TRIP REPORT

パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) | #11 トリップ編 その8 DAY60~DAY68 by Zoey(class of 2022)

2025.11.12
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文・写真:Zoey 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

2022年にパシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Zoeyによるレポート。

全8回でレポートするトリップ編のその8。今回は、PNTスルーハイキングのDAY60からDAY68での旅の内容をレポートする。

今年のLONG DISTANCE HIKERS DAY (LDHD)でも、ZoeyによるPNTの発表があるので、そちらもぜひチェックしてみてください(LDHD 2025の詳細はコチラ)。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)。正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trail。
TRAILSのアンバサダーであり、PNTの管理団体のディレクターであるジェフは、次のように言っている。「PNTにはロング・ディスタンス・ハイキングの良きレガシーが残っている。またPNTでは、他ではできない孤独を経験することができる。またハイカーは真の自立を実践することによる喜びを、感じることができるんだ。」

想定外の補給。 (DAY60〜DAY62)


オリンピック国立公園のワイルドな景色。

カロリー不足に陥っていた。

ラーメンが水のように感じ、いつもより多く食べても満たされない。袋の裏面を見てみると馴染みのラーメンよりカロリーが明らかに少ない。見たことのないパッケージだったのにも関わらず、表記を確認しなかった痛恨のミス。

予定では立ち寄らないはずの街、ポートエンジェルスに滞在し補給をすることにした。スーパーにていつものマルちゃんを買って、一安心。

気持ちがゆるんだからか、立ち寄ったホームセンターで安くなっていたpatagoniaの化繊ジャケットを買ってしまった。既に持ち歩いているものと合わせて2着。お土産だと無理やり納得させる。

トレイルに復帰する前に、レンジャーステーションにて最後のビーチセクションのキャンプ場を予約し、波の高さ予想を示すタイドチャート (潮見表) をもらった。


レンジャーステーションにてもらったタイドチャート (潮見表)。

PNT最後のビーチセクションはオリンピック国立公園に含まれ、ベアキャニスターが必須だ。ベアキャニスターは少し先のPNT最後の街フォークスにて購入することにした。

トレイルに復帰したタイミングで、同じ街で補給していたであろう若い2人のハイカーと再会。2人は夫婦でトレイルネームはハニーとムーン。

ポートエンジェルスにて想定外の出費をしてしまったが、2人と再会できたのでよしとする。食料の不安もなくなり意気揚々とハイキングを再開。足取りも自然と軽くなる。


トレイル復帰後、オリンピック国立公園の温泉で温まる。

フォークスの街にて、PNTハイカーの2人と過ごした時間。 (DAY63〜DAY65)


オルタネートルートのキャット・ベイスンにて気持ちいい景色。

地図アプリのFarOutを見ていると、この先のアップルトン・パスで分岐があるらしい。

FarOutに書き込まれたコメントを見ていると、PNTの正規ルートからは外れるがキャット・ベイスンと呼ばれるオルタネート (代替ルート) は景色が良いとおすすめされていたのでそちらを歩くことにした。気持ちの良い、開けたルートでとても楽しい区間だった。

フォークスの街はトレイルとの距離が離れており、ヒッチハイクでアクセスする方が現実的に見える。FarOutで調べてみると有料でハイカーを街へ送迎する人がいるらしいのでお願いしようと思う。

トレイルが終わり舗装路に入ると、ハンティングをしているローカルの2人組にあった。

「街へ送って行こうか?俺たちも今から帰るところなんだ。」優しそうな2人だったが、歩いて行けるぎりぎりのとこまで行きたいので断った。

トボトボと道路の端っこを歩いていると。先ほどの2人が運転するピックアップトラックが真横を颯爽と走り去る。荷台にはハニー&ムーンが爽やかな笑顔でこちらに手を振っていた。意地を貼らずに僕も乗せて貰えばよかったと心から思った。

街で無事にベアキャニスターを購入、幸運にも最後の在庫の一つだった。安心したところで空腹に気付きピザ屋に入ると、ハニーとムーンがいた。
2人とは度々出会っていたが、改めてまじまじと話をすることもなかったから楽しい。


ハニーとムーンとフォークスにて。

「PNTももうすぐ終わるけど今はどんな気持ち?」と二人。

それに続けて、

「このハイキングもあとはビーチセクションを残すのみだろう。この街の後は、もしかしたら君には会えないかもしれないけど、出会えて良かったと思ってるよ」と二人が言う。

改めて、ああもうすぐこのハイキングも終わるのか…と思う。日本が恋しい気持ちもあり嬉しいのと、アメリカでのハイキング生活が終わるのが寂しいのと半々だった。

徐々にPNTの終わりに近づいていく。(DAY66〜DAY67)


PNT最後のビーチウォークが始まる。

しばらくのロードウォークを経て砂浜にたどり着く。

ここからPNTは今までのような森の中でもなく、街中の舗装路でもなく海岸線に沿って砂浜を歩き終わる。タイドチャートを握りしめながら少しづつ進んだ。

しばらく歩くとラ・プッシュという小さなエリアに辿りつく。コテージがいくつか立ち並ぶ保養地といった印象だった。簡単なグローセリーストアを兼ねた小さいコンビニが一軒あったので、最後の補給を済ませる。

このエリアでは漁師の人に乗せてもらい、川を渡っていく場所がある。ただ漁師が来るかどうかは流動的で、日によっては来ない日もあるらしい。

万が一タイミングが合わなければ、迂回路の長いロードウォークが待っている。船着場の事務所にてしばらく待たせてもらったがいくら待てども漁師は来ない。

「申しわけ無いが今日は誰も来ないと思う。」

強面のオーナーさんの言葉が虚しく響いた。


ラ・プッシュではコンビニと船着場を回る。

時間は正午もすぎているし、今からのロードウォークは気が重いことこの上ない。重い足を動かし、トボトボ歩き始めると真横に一台のピックアップトラックが止まった。振り返るとさっきの船会社の強面のオーナーさんだった。

「数日前に来たハイカーの二人から、このあと英語があまり話せない日本人のハイカーがくるから、力になってあげてと言われたんだ。車で向こうまで送っていくよ。」

予想していなかった展開に、下がっていた気持ちが一気に跳ね上がる。聞くと伝言を残してくれていたのはZとshepherdだった。

2人と最後に別れた街オーロビルからは、ずっと後を追う形で歩いてきた。結局、再会は叶わなかったが、変わらず気にかけてくれていた事が何より嬉しかった。彼らは数日前に一足先にPNTを終えたことを、SNSのやりとりにて知っていた。

今度は僕の番か。


歩ける水深を見極めながら少しずつ進む。

砂浜のトレイルに降ろしてもらい歩き始めるが、海水が満ちて深い場所がありとてもじゃないが歩けない。

特にやることもなく少しづつ海面に向かって落ちていく夕日を、ぼんやり眺めながら過ごした。

次第に暗くなっていく砂浜に不安を覚える中、歩ける深さになったタイミングでヘッドライトの灯りだけを頼りに歩き始める。


気づくと暗闇。

たまに森の中を通過する時もあるが、ほとんどは砂浜上がルートになっていた。

忙しなく歩いてきた、今までのハイキングの襟 (えり) を正してもらうような穏やかな区間が続く。一定のリズムで響く波の音が良かったのか、歩くことに深く集中していた。

ライトが照らした砂紋を繰り返し見ていると、よく知らないどこかの惑星を一人歩いているような不思議な感覚になる。

予約したキャンプ場にたどり着き、ぬるくなったビールを飲み、空の星を見て、一息ついた後シュラフに潜り込んだ。


砂紋の心地いい無限ループ。

追いつかない気持ち。(DAY68)


徐々にペースが掴めてきたビーチウォーク。

浅い眠りだったけどスッキリ起きれた。

昨日岩場で何度か転けたからか、足が痛い。砂だらけになったシュラフを片付け、いつもよりゆっくり身支度をしてから歩き始めた。

PNTの終わりの地点ケープ・アラバが近づくにつれ砂浜で遊ぶ家族や、ハイカーやキャンパーとちらほらすれ違うようになった。

あるハイカーの青年と出会い立ち話をした。

丁度ハイキングが終わることについて、感傷的な気持ちに引っ張られそうだったところだったのでありがたい。話は数年前に起きたCovidのことや、最近のアメリカの治安や景気について。彼は自分の国アメリカについて意見をしっかり持っており、実直な人柄が伺える。

気づくとついつい30分位は話し込んでいた。彼と別れた後はさっきまで感じていた感傷的な気持ちはすっかり消え去っていた。


あまりに大きい背骨なのでクジラかもしれない。

15時頃ケープ・アラバへ辿りついた。

無事に3ヶ月弱に渡って歩いてきたPNTを終えられた安心感もあったが、よっしゃー!というような高揚感は不思議とない。

頭ではハイキングが終わったことが理解出来るが、気持ちがついてきていない感じがする。

そこには終わりを象徴するようなモニュメントはなく、今までと同じような海岸が広がり
穏やかな波の音が変わらず響いていた。

さらっとした終わり方が余計にそうさせたのかもしれない。


気持ちが追いつかない中とりあえず記念撮影。

ハイキングを無事終えた後近くの街へ向かうまでの間、憧れていたアメリカでのハイキングが終わったことについて、なぜこんなに冷静で気持ちの昂ぶりがないのか考えた。

考えても答えは出なかったけども、数年越しの憧れの思いみたいなものからようやく解放されたような安心感、充実感をじわじわと感じていた。

街へ戻る途中ヒッチハイクして同じ年にPNTをハイキングした新井アツシ君、ミホちゃん夫婦と初めて会えた。2人とは道中SNSで連絡を取っており、ようやく会えたことがとても嬉しい。数日前にハニー&ムーンと過ごしたピザ屋にて、今度は2人と今までのPNTの思い出を話した。

久しぶりの日本語での会話の中で、ああ僕のPNTは無事終わったんだな‥とようやく気持ちが追いついてきたような気がした。


新井夫婦と会いPNTを終えた。

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WRITER
Zoey

Zoey

仕事の関係で六甲山の麓に住み始めてから、週末ハイキングを楽しむようになる。その後、パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) の運営団体のエグゼクティブ・ディレクターであるジェフ・キッシュのスルーハイキングレポートがきっかけでPNTを歩くことを決意。2022年にPNTをスルーハイキングした。

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