TRAILS REPORT

IN THE TRAIL TODAY #13|グレート・ヒマラヤ・トレイルにある奥ヒマラヤの村を目指す、約2週間のセクションハイキング

2023.02.08
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話・写真:根津貴央 取材・構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY? | トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

* * *

長旅をあきらめていた人にも、ロング・ディスタンス・ハイキングの世界への扉は開かれています。セクション・ハイキングという旅の視点を得ることによって、たくさんの人にロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出かけてほしい。そんな強い想いから生まれたZINE#02『SECTION HIKING』と、ZINE#03『SECTION HIKING 2』

今回紹介するトレイルは、グレート・ヒマラヤ・トレイル (GHT ※1)。

2014年から、GHTを踏査するプロジェクト (GHT project ※2) を仲間と立ち上げ、毎年 (コロナ期を除く) 1カ月〜1カ月半ほど歩きに行っているTRAILS編集部crewの根津が、お気に入りのセクションを教えてくれた。

今回根津が選んでくれたセクションは、GHTの東端、カンチェンジュンガと呼ばれるエリアの約150km。

ここは、ヒマラヤならではの圧倒的な高峰と、まるで里山のような道や集落の両方がバランス良く楽しめるセクションであるそうだ。

※1 グレート・ヒマラヤ・トレイル (GHT):2011年10月1日に開通したネパールのトレッキングルート。ヒマラヤ山脈を貫くロングトレイルで、Upper route (山岳ルート) とLower route (丘陵ルート) の2本で構成されている。総延長は、前者が約1,700㎞ (標高3,000〜6,000m超)、後者が約1,500km (標高1,000〜4,000m超)。

※2 GHT project:GHTのアッパー・ルートを踏査し、ヒマラヤの知られざる魅力を日本に広めるために2014年に立ち上げたプロジェクト。コンセプトは『ヒマラヤは世界最大の里山だ』。メンバーは山岳ガイドの根本秀嗣、TRAILS編集部crewの根津貴央、写真家の飯坂大の3人。


TRAILS編集部crewの根津。ヒマラヤと言えども、この写真のとおり、今回のセクションはローカットのハイキングシューズ (トレイルランニングシューズ) で問題なく歩くことができる。

GHTの大半が、ヒマラヤの村々をつなぐ生活道。

—— グレート・ヒマラヤ・トレイル (GHT) を歩こうと思ったきっかけとは?

 
GHTを踏査するプロジェクト (GHT project) の発起人であり、もともと友だちだった根本秀嗣 (ねもと ひでつぐ) に、「一緒に歩かない?」って誘われたのがきっかけですね。

それまでは、GHTの存在自体は知っていたものの、ヒマラヤに対する敷居の高さや先入観があって行き先の対象に入っていませんでした。トレイルとは言っても、高所登山でしょ? ロング・ディスタンス・ハイキングっていう感じじゃないんでしょ? って思ってたんです。

でも、根本の誘いをきっかけにいろいろ調べてみたら、自分が志向しているロング・ディスタンス・ハイキングとドンピシャで、これは行くっきゃない! となりました。


地元の人が普通に歩いているのが、GHTならでは。

—— アメリカでのロング・ディスタンス・ハイキングとは、魅力や楽しみ方が違ったりするの?

 
GHTはアメリカのトレイルと違って、自然保護やレクリエーションのために新たに作られた道ではありません。GHTの大半がヒマラヤの村々をつなぐ生活道なんです。

交易の道であり暮らしの道であるGHTは、旅をしながらウィルダネスに浸る、というよりは、そこで暮らしている感覚が味わえるのが、他のトレイルとは一線を画している気がしますね。標高4,000mでも5,000mでも生活圏だったりするわけですから。


GHTは、トレッカー (※3) があまり訪れないエリアも多く、村の民家の庭先にテントを張らせてもらうこともよくある。

※3 トレッカー;トレッキング (山歩き) をする人のこと。ネパールでは基本的に、高峰を登る人を登山者、それ以外のエベレスト街道をはじめとした山道を歩く人をトレッカーと呼ぶ。登山とトレッキングの区分が明確で、それぞれに必要な許可証も異なる。

ヒマラヤの絶景とヒマラヤの暮らしが味わえるセクション。

—— 今回選んだ、GHTの東端にあるカンチェンジュンガのセクションは、GHTのなかでもどんなところなの?

 
世界第3位の標高を誇るカンチェンジュンガ (標高8,598m) を擁するエリアなので、まずはヒマラヤならではの絶景ですね。と同時に、村も点在しているのでヒマラヤに住まう人々の営みにも触れることができます。

そういう点において、まさにGHT projectのコンセプト『ヒマラヤは世界最大の里山だ』を存分に味わえるセクションですね。


グンサ村 (標高3,590m) は、欧米の高所登山の遠征隊も利用する大きな村。ゲストハウスも複数ある。

—— とはいえ、標高はけっこう高いよね?

 
高いところで約4,000mくらい。富士山 (標高3,776m) より高いから躊躇する人もいるかもしれないけど、生活道だし、徐々に標高が上がっていくから、登山っていう感じはまったくしないです。

もちろん高山病には充分気をつけないといけないけれど、ヒマラヤの村と村をつなぎながら歩くのは、本当に楽しいですよ。


10月末のグンサ周辺。秋は、ヒマラヤでも美しい紅葉を楽しむことができる。

GHTにたどり着くまでが楽しい。

—— 地図で見ると、ネパールの東端エリアということもあって、首都カトマンズからかなり遠い印象です。でも意外と簡単に行けたりするの?

 
いや、それがそこそこ大変で (笑)。カトマンズからGHTにたどり着くまで、約1週間かかるんです。

今回は2週間のセクションハイキングとして紹介しているので、大半がGHT以外かよ! ってツッコまれそうですが、でもこれもGHTの魅力のひとつだと僕は思っているんです。


生活道ゆえ、サインや看板などはなく、地図を見ながら進むこともある。

—— どういうこと?

 
たどり着くまでのプロセスも、めちゃくちゃ楽しいんですよ。

1日目はカトマンズから飛行機に乗ってタプレジュンというところまで行くんですが、2日目からはハイキング。観光地じゃないエリアの誰も知らないような村々を訪れながら、ヒマラヤの奥地にあるGHTへと向かっていくんです。

すでに話したようにGHTはそもそも生活道なので、GHTのサインすらありません。だから、ちゃんと意識していないと、正直GHTに入ったかどうかもわからない。言ってみれば、感覚としては、もう2日目からGHTを歩いているようなもんなんですよね。


トレイル上には牛小屋があったりもする。僕が歩いた時は、ご主人がいろいろもてなしてくれた。

まさか標高4,050m地点に集落があるとは、思ってもみなかった。

—— このセクションで、一番印象に残っている村はどこですか?

 
カンバチェンです。今回のカンチェンジュンガのエリアで一番大きな村と言えばグンサ (標高3,590m) なんですが、実は当初、これより東側には人が住んでいないと思っていたんですよ。

でも、行ってみたら標高4,050m地点に、カンバチェンっていう本当に小さな集落があって驚きました。まさに天空の村という感じでしたね。


高台から望むカンバチェン。まさかこんなところに集落があったとは。

—— 宿があるんですか?

 
いや、宿はなかったのですが、村の人の好意で納屋みたいなところに泊まらせてもらいました。いわゆる民泊ですね。


ここの民家にお世話になった。

その納屋の持ち主の方がとても親切な方で、夜は母屋の居間で火を囲みながらの大宴会でした。飲んで食べて歌って踊って。ネパールの地酒ロキシーがカラダに沁みました。

標高4,000mオーバーのところでの大宴会なんて、人生初ですよ。これは忘れられない思い出ですね。


女将さんはもちろん近所の人も集まってきて、みんなで楽しい夜を過ごした。

GHTは、セクションハイキングでお腹いっぱい。

—— 最後に、セクションハイキングの魅力とは?

 
ことGHTに限って言えば、セクションハイキングでもうお腹いっぱいなんですよ。

景色にしろ、食にしろ、人にしろ、動物にしろ、標高にしろ、想定外のハプニングにしろ、まあとにかくいろいろトピックスがあるんで、GHTをスルーハイキングしようと思ったことがないくらいです。


途中、橋が数百匹の羊に占拠され、數十分立ち往生。

逆に、スルーハイキングしようとすると、かなりの覚悟と野心と熱量と体力が必要になるので、里山感覚では楽しめなくなっちゃうと思います。

里山としてのヒマラヤを味わうなら、セクションハイキングがおすすめです。


とある山上寺院から眺めたヒマラヤ。

TRIP INFORMATION


 
■トレイル名
グレート・ヒマラヤ・トレイル (GHT)
■セクション名
カンチェンジュンガ・ベースキャンプ・トレック (タプレジュン〜カンバチェン〜タプレジュン)
■歩く距離・日数
約110km・14日
■旅全体の日数
17日
■WEBサイト
Great Himalaya Trail (https://www.greathimalayatrail.com/)
■ベストシーズン
4〜6月、10〜12月
■パーミッション / ブッキング
トレッキングパーミット
カンチェンジュンガ・コンサベーション・エリア・パーミット
■予算目安
30~40万円(総額)
[内訳]
エア代:15万円程度(成田空港-トリブバン国際空港 往復)
現地宿代:1泊3,000円程度
現地交通費:約7万円(トリブバン国際空港-タプレジュン空港 往復など)
その他(食費など): 3万円
■アクセス方法
[空港] 往路 / トリブバン国際空港(KTM):約8時間
[IN:町からトレイルへ] タプレジュン空港から歩きはじめる。
[OUT:トレイルから町へ] トレイルを歩き終えてタプレジュン空港へ。
■宿泊(町)
村にあるゲストハウス、民泊、庭でのテント泊。
■宿泊(トレイル)
テント泊。
■補給方法(水、食料、燃料など)
水:村もしくはトレイル上の川で補給。
食料:トレイル上の村で補給。

ZINE#03 SECTION HIKING 2

ジョン・ミューア・トレイル(JMT)やアメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイル8つを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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bottun

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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