始まりました。
ベンチュラの温暖な気候によって、あの甘いイチゴが育ち、アボカドやストーンフルーツ (※4)、また有名なオーハイピクシー・オレンジ (トパトパが「オーハイピクシーIPA」に使っているもの) が育つのです。
ファーマーズ・マーケットでは、新鮮で品質の良い野菜やフルーツがたくさん並んでいたので、思わず持ち歩けないほどの量を買ってしまいました。この戦利品をホテルの部屋に置いて、その後に2日目のハイキングをスタートしました。
DAY2の朝を、ファーマーズ・マーケットでご機嫌に過ごしたリズ。この後にDAY2のハイキングとブリュワリー行脚が始まる。そしてDAY3では、ダウンタウンから北へと続く、谷あいのトレイルをハイキングする。その詳細を後編ではお届けしたい。
TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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