AMBASSADOR'S

土屋智哉のMeet The Hikers! ♯2 – ゲスト:勝俣隆さん

2015.03.06
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■ハイカー・サコッシュ誕生秘話

土屋 あとべぇさんにはMt.Fuji Designsとしての顔もあったからね。ある意味日本のコテージ・マニファクチュアラーの草分け(笑)。

勝俣 作るだけで売らない会社ね(笑)。

土屋 そこもべぇさんは早かったよね。化繊キルトなんかも作ってたし。もちろん道具の自作をしている人はいたと思うけど、ULにフォーカスしてやっていたっていうのはね。2005年~6年の時点ってまだみんなモノを買うだけだったけど、すでにタープ作ったりキルト作ったりしてたじゃん。

勝俣 だからMYOGって言葉がでてきたときにはびっくりした。

土屋 まだMYOGって言葉はなかったよね。あれもうちょっと後だったもん。

三田 自作を始めたのはやっぱりレイウェイ(*1)がきっかけですか?

勝俣 Backpacking Lightのフォーラムを見てると自作している人がけっこういて、自作する人向けの素材を販売するサイトなんかもあったんで、そのへんからやってみようかと思ったのかな。

三田 最初に作ったのはなんだったんですか?

勝俣 サコッシュかなぁ。

土屋 え、本当? じゃあ2006年くらいにはサコッシュ作ってたんだ。

勝俣 そうだね。あとは単純に必要なものを作っていたというか。それでうちの母が富士手芸店っていうのをやってたんで、それを英語にしてMt.Fuji Designsって架空の会社名をつけて、それを寺澤さんに渡したの。

土屋 たしか寺澤さんが何かを買ったときアメリカ国外に送ってくれない会社だったから、送り先をべぇさんにして転送してもらったんだよね。

勝俣 そうそう。そこに無理矢理自分で使ってたサコッシュも入れて送ったの。

土屋 それで『かぶと』の夜に俺も貰ってるんだ。

勝俣 だから1号機が寺澤さんで、2号機が土屋さん。3号機を僕が持っている。

土屋さんは勝俣さんから贈られたオリジナル・サコッシュを現在も愛用中。

三田 サコッシュのもともとのアイデアはどこから来たんですか?

勝俣 もともと旅行用のリュックとプラスして小さなポシェットみたいなものを持つことが多くて、そこに携帯と音楽プレイヤーと本とパスポートと財布くらいが入るものをいつも身につけていたんだけど、たとえばR.E.Iとかで売っている旅行用のサブバッグを見ていてもどうも大きくなってしまう。機内の離陸のとき着けてても何もいわれない、つまりジャケットの下に入っていてもあまり嵩張らない、そういうものがあったらいいなあと思っていたのね。あとは巣鴨のおばちゃんとかが持ってる中からあめちゃん出てくるような袋(笑)、ああいうのが欲しかった。

三田 サコッシュを作られたのはもともと自転車乗られていたからですか?

勝俣 ううん。自転車のサコッシュって知らなかった。もともとこれはベーベーポーチっていう名前だったから(笑)。そこに土屋さんがサコッシュという名前をかぶせてくれて。だからいまも自転車用のサコッシュってどういうものかよくわからない(笑)。

三田 じゃあいまサコッシュのことみんなベーベーポーチって呼んでる可能性もあったんだ。そうなってたらそれもちょっと面白いですけど(笑)。

土屋 自転車用サコッシュは単なる薄いコットンのズタ袋みたいなやつで、ツール・ド・フランスみたいなレース中に食料や水を選手に渡すためのものなんだよ。そこにチーム名とかがプリントされてて、食料を食べて空になったら沿道にぽーんと捨てちゃう。それをファンが拾ってコレクションとかするの。それがサコッシュ。さっきのULって生地を変えるだけっていう話からすると、これって単なるズタ袋をシルナイロンにしてメッシュポケットつけただけなんだよね。ポーチでもないしショルダーバッグでもないし、このシンプルな形状だったらサコッシュって呼んでいいんじゃないかって。さっきもいってたけど、べぇさんはそもそもこれを山に持ってくために作ったんじゃないんだよね。でも俺はもらった瞬間に「これ山で使えるじゃん」って。ただの袋だし、ストラップの長さ調節もできないけど、そういうのすら省いているのが俺のなかでULっぽかった。とくにそのときの「厨二病」的な熱さからしたら、こんなのいろいろつけるの邪道でしょって。「これぞ日本人が作った日本のULだ!」みたいなね。で、JMTを歩いたのを『BE-PAL』で特集してもらったときに、「友達が作ってくれたこれを使ってました」って出したら、反響がすごかったんだよね。

勝俣さんが手にしているサコッシュ三号機はジッパー付き。膝にかけている寝袋も勝俣さん手製のレイウェイ・キルト。

勝俣 それからハイカーズ・デポでサコッシュを作るって話になったときも、便利は便利だからそれなりに買ってくれる人もいるだろうなって思ってたら、まさか他のメーカーまでサコッシュ作るようになるとは考えられなかったし、不思議。

土屋 びっくりしたよね。だってこれダサイと思ってるもん。

勝俣 ダサイよね。カバンのポケットにいろいろ入れるよりもいろいろ手元にあったほうがいいっていう、道理としては合ってるけれど、でも格好いいか悪いかっていったら、かっこよくないよね。大の大人が幼稚園の子供みたいにカバンをタスキがけにして歩くのがどうかといわれたら。

土屋 これがかっこいいかって言われたら、貧乏くさいとしか言いようがない。一般的な価値観でいったらULの道具はみんな貧乏くさいし、かっこわるいんですよ。でも「ULってこんなのもあるんだぜ」的なアピールというか、かぶく感覚もあって使っていたのね。

勝俣 それをあのマウンテン・ハードウェアまで作ることになるとはね(*1)。だってこれをもしもスティーブ・ジョブズがつけてたらどう思います?

三田 ジョブズが使ってたら「これぞ禅なデザインだな~」とか思ったんじゃないかな?

勝俣 じゃあビル・ゲイツなら?

三田 ダッセーって思うかも(笑)。

勝俣 ね、だからその程度のものなの(笑)。。

土屋 だからその後、取材でよく言われたのが、「ULの人はサコッシュを使うんですよね」って。アメリカにサコッシュがあると思ってるんですよ。使ってるの俺と寺澤さんだけだったのに(笑)。だからいまでもアメリカのハイカーもサコッシュ持ってるんだって思っている人がいたら本当にごめんなさい。でも日本のなかで特異な進化をして、ハイキング・アイコンになったってことはちょっと面白いよね。基本的にはアメリカの後追いをしているなかで、これだけは日本でできたってのは。

オリジナル・サコッシュ2号機3号機をかけて記念撮影。ハイカー・サコッシュの大きさは勝俣さんが出張の移動時にいつも読んでいたBackpacker Magazineが入る大きさで作られたのだとか。

(*1)レイウェイ:レイ・ジャーディンが主宰するバックパックやタープなどのキットやDVD、書籍を販売している会社。(*2)マウンテン・ハードウェアまで作ることになるとは:日本独自企画のモンタナクレスタサコッシュのこと

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土屋智哉

土屋智哉

1971年、埼玉県生まれ。東京は三鷹にあるウルトラライト・ハイキングをテーマにしたショップ、ハイカーズデポのオーナー。古書店で手にした『バックパッキング入門』に魅了され、大学探検部で山を始め、のちに洞窟探検に没頭する。アウトドアショップバイヤー時代にアメリカでウルトラライト・ハイキングに出会い、自らの原点でもある「山歩き」のすばらしさを再発見。2008年、ジョン・ミューア・トレイルをスルーハイクしたのち、幼少期を過ごした三鷹にハイカーズデポをオープンした。現在は、自ら経営するショップではもちろん、雑誌、ウェブなど様々なメディアで、ハイキングの楽しみ方やカルチャーを発信している。 著書に 『ウルトラライトハイキング』(山と渓谷社)がある。

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