TRIP REPORT

IN THE TRAIL TODAY #12|トレイルタウンも満喫するJMTのセクションハイキング10days

2022.04.01
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話・写真:緑川千寿子 取材・構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY? | トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

* * *

長旅をあきらめていた人にも、ロング・ディスタンス・ハイキングの世界への扉は開かれています。セクション・ハイキングという旅の視点を得ることによって、たくさんの人にロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出かけてほしい。そんな強い想いから生まれたZINE#02『SECTION HIKING』と、ZINE#03『SECTION HIKING 2』

今回紹介するトレイルは、ジョン・ミューア・トレイル (JMT ※1)。

2019年に、パートナーと2人でJMTをスルーハイキングした緑川千寿子さんが、お気に入りのセクションを教えてくれました。

緑川さんは、JMTが初めてのロングトレイルでしたが、2018年、2019年、2020年と3年連続で『LONG DISTANCE HIKERS DAY』にも遊びに来ていて、徐々にロングトレイルへの興味関心が高まっていったようです。

しかも今年開催の『LONG DISTANCE HIKERS DAY 2022』では、スピーカーとしてJMTの話をしてもらうことになっています。

そんな彼女が選んでくれたセクションは、JMT中部のマンモス・レイクス〜ビショップまでの83mile (133km)。

花崗岩の荒凉とした景色と、マンモス・レイクとビショップという魅力あふれるトレイルタウンを楽しむことができるセクションだそうです。

※1 JMT:John Muir Trail (ジョン・ミューア・トレイル)。アメリカ西部のヨセミテ渓谷から米国本土最高峰のホイットニー山まで、シエラネバダ山脈を南北に貫く211mile (340㎞) のロングトレイル。ハイカー憧れのトレイルで、「自然保護の父」として名高いジョン・ミューアが名前の由来。

2019年にJMTをスルーハイクした、緑川千寿子さん (左)。東京のカフェでキッチンリーダーを務めたのち、日光にあるLIFE Son National Park (ライフ・サン・ナショナルパーク) のシェフに。

『LONG DISTANCE HIKERS DAY』に参加して、ロングトレイルの世界を知るようになった。

—— 『LONG DISTANCE HIKERS DAY』(※2) に3回も参加していますが、そもそも、なにがきっかけでロングトレイルに興味を抱くようになったんですか?

 
2017年から、パートナーと一緒に登山をするようになりました。ある時、彼が「こんな本あるけど、読んでみる?」と『LONG DISTANCE HIKING』の書籍 (※3) を勧めてきて。それがロングトレイルとの最初の接点です。

そこから、『LONG DISTANCE HIKERS DAY』に参加するようになって、こんな世界があるんだなぁとちょっと興味は抱きつつも、正直なところ私とは違う世界の話だと思っていました。

※2 LONG DISTANCE HIKERS DAY:日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく。そんな思いで2016年にTRAILSとHighland Designsで立ち上げたイベント。ロングトレイルを歩いたハイカーが、リアルな旅の体験を発信できる場。ロング・ディスタンス・ハイキングの旅の情報や知恵を交換できる場。旅のあとのライフスタイルについて語り合える場。そんなふうに、ロング・ディスタンス・ハイキングの旅を愛するハイカーにとって、最もリアルな人と情報が交流する場でもある。2022年は、4/23 (土)・24 (日) に開催 (詳しくはコチラ)。

※3 LONG DISTANCE HIKING:TRAILSの出版レーベル第一弾の書籍。ロング・ディスタンス・ハイカーのリアルな声をもとに制作した、日本初のロング・ディスタンス・ハイキングにフォーカスした書籍 (詳しくはコチラ)。

JMTのサファイヤ・レイク。

—— まったくの他人事だったのに、その世界に足を踏みれてしまったと (笑)。なにか大きなきっかけでもあったんですか?

 
北アルプスの雲ノ平のあたりを、3泊4日で旅したことが大きかったですね。すべてテント泊だったのですが、その生活がすごく楽しくて。

「仕事もしないでこんなとこいるぜぇーっ」ていう高揚感と、歩いてごはんを作って食べてお風呂も入らず寝る、っていうシンプルな生活。これがもっと長いとどんな感じになるんだろうって、初めて現実的にイメージするようになったんです。

その後、パートナーが「JMTにひとりで行ってこようかなー」って言い出して、「ずるい!私も行く!」ってなったんです。

まさか自分が、アメリカのロングトレイルをテント泊しながら歩くことになるとは、山を始めたころは思いもしなかった。

—— 当時、都内のカフェのキッチンリーダーでしたよね。よく休みが取れましたね。

 
仕事のせいでいけなくなると後悔すると思ったので、上司に直談判して、たまりにたまっていた有給休暇をまとめて取らせてください、とお願いしたんです。そんな社員はいなかったので驚かれましたが、最終的にはOKをもらうことができました。

トレイルも、町も、両方楽しむことができる、贅沢なセクション。

—— 今回選んでくれた、マンモス・レイクス〜ビショップまでのセクションの特徴を教えてください。

 
JMTのなかでも、トレイルも町も両方楽しめるセクションです。私が、JMTのハイキングが初めての海外ということも影響しているかもしれませんが、町に立ち寄りながらの歩き旅がすごく楽しかったんです。

JMTへのアプローチとして使った、ダック・パス・トレイル。

マンモス・レイクスからは、ダック・パス・トレイルというトレイルを使ってJMTに入りました。たまたま見つけたアプローチルートなんですが、景色が最高のトレイルでした。

JMTのこのセクションは、ミューア・トレイル・ランチとミューア・ハットというメジャーなスポットもあります。ミューア・トレイル・ランチにはたくさんのハイカーボックス (※4) があることでも有名で、JMTのなかでも数少ない補給ポイントでもあります。

※4 ハイカーボックス:スルーハイカーが不要になった食料や道具を入れる箱のこと。

ミューア・トレイル・ランチに積まれているハイカーボックス。ハイカーは、必要なものがあればここから持っていっていいのだ。

ミューア・ハットを少し過ぎたあたりでJMTを外れて、ビショップ・パスに向かい、そこからビショップの町へとおりて行きます。

ここは違う惑星??? そう思うほど、なにもないところが好き。

ミューア・ハットの手前に広がるこの風景が、緑川さん一番のお気に入り。

—— JMTといえば、その景色の素晴らしさでも有名ですが、このセクションのおすすめ絶景ポイントはありますか?

 
実は、JMTのなかで一番印象に残っているのが、ミューア・ハットのエリアなんです。

特にミューア・ハットの手前は、とにかくだだっ広くて、本当になにもないようなところなんです。「え? ここ宇宙っ !? 地球じゃない他の惑星???」 みたいな感じがして、すごく好きなところです。

しかもミューア・ハットは、本や雑誌、ネットなどで何度も目にしてきた憧れの場所。そんなところに、私がいるなんて! と思うと感動しましたね。

憧れのミューア・ハットの前で記念撮影。

マンモス・レイクスではブルワリー、ビショップではパン屋に通いつめた。

—— 町ではどんなことをして楽しみましたか?

 
マンモス・レイクスでは、ブルワリーに何度も行ってましたね。ちょうど宿泊しているホテルの目の前にあったんです。

海外初の私としては、目に映るものすべてが新鮮で、町をバスで巡るのも楽しかったです。アメリカの郊外のリゾート地ってこんな感じなんだーって。

マンモス・レイクスの町を、バスに乗って移動する緑川さん。

対照的に、ビショップはこぢんまりしていて、町全体がノスタルジックな雰囲気でした。ここの一番の思い出は、エリック・シャッツ・ベーカリーというパン屋さん。もう気に入り過ぎちゃって、1日に3〜4回も通ってしまったほどです。

ビショップの大好きなパン屋、エリック・シャッツ・ベーカリー。

一度で終わりじゃない。「続き」があることにロマンを感じる。

—— 最後に、緑川さんが思う、セクションハイキングの魅力を教えてください。

 
「続き」があるのって、ほんといいなと思います。「続き」って、ストーリーがあるというか、ロマンがあるというか。何年かかけて完結させるのは、かっこいいなと。

日本から食材を持ち込んで、さまざまな料理を作った。詳しくは、『LONG DISTANCE HIKERS DAY 2022』にて。

スルーハイキングももちろん楽しいですが、期間も距離も長いだけに気負ってしまいがちです。特にスタート前はすごく不安で、ナーバスになりますし。

でもセクションハイキングであれば、気持ちもラクなので、楽しみやすくなると思います。

JMTを思いっきり楽しんだ彼女。さて、次はどこのトレイルを歩きに行くのでしょう。

TRIP INFORMATION

■トレイル名
ジョン・ミューア・トレイル (JMT)
■セクション名
マンモス・レイクス 〜 ビショップ
■歩く距離・日数
133km・7日
■旅全体の日数
10日
■WEBサイト
Pacific Crest Trail Association (https://www.pcta.org/)
YOSEMITE CONSERVANCY (https://yosemite.org/)
■ベストシーズン
7月~8月
■パーミッション / ブッキング
Wilderness Permits for John Muir Trail Hikers (https://www.nps.gov/yose/planyourvisit/jmtfaq.htm)
■予算目安
20〜25万円 (総額)
[内訳]
エア代:13〜15万円程度
現地宿代:1泊1万円 (目安)
現地交通費:2万円程度 (移動手段による)
その他(食費など):2万円程度
■アクセス方法
[空港] サンフランシスコ国際空港 (アメリカ合衆国):日本から約10時間
[空港から近くの町へ] マンモス・レイクスまでグレイハウンドとESTAバスで約1日 (リノ経由)
[IN:町からトレイルへ] トレイルヘッドまで徒歩
[OUT:トレイルから町へ] トレイルヘッドからビショップまでバス
■宿泊(町)
モーテルなどの各種宿泊施設。
■宿泊(トレイル)
トレイル沿いのテント適地。
■補給方法(水、食料、燃料など)
水は、トレイル上の水場から浄水して使用。食料は、VVR (バーミリオン・バレー・リゾート) に小さな売店があるが品数は少ない。ミューア・トレイル・ランチのハイカーボックスで、何かしら入手はできる。

ZINE#03 SECTION HIKING 2

ジョン・ミューア・トレイル(JMT)やアメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイル8つを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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bottun

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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