TRAILS REPORT

IN THE TRAIL TODAY #14|テ・アラロアの稜線を歩く、約1週間のセクションハイキング

2023.03.10
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話・写真:及川悠野 取材・構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY / TRAILSは、トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』をスタートさせました。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

* * *

長旅をあきらめていた人にも、ロング・ディスタンス・ハイキングの世界への扉は開かれています。セクション・ハイキングという旅の視点を得ることによって、たくさんの人にロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出かけてほしい。そんな強い想いから生まれたZINE#02『SECTION HIKING』と、ZINE#03『SECTION HIKING 2』。

今回紹介するトレイルは、ニュージーランドのテ・アラロア (TA ※1)。

2020年1〜3月にTAの南島を歩いた及川悠野 (おいかわ ゆうや) さんが、お気に入りのセクションを教えてくれました。

及川さんは、八ヶ岳の高見石小屋で働いていた時期があり、そこでの出会いがTAを歩くきっかけになったそうです。昨年の『LONG DISTANCE HIKERS DAY 2022』では、スピーカーとしてTAの話をしてくれて、多くのハイカーが興味津々で聞いていました。

今回紹介するセクションは、TAの南島、マウント・リッチモンド・フォレスト・パークにある140km。

TAの中でも山岳エリアとして有名で、開放感あふれる稜線歩きが楽しめるセクションだそうです。

※1 TA:Te Araroa (テ・アラロア)。ニュージーランドの北島から南島を縦断する、総延長3,000kmのトレイル。


及川悠野さんにとって、初めての海外ロングトレイルがテ・アラロアだった。

ロングトレイルとNZに興味があって、テ・アラロアを歩くことにした。


TAの山岳セクション。

—— TAを歩いた日本人ハイカーは、アメリカのトレイルに比べるとまだまだ少ないですが、何がきっかけで歩こうと思ったんですか?

 
もともとアメリカのPCT (※2) に興味があったんですよ。高見石小屋で働くようになったのも、PCTに向けて山の知識や経験を増やしたいという目的があったからなんです。

※2 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。


マウント・リッチモンド (標高1,760m) がある森林公園エリア。NZには以前から興味を抱いていた。

—— 最初はPCTに興味があったんだね。それがなぜまたTAに?

 
小屋のお客さんでニュージーランドから帰国したばかりの人がいたのですが、その人の話を聞いてニュージーランドにすごく行きたくなったんですよね。もともと映画『ロード・オブ・ザ・リング』も好きで観ていましたし、その舞台であるニュージーランドには興味がありました。

それでワーキングホリデーで行くことにしたのですが、せっかく行くのであれば長い歩き旅もしてみたいなと。それで調べていたらTAの存在を知って、歩くことを決めました。

現実では見たことのないような、手つかずの自然がたくさん。

—— 南島をぜんぶ歩いたわけですが、実際にTAを歩いてどうでしたか?

 
一言で行ったら、ずっと歩き続けていたい! と思いました。見る景色見る景色、日本とぜんぜん違いますし、すごく楽しかったです。

ずっと歩き続けていたいと思うトレイルだった。

—— どんな景色が広がっていたんですか?

 
基本、手つかずの自然が多かったですね。トレイルもいい意味で整備されていなくて、自然の中にいるのがすごく実感できます。

あと、自分が現実で見たことのない景色が多かったですね。だから、わぁここはナウシカみたいだ! とか、脳内でなにか映画とかアニメとか、別のものに結びつけたくなることがたくさんありました。


これまで目にしたことのない景色ばかり。

—— 既視感がないものばかりだったんですね。

 
そうなんです。ずっとそんな感じで、景色を見るたびに、うぁー! うぁー、やべぇ! って感じで言葉にならないことが多かったです。また歩きに行きたいですね。

開放感あふれる稜線歩きが楽しめるセクション。

—— 今回選んでくれたセクションの特徴を教えてください。

 
序盤は樹林帯もありますが、基本的に稜線をがっつり歩くセクションです。リッチモンド・アルパイン・トラックと呼ばれるエリアが含まれていることもあって、TAのなかでも山岳エリアです。


今回選んだセクションは、山岳エリアで開放感満点。

—— どんな魅力がありますか?

 
開けた景色が多くて、とにかく開放的です。

なので、山を歩いているという感覚がすごくありますね。マウント・リントールという標高1,732mの山があるのですが、これは日本でいうと八ヶ岳の赤岳みたいなゴツゴツした山で、歩きごたえがありました。

ガレ場とかもいっぱいあって、しかも日本の山みたいにきちんと整備されているわけでもないので、けっこうヒヤヒヤしながら慎重に歩いたのを覚えています。


岩場も多く、スリリングでもあった。

—— TAといえばハット (ハイカーのための小屋) がおなじみですが、このセクションでも利用しましたか?

 
はい。ハットは豊富にあるんで、自分のペースに合わせて選ぶことができます。

ちなみに、ハットに泊まるときはネズミに注意です。自分はこのセクションのとあるハットで、バックパックのウエストベルトのポケットに入れていた行動食をほとんど食べられてしまいました。

疲れていた自分を励ましてくれた、4人のハイカーとの出会い。

—— ハットでは、他のハイカーと一緒になりましたか?

 
他のハイカーとはよく話しましたね。このセクションで一番思い出に残っているのは、マウント・リントールを下りたところにある、マウント・リントール・ハットで出会ったハイカーたちです。

イギリス人とオーストラリア人とオランダ人のカップル、計4人のグループなんですけど僕がやや熱中症気味で疲れているのを見て、「一緒に歩こう!」って言ってくれて。

これはすごく助かりました。


たまたま出会った4人のハイカーに、すごく助けてもらった。

—— そのまま一人だったら、かなりしんどかった?

 
そうですね。精神的にも身体的にも、けっこうヤラレていたタイミングだったんですよね。

一緒に歩きながら、マップを見て「もうちょっと先に水場があるからそこまで頑張ろう!」と励ましてくれたりして、すごく支えになりました。

しかも、このセクションが終わってトレイルヘッドに出た時に、オーストラリア人の女性のお父さんが待っていてくれて。彼がビールやスナックをたんまりくれたんです。この時のビールはもうめちゃくちゃ美味しかったですね。


トレイルヘッドで飲んだビールは最高だった。

寄り道したり、フレキシブルに楽しむことができる。

—— 最後に、及川さんが思うセクションハイキングの魅力を教えてください。

 
自分が好きなところだけ楽しめる良さがありますよね。スルーハイキングしようってなると、ちょっと構えてしまうというか、意気込んで頑張ろうとしてしまいますし。


こんな景色の中を歩けるTAは最高だったけど、NZにはTA以外にも素晴らしいトレイルがたくさんある。

実はニュージーランドにはTA以外にもたくさんのトレイルがあって、このセクションを歩くついでに他のトレイルに足を延ばすのもおすすめです。

スルーハイキングだとそんな余裕はないですけど、セクションハイキングだったら寄り道もできると思うんです。そうやってフレキシブルに他のトレイルも楽しめるのが魅力だと思います。

TRIP INFORMATION


 
■トレイル名
テ・アラロア(TA)
■セクション名
ペロラス・ブリッジ〜セント・アーナルド
■歩く距離・日数
140km・7〜10日
■旅全体の日数
9〜12日
■WEBサイト
テアラロア公式サイト(https://www.teararoa.org.nz)
Department of Concervation(https://www.doc.govt.nz/)
■ベストシーズン
12月~3月
■パーミッション / ブッキング
特になし。ただし、Hut(山小屋)を利用する場合はHut Ticketの購入が必要。
■予算目安
20〜25万円(総額)
[内訳]
エア代:15万円程度
現地宿代:2万円。ユースホステル(YHA)やNZ全域にあるホステル(BBH)1泊5000円 (目安) など
現地交通費:5000円
その他(食費など): 1万円
■アクセス方法
[空港] クライストチャーチ国際空港(ニュージーランド):乗継1回で最短約13時間
[空港から近くの町へ] クライストチャーチからペロラス・ブリッジまでバスで約7時間 (要予約)
[IN:町からトレイルへ] ペロラス・ブリッジから4〜5時間歩いてトレイルへ
[OUT:トレイルから町へ] 歩いてセント・アーナウドへ
※現地交通
Intercity(バス)https://www.intercity.co.nz/
■宿泊(町)
各種宿泊施設
■宿泊(トレイル)
キャンプサイト (無料)。ハイカー向けのテントサイトや小屋。事前にハットチケットを購入 (https://www.doc.govt.nz/)
■補給方法(水、食料、燃料など)
街にスーパーマーケット等があり、食料や燃料等の補給には不自由しない。水は浄水すればトレイル上で補給可能。

ZINE#02 SECTION HIKING

アメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、スペイン、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイルを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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