ジョン・ミューア・トレイル、12日間のハイキング&パックラフティング(後編・ギアリスト) | パックラフト・アディクト #74
文・写真:Fumi Sakurai 構成:TRAILS
櫻井史彦 a.k.a バダさん (※1) によるパックラフティング・レポートの最終回。
今年の夏にバダさんは、ジョン・ミューア・トレイル (JMT ※2) を、ハイキングだけでなく、パックラフトを持ち込んで旅をしてきた。
ジョン・ミューア・トレイルを歩き、シエラネバダに点在する湖をパックラフティングで渡る旅だ。前編と中編でトリップレポートをお届けしたが、最終回となる後編では、旅で使用したギアを紹介する。
海外におけるハイキング&パックラフティングを実践するにあたり、バダさんはどんなギアを選び、どんな使い方をしたのでしょうか?
ギアリスト for ジョン・ミューア・トレイル
僕は道具大好きマンなので、今回シエラに持参した道具をどんな考えで選んだかという説明を期待されているのだけど、実は一つ一つ吟味していなかった。
いつものハイキングの道具に加えてベアキャニスターと舟関連を持っていく、という程度に捉えていた。
ただし、パックラフトをする計画に変えたことで荷物のかさや重さが増えたのに合わせてバックパックを買い替えたり、少しは道具の入れ替えもした。
そこで、どのような考えで取捨選択をしたのかを、自分自身も振り返りながら紹介していく。
歩く:HIKING GEAR
もともとは、JMTを歩く計画に合わせて「Zpacks / ARC Ultra 50」を購入した。クラシックなULギアの雰囲気を残しつつ、軽量フレームや背面メッシュなどを装備しているのがよかった。
背面メッシュは日本の蒸し暑い夏にぴったりで、国内での準備期間に各地を歩いたときはありがたみを感じたものだ。
しかし、ハイキングだけの予定だったのを、パックラフトも持参する計画にしたことによって荷物のかさと重さが増え、僕が持っているバックパックで対応できなくなったため、新しいバックパックを検討することになった。
バックパック本体だけでなくショルダーハーネスやウエストベルトが丈夫であること、パックラフトに積むときの防水性の高さ、そして出国までの3週間で入手できる条件で、「Hyperlite Mountain Gear / Porter 70 (Porter 4400)」(※3) を選択した。
HMGのPorterはシンプルな筒状の作りで、荷物の出し入れがしやすいし、パックラフトに積む際に安定する形状だ。デイジーチェーンに舟やパドルのような大物を外付けにして運べるのも便利。防水性は高いが、実際に舟を漕ぐときはパックライナーとして「Zpacks / Airplane Case」を併用することで、より確実な対策をした。
他、歩く道具として今回使用したのは、「Zpacks / Carbon Fiber Staff」。これはトレッキングポールというよりも、カーボンのテントポールのような見ためだ。杖と言うほうがしっくりくる。
この杖に「LuxuryLite / BigStik」のハンドストラップをセットして使った。これ一本にある程度の荷重をかけても問題なく、疲れたときに身体を預けたり、渡渉時の支えとしても安心感があった。パックラフト計画に変えて荷物が重くなったので、歩くときのよい相棒になった。
「LuxuryLite / BigStik」の本体を使わなかったのは、分解したときに武器っぽいから何かの拍子に咎めらそうな気がしたのと、Zpacksのほうが軽かったからだ。どちらにせよ、他に使っている人を見たことがないニッチなものだ。
漕ぐ:PACKRAFTING GEAR
パックラフトは、「ALPACKARAFT / Alpaca 2008」。2008年のモデルは現行モデルに比べるとずいぶんと古いけど、小さくて軽いのが特徴。重量に関しては、現行モデルより数百gも軽い。
最新のAlpaca (今はClassicというモデルの、Smallサイズとして売っている) は、とくにスターン (船尾) まわりが進化して、お尻がすいぶん大きく、長くなっている。最新のは進化し過ぎて、この古いAlpacaとはまるで別モデルのような雰囲気。でも僕は、デザインも含めてこの古いモデルが好きだ。
PFD (Personal Flotation Device, ライフジャケット) は、「Kokatat / SeaO2」。フォームとインフレータブルのハイブリッドモデル。インフレータブルだとパンクしたら終わりだけど、このモデルはフォームも併用しているから軽量コンパクトでありながら、最低限の安全性を担保してくれる。
また今回パックラフトをするにあたり、標高3,000mの氷河湖であることを念頭において、どのようなパドリングウェアにするかを検討した。高所とはいえ夏場にドライスーツは過剰な気がするし、余計な荷物になりかねないので、レインウェアで間に合わせることにした。
JMTに行く前の準備期間中は、レインウェアはいつも愛用している「Zpacks / Vertice Rain Robe」という膝丈のレインコートを着ていた。レインパンツを省くことができるので、当初はJMTにも持参するつもりでいたが、パックラフトをするにあたって変更することにした。
ただ、川下りではなく湖を漕ぐので、濡れるにしてもたかが知れている。もし濡れたなら、歩きながら乾かすことにした。結局、同じZpacks、同じ素材のレインウェア上下「Zpacks /Vertice Rain Jacket, Vertice Rain Pants」を使うことにした。
Zpacksのレインウェアは軽量な3レイヤーで着心地はいいが、レインパンツを長ズボンとしても使っていたら岩で傷つけてしまった。UL素材は軽いけれど気を遣う。でも軽い。
サンダルに関しては、僕は普段からBedrock Sandalsを愛用しており、年間300日は履いている。春から秋はCairn 3D Pro II、冬場はMountain Clogだ。僕はもうヒザが痛くなるお年頃だけど、このサンダルを履くようになってからヒザの痛みが軽減したので信頼している。
今回は、3D Proより少し軽いCairnを携行した。パックラフトやその前後で使うことを想定し、水際でもグリップが効くものにした。
寝る:SLEEPING GEAR
最近は山のなかで寝る手段としてハンモックを多用している。JMTもパックラフト計画に変更後は行動する地域に樹林が多くなったので、ハンモックで泊まることにした。またそれに合わせてシェルターを長方形型のタープに変更した。
持参したハンモックとタープは「ENO / Sub 6」と「Integral Designs / Siltarp 2」。
「ENO / Sub 6」は、友人が使用していて寝心地が良かったのと、後付けのリッジライン「ENO / Microtune Structural Ridgeline」とセットで使うと、あらかじめ心地よい張り加減をセットしておける。
長方形型のタープを選んだ理由は、ハンモック適地がない場合にも張りやすいタープにしたかったからだ。その点、張り慣れたSiltarp 2なら問題なかった。最近しまい込んでいた古いSiltarp 2がJMTで華麗に復活した(笑)。
湖畔のキャンプ地や下山後のレッズ・メドウでは、地べたにタープを張って泊まった。ハンモックまたは地べたで泊まる比率は半々だったので、長方形型のタープを選んで正解だったと思う。
キルトは、「Bozeman Mountain Works / 20F (Nunatak ARC Prototype)」という、Backpacking LightとNunatakが企画したプロダクト。のちの「Nunatak / Arc UL 20 Quilt」のプロトタイプ。
20F対応、つまり-6℃対応のキルトなので、温度域としてはこれで良かったと思う。ただ、ハンモックで使うと背中が寒い。クローズドセルマットでカバーしていたたけど、ちょっと足りなかったかも。アンダーキルトをはじめとした、ハンモック専用ギアのありがたみがわかった。
食べる:COOKING GEAR
フードを入れるベアキャニスターについては、定番といえばBearVaultのフルサイズBV500 (7日分の食料想定サイズ。容量11.5L) だと思う。しかし、自分には受け入れがたい邪魔なサイズ感だったため、準備期間中に手に入れたBV450を試し、最終的に容量が2L少ないBV475を購入した。
自分に必要な容量を見極め、バックパックへの収納のしやすさを優先してBV475を選んだが、旅の途中で食料が底をつくような問題は起きなかった。
BV500より5cm以上も低いサイズは、バックパック内で横向きにしてコンパクトにパッキングできるので、パックラフトのパドル操作を妨げることもなく、結果としてよい選択だった。
ちなみに、「少ない容量=補給の頻度が増える」ことになるが、パックラフトをするしないに関わらず、気に入らないBV500を買うくらいなら補給を増やしてやるー、と考えて行程を組んでいた。
またカトラリーは、「Tritensil / Spoon & Folk/Knife」に加えて、「無印良品 / シリコーンミニスプーン」を持っていった。シリコン製のスパチュラ (へら) を使うと鍋が綺麗になって、片付けの際の紙を減らすことができる。
エマージェンシー・その他:EMERGENCY GEAR & OTEHRS
今回の旅で、はじめて「Garmin / inReach mini 2」を使った。inReach (※4) の必要性や携行するしないは個々の判断でいいと思う。僕はJMTから外れて行動することが多かったので、念のためにinReachを携行した。
もし普通にJMTを歩くとしたらinReachを携行したか? こんな時でもないとinReachに触れたり仕組みを理解する機会がないので、せっかくだから携行したと思う。
幸い緊急用にinReachを使うことはなく、家族へのメッセージと天気予報の機能のみを利用した。契約プランが一番安いものだったため、プランに含まれる無料の送受信数 (10通/月) はすぐに消費してしまった。送信だけでなく受信もカウントされるようだった。超過分は従量課金されるため気をつけないといけない。
ちなみに、米国にいる間は、電波の届かない場所でもiPhoneから衛星経由で緊急SOSを発信できるようだ。事前に設定すれば家族のiPhoneに位置情報を共有できそうだった。キャンプ地を共有する程度であればiPhoneで十分かも知れない。ただ緊急対応についてinReachとの違いを確認していないので、iPhoneがあれば十分とは考えていない。
さて、僕が便利と思った機能は天気予報だ。暇つぶしにinReachをいじっていたら天気予報を見られることに気がついた。例えば、雨や風が強くなってきたり、行く先に雷鳴が響いたときなど、天候の変化を感じたときに天気予報を確認できるのが便利だった。
他のハイカーから天気予報を尋ねられたときに、君のinReachでも確認できると教えてあげたら感謝された。もしかすると、みんなお守りとしてinReachを持っているだけであまり活用していないのかもしれない。
あとケーブル関係は、iPhone用に仕方なくライトニングケーブルも携行したが、他はタイプCで統一。ヘッドライトもタイプCで充電する「NITECORE / NU25 UL」にした。
JMTのハイキング&パックラフティングは、トリップレポートもギアリストもかなり情報が限られているだけに、バダさんのギアのセレクトと体験談は、かなり貴重な情報である。
バダさんは「実は一つ一つ吟味していなかった」と書いていたが、さすがと思うマニアックなセレクトが随所ににじみ出ていた。
バダさん自身も、この旅で新たな知識や知恵をアップデートしたようなので、次はどんなギアとともにどんな旅をするのか楽しみだ。
TAGS: