TRIP REPORT

アパラチアン・トレイル (AT) | #10 トリップ編 その7 DAY93~DAY114 by Daylight(class of 2022)

2025.06.06
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文・写真:Daylight 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

2022年にアパラチアン・トレイル (AT) のスルーハイキングにトライした、トレイルネーム (※1) Daylightによるレポート。

全8回でレポートするトリップ編のその7。今回は、ATのDAY93からDAY114までの旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


アパラチアン・トレイル (AT: Appalachian Trail)。アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州をまたぐ、2,180mile (3,500km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。今回は、中間地点のハーパーズフェリーがスタート地点。北端まで歩いた後、公共交通機関等でスタート地点に戻り、南端を目指す。

フリップフロップで再びハーパーズフェリーへ。(DAY93〜DAY94)


スタートしたハーパーズフェリーに戻り、今度は南下して進む。

北の基点のカタディン山登頂の翌朝、皆でお祝いの朝食を食べに行き、9時出発のワゴンでメドウェイのバス停まで行くと、それぞれ帰宅の途に着く。

私はフリップ・フロップ (※2)で歩くため、再びスタートしたATの中間地点付近へ戻るべく、ボストン行きのグレイハウンドバスに乗り込んだ。

宿とワシントンDC行きの列車 (アムトラック) の予約は前日に済ませてある。ボストン到着後、地下鉄に乗って買い物に出かけた。


宿から歩いて5分ぐらいのカフェ。オープンからすぐにハイカーで満席になる。

買い物をしたものの中には、買い換えた携帯電話のプリペイドカードが含まれていた。しかし、それが違うキャリアのカードを買ってしまったので、なんとかそのカードを、オンラインのキャッシュカード決済で使えるようにした (帰国後に電話で契約を解除した!)。

そしてその携帯を翌日ボストン駅で落としてしまった。ワシントンDCで再購入して、SIMカードも購入しなくてはならない等、大変な思いをした。携帯電話問題は、この旅での最大のストレスであった。


アメリカンジョークの案内だ。「あなたはジェットコースターに乗り込もうとしています。」

※2 Flip Flop (フリップフロップ):ハイキング用語で、今回の場合は、ATの中間地点から歩いて北上 (もしくは南下) し、北端 (もしくは南端) から中間地点まで別の交通手段で移動したのち、南端 (もしくは北端) まで歩いてスルーハイキングすること。

後半戦開始早々、ハチの襲撃を受ける。 (DAY95〜DAY100)


汗のついたタオルにたくさんの蜂。

後半戦4日目、順調に距離を稼いでいた午後、給水のため小川の脇にバックパックを置いた瞬間、蜂 (ハチ) の攻撃にあった。

荷物を置いたまま、身体を刺している蜂を払い落としながら走った。耳、肩、腕、膝、腹など20ヶ所以上刺された。

アナフィラキシーショックを心配したが、病院もないので「大丈夫、大丈夫」と言いきかせながら、心拍数が上がって毒が回らないようにゆっくり歩いて宿泊地に着いた。

幸い熱は出なかったが、強い痒みが1週間ぐらい続いた。次のトレイルタウンで痒み止めを買った。


蜂に刺された痕(あと)。

次の日はトレイルヘッドから少し離れた食料品店での買い出しだ。

道路を歩いていると、例によって車が止まった。ATではヒッチハイクよりも勝手に車が止まるケースが多かった。彼はPCTとATのスルーハイカーで、買い物の間もサンドイッチを食べながら待っていて、その後にトレイルヘッドまで送ってくれた。感謝感激である。

見ず知らずの人のために急に1時間も時間を使えるゆとりや、スルーハイカーに出会える場所に住んでいることを羨ましく思った。

「You are my HERO!」(DAY101〜DAY114)


南下したことと、また季節が秋に向かっているので、日の出が遅くなってきた。

8月に入り月曜日だというのに多くのデイハイカーが歩いていた。

その中の1人、40代の男性から 「You are my HERO!」と、声をかけられた。

思わず笑ってしまったが、「あなたのように、高齢になってからスルーハイクすることは私の夢である」ぐらいの意味と判断して、「You will. (あなたもできますよ)」と答えておいた。印象に残った声かけだった。


尾根沿いに走る観光道路は左右とも良い眺めである。

この辺りは、シェナンドー国立公園で、観光道路が通り、ATと頻繁に交差している。尾根を通る道路からの眺めはとても良い。トレイルもよく整備されていて、とても歩きやすいので、1日20mileも難なく歩けた。

キャンプ施設では、シャワー、コインランドリーがあり、食料補給ができて、ベンチにあるコンセントで充電もできた。


キャンプ施設では食料補給もできた。

この2、3日のうちにキャップと、ハンカチをなくした。

木陰を歩くATではキャップはそれほど重要でなく、トレイルタウンでボサボサの頭を隠すのが大きな役割だ。

蒸し暑いATではハンカチは汗を拭くのに必須だ。そのハンカチをなくしてしまったので、どこかに落ちていないかと下を見ていると、嘘のようにきれいなハンドタオルを手に入れた。


次のトレイルタウンで手に入れたネックウォーマー兼用のキャップ (これは拾ったものではない)。

グラスゴーのホステルでゼロデイを取った。南下するハイカーはまだずっと北にいるので、スルーハイカーに出会うことはほとんどない。このホステルで2泊3日したが、ハイカーは来なかった。

2日目の朝、世話人がコーヒーとパンケーキの朝食を作ってくれた。出発の日の朝まで、宿には私1人だった。

ダラージェネラルでキャップを探し、買い出しして、外食をするくらいしか用事がないし、それぐらいの店しかない。天気が良ければ、テント、シュラフ等の乾燥ができる。

ハーパーズフェリーからずっと「楽しむ事」を心がけてきた。セカセカしないで心と時間に余裕を持つことが、できていると思う。


この雲が雲海の残骸。低く垂れ込めているが、交通には影響がないとのこと。

ゼロデイの翌日、午後から予報通りに雨が降ってきた。寒いし、数mile先のシェルターまで歩きたくないと思い、大雨の中、テントサイトを探しテント設営をした。

濡れている服を脱いで、防寒着を着てシュラフに潜り込んだ。もう何もしたくないと思ったが、体が暖かくなると夕飯を作る元気が出てきた。


トレイル整備のボランティア。彼がどんなボランティアかわかればAT上級者だ。

ちなみにこの8月の前半には多くのボランティアに会った。

秋のシーズン前に整備するのだろう。ちなみにATならではのボランティアは、ペンキでホワイトブレイズ (ATのルートを示す印) のメンテナンスをしている人だ。ちなみに水色のペンキは側道に使うものだ。


トレイル上には常に大きな倒木がハイカーの邪魔をしている。

その他のボランティアにも遭った。ATでは、雨が続きトレイルが川のようになったり、頻繁に倒木がトレイルを塞ぐ。私も激しい音を立てて、目の前で木が倒れるのを見た経験があった。

ボランティアに会うと、彼ら・彼女らに話を聞くとともに、「あなたたちのようなボランティアがいなければ、ハイキングできない」と、多くの感謝の言葉を伝えたことは言うまでもない。


ボランティアによるトレイル整備で、ハイカーは歩くことができる。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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