舟田靖章のULとMYOGの話 | #01 イントロダクション
その千秋楽のパタゴニア渋谷ストアで、舟田くん (舟田靖章) に登壇をしてもらった。
実は今回から始まる連載『舟田靖章のULとMYOGの話』は、このパタゴニアでのイベントで久々に舟田くんと一緒に舞台に立ったことがきっかけで、この続きを何か違う形でやろうよ、という話で盛り上がった。

パタゴニアとTRAILS共催のイベントで登壇した舟田くん (写真中央)。
舟田くんは、日本人初のアメリカ3大トレイルをすべてスルーハイキング(全線踏破)したトリプルクラウナー (※2) だ。
日本人でUL (ウルトラライト ※3) とMYOG(Make Your Own Gear=ギアの自作 ※4)を、本場アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングで実践したパイオニアでもある。
この連載では、今の時代だからこそ見えてくる、舟田くんがやったULって何?MYOGって何?という話をしてみたい。
第1回は、舟田くんのイントロダクションをTRAILSからお届けする。

PCTをスルーハイキングしたときの舟田くん。
※1 パタゴニアとTRAILS共催のイベント「『ロング・ディスタンス・ハイキング』ウィルダネスの中へ」:2023年に第1回、2025年に第2回が開催されたパタゴニアとTRAILSの共催でのスピーカーシリーズ。2025年は、パタゴニアストア全国5店舗で開催。https://thetrailsmag.com/archives/77832
※2 トリプルクラウナー:トリプルクラウン (アメリカ3大トレイル – アパラチアン・トレイル、パシフィック・クレスト・トレイル、コンチネンタル・ディバイド・トレイル – のこと)をスルーハイキングしたハイカーを、トリプルクラウナーあるいはトリプルクラウンハイカーと呼ぶ。
※3 ウルトラライト (UL): ここではウルトラライト・ハイキング (Ultralight Hiking) を指す。ベースウェイト(水・食料・燃料などの消費材を除いたバックパックの重量)が10ポンド(約4.5kg)という超軽量な装備でハイキングをするスタイル。ロング・ディスタンス・ハイキングをするための方法論として生まれた。
※4 MYOG: MAKE YOUR OWN GEARの略。ギアの自作を指す。特にここでは、ロング・ディスタンス・ハイキングとウルトラライト (UL) ハイキングの文脈におけるギアの自作を指す。
舟田くんにとってのUL (ウルトラライト) とは?

日本人で初めて本格的なULとMYOGのスタイルでロング・ディスタンス・ハイキングをした舟田くん。
舟田くんがPCT (※5) をスルーハイキングしたのは2009年。それより前に日本人でPCTをスルーハイキングした人なんて、5名もいなかった時代だ。
2009年にPCTをスルーハイキングしたハイカーは、記録によれば107名。その数は、直近の2024年は734名にものぼる。
それまで日本人でPCTをスルーハイキングしたハイカーは、荷物をたくさん背負うトラディショナルなバックパッキングのスタイルで歩いていて、UL (ウルトラライト) のスタイルで歩いたハイカーはいなかった。

MYOGしたタープで、ウィルダネスのなかで野営。
徒歩でのアメリカ縦断。4,000km以上の距離があるPCTを歩くことなんてできるのか?
そんな確証ももてないなか、それでも舟田くんはULの源流であるレイ・ジャーディン (※6) の『Beyond Backpacking』という本に出会った。
レイ・ジャーディンは、ロング・ディスタンス・ハイキングのために本当に必要なものを、突き詰めた。それは極端で実験的な考えもあったが、ロング・ディスタンス・ハイキングという旅の目的を合理的に突きつめた結果、生まれた方法論だった。
舟田くんは、このULの方法であれば、PCTを歩ききれるかもしれないと、感じ取った。
当時のことを振り返り、舟田くんは以前TRAILSの記事にで次のように語っていた。
「レイ・ジャーディンの『Beyond Backpacking』 を読んで、半信半疑ながらも荷物を減らしてみたら、肉体的にもぜんぜん負荷が少なくて。それで長距離を歩くことが現実的に思えてきたんです。」(TRAILS「LONG DISTANCE HIKER」インタビューより)

現在のウルトラライトとMYOGの源流であるレイ・ジャーディンの著作。1992年に『The PCT Hiker’s Handbook』を出版し、それが2000年に『Beyond Backpacking』、2008年に『Trail Life』に改題・改訂された。
まさにレイ・ジャーディンが本に託した思いのとおり、舟田くんは、ロング・ディスタンス・ハイキングの旅を実現するための、現実的で効果的な「手段」としてULを選んだ。もちろん日本人でそれを実践した人はいなかった。
そして2009年のPCT、2010年のCDT (※7)、そして2011年のAT (※8) をスルーハイキングするなかで、トレイルライフに本当に必要なものだけに、どんどん削ぎ落とされて行った、現実的な要請から生まれたリアルなULのスタイルができあがっていった。
それは、いわば生身の実験でもあった。だからこそ、舟田くんの体験には、借り物ではない自分から生まれた言葉がある。
ULが当たり前の手段のひとつとなった今では想像しづらくなった、ULの率直で合理的な姿がある。

ULだからこそ実践できた、ロング・ディスタンス・ハイキング。
昨年にパタゴニアのイベントをきっかけに、舟田くんとのクロストークをしたなかで、舟田くんが考え、実践したULとは何だったのか。それを今、語ってもらうことで、再発見できるものがあると、僕たちは確信した。
※5 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。
※6 レイ・ジャーディン:1990年代に現在のULのベースとなる、思想と方法論を世の中に提示した。彼独自の「レイ・ウェイ」という方法論、およびその方法論にもとづく『MAKE YOUR OWN GEAR (MYOG)』のギアは、現在のULの源流として位置付けられる。彼が1992年に出版した『The PCT Hiker Handbook』(後に、『Beyond Backpacking』『Trail Life』と改題) という本にまとめらている。この本は、その後、多くのULガレージメーカーやハイカーを誕生させる起爆剤となった。
※7 CDT:Continental Divide Trail (コンチネンタル・ディバイ・トレイル)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。
※8 AT (Appalachian Trail (アパラチアン・トレイル)アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州をまたぐ、2,180mile (3,500km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。
舟田くんにとってのMYOG (MAKE YOUR OWN GEAR) とは?

舟田くんがMYOGしたバックパック。
これからの舟田くんの連載で語ってもらうのは、舟田くんにとってのULとは何か?であると同時に、舟田くんのULとMYOGの道具論でもある。
舟田くんの当時のブログの「装備の自作について」では、次のように書いている。
「長距離ハイキングは道具を純粋に道具として扱うことを教えてくれる。トレイルで過ごす長い日々が、道具を本来の『手段』としての立場に戻し、道具の先にある『目的』を拡大してくれる。目的さえ果たすならば道具は何でも良い、こう言えるのがリアルなハイカーだ。バックパックは袋にベルトを付けたもの、シェルターは雨風を防ぐための布。装備はどんどんシンプルになり、ギア自作のハードルはどんどん低くなる。」(舟田靖章ブログ「逍遥遊」より)

舟田くんがMYOGに使用した家庭用のミシン。
ロング・ディスタンス・ハイキングをするための、旅のリアルな要請から生まれたMYOG。リアルなロング・ディスタンス・ハイカーのMYOG。
舟田くんは、最初のPCTでは、ベーシックなスタッフサック、アルストを始め、レイ・ジャーディンのキットで作ったレイウェイ・タープなどMYOGしたギアで旅をした。
2本目のCDTでは、PCTで出会ったハイカーがMYOGしたバックパックを見て、自分でMYOGしたバックパックでスルーハイキング。
3本目のATでは、本格的なウェアにもチャレンジした化繊のプルオーバージャケットや、ウェストポーチ、ゲイターもMYOGした。

MYOGしたタープでの野営。
これから始まる連載では、これらのひとつひとつのギアを、なぜ作ったのか、細部に宿っているハイカーの工夫とは何か、それらひとつひとつを語って行ってもらう予定だ。
『舟田靖章のULとMYOGの話』、乞うご期待!
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