TRAILS REPORT

北アルプスのラストフロンティア『伊藤新道だより』 | #02 オンラインストア「伊藤新道ギア」の立ち上げと、「湯俣」の視察。

2023.04.14
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文:伊藤圭 写真:伊藤圭, TRAILS 構成:TRAILS

What’s “北アルプスのラストフロンティア『伊藤新道だより』” | 2021年に『北アルプスに残されたラストフロンティア』という連載シリーズでフィーチャーした『伊藤新道』。2022年には「伊藤新道 復活プロジェクト」のクラウドファンディングも成功し、復活へ向けて着々とプロジェクトが進行している。この連載では、伊藤新道復活の牽引役である伊藤圭さんに、“伊藤新道にまつわる日常” をレポートしてもらうことで、伊藤新道および北アルプスの現在と未来をお届けしていく。

* * *

伝説の道『伊藤新道』の復活へのアクションは、2021年、『北アルプスに残されたラストフロンティア』と称して、TRAILSでも大きく取り上げた (※1)。この『伊藤新道だより』の連載は、このプロジェクトの牽引役であり当事者である伊藤圭さん本人による、その後の伊藤新道の復活に向けたリアルタイムのドキュメントレポートだ。

第2回目の今回は、まずは圭さんと敦子さんの近況から。そもそもインドア派だった圭さんがギアに興味を抱くようになった経緯と、奥さんの敦子さんが、三俣山荘グループの予約開始 (4月1日) の準備に追われている話を紹介。

さらに、伊藤新道復活プロジェクトにおいては、オンラインストア「伊藤新道ギア」コーナーの立ち上げ経緯と、つい先日行った湯俣視察をレポートしてくれる。

※1 『北アルプスに残されたラストフロンティア』と題して、伊藤新道を徹底解剖した、全5回の記事シリーズ。(詳しくはこちらを参照。#01 伊藤新道という伝説の道 #02 伊藤新道の再興前夜 #03 伊藤新道、再興のはじまり #04 伊藤新道を旅する<前編> #05 伊藤新道を旅する<後編>)


改装前の湯俣山荘。伊藤新道復活プロジェクトでは、この湯俣山荘もリニューアルする予定。

今月の伊藤新道だより:「長靴の圭さん」がギア研究の虜になる


今シーズンは、雪山用のギアも揃えて雪山にも挑戦した。

いま、「伊藤新道ギア」というオンラインストアのコンテンツの立ち上げ準備を進めている。詳細はこの記事の後半で説明するが、大きく2つの目的がある。

1つは伊藤新道のフィールドに合ったギアをセレクトしたコーナーを設けることで、歩く人が知りたい情報を提供すること。もう1つは、このオンラインストアで購入すると、その売上の一部が伊藤新道の維持管理や登山道整備へのドネーション (寄付) になるということ。

ところで、前章でもお話しした通り、僕はインドア派の人間であくまで職業として山小屋を運営してきた。当然ギアやウェアに関して興味などなく、子供のころからずっとおさがりか落とし物でしのいできて、初めてテレビ出演したときなど長靴で俳優をガイドしたものだから「長靴の圭さん」など非常に恥ずかしいあだなをつけられたほどだ。

しかし、世間ではULブームが浸透し、ハイキングの服装やギアのデザインも洗練されたものが増えた。僕のミーハーな部分も手伝って、ちょっとULバックパックなんかに手を出し始めた矢先にこの流れになったものだから、オタク的気質も手伝って今となってはすっかりアウトドアギア研究の虜だ。


三俣山荘グループの予約が4月1日スタート。敦子の現場はあくまで山荘なのだ。

さて、ギアだトライアルだイベントだと、自分なりには超仕事人のつもりだが夢ばっかり見ている夫を横目に、敦子 (あつこ) の方では三俣山荘グループの予約が4月1日開始ということもあって戦々恐々としている。

去年取り入れた予約システムがトラブルまみれだったことから、今年は新たなシステムに乗り換えての開始だったのだが、どうやら順調なスタートだったようだ。

今年はコロナが多少落ち着き、予約数も多少増やしての受け入れとなっている。世界的な気候変動で8月がどうも天気が良くなかったり、相変わらず予測は全く立たないが、少しでも賑わいが戻ればと願っている。

余談だが、現在予約定員65人の三俣山荘。仕事として山小屋を始めてから2回ほど300人超えというのを経験している。夜中の2時に意識を朦朧とさせて弁当を作ったりしたのが懐かしい。ああいった熱気が僕の中での山小屋だ。

また今年から三俣山荘では、道直しのボランティア受け入れを本格化させるのだが、こちらも敦子の担当となっており、道直しツアーの段取りからテキストの制作まで忙しくしている。

テキストのイラストレーターはどこぞの本屋で見た挿絵が気に入り、直接連絡して書いていただくことになったらしいのだから、こちらも大分夢は見ていそうだ。

伊藤新道復活プロジェクト進捗 ① オンラインストア「伊藤新道ギア」


ネオアルプス (https://neoalps.com/) のオンラインストア。ここに「伊藤新道ギア」コーナーが新設される(https://neoalps.base.shop/)。オープンは4月下旬を予定。

伊藤新道復活、湯俣の再興、大町エリアの活性化など、北アルプスの新たな登山シーンの創出を目指す「山と人と街プロジェクト」(※1) を立ち上げて進めていることは、前回の記事 (詳しくはコチラ) でもお伝えした。

そのプロジェクトを手がける組織が、昨年7月に設立した「一般社団法人ネオアルプス」(※2) であり、僕が代表を務めている。

この1〜2年で次々と新しい取り組みをスタートさせているわけだが、こういったアクションに踏み切ったのにはもちろん理由がある。従来の山小屋のビジネスモデルや、国立公園の法制度では十分ではなかった点が、コロナ禍の経済的損失をきっかけにはっきりと姿を現し、爆発し、今までのルールややり方に縛られずに、新しい考え方ややり方をつくるべき時が来た、といったとこころだ。

※1 山と人と街プロジェクト:北アルプスの新たな登山シーンの創出を目的としたプロジェクトであり、具体的な取り組みとして「伊藤新道の再生」「地元大町を盛り上げて、再び北アルプスのゲートウェイにするための拠点作り」「湯俣山荘の再開」「登山とサブカルチャーを結び付けるプロジェクト」「山小屋がやってきた北アの環境保全を会社化」などが掲げられている。

※2 一般社団法人ネオアルプス:次の3つをミッションステートメントする非営利法人。「1. 伊藤新道、湯俣温泉を中心に黒部源流まで続く広大な北アルプス大町エリアのコンテンツを最大限活かし、利用者がより発見に満ちた自然体験ができるフィールドを構築する」「2. 低迷が続く高瀬渓谷や裏銀座ルートの利用者を増やし、経済的に成立させることによって、このエリアの文化、健全に保たれたフィールドを次世代へと導くため、大町市の市街観光と登山、アウトドアアクティビティーを組み合わせた新たな山岳観光の在り方を生み出す」「3. 北アルプスの登山道整備、インフラ整備、環境保全はなりゆき的に山小屋が担ってきたが、資金も人材も絶対的に不足している。これをボランティアやアウトドアメーカー等、利用者全体と行政で協働していくシステムの構築を促す」。


渡渉あり、へつりあり、河原歩きあり、稜線ありの伊藤新道に適したギアを紹介したい。

このネオアルプスの運営は、主に会員費、協賛、助成金で賄われる非営利法人だが、赤字を垂れ流すわけにもいかない。そのために、収益事業として三俣山荘図書室でのカフェ営業、オンラインストアによるグッズ販売がある。

このオンラインストアの中で、「伊藤新道ギア」コーナーというのがある。これは、渡渉あり、へつりあり、河原歩きあり、稜線ありの文字通り山あり谷ありの伊藤新道に、一体どんな装備でいけばいいのかという人をナビゲートすることを想定したショップである。

しかも、メーカーに協働してもらい、売り上げの一部がドネーション (寄付) として伊藤新道の維持管理に使用される。つまり、購買者がギアを買うことによって環境保全に参加できる、というのが大きな特徴だ。


「伊藤新道ギア」の撮影もこだわってやっている。

このコーナーはここ2年で友人となった、本業チェロ弾きでギアフリーク、雪山フリークの角倉氏をディレクターに迎え、伊藤新道で2人して夏秋に様々ギアをトライアルして理にかなっているものを厳選しお勧めするという方式だ。ネックになった要素は主に3つだ。

1. 渡渉も河原も稜線でもグリップし尚且つ水はけするフットウェア。
2. 10月ともなり水温の下がった湯俣川の渡渉において体温を維持するためのレイヤリング。
3. 伊藤新道河川部を覆う熱水変性した花崗岩の粗い岩肌に耐えうる強度。

この辺を軸にセレクトし、こういった商売は素人の我々が、メーカーを突撃していってコンセプトを熱く語り、仕入れさせてもらう。もちろん断られる場合もある中、我々のコンセプトに共感してくれたり、新しい取り組みとして歓迎してくれるメーカーがいたことは、とかく孤独な思いをしてきた山小屋の人間には励みになったし、山小屋とアウトドアメーカーが作り出す新しいコミュニティーの未来を垣間見た気がして楽しいものだった。

100%環境マテリアルのウェアとサーキュラーエコノミーを目指して立ち上がったSTATIC、元からストイックに環境問題と向き合うpatagonia、素材の段階からユーザーの使用環境と向き合う山と道、クライミングを軸として寒冷地の使用環境に特化した合理性を発揮するアークテリクス、ゼロドロップの生みの親アルトラなど枚挙にいとまがないが、どれもにも共通するのが、フィールドでの徹底したトライアルだろう。

特異な環境の伊藤新道からもこうしたトライアルから、新たなギアや使用例が生まれていけば面白いと思う。最初は理想的なラインナップとはいかないが、4月下旬オープン予定の「伊藤新道ギア」コーナーにご注目頂きたい。

伊藤新道復活プロジェクト進捗 ② 北アルプスの新たな玄関口になりうる湯俣の視察


湯俣周辺はまだ雪は残っているが、例年より解けるのが早い。

3月8日、湯俣山荘の敷地の詳細を確認するため湯俣に行った。

今年は雪解けが早いせいか川はほとんど出ていて、しかもこの時期の水量は見たことがないほど少ない。こんな水量だったらこのまま伊藤新道に突入してしまおうかと思うほどだった。

ところでこの視察には理由がある。当初湯俣山荘にもキャンプ場を作ろうかと思っていたのだが、行政や関係者との協議の結果今すぐには出来ないことになった。


ハンモックは、湯俣の新しいアクティビティーだ。

そこでかねてよりアウトドアメーカーの人たちと話していた、湯俣の新しいアクティビティーとしてハンモックを普及させてはどうかという案を思い出し、敷地内にハンモック場を作ることにしたのだ。

ハンモックは傾斜地にも張れるし、軽量でまた自然との距離も近い。試しに張ってみたが湯俣の温泉とハンモック、クラフトビールを片手に硫黄尾根なんか眺めて、うんこれは最高だ、森の隠れ家だ。湯俣山荘がオープンしたらハンモックの貸し出しなども検討している。


改装中の湯俣山荘。

伊藤新道復活プロジェクトは、相変わらず試練が続いている。今年立ち上げる予定のクラウドファンディングでは、茶屋への避難小屋建設を盛り込んでいたが、どうもこれが一筋縄ではいかなそうなのである。

当初環境省の担当官も公園路線図に描かれている登山道なので、付帯施設として比較的容易に建設の許可がでるだろうと見立てていたのだが、近年法律が厳しくなりつつあり、道自体の管理者 (事業執行者) でなければ、付帯施設は建てられないということが分かったのだ。

簡単に言うと、伊藤新道の土地自体を借りていなければ避難小屋は建てられないということだ。これには林野庁、環境省双方で高度な手続きが必要で、どうも建設は来年になりそうである。ただ建設自体は来年になっても、今年この復活の熱気のあるうちにクラウドファンディングはするし、8月20日に予定通り開通の予定でいる。

ついては避難小屋なしで開通ということも含めて、一体伊藤新道ってどうなってるの? いつ通れるの? 本当に開通するの? というお声をよく頂戴するので、開通に向けて各メディア、三俣・ネオアルプスウェブサイト、三俣山荘でも、現在の状況や通行時の注意点などをお伝えしていくのでご注目いただけたらと思う。

また8月19日に湯俣で「伊藤新道開通祭」を企画しているので、詳細が決まり次第お伝えさせていただきたい。


雪が完全に解けると目にすることができる、湯俣の美しく豊かな自然。

4月1日に三俣山荘グループの予約受付もスタートし、いよいよ今シーズンが始まったという感じだ。

伊藤新道復活プロジェクトにおいても、アクションがより具体的になってきてはいるが、想定外のことも多いようだ。しかし圭さんは、変わらず8月20日に開通予定だと断言していたので、それに向かって着々と今後も進めていくのだろう。

来月の伊藤新道はどうなっているのか。また次回のレポートを楽しみに待ちたい。

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伊藤圭

伊藤圭

三俣山荘・水晶小屋オーナー。1977年に伊藤正一氏の長男として、東京は新宿区四谷で生を受ける。高校時代にパンクに目覚め、サブカルチャーにどっぷり浸かる。高校卒業後はミュージシャンを目指して音楽活動に没頭。紆余曲折を経て父が経営する三俣山荘を手伝うようになり、2002年、結婚を機に水晶小屋の運営を任される。2016年に父・正一が他界し、三俣山荘および水晶小屋を引き継ぐ。2021年からは『山と人と街プロジェクト』を立ち上げ、伊藤新道の復活、湯俣の再興、北アルプス大町エリアの街の活性化を通じて、北アルプスの新たな登山シーンの創出に取り組んでいる。

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