TRIP REPORT

パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) | #04 トリップ編 その1 DAY0~DAY4 by Zoey(class of 2022)

2024.08.09
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文・写真:Zoey 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

今回は2022年にパシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Zoeyによるレポート第4回。

今回はいよいよトリップ編。今回は、トリップ編その1として、スルーハイキングのスタート前夜DAY0からDAY4までのPNTの旅のはじまりをレポートをお届けする。

ロング・ディスタンス・ハイキングにおける「トレイルライフの日常」が詰まったレポートをお楽しみください。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)。正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trail。

十分に食料の補給をできているのか。(DAY0)


スタート地点のグレーシャー国立公園。

渡米後、滞在していたポートランドから夜行列車に一晩揺られ、イーストグレーシャー駅に降り立った。

これから歩くパシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT)はここグレーシャー国立公園から始まる。

1日滞在し、パーミット取得と食料調達を済ませPNTのスタート地点カナダとの国境のモニュメントを目指す。昨晩はいよいよ始まるという高揚感と列車の揺れであまり寝られなかった。

ボーっとした頭で周りを見渡すと、目が覚めるようなカラッとした気持ちのいい青空が広がっていた。

最初に泊まったホステル。

あらかじめ予約しておいたハイカーフレンドリーなホステルへチェックインし、買い出しとパーミット取得へ奔走する。

すでに何人かのハイカーが滞在しており、郵便を受け取ったり買い出しをしたり準備をしている。コミュニケーションを取ろうと試みるが英語が完全には聞き取れず、なかなかうまくいかない。もどかしい‥。

グレーシャー国立公園でテント泊する際に必要なパーミットをまず取得する。次は食料調達だ。早速、ホステルの隣の食料品店へ向かう。

今までの経験を元に自分が思うベストな量より念のため少し多めに購入する。一通り準備が済んだ後、滞在していた他のハイカーに相談してみた。

「全然足らないよ。アドバイスするから一緒に買いに行こうぜ。」

そんなに必要なのかな、と疑問に思う僕を横目に、彼は次々にカートにチョコレートにナッツなど行動食を放り込む。

「これはおすすめだ。」
「これもあるといい。」

彼のアドバイスを元に追加でたっぷり買い込んだ。これで安心だ。


安心できる十分な量の食料を調達。

準備も一通り終わり安心してビールを飲んでまったりしていると、彼がおもむろにスマホの翻訳アプリを取り出して画面を見せてきた。

「あなたはこのハイキングの補給計画を立てていましたか。」

機械的に翻訳された文字が頭の中で反復する。
何か予想していないことが起こった時はどうする?
そこまでちゃんと考えているのか?

実際に言われた言葉ではないけれど、色々な意味が含まれている気がする。今の意識・計画では甘すぎるかもしれない。経験が少ないからこそ慎重に考えるべきだ。

その日は前日あまり寝られていないこともあり、ビールを片手にテントに潜り込み逃げるよう眠りこんだ。

あとは楽しんで歩くだけ。(DAY1)


PNTのスタート地点のモニュメントに立つ。

早朝、昨日アドバイスしてくれたハイカーに出発の挨拶をし、ハグして別れ、PNTのスタート地点のモニュメントまで送迎を頼んでいたタクシーに乗り込む。

車窓から風景を眺めていると気持ちが高まってくる。食料も先輩ハイカーのアドバイスを参考にしたから大丈夫だ。あとは楽しんで歩くだけ。


自分と同じ日にスタートしたPNTハイカーと遭遇。

ボーダーに到着すると、同じタイミングで歩き始めるキートンというPNTハイカーと出会った。

PNTハイカーは少ないと聞いていたが、同じタイミングで歩き始めるキートンと出会えて心強く感じる。彼とは今後も度々会えたら嬉しい。お互いに簡単に自己紹介し、僕とキートンはそれぞれのペースで歩き始めた。


PNTを歩き始める。

グレーシャー国立公園の初日は素晴らしい景色が続いた。

視界の中には積雪した高山が常に鎮座しており、一方では素朴な印象の鮮やかな花がトレイルを彩っている。日本と違い乾燥しているせいか、倒木が朽ちることなく残っていてオブジェのような雰囲気があり力強さを感じる。


グレーシャー国立公園は、素晴らしい景色が続く。

気合いが入り過ぎたのか、最初のキャンプ場には14時頃に着いた。

PNT最初の夕焼けは、いままで見たことのないような鮮やかなオレンジ色だった。


DAY1の夕焼けの景色。

積雪、そして憧れのCDTと重なるルート。(DAY2)


残雪が残る山の景色。

DAY2のハイライトは2つある。

1つは標高2000m程のストーニー・インディアン・パス。標高が高いので素晴らしい景色の中を歩けそうだ。ただ、今年の春は例年より寒く、残雪が深刻らしい。先に歩き始めたPNTハイカーのSNSで悲観的なポストを見ていた。標高が高いから注意すべきポイントかもしれない。

もう1つはCDT (※2)と重なるトレイル区間だ。PNTはスタート地点のモンタナ州からワシントンの海辺までアメリカ内を横断する形で歩く。北、南をそれぞれ目指すアメリカ3大トレイルのPCT (※3)、CDTと、PNTの一部が実は重なっている。それぞれ今まで憧れたロングトレイルだ。短い区間だけれど、今日はCDTと重なる区間を歩く。


登っていくと、次第に残雪が現れ始める。

緑溢れるエリアから少しづつ標高をあげていく。
徐々に残雪が残っている箇所が現れ始めた。

不安だった雪の状況もここ数日の天気のおかげかそこまで深刻ではない。チェーンスパイクを靴に付け黙々と歩く。トレースがない中FarOut (※4) を頼りに少しづつ進む。


トレースがないなか、地図アプリを頼りに進んでいく。

ここが積雪で問題になっていたところだろうか。渡渉もあるし、流れる水が雪混じりで足が凍るように冷たい。

足を止めて立ちどまると、見たことのないようなスケール感の風景が広がっている。

アメリカのロングトレイルを歩いてるんだな。身に染みて実感が湧いてきた瞬間だった。


アメリカのトレイルを歩いていることを実感させてくれるスケールの大きい景色。

2つめのハイライトのCDTエリア。

藪歩きにつぐ藪歩き。一歩先も生い茂る植物に覆われて完全には見えない。クマが現れるのではないかと常にヒヤヒヤだ。

天気も悪くなり雷音も鳴り始める。ふとした時に、怖さを感じながらも同時にこの状況を冷静に楽しんでいる自分に気付いた。


クマの恐怖も感じながら、ひたすら藪漕ぎして進む。

※2 CDT:Continental Divide Trail (コンチネンタル・ディバイ・トレイル)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※3 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※4 FarOut:ロング・ディスタンス・ハイキング、サイクリング、パドリング用のGPS地図アプリ。世界中にある100以上のトレイルが登録されている。もともとは『Guthook App』(ガットフック・アプリ) という名称。このアプリの誕生背景については、リズによる開発者へのインタビューを参照のこと (詳しくはコチラ)。

ハイカーたちの手紙がピン留めされた世界地図。(DAY4)


最初の補給の街・ポールブリッジの風景。

グレーシャーを歩き終え最初の街ポールブリッジへたどり着いた。

この街は自家発電で電気を賄っている小さな町で、ハイカー向けの商店が1つと、レストランが1つ、そしてハイカーフレンドリーなホステルがある小さな街だ。

久しぶりの街に、興奮が抑え切れないまま、早速商店に向かいビールをいくつか買う。

ビールのプルタブを一刻も早く開けたい。そして、まったりしたい。


ポールブリッジにあるハイカーフレンドリーな「ザ・ノース・フォーク・ホステル」。

しばらくするとオーナーの親戚のカップルが現れ、一緒に中に入れてもらうことができた。

ホステルのなかに入ると、真っ先に目に留まったボードがあった。

これまでグレーシャー国立公園を旅し、このホステルに滞在したハイカーの出身地や感謝の手紙がピン留めしてある世界地図だ。


ホステルの壁に貼ってあった世界地図。ハイカーの手紙や出身地がピンしてある。

そこにはたくさんの国の紙幣が留まっていて日本の紙幣もある。普段見慣れている紙幣ではなく、僕が物心着く前に流通していたものだった。すぐそばに日本人の写真がある。

今は探そうと思えば海外のロングトレイルを歩いた記録もすぐに入手できる (僕がそうであったように)。ただ、この紙幣が流通していた頃はどうだろうか。写真の日本人の彼がグレーシャーを歩いた時に感じたであろう記憶、風景を想像する。同時に自分が見た景色を改めて思い出していた。

ハイキングを好きでよかった。
ふとそう思う。

自然の中を歩くのが好きだ、という共通点を写真の大先輩と共有できた気がした。ほんの片隅だけれども、何か大きい輪の中に触れられたような不思議な感覚だった。

ビールを片手に草むらに横たわっているとキートンが現れた。

数日ぶりの再会に喜びビールを開けまくる僕は彼といろいろな話をした。これからどんな旅が待っているのだろうか。キートンと僕は2人でそんなことを考えていた。


ポールブリッジで補給を終えて、またPNTのトレイルへ戻っていく。

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Zoey

Zoey

仕事の関係で六甲山の麓に住み始めてから、週末ハイキングを楽しむようになる。その後、パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) の運営団体のエグゼクティブ・ディレクターであるジェフ・キッシュのスルーハイキングレポートがきっかけでPNTを歩くことを決意。2022年にPNTをスルーハイキングした。

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