パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) | #01 スルーハイキング準備編(歩くきっかけと憧れの場所)by Zoey(class of 2022)
文・写真:Zoey 構成:TRAILS
毎年、多くの日本人ハイカーが海外トレイルを歩きに行く。スルーハイキングだったり、セクションハイキングだったり、ソロだったり、カップルだったり……それぞれが思い思いのスタイルでロング・ディスタンス・ハイキングを楽しんでいる。
そんなハイカーたちのロング・ディスタンス・ハイキングのリアルを、たくさんの人に届けたい。できれば、それぞれの肉声が伝わるような旅の記録、レポートを紹介することで、読者の方々にその臨場感や世界観をよりダイレクトに感じてほしい。
そこで、ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズをスタートさせることにした。
シリーズ第5弾は、2022年にパシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※) Zoey (ゾーイ) によるレポート。PNTの詳細な情報およびトリップレポートは、TRAILSが日本で初めて紹介した。実際ZoeyもTRAILSの記事がきっかけで、PNTを知ったそうだ。
そこで今回は、そんなZoeyがPNTに興味を抱いた理由から実際に歩き始めるまでの、プランニング編をお届けする。
パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) とは?
アメリカとカナダの国境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200mile (1,930km) のロングトレイル。スルーハイキングに要する期間は、2〜3カ月。
PNTの約80%は、国立公園か国有林に属していることもあり、人里から遠く離れている。そのため、今もなお手つかずのウィルダネス (原生自然) が残り、多様かつ希少な野生動物もたくさん生息している。PNTA (PNTの運営団体) のエグゼクティブ・ディレクターであり、TRAILSのアンバサダーでもあるジェフ・キッシュは「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」と言う。
現時点 (2023年10月) において、アメリカに11あるNational Scenic Trailのなかでもっとも新しく指定されたトレイルである。しかし、その歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。
PNTの連載記事を読んで、自分の求めている冒険のイメージにとてもしっくりきた。
元々インドア派だった僕がロングトレイルを知ったのは、とある日本人ハイカーのコンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) の記事を読んだからだ。みんなハードな旅をしているはずなのに、力の抜けたハイカーのゆるい空気感が伝わる各エピソードに、すっかりやられてしまった。
その頃の僕は仕事の重圧をうまく活かせず、行き詰まりを感じていた。これからの自分を考えたとき、想像できる範囲の流れから一度出たい。それと自分の中で誇れる経験がしたいと思っていたなかで、ハイキングというカルチャーに出会った。
幸運にも六甲山の登山口の近くに住んでいるため、ハイキングをしやすい環境にあった。「毎日登山」という文化がある六甲山はルートも無数にあり、大半のルートが住宅地や生活圏からも近い。
ザ・登山というよりもっと気軽にハイキングができるとても良い山だ。ロングトレイルへの憧れは秘めたまま、気分転換に気軽に始めたハイキングが毎週末のルーティンになり徐々に習慣化されていった。
PNTの存在はTRAILSのジェフ・キッシュによる連載記事 (詳しくはコチラ) を見るまで知らなかった。
最初はアメリカ3大トレイルのどれかを歩きたいと考えた。映画の影響か世界中から3大トレイルに人が集まっていることを知り、賑やかで楽しそうと感じる反面、人疲れしやすい僕には合わないかもな、とも感じた。
そんな時にジェフの
「PNTにはロング・ディスタンス・ハイキングの良きレガシーが残っている」
「PNTでは、他ではできない孤独を経験することができる。またハイカーは真の自立を実践することによる喜びを、感じることができるんだ」
これらの文と彼のレポートを見ていた時、自分の求めている冒険のイメージにとてもしっくりきた。
妻には、何度も熱意を伝え認めてもらった。
ハイキングを始めて間もない夫が、急に行ったことのないアメリカでロング・ディスタンス・ハイキングをすると言い出したものだから、妻もかなり驚いていた。
「結婚する前に行っといてよ」と。それもそうだなと思う。
最善は尽くすけど無事に帰ってこれる保証があるわけでもない。その頃、いつか僕たちにも子どもができて父親になった時、どんな感じかをイメージしたりしていた。僕は自分に自信があるわけでもなく基本的にぼんやりしている。何か人生の中で、自信を持てるような経験が欲しかった。
妻には、何度も熱意を伝え認めてもらった。一度決めたら意見を変えない頑固な自分を理解し認めてくれた妻にはとても感謝している。
仕事では当初は退職してから行くのが筋だと思っていたのでその意向を伝えたところ、特例として3カ月間の休職の許可を頂いた。
少人数の職場なので周りに多大な負担がかかる。申し訳ない思いももちろんあったが無事に帰ってくることが今は一番大事だ! と行きの飛行機でようやく気持ちを切り替えた。
この旅は超個人的なもの。この期間中は自分の気持ちを大切に第一に考えてすごそう、そう思った。そこからは世間のしがらみから離れたロングトレイルに思い切り身を委ねることにした。
1日20mile (32km) は歩けるかな、という漠然とした基準しかなかった。
僕は計画を立てずにそのまま突っ込んでしまうところがあると自負している。
ただ、初めてのアメリカで流石に不安なのでAmazonでPNTのガイドブックを購入し、PNTAが発行しているマップをダウンロード、半年前から少しずつ翻訳しながら計画を始めた。
実は、PNTAが毎年アップデートして発行しているガイドブックがあることを渡米後に知った。今まで読んでいたものはPNTが作られた当初のガイドブックで、情報は創刊された当時のままらしい。苦手なことは治すべきだと改めて思った。
TRAILSのジェフのレポートも穴が開くほど読み込んだ。彼の撮影した写真と文章にワクワクし楽しい半年を過ごした。
今まで歩いた事があるロングトレイルは故郷鳥取の山陰海岸ジオパークトレイルと高島トレイルを半分ほどのみ。
前者に関しては、PNTを歩くにあたって、まず1泊2日以上の歩き旅の経験をと考えているうちに、生まれ故郷にある山陰海岸ジオパークトレイルの存在を思い出し、帰郷も兼ねて夏休みの間に歩いた。舗装路も多いし補給が難しいタイミングを経験したり、道に迷ったり。その経験から、ロングトレイルの漠然としたイメージから少し輪郭が見えてきた気がした。
いずれにせよ、ペーペーな自分は1日に歩ける距離もはっきり把握していなかったので、1日20mile (32km) は歩けるかな、という漠然とした基準しかなかった。具体的な歩ききるまでの日数はジェフのレポートを参考にした。
リパブリックというトレイルタウンと、パサイテンのウィルダネスに強く惹かれた。
ジェフの記事のなかで一番印象に残ったのは、ワシントン州東部にあるトレイルタウン、リパブリックの町並みと、パサイテンというウィルダネスエリア。
リパブリックの写真から昔ながらのアメリカの雰囲気をひしひしと感じ、ときめいた。
パサイテンはPNT上で一番人里離れたエリアで、山小屋で雨を凌いだジェフのエピソードに自分は大丈夫か? 経験が足りなさすぎやしないか? と不安も感じた。でもそれ以上に、パサイテンのワイルドな自然の描写に惹かれた。
今回は、PNTをスルーハイキングするにあたっての「プランニング編」として、PNTを歩くきっかけから、家族や仕事の調整にまつわるエピソードを語ってもらった。
次回は、ギアリストを紹介してもらう。Zoeyはギア好きで、いろいろギアにもこだわったそうなので、どんなギアが出てくるのか楽しみだ。
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