TRAILS REPORT

IN THE TRAIL TODAY #11|アパラチアン・トレイルの山岳エリアを楽しむ、約2週間のセクションハイキング

2021.10.29
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話・写真:佐藤有希子 取材・構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY? | トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

* * *

長旅をあきらめていた人にも、ロング・ディスタンス・ハイキングの世界への扉は開かれています。セクション・ハイキングという旅の視点を得ることによって、たくさんの人にロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出かけてほしい。そんな強い想いから生まれたZINE#02『SECTION HIKING』と、ZINE#03『SECTION HIKING 2』

今回紹介するトレイルは、アパラチアン・トレイル (AT ※1)。

2018年に、ATをスルーハイキングした佐藤有希子さん (a.k.a. Lost & Found, 以下、有希子ちゃん) が、お気に入りのセクションを教えてくれました。

有希子ちゃんは、2016年に信越トレイルをスルーハイク。その後、『LONG DISTANCE HIKERS DAY』にも遊びに来てくれて、TRAILSとも親交が深まり、そこでさまざまなハイカーと出会ってATのスルーハイクを決断したそうです。

そんな彼女が選んでくれたセクションは、AT北部、ニューハンプシャー州のハノーバー〜メイン州のストラットンまでの254mile (406km)。

ここはホワイトマウンテンズという山地が広がり、ATのなかでバリエーション豊かな自然を楽しめるセクションとのことです。

※1 AT:Appalachian Trail (アパラチアン・トレイル)。アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州をまたぐ、2,190mile (3,500km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。


2018年にアパラチアン・トレイルをスルーハイクし、2019年からは地域おこし協力隊として信越トレイルのビジターセンターでもある「なべくら高原・森の家」に勤務。


ドキュメンタリー番組で観たアパラチアン・トレイルに、憧れを抱いた。


—— どうして、アパラチアン・トレイル (AT) を歩こうと思ったんですか?

そもそもは、2008年頃に観たNHKのドキュメンタリー番組です。そこでATが特集されていて、なんとなく気になったんです。文明から離れて、自然の中を何千kmという途方もない距離を自分の足で歩くことに惹かれたんです。いま思えば、当時生活も含めていろいろどん底だった私にヒットしたんでしょうね (笑)。


文明から離れて、自然の中をずっと旅できることに魅力を感じた。

—— でも、歩きにいったのは2018年と、約10年ものブランクがありますね。

その時は、アウトドアもぜんぜんやってなかったので「いいなぁ」と思ったくらいで。そのあと、山登りをはじめてからATのことを思い出して、いろいろ調べて、加藤則芳さんのことも知って、憧れるようになりました。

ただ想像もつかないほどの長距離なので、行けるはずないとずっと思っていて。加藤さんのことを調べるうちに知った信越トレイルだったら歩けるかなと思って、スルーハイクしたのが2016年。そうしたらやっぱりATも歩きたくなってしまったのと、仕事を辞めるタイミングとしてもちょうど良かったというのもあって、2018年に歩きにいくことにしました。


スルーハイク中に、加藤則芳さんも撮影していたマッカフィーノブで記念写真!


ATのなかでも、バリエーション豊かな自然を満喫できるセクション。


—— 今回選んでくれた、ニューハンプシャー州のハノーバー〜メイン州のストラットンまでのセクションは、ATのなかでもどんなところなんですか?

ホワイトマウンテンズっていう、観光名所にもなっている山地が広がっているんです。日本でいうと八ヶ岳みたいなところですね。ATのなかでも、バリエーション豊かな自然を満喫できるセクションです。


遠くまで続く稜線歩きも楽しめる。

私の場合、すでにスタートしてから2,500km以上歩いていてカラダができ上がっていたこともあって、急勾配の登りも下りもほんと楽しかったんですよね。グイグイ登って、グイグイ下る感じが。

この山地には、アメリカ北東部最高峰のワシントン山 (標高1,917m) があるんですが、アメリカで一番天候が悪いと言われるほどで、荒れるとほんと大変なんです。私が行った時も強風で立っていられないくらいでした。こういう厳しい自然環境も、なかなか経験できるものじゃないので楽しかったですね。


強風と濃霧の中、なんとかワシントン山に登頂。

—— ATというと樹林帯のイメージが強いけど、ここはかなり過酷なセクションってこと?

一部そういうところもあるというだけですよ。樹林帯もありますし、沼地もあって、ビーバーダムもたくさん目にしました。

ホワイトマウンテンズを抜けると湖水地方にも入っていくんで、湖もたくさんあってすごく美しいんですよね。湖では泳いでいるハイカーもいました。

ATのなかでも、森、湖、岩場と、いろんな自然を楽しめるセクションなんです。


湖水地方ゆえ、たくさんの湖があるのも特徴。泳ぐハイカーの姿もちらほら。


ハイカーたちが、ヤバい!とウワサしていた岩場をくぐり抜ける。


—— いろんな地形や景観があって面白そうですね。いちばん印象に残っているポイントとかありますか?

メイン州に入ってすぐのところにあるマフースク・ノッチです。ここはヤバかったですね (笑)。

近づくにつれて、まわりのハイカーのなかでもウワサになってくるんですよ。あそこはヤバいらしいぞ! って。


マフースク・ノッチの道標が出てきて、ドキドキワクワク。

—— ヤバいところって、実際どんなところだったのですか?

大きな岩が折り重なっているところなんです。自分の身長の倍以上あるようなものをよじ登ったり。え? こんなところ通すの? っていう感じで、日本だったらあり得ないようなルートなんです。

でも、岩の間の狭い隙間のところにもホワイトブレイズ (※2) が付いてたりして、えっ、ここっすか? みたいな (笑)。

バックパックを背負ったままだと通れないので、バックバックだけ先に放り投げて通して、そのあと自分もズリズリと岩に擦られながら進んでいくんです。私ですらこんな感じですから、巨漢の人はほんと通れないと思いますよ。

※2 ホワイトブレイズ:アパラチアン・トレイルのサインの一種。木の幹や岩などに、白いペンキで描かれた短い棒線で、これを頼りにしてハイカーは歩いていく。


突如現れた光景に、しばし呆然とする……。


アパラチアン・トレイルならではのハット (山小屋) で、アメリカの文化に触れる。


——— ハット (※3) にも泊まったらしいですね。

1泊1万5,000〜6,000円するような、トレイル上にあるラグジュアリーな感じの山小屋です。高いんですけど、私は何事も経験が大事だと思っているんで、泊まってみました。

それから、働く代わりに泊まらせてもらう、ワーク・フォー・ステイシステムで、別のハットにも泊まりました。働くとはいっても、大食堂と客室の掃き掃除くらいでかなりゆるい感じでしたね。

※3 ハット:ホワイトマウンテンズにある8つの山小屋。アパラチアン・マウンテン・クラブ (AMC) が運営している。


高いお金を払って宿泊した、マディソン・スプリング・ハット。

——— 実際にハットに泊まってみた感想は?

一般客がたんに泊まるだけではなく、野外教育をはじめとした教育目的でも活用されているんですよね。各ハットごとに体験プログラムがあったりして。

私が泊まったハットでは、ちょうど子どもたちが授業を受けていて、私も後ろのほうで聞かせてもらいました。アメリカには、こうやって自然を学ぶ文化があることを知れたのが良かったですね。


ワーク・フォー・ステイをした、ミズパ・スプリング・ハット。子どもたちが受けていた授業にも参加。


計画が立てやすいので、安心して歩くことができる。


—— 最後に、有希子ちゃんが思う、セクションハイキングの魅力を教えてください。

安心して楽しめる! ですかね。


スタート地点のハノーバーはトレイル上にあり、食料などいろいろ準備するにはうってつけの町。トレイルエンジェルもたくさんいる。

スルーハイキングは、距離も期間も長いので、計画が立てにくいんですよね。1カ月も2カ月も先のことなんてわからないじゃないですか。

でも、今回のような2週間程度のセクションハイキングであれば、先が見えますよね。1日どのくらい歩いて、どこの町におりて、っていう計画もちゃんと立てられます。立ち寄る町も限られていますしね。

行き当たりばったりじゃなくプランに沿って歩けるので、安心して楽しめると思います。


今回のセクションは、ATの魅力が凝縮されたエリアでもある。


TRIP INFORMATION



 
■トレイル名
アパラチアン・トレイル(AT)
■セクション名
ハノーバー〜ストラットン
■歩く距離・日数
406km・16日
■旅全体の日数
20日
■WEBサイト
Appalachian Trail Conservancy(https://www.appalachiantrail.org)
White Mountain National Forest(https://www.fs.usda.gov/whitemountain)
Visit White Mountains(https://www.visitwhitemountains.com/)
WhiteBlaze.net(https://www.whiteblaze.net)
■ベストシーズン
7〜10月
■パーミッション / ブッキング
ホワイトマウンテンズのエリア内、管理人のいるキャンプグランドは、6人以上のグループで利用する場合に要予約(AMCのWEBサイトからオンライン予約可能)。ソロ~5人以下のグループは先着順。
■予算目安
25~35万円(総額)
[内訳]
エア代:15万円程度(成田空港-ジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港往復)
現地宿代:1泊3,000円~2万円
キャンプ代:約1700円(ホワイトマウンテンズ内、管理人常駐シーズン中のみ)
現地交通費:5万円(ジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港からハノーバーまでの電車賃、ストラットンからバンゴーまでのUber料金、バンゴーからジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港までのエア代)
その他(食費など): 3万円
■アクセス方法
[空港] 往路 / ジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港(BOS):約15時間
[IN:町からトレイルへ] ハノーバーからトレイルがスタート(ハノーバーまではBOSから電車で約2時間半)。
[OUT:トレイルから町へ] 歩いてストラットンへ(ストラットンからはUberや宿のシャトルでバンゴーまで約2時間半。そこから飛行機でBOSへ)。
■宿泊(町)
ハノーバーおよびストラットンのホステルやモーテル。
■宿泊(トレイル)
シェルター泊もしくはテント泊。ホワイトマウンテンズ内、管理人のいるキャンプグランドは、6人以上のグループで利用する場合に要予約(AMCのWEBサイトからオンライン予約可能)。ソロ~5人以下のグループは先着順。
■補給方法(水、食料、燃料など)
水:トレイル上の水場で浄水して補給。
食料:ハノーバーのスーパーなどでまとめ買いして、途中のトレイルタウンに局留めで送る、または途中のトレイルタウンで都度補給。ホワイトマウンテンズは、ハットでの食事(有料)も可能。


ZINE#03 SECTION HIKING 2


ジョン・ミューア・トレイル(JMT)やアメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイル8つを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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bottun

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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