TRIP REPORT

パシフィック・クレスト・トレイル (PCT) | #08 トリップ編 その5 DAY73~DAY105 by Teenage Dream(class of 2022)

2025.01.29
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文・写真:Teenage Dream 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

2022年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Teenage Dreamによるレポート。

全8回でレポートするトリップ編のその5。今回は、PCTスルーハイキングのDAY73からDAY105までの旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


パシフィック・クレスト・トレイル (PCT:Pacific Crest Trail)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

シエラの山火事を抜けて、火山砕屑岩の赤い大地を歩く。(DAY73〜81)


山火事の白い煙で一面に覆われていた。

ヨセミテからPCTのトレイル上にあるトゥオロミーメドウへ戻った。山は真っ白な火事の煙に包まれていた。

ガーミンのinReach (※2) でトレイルエンジェルや他のハイカーへ連絡をして、自分たちが安全な場所なのか連絡をした。板谷さんとラッキーとも出会い、3人でこの煙に包まれたセクションを抜けていこうとなった。

煙は進むほどに薄くなっていく。どうやら煙の軌道から外れていっているっぽい。


大量の蚊。テントのネットにも無数に張り付く。

今振り返っても、このセクションが一番蚊が多かった。蚊が嫌でスキップするハイカーがいるぐらいだ。でも景色は抜群に美しい。

景色は徐々に変わって行き、地質も変化して行った。

シエラネバダ山脈は地殻変動で隆起して、基盤岩となっていた花崗岩の多い地質だった。しかしここは大地が赤く、火山砕屑岩 (かざんさいせつがん) が多い。さらには水蒸気が噴き出ていただろう痕跡から水晶がとても綺麗だった。


火山砕屑岩の赤い大地。

地質の切り替わる場所でもあるためか、カラフルな石が多く、他のハイカーが石を並べていた。良い趣味だ。

このセクションの先には、レイクタホというリゾートタウンがある。カリフォルニア州とネバダ州の境界となっており、ネバダ州ではカジノができる。カジノにも行きたかったけど、結局カネもないし行かなかった。


ハイカーが並べたカラフルな石。

レイクタホはPCTセクション直上では一番クラスで大きな町だ。

湖ではイケイケな人たちがヨットでキラキラしていた。ハイカーは薄汚れていて街を歩いているとすぐにわかる。ここには大きなアウトドアショップもあり、さらにはUPS (宅配業者) へも行きやすいので装備をいろいろと入れ替えた。

ベアキャニスターも不要なのでここで日本へ返送することにした。日本への送料や物価などバウンスボックス (※3) などを考えると、日本から装備や食料を送った方がいろいろと安上がりな気がしてきた。

※2 inReach:GARMIN (ガーミン) が開発・販売している衛星通信デバイス。携帯電話の電波が届かないエリアでも、双方向通信が可能でSOS発信機能も搭載されている。最新機種の「inReach Mini 2」は、小型&軽量で、重量は約100g。TRAILSでは、「ロングトレイルTOPICS #07 | PCT&ATスルーハイキングに向けた最新情報(2023 Feb)」では、PCTAにインタビューし、inReachの利用増加とともに、適切な利用方法や自身のナビゲーションスキルの重要性をレポートしている。詳細記事はコチラ

※3 バウンスボックス:郵便局への局留めを利用して、立ち寄る予定の町に事前に荷物を送ること。

数年前に大規模な山火事があった場所は、砂漠のよう。(DAY82〜93)


再び、山火事の煙に包まれる。

レイクタホから出発すると、また山火事の煙が流れ込んできた。

日中なのに夕方のような空の明るさで、世紀末のような不気味さだった。

喉はガラガラになっていく。息がしづらい。この煙はヨセミテのキャンプ場から流れてきているみたいだった。大きな火事になってしまっているらしい。

PCT上には金山や銀山があり、ゴールドラッシュで繁栄した街がいくつもある。どれも小さな集落_、映画のセットのような街並みだった。海外の人が日本の田舎に行くのと同じような感覚になるんだろうか。

シエラシティという街はいい街並みで、ハイカーも集まって食事をしていた。

しかし相変わらず煙がひどい。


かつてゴールドラッシュで栄えた、シエラシティの街。

これより先は、数年前に大規模にカリフォルニアが燃えた深部でもある。何百kmものトレイルが燃えたみたいだ。まるで砂漠のようになっていて日陰もない。

さらには熱波がやってきて、気温は40度を超えていた。暑くて全く歩けない。すぐに体力が奪われてしまい、少しずつしか歩くことができなかった。


数年前に大規模な山火事があったエリア。

山火事の影響なのか、水源もなくなっている場所がいくつかあった。鳥や動物もほとんどいない。全てが燃えてなくなっている感じだ。

でも樹林帯にはあまり見ることがない低木や草木がいくつか生えていて、森が再生しようとしている感じもする。

アメリカの山火事は森の新陳代謝ともいうが、森が燃えた後のハイキングは、環境を意識するタイミングでもあった。


火事からの森の再生も感じる。

やっとの思いで街へ到着するも、気温が40度と暑すぎて辛かった。かわりばんこで日なたへ出て、ドライバーに見つけやすい位置に移動してヒッチハイクをした。

あまりにも暑くて川に入っているハイカーもいた。

ちょうど自分の誕生日だったのだが、『水曜どうでしょう』のジャングルの話にあった、ブンブン・ブラウの小屋のような場所でハイカーみんなで寝た。


灼熱の中、ヒッチハイク。

ここに辿り着くまでも、今も、そしてこれからも、永遠と灼熱だった。

板谷さんもラッキーも少しハイキングが嫌になってきていた。あまりにも辛いので「先にオレゴン州へ行っちゃう?」とか半分本気で話し合った。

でも「行けるところまで行こう」と、僕たちの間で言い合った。辛いけど行けるところまで行こう。

PCTのミッドポイント (中間地点) に到着。(DAY94〜95)


PCTのミッドポイント (2,100km地点)。

死んだ森を歩いていく。もう100kmは確実に燃えた森を歩いている。

PCTは4,200kmある。もう少しで半分のミッドポイントだった。やっと半分か。あっという間のような途方もなく長かったような。すでに3ヶ月まるまるを使って歩いているので、3ヶ月でカナダ国境へ到着となると少したりない。もう少し早く歩かないと雪が降りそうだ。

早く森になって欲しい。この焼けた森は全く景色が変わらず、足は砂まみれだった。やっぱり森や水がたくさんある豊かな場所がいい。


炭で書いてみたPCTのロゴ。

落ちていた炭でPCTのロゴを書いてみたら、後日いろんなハイカーがSNSへシェアしていて嬉しかった。こう見えて直径が1.5mぐらいもある大木だった。

このミッドポイント。一度もスキップせずに、ひたすら歩いてたどり着いた。2,100kmも歩いたんだ。ちょっと感動した。
ラッキーがハッピーバースデーとコーラをくれた。


ミッドポイントで誕生日。お祝いにコーラをもらう。

この先も山火事が。どうしたらいいのか思案に暮れる。(DAY96〜105)


街に下りるとスマートフォンで情報収集したり、Youtubeを見たり。

ここはPCTハイカーを歓迎しているキリスト教会。ここには数日お世話になった。あまりにも居心地がよくてダラダラと過ごした。今思えば日本にいる何もない日より何もしない。本当にダラダラして体の回復とメンタルの回復を待つばかり。

街へ降りるとみんなスマートフォンで情報収集をしたり、この先の情報をかき集める。時間があればYoutubeやNetflixをみたりもする。

僕の場合はダウンロードしたTVドラマシリーズの『ストレンジャー・シングス』をキャンプ中に見て、英語を勉強していた。実は英語は超苦手で読み書きができない。いつもなんとなく、こんな感じかな?というようなざっくりした英語を話してなんとかしていた。

スマートフォンで情報収集をしていると、山火事のことをはじめ、少し情報がありすぎると感じた。SNSをはじめとする曖昧で不安を煽るような情報がピックアップされやすい。しかし、あくまでも情報は誇張されていたりしていたりして、実際に歩いてみるとそうでもなかったりする。歩きもせずに、情報を鵜呑みにして歩くのをやめてしまうハイカーがとても多くて悲しい気持ちになったりもした。

今年はドライイヤー (乾燥した年) と言われていて雨が全く降っていない。雪も少なく水場の多くが枯れていた年だった。そんななかに熱波が到来してオレゴン州は、そこらじゅうで山火事が発生して、そしてこの先のエトナ以降も燃えてしまっていた。

僕らは山火事で封鎖された場所まで、行けるとこまで行こうと歩いた。


ラーメンボムに飽きて、高いがカレーを食べる。

マッシュポテトとラーメンを混ぜてつくるラーメンボム。歩き始めてから毎日のように食べてきたが、3ヶ月で少し飽きてきた。ここらで「ミニッツライス」というフリーズドライとアルファ米の中間のような米を手に入れ、スーパーに日本食コーナーで買える高級な日本のカレールー(1箱8ブロック入りで10ドル程度)を混ぜて、カレーにして食べていた。これがとても美味しい。日本を感じる。

正直なところ、この辺のハイキングはあまり印象にない。ただ暑い北カリフォルニアをやりすごすことばかりを、考えていたような気がする。後半は森になって歩きやすくなってきたが暑いのはかわらなかった。

それにこの先は山火事だ。オレゴンも燃えまくっていて歩くことができない。一体これから僕たちはどうしたらいいのだろう。わからないけどひたすら歩き出した。

珍しくたくさんのハイカーがトレイル上に集まった。ジープロードでキャンプをした。どうせこんなところ車は来ない。

働き蟻 (アリ) の法則のようで、こんなに人がいると3割は意思決定に参加しない。これから先に進めないのにどうしたらいいかわからないまま、考えることもやめた。

この中の誰かが決めるさ。とりあえず歩いていこう。


この先の山火事が起きているところをどうするか。とりあえず進んでいこう。

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子どもの頃から父と一緒にロボットコンテストに出場するほどのモノづくり好きで、機械加工やレザークラフトに夢中になる。大学時代には自転車で日本一周をしながら登山もし、卒業後はアウトドア総合メーカーへ就職。プロダクトデザイナーとしてさまざまなプロダクト開発に携わる。2021年に独立し、アウトドアメーカー『MIYAGEN Trail Engineering』を創業。同時に、念願だったパシフィック・クレスト・トレイル (PCT) をスルーハイキング。

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