TRIP REPORT

アイスランド縦断ハイキング 575km / 18 days by ホイットニー・ラ・ルッファ #05

2025.04.02
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(English follows after this page.)
文:ホイットニー・ラ・ルッファ 写真:ホイットニー・ラ・ルッファ、マイク・アンガー、ナオミ・フデッツ 訳・構成:TRAILS

新たにスタートしたホイットニー (ホイットニー・ラ・ルッファ / トレイルネーム: Allgood) による連載の4回 (第1回はコチラ)。

今回レポートするのは、アイスランドで最も人気があるロイガヴェーグル (Laugavegur)・トレイルを歩くセクションの55km。

前回のセクションでは、今までのハイカー経験のなかで最も過酷な天候に出会ったホイットニー。

今回レポートするロイガヴェーグル・トレイルは、巨大な黒曜石の岩、硫黄の噴出孔、沸き立つ火山の泉など、アイスランドらしい生々しく直接的な地球の息づかいを感じる景色が続くトレイルです。


ホイットニー・ラ・ルッファ (トレイルネーム: Allgood)。

ホイットニーはロング・ディスタンス・ハイカーであり、アメリカのハイキング・コミュニティに強くコミットしているハイカーのひとりでもある。ULギアメーカーのシックス・ムーン・デザインズ (Six Moon Designs ※1) でボードメンバーを務めた後、2025年より地図アプリのFarOutの最高収益責任者 (CFO) として活動している。

TRAILS – HIKING FELLOWのリズ・トーマスとは、古くからのハイカー仲間であり、アメリカのロング・ディスタンス・ハイカーのコミュニティであるALDHA-West(※2)では運営サイドのハイカーとして共に中心的な役割で活動している。

ホイットニーの初来日のときに、TRAILS Crewは彼と出会い、感性が共感し、即座に意気投合。以来、彼の来日の度に酒を酌み交わす間柄。2023年のPCT DAYS (※3)では、TRAILS Crewのトニーと現地で会っており、その後、ホイットニーが日本に来たときには、彼をゲストにTRAILSでイベントも開催している。

そのホイットニーの憧れの地のひとつが、「火と氷の国」とも呼ばれる、地球の自然の驚異が感じられるアイスランドであった。

この記事では、ホイットニーがアイスランド縦断のJ Leyルート(※4) 575kmをロング・ディスタンス・ハイキングしたレポートを、全6回で連載する。

それでは、厳しくも美しいアイスランドの自然を旅するトリップレポートの、第5回をお楽しみください。

※1 シックス・ムーン・デザインズ (Six Moon Designs): アメリカのULガレージメーカーの第一世代として、GVP Gear (後のGossamer Gear)、GoLite、 Tarptent、 ULA equipment等と並ぶブランド。創業者のロン・モークは1977年にアパラチアン・トレイルをスルーハイキングしているハイカーでもある。SMDを代表するプロダクトのひとつである「ゲイトウッドケイプ(Gatewood Cape)」は、レインポンチョとシェルターいずれの役割も兼ね備えた、ULを代表するマルチユースのギア。TRAILSでも創業者のロン・モークへのインタビュー記事を過去に掲載している(https://thetrailsmag.com/archives/28310)。

※2 ALDHA-West:The American Long Distance Hiking Association West。ロング・ディスタンス・ハイカー、および彼らをサポートする人々の交流を促進するとともに、教育し、推進することをミッションに掲げている団体。ハイキングのさまざまな面における意見交換フォーラムを運営したり、ハイカー向けの各種イベントを開催したりしている。

※3 PCT DAYS: アメリカ3大トレイルの1つPCT (パシフィック・クレスト・トレイル) のフェスティバルで、オレンゴン州のカスケードロックスで毎年8月に開催される。多くのギアメーカーの出展があり、プレゼンテーション、イベント、パーティなどが行なわれる。

※4 J Leyルート: Jonathan Ley Iceland Route (ジョナサン・レイ・アイスランド・ルート)。2006年にアメリカのロング・ディスタンス・ハイカーのジョナサン・レイとその友人が歩いたルート。ジョナサンは歩いたルートについて、ハイキングに必要な情報や写真を、ウェブサイトで公開し、多くのロング・ディスタンス・ハイカーの貴重な情報源となっている。https://phlumf.com/news/?page_id=443


アイスランド縦断のJ- Leyルート (575km)。

アイスランドで最も人気のあるロイガヴェーグル・トレイル。


ロイガヴェーグル・トレイルの渓谷の景色。

ロイガヴェーグル (Laugavegur)・トレイルはアイスランドで最も人気があるハイキング・トレイルです。

この55kmのトレイルは、色とりどりのカレイドスコープ (万華鏡) のような、信じられないほどの見事な、山々と渓谷の景色を堪能できます。このトレイルは活火山地域にあり、豊富な地熱地帯や壮大な川、深い渓谷があります。


ロイガヴェーグル・トレイルの景色。

レイキャビク (アイスランドの首都) からバスで4時間かけてランドマンナロイガー (スタートとなる基点) まで行くことができるため、特に海外からのハイカーに人気があります。一方で、アクセスが便利なため、トレイルでは、ツアーグループ等を含め、たくさんのハイカーで混雑するというデメリットもあります。

私たち3人は、何年もの間、インターネットやSNS上での画像を見て、この別世界のような風景をハイキングすることに、憧れの思いを抱いていました。


地球の驚異を感じるロイガヴェーグル。

私たちのロイガヴェーグルの旅は、小屋での質素な朝食から始まりました。私の朝食は、ピーナッツバターを入れたラーメンでした。ツアー・グループの人たちは、卵、パン、バター、ポークチョップという豪華なプレートを楽しんでおり、私の食事を見て、ネガティブな言葉を言っている人もいました。

圧倒的な景色に関わらず、あまりの天候の悪さに心が折れる。


ランドマンナロイガーのスタート地点から歩き出す。

私たちは、小雨で風もほとんどないという天気予報のなか、ハイキング始めました。しかし2kmも歩かないうちに、激しい雨と強風に見舞われました。高度が上がるにつれて、雨風は湿った雪に変わりました。

厳しい天候でしたが、少なくとも最初のうちは、その景色は私たちの気をまぎれさせてくれました。巨大な黒曜石の岩、硫黄の噴出孔、沸き立つ火山の泉、そしてさまざまな鉱物で色づいた土。そんな景色のなかを歩いていきました。


ランドマンナロイガーのペイントされたような大地の景色。

高度を上げていくと、私たちは雲の中にいることに気づきました。状況は悪化し、私たちはびしょ濡れになっていました。そして、急な斜面の狭い道、滑りやすい流紋岩 (りゅうもんがん)の泥、霧による視界の悪さなど、かなり厳しい状況でした。

頂上の小屋を目指して進みましたが、到着した頃には重ね着していた服はぜんぶびしょ濡れで、私は気力もだいぶ失せてしまっていました。パトロールの人が、緊急避難用のシェルターを使うよ​​うに指示し、そこで私たちは先を越されていたイタリア人のツアーグループと一緒になりました。


冷たい川をケーブルを頼りに渡渉する。

そのシェルターの中に入ったとき、私の心は折れていました。世界で最も美しい場所のひとつをハイキングをしているのに、景色がほとんど見えないことに苛立ちが沸いてきてしまったのです。

マイクは私が回復するのを手伝ってくれ、乾いた装備を着せ、温かい飲み物を作ってくれました。体が温まるにつれて、だんだんと次のセクションに向けて、やり気が出てきました。

アルフタヴァトン湖に向かって下っていくと、次第に天気が回復してきました。その後、冷たい川をケーブルを伝って渡り、湖まで長い下り坂を進みました。


感動的なランドスケープが広がる。

湖畔の小屋でちょっと休憩した後、最後の尾根を登ってヴァングリフ小屋に着きました。暗い空を背景に広がる緑の風景は、一日を締めくくる感動的な光景でした。

私たちは大きな二段ベッドの部屋を独占して、そこで装備を乾かし、カロリーを補給しました。この暖かいシェルターで、一日の苦労から解放される完璧な休息となりました。


ヴァングリフ小屋での光景。

厳しい天候に渡渉などの困難もありながら、人の親切によって助けられる。


峡谷のなかを進む。

2日目は、緑に覆われた火山の噴石丘を進む、気軽な渓谷ハイキングで始まりました。

次の小屋では、なんとツアーグループのコックが、残ったラムシチューを食べたいだけどうぞと提供してくれました。私たちはこの時に、本物のトレイル・マジック (※5) を体験しました。食料が底をついた私たちにとっては、ありがたいご馳走でした。

元気を取り戻した私たちは、残りのセクションを足早に進み、氷河の川といくつかの峡谷を渡り、このトレイルの終点に到着しました。


安全な渡渉ポイントを探すマイクとナオミ。

しかし、私たちは最後に難関に直面しました。バザール小屋に行くために、増水した氷河の川を渡らなければならなかったのです。

上流に行って安全な渡河ポイントがないか、1時間ほど探しましたが見つからず、手前のポルスマルクまで戻ってきました。

そこで親切な 4WD車の運転手が、荒れ狂う川を渡れる車に乗せてくれました。車の側面は増水した川の流れが打ち付けられていましたが、熟練した運転手はそんな川をうまく渡っていきました。


増水した氷河の川を渡る4WD車。

私たちはバサールのキャンプ場で、その日を終えました。そのキャンプ場にあるレストランのオーナーが、驚くほど親切なもてなしをしてくれました。

無料でレストランの前菜を提供してくれたり、電子機器を充電させてくれたり、冷たいビール、ラムバーガー、ピザをご馳走してくれました。


キャンプ場のレストランのオーナーがご馳走してくれたラムバーガー。

12日前にミヴァタンを出発して以来、初めてのちゃんとした食事でした。お腹もいっぱいになり、高揚した気分でテントに戻った私たちは、そのまま明日の最終日に備えました。明日はレイキャビク行きのバスに乗って移動します。

ロイガヴェーグルでは、厳しい天候と困難な環境で私たちを苦しみましたが、その素晴らしい景色と、道中で出会った人の親切に助けられ、本当に思い出に残る体験になりました。

※5 トレイルマジック:主にロングトレイルにおいて、トレイルエンジェルと呼ばれるボランティアの人たちが、ハイカーのために提供してくれる食料や飲み物。


この旅で歩いた3人。右からホイットニー、ナオミ、マイク。

(English follows after this page / 英語の原文は次ページに掲載しています)

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Whitney La Ruffa

Whitney La Ruffa

今までアメリカ国内のトレイルを9,000mile以上 (約14,000km以上) を歩いているロング・ディスタンス・ハイカー。シックス・ムーン・デザインズのセールス&マーケティングの役員を務めた後、2025年より地図アプリのFarOutの最高収益責任者 (CRO)に就任。1996年にAT (アパラチアン・トレイル) をスルーハイキング。2014年には、コロンビア川渓谷を通る330mile (約530km) のチヌック・トレイルを歩いた、初のスルーハイカーとなる。2016年にはCDT (コンチネンタル・ディバイ・トレイル) をスルーハイキング。また砂漠地帯を750mile (約1200km) 歩くオレゴン・デザート・トレイルもスルーハイキングしている。アメリカのロング・ディスタンス・ハイカーのコミュニティであるALDHA-West(American Long Distance Hiking Association-West)では理事も務めた経験があり、同団体では現在も献身的に活動を行なっている。またアイスクリームと犬をこよなく愛する。

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