It’s a good day! #09 | 車とシカとドンチューウォーリー
文・写真:鈴木拓海 構成:TRAILS
What’s “It’s a good day” ? | ロング・ディスタンス・ハイカーであり、バサーであり、スケートボーダーであるトレイルネーム Sunny (サニー) ことスズキタクミ。2021年よりTRAILS Crewにジョインしたタクミくんによる、ピースでイージーでちょっとおバカな気まぐれハイキングエッセイ。
なんとなくハイキング。で、なんとなくアメリカのあの⽇を思い出す。マストアイテムはウェイファーラーとラジオとハンバーガー。あとはULの屋根が切り取った三角窓のあの景色。それさえあれば、Itʼs a good day.
Don’t you worry.
タクミです。今日もどこかのトレイルから、ごきげんよう!
今年の春は気が早いようだ。虫がとび、鳥が唄う。ほうほけきょお! 口笛で応える。まだ少しオレのほうがうまい。気分を良くして、紙包みのカロリーをかじる。
オーケー、レッツゴウハイキン!
少しづつ日がのびてきて、ますます勢いづくわたしののんき具合。陽が当たる斜面には暑い服で来てしまった。バックパックを下ろすと、優しく春を運ぶ風が背中を冷やす。今年も四季がめぐる。
日照時間はのびたけれど、容赦なく早めにテントをピッチする。こっからここはおれんちね!!
コーヒーを淹れて、地平線を望む。ラジオは50年前の音楽を奏でている。黒人特有のグルーヴィな声が、人々を励まし続けている。ふと、アメリカでのグッデイを思い出す。
街に向かって歩いている時のお話。
トレイルはその街なかを横切ってゆく。ウォークイン・ウォークアウトで済むので前後のハイクは計画が立てやすく嬉しい。たまに通る車に手を上げて挨拶しながら、到着したら何を食べるかワクワクしながら歩いていた。
ふと、視界の隅に動くものを見つけた。車道脇の茂みからこちらを窺う、立派な角を掲げたシカと目が合う。
「CAUTION DEAR XING (シカに注意)」と書かれた看板が多くあったことを思い出し、イヤな予感が頭を支配する。
前方から現れた車は、オレをみつけて少しスローダウンしたもののシカには気づいていない。オレは大きく両手をふって、とにかくスピードを落とせとアピールしたが歯車は狂わなかった。
不運なシカに謝るように、車から降りたドライバーはキャップを脱いで数秒うつむいた。車の凹みを確かめ、バツの悪い顔でオレに目礼をして走り去る。
その事故が珍しくは無いことは知っているし、オレも車道で動かないシカに敬意を持ってクラクションを鳴らしたこともある。しかしハイカー (歩行者) としては、オレは彼らと同じくらいの脆さだと痛感した。
まだ温かいその亡骸に手を触れてみる。筋組織はまだ柔らかい。座り込んで呆然としていると、別の車が止まって声をかけてくれた。
経緯を説明すると、彼もまた悲しんだ。
「オレも轢いちまったことあってさ、気持ちはよく分かるよ。あとは彼の分まで生きるしかないんだ。ハイカー、街まで乗っていけよ」
「ありがとう。すごく助かるよ」
「くよくよしすぎるなよ。まずはよく食え。どうせ腹ペコなんだろ?」
猛烈な空腹感を思い出した。一番のオススメだというピザプレイスで降ろしてもらい、救われたよと礼を伝える。
「この先も気を付けてな。くれぐれも!落ち込みすぎるなよ」
あのシカの眼を忘れないように、生きるために食べまくる。泣けるほどうまい。
It’s a good day!
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