IN THE TRAIL TODAY #15|PNTのオリンピック半島を歩く、1週間のセクションハイキング
話・写真:松浦一磨 取材・構成:TRAILS
What’s IN THE TRAIL TODAY / TRAILSは、トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』をスタートさせました。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。
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長旅をあきらめていた人にも、ロング・ディスタンス・ハイキングの世界への扉は開かれています。セクション・ハイキングという旅の視点を得ることによって、たくさんの人にロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出かけてほしい。そんな強い想いから生まれたZINE#02『SECTION HIKING』と、ZINE#03『SECTION HIKING 2』。
今回紹介するトレイルは、アメリカ北西部にあるパシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT ※1)。
PNTと言えば、TRAILSの連載記事でご存知の読者も多いはず。TRAILSのアンバサダーであり、PNTA (PNTの運営団体) のディレクターでもあるジェフ・キッシュが、7回にわたってトリップレポートを書いてくれた。PNTを日本で詳しく紹介したのは、TRAILSが初めてである。
今回登場する、2022年のPNTスルーハイカーである松浦一磨 a.k.a. Zoey (ゾーイ) も、TRAILSのジェフの連載を読んでPNT行きを決めたとのこと。ちなみにこの年にもう1組、この連載を読んで、PNTをスルーハイクした日本人夫婦がいる。
そんな松浦さんが紹介してくれるのは、PNTの西側、オリンピック半島にある120kmのセクション。迫力ある大自然が満喫できるセクションだそうです。
今週末 (4/22-23) に、東京三鷹にて開催する『LONG DISTACE HIKERS DAY』 (詳しくはコチラ) でも、PNTの旅のレポート、セクション・ハイキングの魅力を語るコンテンツがあります。この記事で旅へのモチベーションを刺激された方は、ぜひイベントにもお越しください。
人が少ないぶん、より「自然 対 自分」という環境に身を置くことができそう。
—— 初めての海外ロングトレイルで、なぜPNTを選んだのですか?
最初は、ウェブでアメリカのロングトレイルのレポート記事とかを読んで、PCTやCDTに興味を持ったんですよね。なんか楽しそうだなと。昔からヒップホップが好きで、アメリカには興味があって行きたいとは思っていたんです。
人生は一度きりだし、自分ひとりで何かやりきる経験をしたいと思っていたタイミングだったのも大きいですね。
—— 最初はPCTやCDTに惹かれていたんですね。でも結果的にはPNTにしたと。
いろいろ調べていく上で、TRAILSのジェフのレポート (詳しくはコチラ) を読んだときに、「PNTにはロング・ディスタンス・ハイキングの良きレガシーが残っている」というフレーズにすごく共感したんです。
まだ日本で手に入れられる情報も少なかったですし、そもそも歩いているハイカーも少ない。昔からひとりの時間が好きで、自然の音も好きだったので、PNTなら、より「自然 対 自分」という環境に身を置くことができると思いました。
トレイル上では人にほとんど合わず、素晴らしい景色を独り占めできた。
—— 初めての海外ロングトレイル、しかもPNTのスルーハイキングは、どうでしたか?
トレイル上では人にほとんど合わず、素晴らしい景色を独り占めできました。自然のスケールの大きさがすごかったです。
ただ最初の頃は、日々、歩く距離にとらわれていました。それはそれで充実していたし、歩き終えた疲労感も心地良くて満たされてはいたんです。でも、PNTの中間地点あたりで、もっと感じなきゃいけないものがあるじゃないか、と思うようになって。
そこからは、距離にとらわれずに楽しむことができるようになりました。
—— 町での補給を繰り返しながら長く旅するという経験も初めてだったと思いますが、特にトラブルもなかったですか?
はい、大丈夫でした。なによりトレイルタウンはどこも魅力的でした。山中にあったり、海側は港町だったり。前半、後半で街の魅力や雰囲気がまったく違うのも、山からスタートし海で終わるPNTならではだと思います。あと、町の人がみんな優しくて、すごく良くしてくれたのが印象的でした。
おすすめのセクションは、アクセスしやすく、スペクタクルな大自然が広がるエリア。
—— 今回選んでくれたセクションは、PNTのなかでもどんなところなんですか?
まず、大都市や空港からのアクセスの良さ。限られた時間でセクション・ハイキングをするとなると、アクセスのしやすさは大事ですよね。
今回のスタート地点の最寄りの町は、ポート・エンジェルスというところなんですが、シアトルからフェリーに乗れば3時間で着くことができます。
あと、とにかくオリンピック半島は自然が素晴らしいです。
—— オリンピック半島の自然の何がよかったですか。
とにかく迫力があって、スペクタクルな大自然が広がっていました。日本では味わったことのない景色でしたね。
実は僕は、このセクションでPNTの正規ルートではないところも歩きました。『FarOut』(※2) という定番のGPSアプリを使用していたときに、他のハイカーが『Cat Basin』が正規ルートよりもいいぞ! というコメントをアップしてたんです。
それで行ってみたのですが、ずーっと開けた景色が広がっていて、ここは最高でしたね。あと、このセクションにはホットスプリングス (温泉) も湧いているのでおすすめです。
ハネムーンのカップルハイカーと過ごした、温かなひととき。
—— ロング・ディスタンス・ハイキングでは、さまざまな出会いもあるとは思うのですが、印象的だったことはありましたか?
ハニー&ムーンというカップルですかね。聞けば、ハネムーンでPNTをスルーハイクしているということでした。
たまたまテント場で一緒になったのですが、その後も、歩くペースが似ていたこともあって、しばらく抜きつ抜かれつという感じでした。
—— もともとひとりの時間が好きと言っていたこともあって、そんなにがっつり話したりはしなかった感じですか?
いや、そんなことはなくて。そもそも歩いているハイカー自体少ないですし、それまでPNTでひとりの時間が長かったからこそ、この2人との出会いはすごく印象的でした。
同じハイカー同士、しんどさとかもいろいろ分かっているからこそ、不思議と信頼感を抱きました。フォークスの町のカフェで一緒にピザを食べながら話をしたのは、とても心地よい時間でした。
ハイライトを選んで楽しめる。
—— 最後に、松浦さんが思うセクションハイキングの魅力を教えてください。
ハイライトとなるところをピックアップして、そこだけ楽しめるのは大きなメリットだと思います。
特に今回紹介したオリンピック半島は、シアトルやポートランドからもアクセスしやすく、予定が立てやすいです。
10日くらいあれば存分に楽しむことができると思います。オリンピック半島にはPNT以外にもたくさんの魅力的なトレイルがあるので、寄り道してみるとさらに楽しめるはずです。
TRIP INFORMATION
■トレイル名
パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT)
■セクション名
ポート・エンジェルス〜フォークス
■歩く距離・日数
120km・7日
■旅全体の日数
10日
■WEBサイト
PNTA(https://www.pnt.org/)
■ベストシーズン
5月~9月
■パーミッション / ブッキング
オリンピック国立公園内ゆえ、テント泊するにあたり、バックカントリーキャンプパーミットが必要。
■予算目安
20〜30万円(総額)
[内訳]
エア代:13万円程度
モーテル:一泊1万円程度 (ポート・タウンセンドやポート・エンジェルスは観光客も多いので高め。街のイベント事が重なる日や休日はモーテルでも15000円以上)
トレイル内キャンプサイト利用パーミット:1泊2千円程度
現地交通費:バスであれば数百円
その他(食費など): 5万円程度
■アクセス方法
[空港] シアトル・タコマ国際空港:東京から直行便で最短約9時間
[空港から近くの町へ] シアトル・タコマ国際空港からポート・エンジェルスまでフェリーに乗り約3時間
[IN:町からトレイルへ] ポート・エンジェルスからからバスにのりハリケーン・リッジ・ビジターセンターへ (運行状況、時間要確認)
[OUT:トレイルから町へ] 歩いて主要道路まで行きそこからヒッチまたはハイカー向けの個人タクシー(有料)でフォークスへ
■宿泊(町)
各種宿泊施設
■宿泊(トレイル)
トレイル沿いのキャンプ適地。キャンプサイト利用パーミット、1泊2千円程度
■補給方法(水、食料、燃料など)
街にスーパーマーケット等があり、食料や燃料等の補給には不自由しない。水は浄水すればトレイル上で補給可能。
ZINE#02 SECTION HIKING
アメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、スペイン、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイルを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。
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