コロラド・トレイル | #10 トリップ編 その7 DAY33~DAY43 by Tony(class of 2023)
文・写真:Tony 構成:TRAILS
ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。
2023年にコロラド・トレイル (CT) をスルーハイキングした、TRAILS crewのトレイルネーム (※1) Tony (トニー) によるレポート。
全7回でレポートするトリップ編の最終回。今回はCTスルーハイキングのDAY33からDAY43までの旅の内容をレポートする。
※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。

コロラド・トレイル (Colorado Trail):コロラド州のデンバーからデュランゴまで、アメリカのロッキー山脈を通る486mile (782km) のトレイル。標高3,000m~4,000mの、厳しくも美しい高山地帯の景色を楽しみながら歩くことができる。
地平線まで続くシングルトラック。(DAY33〜DAY36)

それぞれのペースでまたトレイルを歩き出すCTハイカー。
コロラドトレイルも終盤。ハイカーとの会話は、これまでのトレイルのことや、MYOGしたギアのこと、カレッジエイト・ウエストルートの恐ろしさなど、みな思い思いの話題が尽きず、笑い声は深夜まで続いた。
翌朝は自由な時間に起きて、準備が整ったハイカーからばらばらとテント場を後にする。コロラドトレイルを歩いているという共通の目的を持ちつつも、お互いに変に気を使うことはなく、それぞれが自由に行動する。それがロング・ディスタンス・ハイカーの日常だ。
シェルターから出ると、ちょうどRIGHT ONが、トルティーヤとトレイルミックスで作った自作エナジーバーをモリモリと食べていた。出発の時間が同じになったので、そのRIGHT ONと一緒に歩きだす。CDTをスルーハイクしているRIGHT ONが「この先にはゴージャスな景色が待っているよ!」と興奮気味に話してくれた。

峠越えのために徐々に標高を上げるトレイル。
ところが、この先のゴージャスな景色のことよりも、僕は昨日マットに応急処置をしてもらった靴擦れの痛みが、時間が経つに連れて増していることが気になっていた。
歩き方を工夫して、蹴り出しや足の着地の方法を変えながら、痛みが分散するようにしたことで、スピードは出せないものの、なんとか歩き続けることはできた。そんな試行錯誤をしていると、トレイルが徐々に登りに変化していき、峠越えが迫ってきた。
峠を登るのに、僕は足の痛みで歪んだ表情になっていた。それとは真逆に満面の笑みのRIGHT ONが、峠の上で待ち構えていた。

荒野にシングルトラックが続く、スノーメサ。
RIGHT ONが「ここらへんからだよ」と言って、少し小高い丘を指さした。なんだろうと理由もわからないまま、RIGHT ONと小高い丘を越えていくと、眼の前には、足元から地平線まで続くシングルトラックが一直線に伸びていた。
思わず、「ゴーージャス!」と大きな声を出た。コロラドトレイルで一番見たかった、スノーメサの景色がそこに広がっていた。
フライフィッシングでブルックトラウトを釣り上げる。(DAY37〜DAY39)

レイクシティまでヒッチハイクをするマットとウィル。
こんな場所をハイキングしてみたいと思わずにはいられなかったスノーメサの景色は、それまでの足の痛みも忘れるくらいの感動だ。
数mileにも及ぶ、広大なスノーメサを抜けると、次のトレイルタウンであるレイクシティにアクセスすることができる道路とクロスした。
そこには、昨夜のテント場で意気投合した3人のハイカー、マット、ウィル、ジーブスが既にヒッチハイクを試みていた。到着と同時に2台のヒッチハイクに成功した彼らに、僕とRIGHT ONも便乗して乗せてもらえることになった。

現在は閉業してしまったレイブンズレスト・ホステル。
レイクシティでは、コロラドトレイル、CDT ハイカー御用達のホステルである、レイブンズレスト・ホステル(現在は残念ながら閉業)に全員で宿泊し、ムースナイトに続き、楽しい夜を過ごした。
翌日は、みんなは午前中にはトレイルに戻るということだったが、僕は靴擦れの症状のことも考慮し、夕方まで町でゆっくりと過ごしてからトレイルに戻ることにした。
RIGHT ONともここでしばしのお別れということで、寂しい気持ちもありながらも、「またすぐ会えるよね」と、彼らを見送った。

CTハイカーのウィル、RIGHT ON、ジーブスたちとのレイクシティでのひととき。
レイクシティから2日ほど歩いたところに、トラウトが釣れることで有名な川がある。レイクシティのフライショップで、その情報を入手した僕は、ずっと釣りのことを考えていた。
事前にフィッシングライセンスも入手し、フライショップでおすすめのフライ (毛鉤) も入手した。準備は万端だ。

コロラドトレイルでのフライフィッシング。
いざ、目的の川に到着すると、澄んだ川の底にゆらゆらと魚影を見ることができた。焦る気持ちを落ち着かせ、冷静にフライフィッシングのロッドを継いでいく。リールをセットし、ガイドにラインを通す。レイクシティのフライショップ、おすすめのドライフライを結んで、Let’s Fishing!!
あの場所に魚が付いていそうだなと思った先に毛鉤を流してみる。狙い通りのライン‥。
勢いよくトラウトが川面から飛び出した!グリップまで伝わってくる生命力と引きの強さ。スムーズなランディング。全てが思い通りの一本だ。最高すぎる!

コロラドトレイルでブルックトラウトを初キャッチ。
終盤のハイライト、ハイポイントからサン・ファンへ。(DAY39〜DAY39)

標高13,271FT(約4,045m)のハイポイント。
コロラドで初めてのブルックトラウトをキャッチした。その後も数匹のトラウトをキャッチすることができたが、これ以上続けると辞められなくなると思い、無理やり釣りを切り上げて、後ろ髪をひかれながらまた歩き出した。
釣りに満足したのもつかの間、ここからは一気に標高を上げる。足の痛みもだいぶ和らいできたことで、思いの外、順調に標高を上げていくことができ、いつのまにか標高は4,000mを越えていた。
しばらく高所を歩き続けると、「HIGH POINT THE COLORADO TRAIL」と書かれた看板があった。

ハイカーフレンドリーなモーラスレイク・キャンプグラウンド。
ハイポイントで出会ったCTハイカーのモジョは、Tenkara USA (詳細はコチラ) のテンカラロッドの愛用者。話を聞くと、自分がブルックトラウトをキャッチした川で、1日中、釣りをするためにトレイル上でゼロデイを取ったらしい。実に羨ましい。
ハイポイントからしばらくは、アップダウンが激しいトレイルを進み、次のリサプライ地である、モーラスレイク・キャンプグラウンドに到着した。
キャンプ場からはヒッチハイクをすればシルバートンの町にも行くことができる。この先は、標高が高く、非常に険しい山脈として有名なサン・ファン山脈に入っていくため、準備も兼ねてシルバートンの町で一泊することにした。
サン・ファン山脈を抜けてデュランゴへ。(DAY39〜DAY43)

サン・ファン山脈の美しい山容。
シルバートンの町でリサプライを終えて、翌日にはキャンプグラウンドへ戻り、サン・ファン山脈へと出発する。サン・ファン山脈は、コロラドトレイルを調べ始めた時から、その雄大な山脈の美しい景観に魅了されていた場所。
サン・ファン山脈も後半に差し掛かった日、トレイル上に目立つように掲げられた看板には、この先20kmほどはドライセクションだと記載されていた。直前に少し多めに水を確保していたため、特に問題なく歩けそうだったが、手持ちの水が少なくなっていたハイカーの数人は、数マイル戻って水を確保しにいくようだった。
最後のセクションを歩き出す。ジャンクション・クリーク・トレイルヘッドへの道標も出てきて、徐々にゴールまでのマイル数も短くなっていく。

衣食住を背負って、歩き、野営を繰り返すトレイル上での生活。
ついに、コロラドトレイルのゴールである、ジャンクション・クリーク・トレイルヘッドに到着した。
出発から43日間、距離は493マイル(789km)。PCTと比べると5分の1くらいの旅だった。ゴールの瞬間は、PCTのゴールの時と比べると、意外にあっさりとしていたが、それはコロラドトレイルでの日常が、自分にとって自然に受け入れられたからなのだと思う。
アメリカでの一本目のロング・ディスタンス・ハイキングでは、何をするのも初めての経験で、いつも不安と葛藤していたが、二本目となるコロラドトレイルは、怪我などのトラブルがありながらも、楽しいことも辛いことも全てを受け入れることができた。
それは「慣れ」という感覚ではなく、「馴染む」という感覚に近い。8年ぶりのアメリカでの二回目のロング・ディスタンス・ハイキングは、その行為自体がようやく自分に馴染んだ気がした。

コロラドトレイルのゴールであるジャンクション・クリーク・トレイルヘッド。
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