IN THE TRAIL TODAY #13|グレート・ヒマラヤ・トレイルにある奥ヒマラヤの村を目指す、約2週間のセクションハイキング
話・写真:根津貴央 取材・構成:TRAILS
What’s IN THE TRAIL TODAY? | トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。
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長旅をあきらめていた人にも、ロング・ディスタンス・ハイキングの世界への扉は開かれています。セクション・ハイキングという旅の視点を得ることによって、たくさんの人にロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出かけてほしい。そんな強い想いから生まれたZINE#02『SECTION HIKING』と、ZINE#03『SECTION HIKING 2』。
今回紹介するトレイルは、グレート・ヒマラヤ・トレイル (GHT ※1)。
2014年から、GHTを踏査するプロジェクト (GHT project ※2) を仲間と立ち上げ、毎年 (コロナ期を除く) 1カ月〜1カ月半ほど歩きに行っているTRAILS編集部crewの根津が、お気に入りのセクションを教えてくれた。
今回根津が選んでくれたセクションは、GHTの東端、カンチェンジュンガと呼ばれるエリアの約150km。
ここは、ヒマラヤならではの圧倒的な高峰と、まるで里山のような道や集落の両方がバランス良く楽しめるセクションであるそうだ。
GHTの大半が、ヒマラヤの村々をつなぐ生活道。
—— グレート・ヒマラヤ・トレイル (GHT) を歩こうと思ったきっかけとは?
GHTを踏査するプロジェクト (GHT project) の発起人であり、もともと友だちだった根本秀嗣 (ねもと ひでつぐ) に、「一緒に歩かない?」って誘われたのがきっかけですね。
それまでは、GHTの存在自体は知っていたものの、ヒマラヤに対する敷居の高さや先入観があって行き先の対象に入っていませんでした。トレイルとは言っても、高所登山でしょ? ロング・ディスタンス・ハイキングっていう感じじゃないんでしょ? って思ってたんです。
でも、根本の誘いをきっかけにいろいろ調べてみたら、自分が志向しているロング・ディスタンス・ハイキングとドンピシャで、これは行くっきゃない! となりました。
—— アメリカでのロング・ディスタンス・ハイキングとは、魅力や楽しみ方が違ったりするの?
GHTはアメリカのトレイルと違って、自然保護やレクリエーションのために新たに作られた道ではありません。GHTの大半がヒマラヤの村々をつなぐ生活道なんです。
交易の道であり暮らしの道であるGHTは、旅をしながらウィルダネスに浸る、というよりは、そこで暮らしている感覚が味わえるのが、他のトレイルとは一線を画している気がしますね。標高4,000mでも5,000mでも生活圏だったりするわけですから。
ヒマラヤの絶景とヒマラヤの暮らしが味わえるセクション。
—— 今回選んだ、GHTの東端にあるカンチェンジュンガのセクションは、GHTのなかでもどんなところなの?
世界第3位の標高を誇るカンチェンジュンガ (標高8,598m) を擁するエリアなので、まずはヒマラヤならではの絶景ですね。と同時に、村も点在しているのでヒマラヤに住まう人々の営みにも触れることができます。
そういう点において、まさにGHT projectのコンセプト『ヒマラヤは世界最大の里山だ』を存分に味わえるセクションですね。
—— とはいえ、標高はけっこう高いよね?
高いところで約4,000mくらい。富士山 (標高3,776m) より高いから躊躇する人もいるかもしれないけど、生活道だし、徐々に標高が上がっていくから、登山っていう感じはまったくしないです。
もちろん高山病には充分気をつけないといけないけれど、ヒマラヤの村と村をつなぎながら歩くのは、本当に楽しいですよ。
GHTにたどり着くまでが楽しい。
—— 地図で見ると、ネパールの東端エリアということもあって、首都カトマンズからかなり遠い印象です。でも意外と簡単に行けたりするの?
いや、それがそこそこ大変で (笑)。カトマンズからGHTにたどり着くまで、約1週間かかるんです。
今回は2週間のセクションハイキングとして紹介しているので、大半がGHT以外かよ! ってツッコまれそうですが、でもこれもGHTの魅力のひとつだと僕は思っているんです。
—— どういうこと?
たどり着くまでのプロセスも、めちゃくちゃ楽しいんですよ。
1日目はカトマンズから飛行機に乗ってタプレジュンというところまで行くんですが、2日目からはハイキング。観光地じゃないエリアの誰も知らないような村々を訪れながら、ヒマラヤの奥地にあるGHTへと向かっていくんです。
すでに話したようにGHTはそもそも生活道なので、GHTのサインすらありません。だから、ちゃんと意識していないと、正直GHTに入ったかどうかもわからない。言ってみれば、感覚としては、もう2日目からGHTを歩いているようなもんなんですよね。
まさか標高4,050m地点に集落があるとは、思ってもみなかった。
—— このセクションで、一番印象に残っている村はどこですか?
カンバチェンです。今回のカンチェンジュンガのエリアで一番大きな村と言えばグンサ (標高3,590m) なんですが、実は当初、これより東側には人が住んでいないと思っていたんですよ。
でも、行ってみたら標高4,050m地点に、カンバチェンっていう本当に小さな集落があって驚きました。まさに天空の村という感じでしたね。
—— 宿があるんですか?
いや、宿はなかったのですが、村の人の好意で納屋みたいなところに泊まらせてもらいました。いわゆる民泊ですね。
その納屋の持ち主の方がとても親切な方で、夜は母屋の居間で火を囲みながらの大宴会でした。飲んで食べて歌って踊って。ネパールの地酒ロキシーがカラダに沁みました。
標高4,000mオーバーのところでの大宴会なんて、人生初ですよ。これは忘れられない思い出ですね。
GHTは、セクションハイキングでお腹いっぱい。
—— 最後に、セクションハイキングの魅力とは?
ことGHTに限って言えば、セクションハイキングでもうお腹いっぱいなんですよ。
景色にしろ、食にしろ、人にしろ、動物にしろ、標高にしろ、想定外のハプニングにしろ、まあとにかくいろいろトピックスがあるんで、GHTをスルーハイキングしようと思ったことがないくらいです。
逆に、スルーハイキングしようとすると、かなりの覚悟と野心と熱量と体力が必要になるので、里山感覚では楽しめなくなっちゃうと思います。
里山としてのヒマラヤを味わうなら、セクションハイキングがおすすめです。
TRIP INFORMATION
■トレイル名
グレート・ヒマラヤ・トレイル (GHT)
■セクション名
カンチェンジュンガ・ベースキャンプ・トレック (タプレジュン〜カンバチェン〜タプレジュン)
■歩く距離・日数
約110km・14日
■旅全体の日数
17日
■WEBサイト
Great Himalaya Trail (https://www.greathimalayatrail.com/)
■ベストシーズン
4〜6月、10〜12月
■パーミッション / ブッキング
トレッキングパーミット
カンチェンジュンガ・コンサベーション・エリア・パーミット
■予算目安
30~40万円(総額)
[内訳]
エア代:15万円程度(成田空港-トリブバン国際空港 往復)
現地宿代:1泊3,000円程度
現地交通費:約7万円(トリブバン国際空港-タプレジュン空港 往復など)
その他(食費など): 3万円
■アクセス方法
[空港] 往路 / トリブバン国際空港(KTM):約8時間
[IN:町からトレイルへ] タプレジュン空港から歩きはじめる。
[OUT:トレイルから町へ] トレイルを歩き終えてタプレジュン空港へ。
■宿泊(町)
村にあるゲストハウス、民泊、庭でのテント泊。
■宿泊(トレイル)
テント泊。
■補給方法(水、食料、燃料など)
水:村もしくはトレイル上の川で補給。
食料:トレイル上の村で補給。
ZINE#03 SECTION HIKING 2
ジョン・ミューア・トレイル(JMT)やアメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイル8つを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。
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