歩いてみたいロングトレイル BEST10 by TRAILS research
いまロングトレイルに関心があるハイカーたちは、どこのトレイルに興味があるんだろう?そんなシンプルな疑問を、ハイカー100人以上にアンケートをしてデータをまとめてみた。歩いてみたい日本のロングトレイルは?歩いてみたい海外のロングトレイルは?そもそも海外トレイル派?国内トレイル派?
今回の記事は、メディアやメーカー側から発信される情報だけでなく、シンプルなアンケートをつうじて、現在のハイカーの関心を映し出したいという思いから企画された。「うんうん」とうなづく結果もあれば、「へぇー」と意外な結果もあった。読者の方は、事前にランキングの予想を頭に浮かべながら、読み進んでみてもおもしろいかもしれない。
今回のTRAILS research(トレイルズ・リサーチ)は、LONG DISTANCE HIKERS DAYに参加したハイカーにアンケートの協力をいただき、その回答を集計してデータ化している。他にも海外のトレイルのハイカー数のデータを調べて、その動向をリサーチしたものも掲載している。ロングトレイルのカルチャーって、本当に広がっているの?そんな疑問も、あらためて客観的に解き明かしてみた。
やっぱり海外トレイル?それとも日本のトレイル?
世界のエリア別に歩いてみたいロングトレイルを集計してみると、ロングトレイルの本場アメリカが第1位となった。しかしその数字と拮抗するように、日本のロングトレイルへの関心も高いことがわかった。
ロング・ディスタンス・ハイキングは、いつかはやってみたい遠い憧れの旅。ともすると、そういうハードルの高い印象が残ってしまうこともある。けれど、自分の国を歩く旅をやってみたい。そんな思いを持っているハイカーが多いことが伝わってくる。
ロング・ディスタンス・ハイキングの旅のスタンスで、日本を歩くハイカーが増えれば、もっと日本のハイキングや旅のカルチャーが面白くなることはまちがいない。日本の豊かな自然や、その土地にしかない風土や食べものを楽しみながら旅する、日本版ロング・ディスタンス・ハイキング。それはすばらしい旅になるはずだ。そして世界のトレイルを歩いたハイカーが、その感覚をもって日本のトレイルを歩くことで、さらに日本のハイキングカルチャーの広がりや奥行きがでてくるんだと思う。
歩いてみたい日本のロングトレイル BEST10
国内のロングトレイルでは、第1位に信越トレイル、第2位は北根室ランチウェイが上位にあがった。信越トレイルは2008年に全線開通をしてから、今年で9年目を迎える。そろそろ10年目の節目もみえてきた。アメリカのアパラチアン・トレイルの管理体制を愚直に吸収し、10年という年数に耐えうるトレイルを作ってきた信越トレイル。いまや日本のロングトレイルの中でも、先輩格のトレイルとなった。また信越トレイルに積極的に関与した故・加藤則芳氏が、その著作や信越トレイルでの取り組みを通じて、日本でのロングトレイル・カルチャーの普及にもたらしてくれた影響もはかりしれない。
信越トレイルに続き、歩きたいトレイル2位となったのは北根室ランチウェイ。「北海道に歩き旅の文化を!」と、中標津の牧場主である佐伯雅視さんを中心に立ちあげたトレイル。日本のなかでも、まさに北海道にしかない、という広大な牧場・牧草地の中を歩くことができる。摩周湖の望みながら歩ける西別岳・摩周岳のセクションも、北海道のトレイルを歩く醍醐味を堪能できる。そして3位には、四国お遍路があがった。ハイカーにとっても、お遍路が興味のある「トレイル」であることがうかがえる結果で興味深い。TRAILS編集部も、昨年春に四国お遍路を歩いた。接待や御宿の文化。寺と町、町と寺をつなぐさまざまな道。区切り打ちというセクションハイクの考え方。お遍路には、まちがいなくロングトレイルをつくり、維持していく要素がつまっていることに気づかされる。ハイカーの視線で、もう一度お遍路を歩いてみると、きっと新しい発見があるはずだ。
今回のアンケートは、東京で開催したイベントの参加者を対象に実施した。そのため西日本のトレイルの数字がやや低いように感じるが、全国で同様の調査を行えば、また違ったデータが見えてくるだろう。しかしあらためてこのBEST10にあがっているトレイルをみると、さまざまなタイプのロングトレイルが日本にできてきたことを感じる。このリストを見ていると、もっと日本のいろんなところを歩いてみたい、という気持ちがむくむくとわいてくる。いつか、これらのトレイルをつないで、日本を縦断するトレイルができたらば、という妄想もしてみたくなる。歩いてみたい海外トレイル BEST10
憧れの海外トレイルのナンバーワンは、ジョン・ミューア・トレイル。王者の風格さえただよう、不動の人気のトレイル。ヨセミテ国立公園のパースペクティブ、トレイル全体を通してハイライトに富んだ景観。ハイカーにとって、一度は歩いてみたい、と夢を刺激する要素がちりばめられている。現在はアメリカでのロングトレイル人気の高まりもあり、トレイルを歩くためのパーミッション(許可証)が、以前よりも取りづらくなっているという。やっぱりジョン・ミューア・トレイルを歩いてみたい!という人は、三鷹のハイカーズデポなど、現地の最新情報も多くもっているショップに事前に相談に行ってみることをおすすめする。
ニュージーランドのトレイルへの関心も高かった。日本の北アルプスのような景色が、標高1000m台のところに広がっていたり、コケやシダなど湿潤な緑の森を楽しめたり、広漠とした草原地帯があったり、さまざまな景色が楽しめるニュージーランド。南半球なので、ちょうど年末年始が向こうの夏にあたるため、長期休暇をとりやすい時期に行けるというのも、関心が高い背景にあるかもしれない。次の年末にはという人には、TRAILSでも取り上げた3週間のニュージーランド・トリップも、ぜひ参考にしていただきたい。グレートウォークの壮観な景色のトレイルから、ややマイナーながら異境感たっぷりのトレイルまで、さまざまなトレイルを渡り歩いた様子を読むことができる。(NZの記事はこちら>>「ニュージーランド、ロングトレイルトリップ」)ロングトレイルの本場アメリカにおけるハイカー数の動向
アメリカの大手アウトドア雑誌『BACKPACKER』で、2016年末に「LONG TRAILS」という特集が組まれた。アメリカでは以前では想像もしなかったような「ロングトレイル」フィーバーが起こっている。この特集記事では、トレイル上で年間150日以上も暮らす、生きる伝説となっているハイカー=ビリー・ゴートの特別記事も掲載されている。ひと昔前であれば「ハイカートラッシュ」(長い間シャワーも浴びずトレイル上で過ごし、「ゴミ」のような人間になった姿を、ある種の誇りを込めてハイカーが自らをこう呼ぶ)なんて、大手メーカーの広告収入がベースになっているメジャー雑誌に取り上げたりすることはないだろう、と思われていた。しかし、ロングトレイルをとりまく状況は変わっている。人々の歩く旅への関心が、また高くなってきている。
PCT(パシフィック・クレスト・トレイル:アメリカ西海岸にある約4300kmにわたるトレイル)では、90年代前半は年間のスルーハイカーの数は30人くらいであった。それが00年代には年間100人を超えるようになってくる。そして2010年代に爆発的な増加がおこる。直近の2016年では年間約700人ものハイカーがPCTをスルーハイクした。90年代前半から比べると、なんと約20倍以上の数になる。
Pic. via.
http://www.cherylstrayed.com/
http://www.foxsearchlight.com/wild/
http://www.walkinthewoodsmovie.com/
00年代から徐々にロングトレイルを歩くハイカーが増えてきてはいたが、決定的な起爆剤となったのは映画だった。アメリカでは「”WILD”効果」と呼ばれている、映画『WILD』(邦題「私に会うまでの1600キロ」)のヒットだ。映画化の前に、原作本が2012年にNew York Timesベストセラーリスト1位になり、この頃から徐々にロングトレイルへの関心が高まっていった。映画「WILD」の翌年には、「A Walk in the Woods」(邦題「ロング・トレイル!」)の公開も続き、ますます関心が高まっている。
トレイルを歩く人が増えれば、当然トレイルを管理する側の人は苦労が増える。パンクを起こさないようなパーミッションのコントロールや、自然への負荷が集中しないような配慮。善意でハイカーに宿や食事を提供してくれるトレイルエンジェルも、このハイカーの増加に困っている人もいるかもしれない。しかし、歩く人が増えることで、ブームだったものがカルチャーという形に定着していくはずだ。現在のような変化への対応のなかで、きっとあるべき姿に変わっていくだろう。あたらしい歩き旅のカルチャーは、これからの僕たちハイカーのアティテュード次第で変わってくる。そんな変化の節目にいられることが楽しい。
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