TRAILS REPORT

TRAIL TALK #008 Keisuke Minami / 南 圭介(前編)

2026.02.18
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話:南 圭介 写真:Studio AKARI、FUN SWISS 構成:TRAILS

What’s TRAIL TALK? | TRAILS編集部が刺激を受けた、TRAILS的トレイルカルチャーを体現している人物にコンタクトをとり、その人の生活やフィロソフィーなど、ひとりの人間の実像を通してトレイルカルチャーのコアに迫るインタビュー。

* * *

南圭介くんは、昨年公開されたパタゴニア・フィルムによるドキュメンタリー『Chasing South』 (※1) に登場しているトランスランナー (※)。

このドキュメンタリーでは、南くんがピレネー山脈を通るGR10 (※) (914km) のFKT (※) に挑戦する姿が捉えられている。

ピュアな心をもった少年のような眼差しに、後ろ髪はドレッドヘアー。日焼けした腕や足にはトライバル柄のタトゥー。純粋さと野生味が同居する、どこかの部族のような出立ちで無心に走る姿は、一度見たら脳裏から離れない。

そんな南くんは、映像のなかのインタビューで、柔和な語り口で、まっすぐでシンプルな言葉で話していた。

南くんという存在は以前から気になっていたが、この『Chasing South』の映像はTRAILS Crewには衝撃的で、僕らを惹きつけてやまないものがあった。

バンフ・マウンテン・フィルム・フェスティバル (※) の海外アウトドアフィルムにあるような、大自然の中における極限の冒険と向き合う本物感と、描かれた等身大の人間模様のコントラストは、それまでにないものを生み出そうとする越境者の匂いがした。

そんな映像が、日本人にフォーカスして誕生したことに、喜びとともに驚きを感じた。

改めて、このパタゴニア・フィルムに関わったクルーに、最大限の敬意を表したい。

『Chasing South』をまだ見ていないという方は、ぜひ今回の記事ととともに、このドキュメンタリーを目撃してほしい。 (リンクはコチラ)

南くんは、若い頃にトランスミュージック (※) に傾倒し、レイヴトラベラーとして放浪しながら、世界中のレイヴで踊り狂っていた。その後、トレイルランニングを始め、地元北海道のレースを皮切りに、現在は100マイル以上のウルトラディスタンス (超長距離) のレースやセルフチャレンジなどを中心に活動している。

そんな南くんは、自らをトレイルランナーではなく「トランスランナー」と称する。その理由とは何か。また南くんが、再三、口にする「覚醒」とは何か。

南圭介くんのまだ見ぬ魅力を掘り下げるべく、ロングインタビューを敢行した。

今回の前編では、南くんの生い立ちから、トランスミュージックをきっかけに目覚めた「覚醒」の感覚。またトレイルランニングのなかで去来する、自然と調和する感覚の覚醒について語ってもらった。

※1 『Chasing South』: 南くんが2024年に行ったGR10のFKTへの挑戦を追った、パタゴニアによるドキュメンタリー。パタゴニアのYouTubeチャンネルで無料公開されている。

※トランスランナー: 南圭介くんは、20代の頃に海外のレイヴパーティを中心にトランスミュージックに傾倒し、その後トレイルランニングを始めた。それを表して自らのことを「トランスランナー」と称して活動している。この名前の所以は、今回のTRAIL TALKの記事を参照してもらいたい。

※GR10: フランスとスペインにまたがるピレネー山脈を横断する、全長914kmのトレイル。累積標高は約51,400mにおよび、通常は踏破に45日から60日ほどかかる。

※FKT: Fastest Known Timeの略で、「最速記録」を意味する。公式レースではなく、特定のトレイルコースを踏破したGPSデータをネットに上げ、タイムを競うアクティビティ。

※バンフ・マウンテン・フィルム・フェスティバル: カナダのバンフで毎年開催されている、世界最大級の山岳・アウトドア映画祭。登山やクライミング、冒険、自然・環境をテーマにした作品を上映し、受賞作は日本を含め世界各国で巡回上映される。

※トランスミュージック: 1980年代後半にヨーロッパで生まれた電子音楽のジャンル。ヒッピーの聖地であるインド・ゴア州で「ゴアトランス」として独自の進化を遂げ、そこからさらに「サイケデリックトランス」として発展した。速いBPMと反復的なビート、複雑にうねるシンセサウンドを特徴とし、長時間のダンスやトランス状態への没入を志向する。

木登りが好きで、めちゃくちゃ高いところまで登ってた。


少年時代の南圭介。

—— 幼少期はどんな少年だったんですか?

「人見知りで、ビビりな子でしたね。女の子にもいじめられちゃうような感じでした。

あんまり大人数で遊ぶのは好きじゃないっていうか。一人で遊んでることも多かったですね。

ちょうどJリーグが始まった頃で、サッカーをやってたんですけど、サッカーボールが怖くて、先生の後ろにずっと隠れてたりとかして。もうボールが怖いから、ひたすらボールの対角線の所にずーっと走ってました。」

—— 小さい頃はどんな遊びが好きだったんですか?

「幼稚園の中に裏山があって、栗の木がいっぱい生えてるんです。そこをひたすら走り回ってましたね。

栗を拾ったりとかしたり。で、そこの栗を生で食べて、お腹を下して、それで生で食べんのやめようとか思ったり (笑)。

あと木登りが好きで、めちゃくちゃ高いところまで登ったりしてました。」


木登りなど、自然と戯れるのは昔から好きだった。

—— いまの片鱗が見えますね。ちなみに木登りで、高いところに登りたくなるっていうのは、どういう感覚でやってたとかって思い出せますか?

「たぶん景色を見たかったんだと思います。高いところに登ったらどう見えるんだろうと。それか高いところにある栗を取りたかったかもしれないですけど (笑)。」

—— 性格はずっと変わらなかったのですか?

「小学校二年生の頃に引越しをして、そこからいろいろと変わりました。友達を作るようになったりとか、サッカーも始めたりとか。少人数ではありましたけど、友達とワイワイするのがすごく好きになったりとか。

自分のことも多少オープンにするような性格に変わりましたね。たぶん学校が変わって、周りの子がかまってくれるようになったんだと思います。」


10歳頃の写真。

—— そこから中学に入ってからはどうだったんですか?たしか中学校のときに、すでに音楽のクラブに行くようになったりしてるんですよね。

「中学校に入った頃からグレはじめたんですよね。悪さもするようになって。それで叔母のマミちゃん(※)に、大人になるまでは親の言うことを聞けって言われるようになって。

—— 恩人である叔母のマミちゃんとのエピソードは『Chasing South』のなかでも語っていましたね。

「中学を卒業したら働いて1人で生活したかったのですが、マミちゃんからは、、『今まで親に育ててもらったんだから、社会を2〜3年経験するまでは、親が望むように生きろ。親が学校に行ってほしいって言ってるんだから卒業できるぐらいの単位はとれよ。その後はお前の好きに生きろ』と言われて。 」

—— それだけマミちゃんとの関係が強かったのはなぜだったんですか?

「マミちゃんと母親が、高校の同級生なんです。それで、マミちゃんのお腹に子どもができた時に、母さんのお腹に僕もできた。数ヶ月違いでお互い生まれる予定だったから、同い年になったら一緒に遊ばせられるね、と話してたらしくて。

両方とも男の子っていうのもわかってたんです。そうしたら、僕が生まれる2ヶ月前にマミちゃんが流産してしまって、子どもが亡くなったんです。それでその後にすぐに僕が生まれたから、マミちゃんが僕のことを我が子のように可愛がってくれて。

マミちゃんは銀座のクラブを叩き上げで作った人で。そこまで上り詰めるために、まあ普通に生きてたら経験しないようなこととかにも、理解があったと思うんですよね。だから割とそういうところもわかってくれていたというか。」

—— 当時はグレてたけど、マミちゃんの言うことは聞いていたのは、そういうこともあったんですね。

「そうですね、キャパのある人だったというか。何より尊敬できる人でした。

あんたは止めてもたぶん悪いことをやっちゃうから、ある程度はちゃんとしとけよ、っていうのを言ってくれてました。」

※マミちゃん: 映画『Chasing South』の中でも関係が語られている、南圭介の叔母。南くんがトレイルランニングを始めるきっかけの一つとなった人物。

トランスで出会った覚醒。本気でスーパーサイヤ人になれると思った。


世界各国のサイケデリックトランスのレイヴで踊り狂っていた。

—— トランスミュージックに出会った時の衝撃についての話も聞いてみたいのですが、改めて出会った時はどんな体験だったんですか?

「中二、中三の時だったと思いますよ。北海道のすすきののクラブで。」

—— 出会った歳が早いですよね。

「単純になんて面白い音楽だっていうのは、すごくありました。勝手に体が動く音楽で。なんていうか本当に『体を動かしたい』って感じられたのは、それまで運動とかではなくて、トランスが初めてでしたね。かなり衝撃的な体験でした。

—— 感覚が解放されるような感じですか?

「漫画とかも好きだから、あれ?もしかして『ドラゴンボール』(※) のスーパーサイヤ人 (※) になれるんじゃないか?とか思いましたね。

人間の脳って、普段は数パーセントくらいしか使われてないって言いますよね。そのパーセンテージを、トランスが引き上げてくれて、自分が解放されていくんじゃないかなって、そう直感的に思ったのは覚えてます。」

—— もしかしたら、本当にスーパーサイヤ人になれるんじゃないかって?

「思ってました。それは今でも思ってますよ (笑) 」

—— 今でも思ってるんですね (笑)。

「そうですね、覚醒したらなれるんじゃないかって。」


裸足で大地を踏みしめながら踊るのが好きだったという。

—— そして20代になってからは、海外のトランスのレイヴ・パーティを回りながら放浪していたんですよね。

「それまでもちょこちょこは行ってたんですけど、野外のパーティとかに行き始めたのが、20歳とか21歳ぐらいでした。サハラ砂漠、ヒマラヤ、インカ帝国遺跡とか、いろいろなところに行きましたね。

そのあたりから、クラブで踊るだけではそこまで感じてなかったようなものを、感じるようになりました。

クラブでは人工物の中で踊ってたんで、スイッチが入ってなかったんですね。」

—— 野外ならではの体験があったんですね。

「レイヴ・パーティに行って、山の中とかで踊って。裸足で大地にガンガン足を踏みしめてたら、なんかこれだなっていう感覚があったんですよね。」

—— 裸足で大地を踏みしめてっていう感覚、すごくわかります。「自然とつながる」みたいな感覚もあったんですか?

「そういう覚醒を得たいっていうのはありました。

ただ、だんだんパーティが終わったら覚めてしまう、作り出されたフェイクの世界だなと思うようになって。僕が見たいものは見られないなって思い始めてて。」

※ドラゴンボール: 七つ揃うとどんな願いも叶えられる秘宝「ドラゴンボール」を巡る、鳥山明による冒険バトル漫画。

※スーパーサイヤ人: 戦闘民族サイヤ人が、強い怒りなどをきっかけに覚醒する変身形態。髪が金色に逆立ち、戦闘能力が飛躍的に高まる。

※レイヴ・パーティ: 大音量のダンス音楽に合わせて長時間踊る大規模な音楽イベント。クラブや倉庫、野外などで開催され、DJによるノンストップのプレイと光や映像演出の中で、参加者が一体感や高揚感を共有する。

千日回峰行、ヴィパッサナー瞑想、ジブリ。


内面世界と向き合うことを求めた。

—— ちなみに覚醒のイメージは、先ほど話してもらった『ドラゴンボール』以外にもあったんですか?

「小さい頃から千日回峰行 (せんにちかいほうぎょう ※) とかも興味があって。もしかしたら、そういうことも関係あるかもしれないです。」

—— 比叡山延暦寺の壮絶な荒業ですね。7年間かけて1000日間、計約4万kmの山道を歩くっていう。不眠、不休、断食、断水とかもある修行ですよね。それのどこに影響を受けたんですか?

「体に鞭打って覚醒させる感じですね。それこそ『ドラゴンボール』でも、子供の頃の悟空が重い甲羅を背負って崖を上り下りしたり、超サイヤ人になるときに『精神と時の部屋』で修行したりするシーンがあったりするじゃないですか。

それで、体を酷使することで覚醒させられるっていう感覚があったんじゃないかと思います。」

—— 仏教の話とかは、本から学んだものですか?

「千日回峰行は、たぶん昔にテレビで見たんだと思います。

本は好きだったんですけど、トレランを始めるちょっと前にやめました。その頃から、瞑想も始めたんです。ヴィパッサナー瞑想 (※) というものなんですけど。

瞑想を始めて、『知りたいことは全部、自分の内側にある』っていう感覚が強くなって。インプットを控えるようになりましたね。

でも、最近は怪我しちゃったりしているんで、そういうことに関してはちゃんと調べた方がいいなとは思いますけど。」

—— 昔は本を結構読んでいたんですか?映画とかはどうですか?

「ベタですけど、池井戸潤とか、太宰治とかが好きでした。ちなみに太宰治だと『人間失格』が好きです。

映画も好きですね。アメリカ映画が多かったかなぁ。あとジブリがめちゃくちゃ好きで。」

—— ジブリでは、一番好きな作品は何ですか?

「『もののけ姫』(※) ですね。」

—— 即答ですね(笑)。どんなところがお気に入りのポイントなんですか?

「なんですかね。主人公のアシタカ (※) がかっこいいですよね。アシタカの目がかっこいい。ブレない感じで。そこを見てないでしょ、その先を見てるでしょっていう目。

あと、『もののけ姫』の、人間がやりすぎたことによる世界という、あの設定も好みです。」

※千日回峰行: 天台宗の僧が行う過酷な修行。約7年にわたり、比叡山周辺を計1,000日歩いて巡拝し、念仏や礼拝を続ける。

古代インドに起源をもつ仏教の瞑想法の一つ。呼吸や身体感覚を観察し、心身の変化をありのままに見つめることで、洞察を深める実践。合宿形式では、原則として10日間 (前後の行程を含めると11日間) にわたり、沈黙を守りながら1日約10時間の瞑想を行う。

※『もののけ姫』: 1997年に公開された、スタジオジブリ制作・宮崎駿監督による長編アニメ映画。自然を切り拓く人間と森の神々との衝突を通して、生と共存のあり方を問う物語。

※アシタカ:『もののけ姫』の主人公の青年。右腕に死の呪いを受けたことをきっかけに旅に出て、自然と人間の争いのあいだで均衡を探ろうとする。

トレイルランニングに見た、クレイジーな「覚醒」。


2017年、初めて出場した「北海道トレイルランニング in ルスツ」で優勝。

—— レイヴ・トラベラーの生活をやめた後、小笠原に行かれて、NPO関連のお仕事をされるんですよね?

「そうです。環境保全の仕事で、海岸清掃とか、外来種が入ってこないように侵入防止柵を無人島の中に建てたりとか。

そういう仕事のひとつに、トレイル整備の仕事があったんです。その時に大きな怪我をしてしまって。丸太を担いで上げるっていう荷揚げの仕事があったんですけど、施工箇所まで200メートルぐらい、細い階段を真っ直ぐ上がっていくところで。

僕が先頭にいて、その後ろに20人くらいいたんですけど、僕だけ一本多く運んでいて。手を離しちゃうと全員が落ちちゃう場所だったんで、落としたらダメだと思って耐えたら、肩がパキって。

そこから重いものを持つとパキっていうようになって、これいよいよおかしいなって。ちょっと札幌帰りますって言って帰ってMRI撮ったら、即手術。」

—— かなり重症だったんですね。

「それで入院していたとき、病院のベッドでNHKの『グレートレース』というトレランの番組がやっていたのを、ふと見始めたんです。

イギリスの山岳レースを追った内容で、その時にやっていたのがウィンター・スパインレース (※) という冬の山の中を走るレースだったんです。


入院の時に見たウィンタースパインレース (画像は以下のサイトより https://www.web.nhk/tv/an/greatrace/pl/series-tep-3276W96Z6Q/ep/KZWL2ZXR5X)

—— ウインタースパインは、冬の山のなかで冷たい雨とか吹雪とかに降られながら、ぶっ続けで走る壮絶なレースですよね。400kmの距離を、100時間以上かけて走るという。それを見た時の衝撃は、どんなものだったんですか?

「いや、あのときの衝撃はやばかったです。ただ走っているだけで、幻覚を見たりとか、幻聴が聞こえたりとか。

一流の選手が、大雨降ってるのにぶっ倒れて、意識なくなって。それで1分くらいしたら『寝てた』って言って、ぐって起き上がってまた走り出して。これは異常だなと思って。

でもその姿を見た時に、なんか僕が求めてた部分が凝縮されてるというか、全部あるんじゃないかなって。その領域を体験してみたいと思ったんです。

—— じゃあ、もうそれぐらい極限まで追い込んでみたい、体を酷使してみたいとか、そういうイメージがトレランにあったんですか?

「酷使してみたいとは思ってませんでした。その過程では酷使するんでしょうけど、その極限の覚醒を体験してみたかったんです。」

—— やはり覚醒を求めているんですね。

「そうですね。あ、これだなって思いましたね。」

覚醒できたら、動物とかと同じように感じることができるんじゃないかと思って。


トレランのなかで体験した覚醒。

—— 南くんが見たいものっていうのは、具体的に「覚醒」という言葉以外で言うと、どういうものですか?

「なんて言うんだろうな、覚醒できたらなんか動物とかと同じように感じることができるんじゃないかと思っていて。

『環世界 (かんせかい ※)』って呼ばれるような、動物たちそれぞれの感覚で捉えている主観的な世界っていうのかな。

覚醒させれば、いろんな動物の世界を感じられて、この世界がもっと愛おしくなるんじゃないかなって思っているんです。

—— ものすごい感性ですね。例えば自分も動物の一種になる、というような感覚ですか?動物たちと一緒に森の中を走っている感覚というか。

鳥だったらこんな風に見えてんじゃないかなとか、いろんな動物の視点で感じることができるんじゃないかなって思って。そういうのを感じたいっていうのはありますね。

なんか動物としての、そういう感覚が開けて、それを感じられた時が、僕は覚醒なんじゃないかなって思ってます。

その感覚になるトリガーとして、トレランをやってるっていうのはありますね。」


トレランのなかで動物の感覚とシンクロするような覚醒を求める。

—— その南くんの見たい「覚醒」の話、こちらの感覚がざわついてきますね。

ウィルダネスを何千kmも歩くロング・ディスタンス・ハイカーも似たようなことを口にします。例えば500kmほどのトレイルでも、ウルトラライト (UL※) のスタイルで、奥深い自然の中、体を酷使し野営していると、同じような感覚の入り口に立つことはよくあるんです。

ULは、自然の中に持ち込む道具を極限までシンプルにそぎ落とすことで、自然とよりダイレクトに向き合う方法論でもあるので。

「トランスミュージックで、裸足で大地を踏んで踊っている感覚とかも、それと似たものかもしれないですね。」

—— そうかもしれないです。南くんが子供のときに木登りをしていた、というのも近いことなんじゃないかと思います。
 
そのときの自然に触れる感覚の最大級のものが、いま南くんがトレランで感じているようなことなのかも、と思いました。

「最大級と言っていいかはわからないですが、そういうところはあると思いますね。」

—— ウィルダネスの奥深くに入って行くと。人工物だけでなく、人間とも出会うことがない。それこそ動物の方が多く暮らしている社会と隔絶された世界になります。

その中で体を酷使しながら生活し、浸り続けていると「自分がただの動物でしかない」っていう感覚に至る。そのなかでは人間は弱い存在だって感じて。

その反面、そこで五感が鋭くなっていって、動物としての人間の生きる強さも感じるって。南くんにも、そういう感覚ってありますか?

「はい。その感覚、すごくわかります。」


自然と調和する感覚という境地に入ることが、トレランに求めること。

—— やっぱり南くんは、動物としての人間が、潜在的に持っている感性に対して、かなり高い感度を持っているんでしょうね。

「なんていうか、トランスミュージックのおかげっていうのはあるかもしれないです。一度、そこで覚醒の感覚を体内に取り込んだので、自分の中で体感として知っているというか。

あのときに感じた覚醒を、自ら自分の中で出すっていうのは、やっぱ身体的・精神的な限界の先にあると僕は思ってて。

その限界を突破するツールのひとつとして、ただトレイルランニングをやってるだけなんですよね。」

—— 南くんにとってトレイルランニングは、覚醒した感性で体験する世界を見るためにやっているというのが大きいのですね。

「そうですね。他が見つかれば、他でもいいのかな、っていうのはあります。またトレランのように衝撃があるものが、もし見つかればですけど。」

※環世界 (かんせかい): 生物学の概念で、すべての動物・生物はそれぞれに種特有の知覚世界をもって生きていて、それを異なる主観的な世界があるという、ヤーコプ・フォン・ユクスキュルが提唱した概念。同じ場所にいても生き物ごとに、見ている世界、感じている世界は違う。それぞれの生物ごとに必要なもの(音、匂い、色など)だけを感じている。

※ウルトラライト (UL): ここではウルトラライト・ハイキング (Ultralight Hiking) を指す。装備の軽量化を徹底し、できる限り少ない荷物で長距離を歩くスタイル。軽量化により身体的負担を減らすとともに、シンプルな道具を使うことで自然との一体感や自由度を高めることを志向する。

トレイルランニングで、初めて幻覚や幻聴などの覚醒を体験したとき。


次第に長い距離を求めるようになる。

—— 南くんが、トレランで、最初に覚醒の感覚を体感できたのは、いつだったんですか?

「最初に体感できたのは、始めてから1年半ぐらいの時ですかね。

トランスジャパンアルプスレース (TJAR ※)って、あるじゃないですか。日本海から太平洋まで、アルプスの山々を縦断して走るやつ。あれと同じコースを『セルフTJAR』っていうノリでやってみたんです。

セルフTJARをやった時は札幌に住んでたので、アルプスに行ったこともないし、野営をしたこともない。

ただTJARの選手が使ってたギアのリストを調べて、自分でそれを揃えて。それでできるかなと思ってやったんですよね。

—— トレランを始めて1年半くらいで、TJARと同じコースを走ってみよう、というのは相当チャレンジングですよね。400km以上の距離があるし、累積標高差も3万メートル近く。日本屈指の過酷なレースと言われるくらいですからね。

「そうですよね。無理かなと思ったのですが、だめだったら最後まで行けなくてもいいから、とにかくやってみようと思って。

そしたら、最後まで突っ走れちゃったんです。

経験のないあの頃は、寝ないで進むのが正解だと、テレビ番組を見て思い込んでいたんです。

それでひたすら寝ないで進んでて、トレランをしながら初めて幻覚も見るわ、幻聴も聞こえるわで。

—— その時に、ロング・ディスタンスのトレランの洗礼を受けたんですね。

「そうなんです。ちなみに、僕の幻覚って、ジブリのキャラクターが出てくることが多いんです (笑)

僕、ジブリが好きで、幻覚までジブリなんです。湯婆婆 (ゆばぁば ※) の顔が花になって、ゆさゆさ揺れてたりとか。トトロとかも出てきたり。

—— 幻覚もジブリとは(笑)、ハッピーですね。

「めちゃくちゃハッピーです。 ダークなのは今のところないですね。ハッピーなのばっかりで、なんかありがたいんですけどね。」

—— ちなみにTJARは、「トランス」って言葉が入ってますね (笑)

「そうですね (笑)」

※ウィンタースパインレース: イギリスの長距離トレイル「ペナイン・ウェイ」を舞台に、真冬に開催される過酷なウルトラレース。全長約430kmを制限時間内に自力で踏破するセルフサポート形式で、低温や暴風雪の中を進むことから“世界で最も過酷なフットレースの一つ”とも称される。

※トランスジャパンアルプスレース (TJAR): 日本海から太平洋まで、日本アルプスを縦断する超長距離山岳レース。全長約415km、累積標高差約27,000mを、原則8日以内に踏破する。サポートなし・山小屋利用制限など厳しいルールのもとで行われる、日本屈指の過酷なアドベンチャーレース。

※湯婆婆 (ゆばぁば) : スタジオジブリ制作・宮崎駿監督のアニメ映画『千と千尋の神隠し』に登場する老魔女で、八百万の神々が訪れる入浴施設「油屋」を取り仕切る経営者。巨大な頭と鋭い目、豪奢な装いが作中でも強烈な存在感を放つ。


次回の後編もお楽しみに!

後編では、南くんはなぜ200マイル以上のロング・ディスタンスに傾倒するようになったのか、なぜロングトレイルのFKTにチャレンジしたのか、またなぞ瞑想など実践しているのかなど、現在の南くんが求めていることにフォーカスして語ってもらった。後編もお楽しみに!

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