TRIP REPORT

パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) | #06 トリップ編 その3 DAY17~DAY22 by Zoey(class of 2022)

2024.10.30
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文・写真:Zoey 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

2022年にパシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Zoeyによるレポート。

全8回でレポートするトリップ編のその3。今回は、PNTスルーハイキングのDAY17からDAY22での旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)。正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trail。
TRAILSのアンバサダーであり、PNTの管理団体のディレクターであるジェフは、次のように言っている。「PNTにはロング・ディスタンス・ハイキングの良きレガシーが残っている。またPNTでは、他ではできない孤独を経験することができる。またハイカーは真の自立を実践することによる喜びを、感じることができるんだ。」

スクランブリングをするハイルートか、長いブッシュワークのロールートか。(DAY17)


フェイスト・クリーク・フォール・リゾートにてリサプライ。

コーヒーをもらい寝起きの頭をすっきりさせる。昨日からフェイスト・クリーク・フォール・リゾートに滞在している。

ここは観光客向けのホステルだが、レストラン・バーがあり、ハイカーは庭でテントを張り休める。ハイカーフレンドリーなオーナーが運営していて、あらかじめ送った荷物を受け取ることができる。PNTのトレイル沿いにありアクセスも簡単だ。

ハイカーの郵送物の山から自分のものを探してみるも見当たらない。宛名が殴り書きすぎて郵便局の人も読めなかったのかもしれない。

その中に同じタイミングでPNTを歩き始めたキートンが送った荷物があった。ユーレカでのんびり過ごしたので、てっきり先に行ったものだと思っていたけど、彼は元気だろうか。


パッキングをしなおして、出発の準備。

ひとしきり心配したあと、ふと我に帰り、思った。

今は人の心配よりも自分の心配をすべきだ。次の街までには長いブッシュワーク (藪こぎ) がある。

この先は二つのルートから片方を選んで進む。スクランブリング (※2) があるハイルートか、長いブッシュワークのロールートか。

TRAILSにあったジェフ・キッシュのトリップレポート (記事はコチラ)にも、難所だと書いてあった。

スクランブリングは切り立った岩場を手足のみで進む必要があるし、ブッシュワークは野生動物に会うリスクがある。高いところが苦手なのでブッシュワークだな、とあらかじめ考えていた。


PNTハイカーのZ (写真中央) とshepherd (写真右)。

食料補給をどうすべきか考えているところ、2人のPNTハイカーカップルが現れた。トレイルネームはZとshepherd。

突然のPNTハイカーの登場に気持ちの盛り上がりは最高潮に達した。shepherdはPCTを2回歩いたことがあるらしい。自分の荷物のことはそっちのけで、PCTの素晴らしさを教えてもらう。2回も同じトレイルを歩くんだから、PCTもすごい良いトレイルなんだろうなと感じた。

足元をよく見ると二人ともサンダルを履いている。まさかこの二人はサンダルのままこの先のブッシュワークを・・。

どこか旅慣れた二人の雰囲気のかっこよさに圧倒されていた。しかも、話してみると二人とも穏やかで優しい。

再び我に帰る。
積み上げられた郵送物の近くにハイカーボックス (※3) があった。先行しているハイカーが残した食料を片っ端から集めた。Zがいろいろアドバイスしてくれたからありがたかった。


*ハイカーボックスのなかから、かき集めた食料。

諦めきれず、ネットで荷物を追跡してみると、カナダとの国境付近の郵便局に荷物があることがわかり、オーナーに送ってもらいなんとか荷物も受け取れた。

食料も確保したし早く出発したいが、モバイルバッテリーの充電にもたついてしまい、二人の出発を先に見送り数時間後に僕も出発した。

日差しはさらに厳しさを増し容赦なく体を焦がす。日傘をしていても暑い。

ブッサード山に入りしばらく歩いていると、Zとshepherdが眺めのいい場所で休んでいる。簡単に再会の挨拶をし、先を急ぐ。

地図アプリを見ながら進むが、どうにもおかしい。地図アプリのFar out (※4) の進行方向とトレイルが微妙にずれ、さらにその先は歩ける状態ではなかった。戻って二人にまた会うのはカッコ悪い気がしたがどうしようもない。仕方なく戻り、二人とまた再会した。

「もしかしたら旧道を示してるのかも。しばらくは一緒に歩こう。進む方向は同じだしな。」そう二人に声をかけてもらい3人で歩き始めた。予定ではそのままばらく進み、数日後には例のブッシュワークに辿り着く。

「この先には長いブッシュワークがあるから不安なんだ。よかったらブッシュワークが終わるまで一緒に歩いてくれないか。」別れるタイミングを逃した僕は二人に声をかけると、「もちろん」と返してくれた。

その日は心地よく過ごした。迫り来るブッシュワークを一緒に歩ける安心感ももちろんあったが、それだけではない気がした。久しぶりに誰かと話しながら歩くハイキングが、とても楽しかったからだと思う。

※2 スクランブリング:手足を使って岩場をよじ登りながら頂上を目指したり、縦走したりするアクティビティ。明確な定義はなく、ハイキング、登山、ロッククライミングの中間に位置する。

※3 ハイカーボックス:ハイカー (特にスルーハイカー) が不要になった食料や道具を入れる箱のこと。ハイカーは、必要なものは自由に持ち出すことができる。

※4 FarOut:ロング・ディスタンス・ハイキング、サイクリング、パドリング用のGPS地図アプリ。世界中にある100以上のトレイルが登録されている。もともとは『Guthook App』(ガットフック・アプリ) という名称。このアプリの誕生背景については、リズによる開発者へのインタビューを参照のこと (詳しくはコチラ)。

僕が必死に追いかけていたマイル数って‥。(DAY18〜DAY19)


山火事の跡が残るトレイル。

Zとshepherdの2人とともにパーカーリッジに到着した。登りは急で汗を垂れ流し続ける。shepherdが地図アプリの情報をもとに、水が流れているところを見つけてくれ助かった。冷たい水が体に染み渡る。

この頃には、自分のハイキングのペースが出来上がりつつあった。毎日朝起きて、暗くなるまで歩く。日の出時刻は日本とあまり変わらないのに、暗くなるのは日本より遅い21〜22時頃。時間いっぱいまで毎日歩いた。

夜寝る前に今日は何マイル歩いたか。明日は何マイル歩けるか。そんな具合に日々徐々に増えていく数字が嬉しかった。


湖で遊ぶZとshepherd。

Zとshepherdは、日の出とともに起きるので今までの僕の起床時間より早い。一緒に行動した数日は二人と同じタイミングで行動開始した。その代わり日中は湖を見たら、そこで止まって汗を流し、のんびり泳ぎ、休憩もゆっくり取る。とにかく無理をしないのだ。

僕が必死に追いかけていたマイル数なんか、二人はシビアには気にせず、自分たちが楽しめるペースを理解していて、余裕を感じる。改めて思い返すと、僕はここまでの数日、地図アプリとにらめっこして、一人でせかせか歩いていたが、いつも余裕がなかった。

その日は山火事の跡の開けた場所で早めにテント泊にした。

「僕は高いところが苦手だから、この先はブッシュワークのロールートにするよ」と僕が二人に言うと、「私たちもそうすると決めているわ。後悔はない?」と返してくれた。僕が遠慮して二人に合わせてるのでは、と気にしてくれるZの優しさだ。


キャンプした場所から眺めた夕陽。

翌日15時すぎには、ブッシュワーク手前まで辿り着いた。暗くなる時間にブッシュを通るのは避けたいので、二人の提案で早めに休み、手前の尾根でゆっくり過ごすことにした。ここは眺めがいいし蚊もいないので、今晩はシェルターを張らずにカウボーイキャンプだ。

静かに沈む夕陽が照らす山々がやけに美く感じる。

明日のブッシュワークを終えると二人と別行動になるだろう。しんみりした気分で夜を過ごしていると、明るい時にはいなかった蚊の集団がどこからともなく現れた。

3人ともしっかり蚊に集中攻撃され、あまり寝られないまま朝を迎えた。

クマの出現に怯えながらの長いブッシュワーク。(DAY20)


Zとshepherdの二人とともにカウボーイキャンプをした場所。

起きてみるとZの顔色がよくない。胃の調子が悪いらしい。「2人で後で向かうから先に向かっていてくれ」とshepherd。

想定外の緊急事態に状況が上手く飲み込めないが、とにかく進むしかない。


倒木や植物で覆われたトレイル。

植物に地面は覆い被され道は不明瞭。たまに気まぐれにトレイルらしき踏み跡が現れるが、すぐに消える。地面は縦横無尽に茂った植物に足を取られるので、倒木の上を辿った方が早く着くかもしれないと考えたが、先が鋭い枝が残っていたりして思うように進めない。


倒木が多いところを、トレイルを探しながら歩く。

あの茂みからクマが現れたら‥。ヘラジカが現れたらどうしようか‥。いや、ヘラジカは見てみたい気もするな‥。こんな調子で頭の中はお祭り騒ぎ。

トレイルかと思えば、倒木で草木が隠されてトレイルのように見えているだけだったりする。とにかく思う様に前には進めない。

ヒリヒリする様なスリルあるブッシュワークを5~6時間かけて無事に終えた。思い返してみると、緊張感があって楽しい区間だった。

明日こそはビール。(DAY21〜DAY22)


PNTの2つ目の州、アイダホもそろそろ終わる。

ブッシュワークを終えた翌日にプリーストレイクに辿り着ついた。久しぶりに人の気配がする。

キャンプを楽しんでいる方が多い。思い思いにみんなが楽しんでいる。とにかく早くビールを飲んでのんびりしたい。


深い森の中を進んでいく。

プリーストレイクを超えるとやがて分岐が現れる。北側はシェドルーフディバイドという稜線を歩けるがブッシュワークがあるとの書き込みをみて、もう一方のオルタネート (代替) ルートを選んだ。

コツコツ歩きヘルマー山からいくつかの山を繋ぎ、サリバン湖へ辿り着く。ここまで来れば次の街メタラインフォールズはもうすぐだ。

日付は7月が終わり8月に入っていた。日本はまだ蒸し暑いはずだが、すでにここは朝晩が冷え込み始めている。日本より一足早く秋が来ている。

気づけばアイダホ州が終わり最後の州ワシントン州に入っていた。

モチベーションは変わらず明日にはビール。明日こそはビールだ。


大恐慌時代に作られたサリバン湖のキャンプ場。この辺りからワシントン州に入る。

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Zoey

Zoey

仕事の関係で六甲山の麓に住み始めてから、週末ハイキングを楽しむようになる。その後、パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) の運営団体のエグゼクティブ・ディレクターであるジェフ・キッシュのスルーハイキングレポートがきっかけでPNTを歩くことを決意。2022年にPNTをスルーハイキングした。

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