TRAILS 環境LAB

TRAILS環境LAB | 松並三男のSALMON RIVER #17 2022年度の鮭にまつわる取り組みとトピックス

2023.03.03
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文・写真:松並三男 構成:TRAILS

What’s TRAILS環境LAB? | TRAILSなりの環境保護、気候危機へのアクションをさまざまなカタチで発信していく記事シリーズ。“ 大自然という最高の遊び場の守り方 ” をテーマに、「STUDY (知る)」×「TRY (試す)」という2つの軸で、環境保護について自分たちができることを模索していく。

* * *

『TRAILS環境LAB』の記事シリーズにおいてスタートした、松並三男 (まつなみ みつお) くんの山形県鮭川村での「鮭と環境」にまつわるレポートをお届けする「SALMON RIVER」。

松並くんは、2022年3月いっぱいで鮭川村での仕事の当初の任期を終え、同じ山形県の遊佐町 (ゆざまち) へと居を移した。鮭川村の近くにある、日本海に面した町だ。今回は約1年ぶりのレポートとなる。

松並くんは新しい町に住んでからも、鮭川村の鮭にまつわるアクションに関わり続けている。今回の記事では、2022年度の1年間にあった、松並くんの活動と、鮭川村の鮭に関するトピックスをレポートする。また現在進行中のアクションについても、記事の後半でお届けする。

この現在進行中のアクションは、この3月にまた大きな進展 (成果) がある予定。今回の記事はその予告編でもあり、こちらの詳細は4月以降にお届けしたい。


鮭川村を流れる鮭川。現場に行く回数は減ったものの、繋がりが途切れることはない。

山形の子どもたちに向けて、木製ルアーの作り方講座を開催!


釣りで地域を盛り上げようとしている鶴岡市の由良地区にて、木製ルアーの作り方を教える「釣り道場」を実施。こうした機会を通じて山形の魚好き仲間が急増中!

お久しぶりです! 前回のレポートから、約1年ぶりの鮭のレポートです。まずは近況報告ですが、山形での釣りやスノーボードは相変わらず楽しすぎて、隙あらば海、川、山 (雪) に向かう日々はまったく変わっておりません。

最近の嬉しかったことは、2月に山形の釣りバカキッズたちを対象とした木製ルアーの作り方を教える「釣り道場」の講師をしたことです。

木製ルアーづくりについては、この連載記事で過去に少しだけ触れたことがあるのですが、ここ数年は川でも海でも僕の釣りのほとんどが、自作の会津桐のルアーを使っています。


会津桐を使用した自作ルアー。

SNSで釣果をあげていくうちに「木のルアーの作り方を教えてほしい!」という釣り仲間の声がけがあり、実施された企画でした。こうした活動でも魚好き仲間がどんどん増えていくので、もっと遊ばねばと釣りはエスカレートするばかりです。

そして、早いものでパタゴニアを退職し、山形に移住して4年目が終わろうとしています。鮭川村での「鮭川の鮭の利活用」をテーマにした濃厚な3年間を経て、昨年4月から家は鳥海山 (ちょうかいさん) の麓で日本海沿岸の遊佐町 (ゆざまち) へ。

仕事はというと、昨年9月にオープンした酒田港東ふ頭交流施設「SAKATANTO」という施設の管理責任者という立場で働いています。

今シーズンにおける鮭川の鮭の捕獲数は、おそらくここ4年で最大。


2022年11月14日、ウライの中には鮭がぎっしり!少なくとも僕が現場に立ってからの4年間では一番の捕獲数!

さて、鮭の話です。仕事を変えて迎えた今シーズンは、昨年までの立場のように毎日現場に通うことはさすがにできませんでした。それでも、仕事の合間を縫って鮭川村の鮭に関するイベントなどと絡めて、できる限り現場に足を運んでいました。

今年の鮭川の捕獲数 (※1) は、正確な数字はまだわかりませんが、少なくとも僕が見てきた4年間では一番だったと思います。

上の写真は11月13日で例年ならピークを迎えるタイミングではあるものの、この日は渇水で水が少ないコンディション。これまでの経験からは、鮭は少し水が増えたタイミングで一気に上流に向かい捕獲数が増えるので、ピークとはいえたくさん入ることはないだろうと勝手に思っていました。

ところが、現場に行ってみるとウライ (※2) の中には鮭がぎっしり! 次から次へと鮭がすくいあげられ、大先輩たちも活気に満ち溢れていました。

※1 捕獲数:河川など内水面における数のこと。漁獲数は日本沿岸の海面における数を指す。また、総来遊数は捕獲数と漁獲数の合計。

※2 ウライ:アイヌ語で「梁 (やな)」を意味し、鮭を獲るための鉄製の籠のこと。これを用いた漁法をウライ漁と言う。


鮭ふ化場の鮭の稚魚たち。彼らは2〜8年で川に戻ってくるが、4〜5年で戻ってくる魚が一番多い。今の魚の親世代となる4〜5年前はどうだったのだろうか。

サケ道県別来遊数 (令和5年1月31日現在、国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所さけます部門) の速報値によると、今期は北海道を含めて日本全体の鮭捕獲数は前年よりは増加傾向だったようです。山形がある日本海側についても同じような傾向なので、全体から見れば鮭川だけが好調というわけではないのかもしれません。

この増加傾向に対して気になったのが、4〜5年前の鮭川の状況です。というのも、鮭 (シロザケ) は4〜5年で回帰する魚が全体平均で約8割を占めます (Salmon Data Base 年齢組成DB 国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所さけます部門)。そのため、4〜5年前の鮭川もどうだったのかは、気になるところでした。

僕が現場を見てきたのは3シーズン前までなので、それ以前の現場感はわからないのですが、鮭川村の大先輩や関係者の話を聞く限りでは、鮭川ではどうやら5年前の2017年が当たり年で、かなり多かったとのことでした。ということは、もしかすると今期は5年魚が多い? これについては現段階ではわからないのですが、水産試験場が耳石解析により毎年年齢を調べているので、この結果がどうなるかは楽しみです。

その結果次第では、一番遡上した数が多い年齢の親世代の年に何が起きていたのかも気になるところです。アラスカまで旅する複雑なライフサイクルのためはっきりしたことはわかりませんが、それがまたこの魚の奥深さと面白さでもあります。

なんにしても、川にたくさん鮭がいる光景には自分も大先輩たちもテンションがあがることだけは確かで、今期はそんな嬉しい光景を見ることができた年ではありました。戻ってきてくれた魚たちに感謝し、旅立つ稚魚たちを信じて手を合わせるだけです。

鮭川村で、鮭の生臭さを取り除く “血抜き” が定着してきた。


写真のように石を積み、血抜き作業がしやすいプールができていたり、河原に鰓 (エラ) を切るハサミを置いておく場所ができていたり、鮭川村では鮭の “血抜き” が定着していました。

そして、もうひとつ嬉しかったのが、僕が頻繁には通えなくなった今も鮭の “血抜き” が定着していたことです。

これは、過去記事の#05 (命を無駄にしない川鮭の食べ方の模索) と#07 (食べる魚として「忘れられた」川鮭の食べ方の試行錯誤) で詳しくレポートしています。

少しおさらいさせてもらうと、血は魚の生臭さの大きな要因のひとつですが、鮭川ではもともとこの処理がされずに鮭が持ち帰られていました。

僕の就任初年度、村の人たちに聞くと口をそろえて「川の鮭は生臭い」と言っていたので、これをどうにかクリアしたくて僕がはじめたアクションのひとつが “血抜き” でした。

これは水揚げ後、心臓が止まる前に鰓 (エラ。人間でいうと肺) を切り、体内の血を抜く処置のことで、美味しく食べたい釣り人ならだれもが行なう一般的な処置です。

これを3年間やり続けていると、大先輩たちのなかにも一緒にやってくれる人が少しずつ増えていき、なにより、血抜きされた鮭を食べた村の人たちから「鮭が美味しくなった!」と言われるのが本当に嬉しくて、3年間やってきて良かったと実感しました。

ついに「鮭魚醤 (さけぎょしょう)」が商品化の一歩手前まで来た。


2020年に初めてトライした鮭の魚醤作り。このアクションが今年に繋がりました。

そんな今シーズン、大きな進展があったのが「鮭魚醤」の商品化に向けたアクションです。

魚醤とは、有名なものだと東南アジアの「ナンプラー」や秋田県のハタハタが原材料の「しょっつる」などもその一種で、魚と塩だけで発酵させて作る液体調味料のことです。

魚醤を作るきっかけとなった最初の出来事は、鮭川村に移住してから初めての鮭シーズン。まだ何もわからない中で鮭の食べ方を模索しているときでした。僕はなにかヒントが得られればと、いろんな人に鮭を送っていました。そのうちの一人が、その鮭の一部を使って魚醤を仕込む実験をしてくれていたのです。

鮭を送ってから1年後にその知人から突然電話が鳴り「鮭の魚醤がめちゃくちゃうまい!これ作った方がいいよ!」と、すぐにこの貴重な魚醤を詰めた小瓶を送ってくれました。まったく意図せずにできあがった鮭の魚醤、これがもうびっくりするほど美味しくて、魚醤づくりを目指すきっかけになりました。


唐揚げの下味にすると、濃厚な旨味が! 凝縮した鮭の旨味を鮭に入れるので、美味いわけです。

特にその旨味を実感したのが、鮭の唐揚げでした。醤油やほかの調味料と比較したとき、味の深みが桁違いで、凝縮した鮭の旨味をふたたび鮭に入れるという方法に手ごたえを感じました。

そんな経緯から、僕がイメージする鮭魚醤の魅力は、

・原材料は鮭、塩、麹のみという原材料のシンプルさ。
・冷蔵も冷凍もせずに作りだせる工程のシンプルさ。
・脂の少ない魚の方が酸化しにくく素材として適していること。
・傷物でもなんでも鮭を丸ごと使い切ることができ、無駄が出ないこと。
・旨味を液体化することで、さまざまな食品や料理と掛け合わせることができる可能性。

といったところで、鮭川の鮭を活かしきるための一手となることを確信しました。


魚醤なら、傷だらけの鮭も、採卵した後の痩せたメスも、内蔵まですべて活かすことができる。川を遡上した鮭だからこそできる、旨味の最大値をカタチにしていくのが鮭魚醤です。

このことについて、僕は過去の記事でこのようにお伝えしていました。

「さらに味付けについてはまだオープンにできないのですが、ある方法でシンプルかつ旨味の最大値を引きだせることが見えはじめています。世に出すべく準備を進めていますので、これはお楽しみです」

これが「鮭魚醤」のことです。2年前の段階では、この「鮭魚醤」をどうやって商品化するか? というのが見えていなかったので明記しませんでした。

でも結果から先にお伝えすると、今年度はこの「鮭魚醤」が販売可能になる段階まで進めることができました。この3月に試作が完成し、味を確定させる予定なので、今、僕自身が一番わくわくしているところなのです!

鮭魚醤の商品化は、振り返れば、2021年10月に新潟県で鮭魚醤を製造している能水商店株式会社の代表の松本将史さんと出会ったことがきっかけとなり一気に進んだ話です。

能水商店との出会い、一気に商品化に向かった理由、実際の製造工程と味の確定、今後の展望など、鮭魚醤の商品化のストーリーは、次回詳しくレポートする予定です。


昨年3月に鮭川村のふ化場に視察に来てくれた、新潟県糸魚川市で鮭魚醤製造をしている能水商店代表の松本将史さん (左から2人目)。鮭川の鮭魚醤づくりのキーパーソンとなる人です。

鮭川村での任期を終え、同じ山形県内で近くの遊佐町に居を移した松並くんだが、相変わらずの鮭への熱量を感じさせてくれるレポートであった。

松並くんは、遡上した鮭の命を無駄にせず美味しく食べるために、さまざまな試行錯誤を行なってきた。そのなかで生まれてきた、あの鮭の「魚醤」が、もう商品化目前ということに、驚かされた。

松並くんの起こしたアクションから、確実な成果が生まれようとしている。一体どんな魚醤が誕生するのか。次回のレポートを楽しみに待ちたい。

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WRITER
松並三男

松並三男

1983年、神奈川県生まれ。大磯町という海や川に恵まれたエリアで生まれたこともあり、幼少期から虫取りや魚釣りに夢中になる。中高と海釣り (ルアー) にハマる。その頃、海で大量のゴミを目にしたことをきっかけに環境に興味を抱き、日本大学生物資源科学部に入学。海洋環境学の研究に没頭する。卒業後は就職せず、海岸清掃と釣り中心の日々。その後「もっと海を良くしたい」という思いが強くなり、パタゴニアに入社。約10年にわたりさまざまな店舗で勤務する。2019年、川鮭と環境問題の関連性に注目し、それを追求すべく、山形県鮭川村に移住。鮭川村の地域おこし協力隊として働きながら、鮭をテーマに活動している。リアルタイムな活動は、鮭川村地域おこし協力隊 Facebookページより。https://www.facebook.com/sake.kyouryokutai Photo by Mitsuru Itabashi (バシフォト)

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