TRIP REPORT

岩手・小本川 〜 三陸海岸の海まで漕ぐパックラフティング2DAYS | パックラフト・アディクト #84

2026.01.28
NEW
article_image

文:Fumi Sakurai 写真:Fumi Sakurai 構成:TRAILS

櫻井史彦 a.k.a バダさん (※1) によるパックラフティング・レポート。今回は、岩手の小本川 (おもとがわ) を岩泉から三陸海岸の海まで下る旅。

景勝・丹洞にある屹立する美しい岸壁に見惚れたり、カワガラスやカワセミなどの鳥たちが飛び交う姿にたくさん出会える川。

今回は、野営のつもりが昭和な寝台列車ブルートレインに泊まれる!?という場所に偶然出会って急遽プラン変更も。いつもとちょっと違った旅情あるレポートになっている。

バダさんは、ULハイカーであり、パックラフターであり、鳥見好きであり、そしてTRAILS編集長佐井に負けず劣らずのギアホリック。hikerbirderというSNSアカウント名から「バダさん」の愛称で親しまれている。

「パックラフト・アディクト」の連載を中心に、TARILSの記事で何度も登場してもらってきたバダさん。レポートの最後にある「お気に入りの道具」コーナーで は、ギアホリックのバダさんならではの偏愛ギアや、新たに試してみたマニアックなギアなども紹介してもらう。

※1 バダさん:本名=櫻井史彦。hikerbirderというSNSアカウント名から、バダさんの愛称で親しまれている。2010年代前半の早い時期からパックラフトにはまって、以来、日本各地を漕いでいる。またギアホリックなULハイカーでもあり、そして鳥見好き (Birder) でもある。鳥見では、TRAILSの以下の記事で登場している。「PLAY!出社前に遊ぼう # 08 | TRAILS × Fumi Sakurai(hikerbirder) 鳥見(とりみ)」


今回の東北・岩手の旅の車窓。

いざ、東北へ。三陸海岸に注ぐ小本川へ向かう。


バックパックにパックラフトを詰め、岩手の岩泉へ。

昨年の秋から、みちのく潮風トレイル (MCT) をSoBo (南向き) でセクションハイキングしている。連休が取れる度に東北を訪れるようにしているが、人よりも歩くのが遅い上に、鳥を見に行ったり、川を漕ぎに行ったりと寄り道してしまう。

それが自分なりの、みちのくの楽しみかただと思っているので悪くないけれど、歩く距離は全くと言っていいほどに伸びない。MCTを歩き終わるのにいったい何年かかるのやら‥。


水質の良い小本川は、渓流釣りスポットとしても有名だ。

MCTを歩きはじめた時に、ルートと交わる川があればパックラフトで寄り道しようと考えていた。

しかし、大きな川を越えるたびに見て周ったけれど、1人でツーリングしやすそうな川がなかなか見つからなかった。

結局、MCTの歩きはじめに八戸の馬淵川 (まぶちがわ) を漕いで以来、小本川が二つめの川になった。


岩泉の丹洞付近からスタートし、1泊2日で太平洋に抜けるルート。

小本川は堰堤が少なく、河口の水門も遠慮なく通過できそうなのがいい。また上流から下流まで水質がよく、澄んだ流れであることも小本川を選んだ理由の1つだ。

じつは、以前にも小本川を漕いだことがある(そのときの記事はコチラ)。今回は当時よりも上流にある岩泉の景勝地、丹洞 (たんどう) から漕ぎはじめ、途中の河原で一泊して、翌日に海に抜ける予定だ。寒いし、1人だし、安全第一でのんびりと漕ぎたい。


いつもの相棒の茶舟の古いアルパカラフトのパックラフトで旅をした。

東京から夜行バスで、翌朝9時には岩手のスタート地点に到着。


宮古から三陸鉄道に乗って久慈方面へ。

東京から夜行バスに乗って、朝6時半に宮古に入った。

宮古駅からは三陸鉄道に乗って、7時半に岩泉小本駅に到着。ここで買い出しをしつつ時間を調整し、最後は町民バスに乗って目的地近くの岩泉三本松まで移動した。

東京から遠く、岩泉の川に朝9時過ぎに着くとは、なかなか効率の良い移動だった。


パックラフトを膨らませ、いざスタート。寒い時期なのでドライスーツも着用。

時間に余裕があるので近くの龍泉洞 (日本三大鍾乳洞の1つ) に寄りたい気持ちもあったが、今回はじめて漕ぐ区間もあるので小本川に集中。バス停から10分ほど歩き、小本川の河原に降りた。

ここは丹洞という景勝地で、切り立つ岩壁は見応えがある。舟を漕ぎながら見上げるとさらに立派に感じる。丹洞を過ぎてからも、時おり現れる岩壁を眺めながら舟を進めた。


迫力のある岩壁を横目に、澄んだ流れの中を進む。

今夜は7月に見つけておいた河原に泊まる予定だ。川は適度に流れがあり、たまに少しバシャバシャする程度の瀬 (1.5級くらいの瀬か) がある。パドルに力を込めなくても省エネで進んでいく。

早い時間に河原に着いてしまいそうなので、パドルを漕がず流れに任せてみたり、携帯で地図を眺めてみたり、ゆっくりなペースを作りながら進んだ。

6年前に漕いだ区間にかかると、河原や中洲の地形が変わったところもあるが、何となく覚えてもいる。

相変わらず川は綺麗だし、鳥も多いし、楽しいなあ。


ゆっくりなペースでツーリングを楽しめる小本川。

トロ場にてふわふわと漂いながら、また地図を眺めていると、「ブルートレイン(※2)」という文字が目に止まった。

「何だろう?」と興味が湧いて調べてみると、昔のブルートレイン日本海号の寝台車を利用した宿泊施設だった。

学生時代に北海道でお世話になったツーリングトレインみたいだ。これは泊まるしかない!

※2 ブルートレイン:かつて日本国有鉄道(国鉄)およびJRが運行していた、寝台特急列車の指す愛称。「走るホテル」として多くのファンに愛された。1958年に誕生し、1970年に大きなブームがあり、2015年をもって全廃となった。

河原に泊まる予定を急遽変更し、寝台車ブルートレインの車両に泊まることに。


かつて使われていたブルートレインの寝台車。

「今、川にいるんですけど、今夜は泊まれますか?」と電話で聞くと、泊まれるとのこと。しかも今のところ予約はなく、今夜は貸切りになりそうだ。河原で泊まるキャンプ装備は使わずじまいだけれど、これはこれで面白いので、ぜひお世話になることにした。

やることもないので、フルフラットにした寝台車でおやすみなさい。

ブルートレインの夜は、暖房あり、お布団ありでとってもよく寝られた。河原で熊に怯えながら、寒い夜を過ごすはずだったのに贅沢してしまった。


野営道具を持ってきたのに、本日はブルートレインに宿泊。


フルフラットにした座席に布団を敷いて寝る。

ところで、小本川を漕いでいると数え切れないほどカワガラス (※3) が飛び交っていた。これまでに漕いだ川のなかで一番多く、カワガラスを見ることができた。これまでの経験上、カワガラスが多い川にはヤマセミ (※4) も多く棲息している。

カワガラスの餌である水生昆虫が多い → 水生昆虫を食べる魚も多い → 魚を食べるヤマセミも多い、というのが僕の理解だ。


カワガラス、ヤマセミをたくさん見ることができた小本川。

他にも条件はあるけれど、カワガラスが多くいる川にはヤマセミもいる、と覚えておくといい。今回は川幅の広くなった下流でも、オイカワを咥えて飛ぶヤマセミを見ることができた。他にも色々な鳥を見られて幸せな舟の旅だった。小本川はなんていい川なんだ!

パックラフトは実際に自分の足で (手で) 、時間をかけて川を漕ぎながら流域全体を眺めるからこそ、たくさんのヤマセミに出会えるチャンスがある。

ちなみにヤマセミのような鳥の目撃情報を僕が書くときは、鳥見のマナーとして具体的な場所の情報は出さずに、2日間かけて川を漕いだらヤマセミを何度も見ました、というくらいの解像度で書いている。

今回、小本川では二日間22kmで10羽ほどヤマセミを見た。なんていい川なんだ!

※3 カワガラス:「カラス」と名前に付いているが、カラスの仲間ではなく、水中を自在に移動できる日本唯一の鳥類。スズメ目カワガラス科に分類される。渓流で水に潜って、水生昆虫を食べるという独自の生態を持つ。

※4 ヤマセミ:山間部の渓流や清流に生息するカワセミの仲間。頭の冠羽が特徴的で、カワセミの愛らしさと、白黒の斑模様の格好よさ、そして希少性によりバードウォッチャーに人気。木の枝等から水中に飛び込み餌を捕る様は見応えがある。またバードウォッチングについては、「ストレスを与えないように野鳥との距離を取る」「営巣中、育雛中の野鳥や巣へは近づかない」などの基本的なマナーを順守することが重要。

朝の冷え込みで、凍ったパックラフトを解凍。


白い霜に覆われたパックラフト。

さて、小本川を漕いだ続きに話を戻す。ゆっくり起きて軽く朝食を食べたら、霜が降りて凍った舟を解凍してもう一度河原へ。

朝方は冷えたが日が昇るとそうでもない。今日はトロ場が多そうだから、ドライスーツを着たら暑いかもね……。


浅い水深に難儀しながら進む。

2日目は少しずつ川幅が広がったせいか、昨日よりも水深が浅い。川底の石で舟をこすることが多くなってきた。広く、浅い川のどこを漕げば通過できるかを考えながら漕いでいく。このまま河口まで行くのかと思うとうんざりしそうだが、鳥が多い川なので飽きることはなかった。

途中、2日間で唯一の堰堤をポーテージ (※5) した。ポーテージするのは煩わしい作業だが、川を旅する上では避けられない。今回は2日間の距離で一度しかポーテージがないので気が楽だ。堰堤の手前にある土手を這い上がり、草むらをかき分けてまた川岸に下りた。


堰提を避けてポーテージ。

河口に向かって進むにつれて、川幅が広くなり、川辺の様子も変わってくる。サギ類やカモ類が増え、ヤマセミに代わってカワセミが多く見られるようになる。時間をかけて川を漕いでいると、そういう変化を間近に感じることができる。生き物が好きなひとは、パックラフトをおひとついかがですか?

※5 ポーテージ:舟を担ぎ上げて、陸路を歩いて障害物を越えること。

ゴールの三陸海岸の海はもうすぐ!


川底に沈んだサケ。

河口まで残り2km。ふと川底を覗くと、死に絶えたサケが横たわっていた。周囲には弱々しくもまだ泳いでいるサケもいる。

そういえば、サケが遡上する時期だけど、実際には全然見かけないな。そう思いながら先に進むと、大がかりな簗 (やな ※6) が広い川を端から端までふさいでいた。ここでサケを一網打尽にしているのかもしれない。とすると、川のなかで見たサケたちは、網をくぐり抜けてきた勇者だったのだろう。


河口から海に出る。

僕は勇者ではないので、このまま進むと網にかかってしまう。やむなく一旦上陸し、網を越えた先で再乗艇するはめになった。

もうすぐゴールだと思っていたのに、こんなところで体力を削られるとは‥。

簗を越えて再乗艇したら、今度こそゴールは近い。河口に舞うカモメの鳴き声に混じって、波の寄せる音が聞こえてきた。

いよいよゴールだ。河口から海に出て、しばし漂ってから、最後は波の寄せる力を借りてえいっと砂浜に上陸した。


最後は海でゴール!


須賀の砂浜に上陸。

上陸地点をGoogleマップで見ると、ここは須賀という。川水・海水によって生じた砂浜の地形であり、地名でもあるらしい。勉強になります。

余韻に浸りながら帰り支度をして、岩泉小本駅に向かう途中で、夏に歩いたMCTのルートと交わった。

パックラフトの川旅を終えたら、この後はハイキングでMCTの南下を続ける予定だ。


帰りは再び、三陸鉄道に。

※6 簗 (やな):川の流れをせき止めて、木杭や竹でつくった仕掛けなどで、鮎やマスなどの川魚を捕まえる伝統的な漁法。

僕のお気に入りの道具

『CPS / CPS Short Tail』(CPS / CPSショートテール [ヘルメット])


ヘルメットの重量は本体165g (メーカー表記) 、内側のパッドの追加とGoProベースマウントを付けた状態で210g (実測) 。
 
パックラフトを担いで旅すると、ハイキング以外の道具類が大きく嵩張るため、これらを賢くパッキングする必要がある。パックラフト本体のほかにもお邪魔なビッグスリーがあって、それはパドル、PFD、ヘルメットだ。
 
今回紹介するヘルメットはCPS Short Tail。カヌーポロ競技のメーカーが製造するカーボン素材の軽量ヘルメットだ。他のカヌー用品を求めてネットを徘徊していたら、オランダのショップでこのヘルメットを見つけてしまい、つい取り寄せてしまった。
 
パックラフト入門時に購入したHikoのヘルメットも十分に軽かったが、このCPSは軽いだけでなく、コンパクトで収納しやすい形だ。CPS製品は日本でも買えるようになったが、Short Tailモデルは取り扱いがない。競技における安全性が理由かもしれないが、私のように気軽なツーリングしかしないのであれば、コンパクトである利点を優先して使うのもありと思っている。

TAGS:


RELATED

山口・錦川 錦帯橋を目指すパックラフティング2DAYS | パックラフト・ア...
パックラフト・アディクト | #26 東北の川を旅する(閉伊川・小本川)...
ジョン・ミューア・トレイル、12日間のハイキング&パックラフティング(前編・...

LATEST

岩手・小本川 〜 三陸海岸の海まで漕ぐパックラフティング2DAYS | パッ...
九州・宝満山からトリプルクラウン12,000km | #01 はじまりは地元...
舟田靖章のULとMYOGの話 | #01 イントロダクション...

RECOMMEND

北アルプスに残されたラストフロンティア #01 |伊藤新道という伝説の道 〜...
LONG DISTANCE HIKER #09 二宮勇太郎 | PCTのスル...
パックラフト・アディクト | #46 タンデム艇のABC 〜ウルトラライトな...

POPULAR

北アルプスに残されたラストフロンティア #04 | 伊藤新道を旅する(前編)...
TOKYO ONSEN HIKING #14 | 鐘ヶ嶽・七沢荘...
TODAY’S BEER RUN #06 | アンテナアメリカ 関内店 (関...

STORE

GARAGE

WRITER
櫻井史彦

櫻井史彦

ULハイカー、パックラフター、バーダー。hikerbirderというSNSアカウント名から、「バダさん」の愛称で親しまれている。2010年代前半の日本におけるパックラフト・シーンの黎明期から、パックラフトを始める。以来、日本各地のさまざま川をパックラフトで旅している。パックラフト歴は10年以上。ギアホリックでもあり、レアなヴィンテージのアルパカラフトの舟なども所有している。
バーダー (鳥見好き) としては、TRAILSの『PLAY!出社前に遊ぼう』にも登場している。パックラフトを漕ぎながらの鳥見も、バダさんが好む遊び方のひとつ。

>その他の記事を見る 

TAGS

RECOMMEND

北アルプスに残されたラストフロンティア #01 |伊藤新道という伝説の道 〜伊藤正一の衝動と情熱〜
LONG DISTANCE HIKER #09 二宮勇太郎 | PCTのスルーハイキングで気づいた本当の自分
パックラフト・アディクト | #46 タンデム艇のABC 〜ウルトラライトな2人艇のススメ〜

POPULAR

北アルプスに残されたラストフロンティア #04 | 伊藤新道を旅する(前編) 湯俣〜三俣山荘
TOKYO ONSEN HIKING #14 | 鐘ヶ嶽・七沢荘
TODAY’S BEER RUN #06 | アンテナアメリカ 関内店 (関内)

STORE

ULギアを自作するための生地、プラパーツ、ジッパーなどのMYOGマテリアル

ULギアを自作するための生地、プラパーツ、ジッパーなどのMYOGマテリアル
ZimmerBuilt | TailWater Pack (テールウォーターパック)
ZimmerBuilt | PocketWater Pack (ポケットウォーターパック)
ZimmerBuilt | DeadDrift Pack (デッドドリフトパック)
ZimmerBuilt | Arrowood Chest Pack (アローウッド・チェストパック)
ZimmerBuilt | SplitShot Chest Straps (スプリットショット・チェストストラップ)
ZimmerBuilt | Darter Pack (ダーターパック)
ZimmerBuilt | QuickDraw (クイックドロー)
ZimmerBuilt | Strap Pack (ストラップパック)

RELATED

山口・錦川 錦帯橋を目指すパックラフティング2DAYS | パックラフト・アディクト #8...
パックラフト・アディクト | #26 東北の川を旅する(閉伊川・小本川)...
ジョン・ミューア・トレイル、12日間のハイキング&パックラフティング(前編・Week 1)...

LATEST

岩手・小本川 〜 三陸海岸の海まで漕ぐパックラフティング2DAYS | パックラフト・アデ...
九州・宝満山からトリプルクラウン12,000km | #01 はじまりは地元の宝満山...
舟田靖章のULとMYOGの話 | #01 イントロダクション...