TRAILS REPORT

ロングトレイルTOPICS #06 | アメリカのロング・ディスタンス・ハイキング最新情報 by リズ・トーマス(2023 Feb)

2023.02.17
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去年からスタートし、毎年お届けすることになった『ロングトレイルTOPICS』。この記事では、TRAILS編集部が取材やリサーチで集めた情報を中心に、ロングトレイルの最新情報や注目すべきトピックを発信していく。まずは2023年のアメリカのロングトレイルのトピックスを、3回に分けてお伝えしたい。

今年の『ロングトレイルTOPICS』の1回目は、2023年にアメリカのトレイルを歩く際に、ハイカーが気をつけるべきことをまとめた。TRAILSのアンバサダーであり、北米のリアルなロング・ディスタンス・ハイカーであるリズ・トーマスに、最新のアメリカの状況を聞いてみた。

『LONG DISTANCE HIKERS DAY』 (以下、LDHD) も2023年4月22日 (土)・23日 (日) に開催予定なので (予告編はコチラ)、今回の記事とともに、今後の更新情報を合わせてチェックしてみてほしい。

TRAILSのアンバサダーであり、ロング・ディスタンス・ハイカーであるリズ・トーマス。

ハイカー数が再び増加。ゴミや排泄物など『Leave No Trace』の遵守を。

Leave No Traceのウェブサイトより (https://lnt.org/)

—— 編集部:日本人をはじめ、アメリカのロングトレイルを歩く人が年々増えてきています。ハイカーが増えることによる影響や、そのなかで一人ひとりのハイカーが気をつけるべきことはありますか?

 
リズ:「トレイル周辺の土地や町への負荷を最小限に抑えるために、ハイカーは『Leave No Trace』(※1) というアウトドア倫理を熟知することがとても大切です。

私が考える最大の問題は、ゴミと人間の排泄物の不適切な管理です。国立公園局やトレイルの管理運営団体も、ハイカーが増加すればゴミや排泄物の問題も増えるだろうと常に懸念しています。

そのため、石鹸を使わない、水辺でキャンプをしない、排泄は水辺から離れた場所で行なうなど、水源をきれいに保つことが重要です。キャンプの際は、植物やデリケートな土壌を踏みつけないように注意する必要があります。

また火災は大きな問題なので、私はスルーハイカーに、緊急時以外は決して焚き火をしないように言っています」

※1 Leave No Trace (リーブ・ノー・トレース):アメリカのハイキング・カルチャーにおいて当たり前の考え方・マナーであり、世界中に広まってきている。「Leave No Trace」という組織もあり、自然保護や動物保護のためにさまざまな活動を展開している (詳細は「Leave No Trace」のWEBサイトを参照。 https://lnt.org/)。

小さなトレイルタウンでは、必要なギアや食料が手に入らないことも想定しておく。

特に小さな町のスーパーでは、欲しい食材が手に入らないこともある。

—— 編集部:コロナ以降の状況の変化として、ハイカーが気をつけるべきことはありますか?

 
リズ:「今年は、これまで以上に海外からのハイカーが増えるでしょう。特に小さな町では必要なギアや食料が見つからない場合もあるかもしれません。でもそうなったとしても、状況を理解して、地元の人に厳しい態度を取らないようにしましょう。

またコロナ以降、アメリカではレストランスタッフやスーパーの店員といったサービス業に従事する人を十分に確保することが難しくなっています。その結果、サービスが滞ったり、レストランや店舗の営業時間が短くなることもあります。

物流面での問題も多く、ハイカーが欲しいアイテムが店頭に並ばない可能性もあるでしょう。特にアウトドアギアに関しては、多くのギアを製造している中国でのコロナ規制が影響していると思われます」

スルーハイカーのおよそ半数以上が、inReachを携帯している。

最新機種のinReach Mini 2。

—— 編集部:緊急連絡用のギアとして、inReach (※2) を使用するハイカーが増えてきています。実際どのくらいのハイカーが、どんな使い方をしているのですか?

 
リズ:「山では携帯電話の電波が入らないこともあるため、inReachはテキストを送るための重要なツールです。

ただ、ほとんどのハイカーはinReachのSOS発信機能を必要とする緊急事態には遭遇していません。しかし、昨年も山火事で周囲を囲まれたハイカーが、inReachで通信できたことによって、避難方向がわかり助かったというケースもありました。

一方、ハイカーたちは家族や友人に無事を知らせるために、毎日inReachを使用しています。デイハイカーはあまり使用しませんが、スルーハイカーの半数以上は携帯しているようです」

※2 inReach:GARMIN (ガーミン) が開発・販売している衛星通信デバイス。携帯電話の電波が届かないエリアでも、双方向通信が可能でSOS発信機能も搭載されている。最新機種の「inReach Mini 2」は、小型&軽量で、重量は100g。

トレイルエンジェルの最新情報は、『FarOut』で調べるのがおすすめ。

昨年で引退を表明していたスカウト&フロドが、今年もハイカーを受け入れることを発表。スカウトのInstagramページ (https://www.instagram.com/journeys.north/) より

—— 編集部:近年、トレイルエンジェルの高齢化や引退について耳にしますが、トレイルエンジェルに関する最新情報があれば教えてください。

 
リズ:「今年1月、残念ながら、CDTのニューメキシコ州パイタウンにあるトースター・ハウスのニタ・ラロンデが亡くなりました。今後、トースター・ハウスがどうなるかはわかりません。

良いニュースとしては、PCTでおなじみのバーニー&サンディ・マン (スカウト&フロド) が、今年、PCTのスタート地点であるサンディエゴでハイカーを引き続き受け入れてくれることです。

今後有名なトレイル・エンジェルの多くが引退していくかもしれませんが、新しいトレイル・エンジェルもたくさん誕生しています。地元のトレイル・エンジェルを探すなら、FarOut (※3) のコメント欄がおすすめです」

※3 FarOut:ロング・ディスタンス・ハイキング、サイクリング、パドリング用のGPS地図アプリ。世界中にある100以上のトレイルが登録されている。もともとは『Guthook App』(ガットフック・アプリ) という名称。このアプリの誕生背景については、リズによる開発者へのインタビューを参照のこと (詳しくはコチラ)。

アジアンヘイトから身を守るためにできること。

他のハイカーと一緒に行動することも、安全策のひとつ。

—— 編集部:昨年、アメリカで起こったアジアンヘイトが、日本でもニュースとして取り上げられました。ハイカーとして気をつけるべきことはありますか?

 
リズ:「これが質問になるのは好ましくないことではありますが、とても大切なことですし、日本から来るハイカーはこれが存在することくらいは知っておくべきでしょう。

ただ、私たちはこのようなヘイトの恐怖に屈して、やりたいと思っていたハイキングができなくなってしまうことがあってはならないのです。

実際のところ、私は直接ヘイトを受けたことはないですし、日本から来たハイカーが遭遇する可能性は非常に低いと思います。

でも、すべてのハイカーに言えることですが、少なくとも1人以上の他のハイカーと一緒にハイキングをしたほうが安全ではあります。特にトレイルタウンにいる間は、そうすることが望ましいとは思います」

基本的にマスク着用は個人の判断だが、ハイカーは携帯したほうが良い。

リズもマスクを携帯するようにしている。

—— 編集部:昨年はコロナ対策でマスクの着用が必須のエリアもありましたが、今年はどうですか?

 
リズ:「最近はマスク着用を義務付けるところはほとんどなく、マスクをつけるかどうかはその人の判断です。

たとえば、私が住んでいる南カリフォルニアの都市部では、スーパーなどの屋内だとだいたい3分の1の人がマスクを着用しています。ただ、私が先日行ったアリゾナ州のような田舎では、着用率はもっと低くなります。

一部、バスなどの公共交通機関や病院、診療所でマスクが必要な場合もあります」

—— 編集部:リズはどうしていますか?

 
リズ:「私は今でもスーパーや映画館など屋内の公共の場では、マスクをしています。レストランではしませんが、レストランではなるべく屋外の席で食べたり、テイクアウトをするようにしています。また、手洗いを欠かさず、コロナ前よりも手指の消毒剤を使うようになりました。

トレイルエンジェルのなかには免疫不全の人もいますし、医療機関が少ない地方のエリアではお店がハイカーにマスク着用をお願いすることがあります。そのため、スルーハイカーは最低限マスクを携帯したほうがいいと思います」

日本人ハイカーへのメッセージ。

コロナ前のトレイルでは、たくさんのハイカーが交流する姿が当たり前だった。

—— 編集部:最後に、今年アメリカのトレイルでのロング・ディスタンス・ハイキングを計画している日本人ハイカーに向けて、メッセージをお願いします。

 
リズ:「コロナの影響でここ数年は、海外からのハイカーをあまり見かけることがなく、寂しく思っていました。今年はロングトレイルで日本のハイカーに会えたら嬉しいです。

多くのスルーハイカーにとって、世界中の人々と友だちになることはスルーハイキングの醍醐味のひとつです。トレイル上でハイカーに出会ったら、ぜひ恥ずかしがらずに話をして、友だちになってください。

いつの日か、その新しいハイカーフレンドが日本にやってきて、一緒にハイキングするなんてことがあるかもしれませんよ」

リズも、日本のハイカーと会いたがっているとのこと。

今回リズは、コロナのことから、環境保護やエマージェンシーギア、トレイルエンジェルのことまで、アメリカのハイキングシーンの最新情報を教えてくれた。

ロング・ディスタンス・ハイカーならではのリアルな情報は、今年歩くハイカーにとってかなり役立つ内容だったはずだ。

次回は、PCTおよびATの管理運営団体であるPCTA、ATCのスタッフから、各トレイルの最新情報を紹介してもらう。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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