Fishing for Hiker | 日本の伝統釣法「テンカラ」が世界中のULハイカーに与えた衝撃 #06 アメリカのULハイカーとテンカラの出会い /「Backpacking Light.com」ライアン・ジョーダン (後編)

話:ライアン・ジョーダン (Backpacking Light.com)、TRAILS 写真:ライアン・ジョーダン (Backpacking Light.com)、Tenkara USA、TRAILS 構成:TRAILS
Fishing for Hiker = ハイカーのための釣り
僕たちの熱狂の原点にフォーカスし、ウルトラライト・ハイキングに “釣り” を組み合わせた「Fishing for Hiker」というプロジェクトを始動させた。
その口火を切る特集記事「日本の伝統釣法『テンカラ (※1)』が世界中のULハイカーに与えた衝撃」。
#01は「Tenkara USAの誕生」、#02は「Tenkara USAに聞く、アメリカのULハイカーと”テンカラ”ムーブメント」、そして#03,#04では「日本のULハイカーとテンカラの出会い / 「山より道具」寺澤英明」というタイトルで、寺澤さんとTRAILS編集長 佐井との対談をお届けしてきた。
前回の#05に続き、今回の#06では、2000年代より世界の最先端のULを牽引してきた、Backpacking Light.com (BPL) 主宰のライアン・ジョーダンが登場。そのライアン・ジョーダンとTRAIlS編集部Crewとの座談会を実施した。ライアン・ジョーダンの日本のメディアでの登場を、待ち望んでいたULハイカーもいるのではないかと思う。
BPLは、とりわけ2000年代後半から2010年代前半において、日本の当時のコアなULハイカーたちも、血眼になりチェックしていたサイトであり、最先端のULギアのレビューやトリップレポートが掲載され、またオリジナル・プロダクトも発信してきた。
前回記事で登場した、日本のULギア好きにとってレジェンド的なブログ「山より道具」の寺澤さんも、ライアン・ジョーダンのことを「ULの教祖様だった」と称していたことからも、BPLが持っていた磁場の強さが伝わるだろう。
Tenkara USAとともに、「テンカラ=UL」という可能性をいち早く発見し、テンカラの熱狂的なムーブメントを作った張本人であるBPL のライアン・ジョーダンと、TRAILS Crewとで語った「UL×テンカラ」の座談会。今回の#06は、この座談会の後編として、ギアにフォーカスした語った内容をお送りします。
※1 テンカラ (テンカラ釣り):ロッド (竿)、ラインとハリス (糸) 、フライ (毛鉤 けばり) だけという、シンプルな道具で釣る日本の伝統的な釣り (リール等も使用しない)。主に川の上流部の渓流をフィールドに、ヤマメやイワナ、アマゴなどを釣る。欧米など海外では軽量でシンプルなフライフィッシングとして捉えられたりする。


2000年代~2010年代前半の、ULの黎明期に世界のULをリードしたBackpacking Light。その主宰のライアン・ジョーダンへのインタビューが実現。
Fishing for Hiker
Fishing for Hiker = ハイカーのための釣り。TRAILS誕生から大切にしてきたトレイルカルチャーのひとつフィッシング(釣り)。僕たちの熱狂の原点にフォーカスした、ウルトラライト・ハイキングに “釣り” を組み合わせる「Fishing for Hiker」のプロジェクト。ULハイカーが釣りをする際にヒントとなる記事に加え、刺激的なULギアのリリースや、実践までをフォローアップするSCHOOLなどもしていく。
Tenkara USAの登場により、従来のフライフィッシングから3分の1以下になる超軽量化。
現在のライアン・ジョーダンの定番のテンカラのギア一式、7.3オンス (207g)。[ロッド] Tenkara USA / Hane (BPL model), [ポーチ] Zimmer Built / Tenkara Strap Pack [フライボックス] MORELL / Foam Fly Box, [ライン] Tenkara USA レベルライン #4.5 (3.7m), [ティペット] Absolute Fluorocarbon Trout 5x (5m), [ラインホルダー] Nirvana on the Fly / Tenkara Line Holder Card, [フォーセップ] –, [ライセンス] –。
佐井:この座談会の前半では、ライアンとテンカラとの出会いや、ULハイキングとテンカラを組み合わせる可能性。またテンカラがアメリカのULハイカーやフライフィッシングに与えた影響とかを話してきました。
ここから後半は、「UL × テンカラ」のギアにフォーカスして話していきたいと思います。引き続き、TRAILS編集部Crewの小川、和沙、利根川 (トニー)も、ところどころ質問させてもらうね。
ライアン:OKです。よろしくお願いします。
佐井:改めて、アメリカのULハイカーにおいて、2009年のTenkara USAの登場は大きな衝撃だったと思うんだけど、ライアンにとってフライフィッシングのギアの軽量化という観点で、どんなインパクトがあった?
ライアン:Tekara USAが登場する前の話からしてもいいかな?
佐井:もちろん。
ライアン:1990年代のことだけど、大学に通う資金を稼ぐために、フライ (毛鉤) をつくる仕事をしてたんだ。
佐井:学生のときから、仕事でもフライフィッシングのことをやってたんだね。
ライアン: そう、仕事で年間500ダース (6,000個) ものフライを巻いていたんだよ (笑)。
このときから従来のフライフィッシングのギアで、いかに軽量化できるかを考えてたんだよね。
その頃に、フライフィッシングの販売店と交渉して、ハイキングで使えるプロダクトの開発を依頼してみたんだよ。
佐井:30年以上も前から、いかにハイキングとフライフィッシングを組み合わせられるかを考えていたことに、まず驚くね。
ライアン:そのとき大手販売店Cabela’s (カベラス) とか、多くのロッドメーカーやフライフィッシング業界関係者から協力を得ることができてさ、超軽量パックロッド (※2) を開発することができたんだ。ケースも、従来のものよりも超軽量な設計にしてね。
従来のフライフィッシングから、テンカラにスタイルを変えたライアン・ジョーダン。
佐井:それは素晴らしいね。それはどれくらいのUL化に成功したの?
ライアン:何段階かあるんだけど、ロッドだけでなくフライボックスとか、フライフィッシングのギア一式で、2001年には24オンス (680g)、2005年には16オンス (454g) 、そしてTenkara USAが創業する前年の2008年には 12オンス (340g) まで軽量化できたんだ。
佐井:2001年から2008年にかけて、フライフィッシングで300g以上も軽量化ができたんだね。
ライアン:それが2009年のTenkara USAの登場によって、いっきに7オンス (200グラム) まで軽量化することができたんだよ!それくらいTenkara USAの登場は、軽量化においても大きな飛躍だったんだよね。
佐井:680gだったものが200g未満になるというのは、重量が3分の1以下になる劇的な軽量化だね。ほぼ500mlのペットボトル1本分の重量が軽量化できたということだ。
2000年代のULハイキングにおいて、革命的なグラムカットが進んだ流れともシンクロしているよね。
テンカラの登場は、釣りをするハイカーに衝撃的なUL化をもたらしたことが再認識できるね。
ライアン:前半で話をしたように、最初にTenkakra USAの「AYU (鮎)」のプロトタイプを使ってみて、軽さにも驚いたし、ロッドの軽快さ、正確さ、そして素晴らしい感度に、衝撃を受けたんだよね。実際にたくさん釣れて。
これならフライ フィッシングへの楽しみを犠牲にすることなく、劇的な軽量化ができると即座に感じたんだ。
佐井:ULとは、「自分の目的に対して、最小限で最軽量の最適化をする」ことだと思っているんだけど、日本の伝統釣法のテンカラがフライフィッシングにおけるUL化達成において、極めて合理的な方法論だったんだね。
※2 パックロッド:マルチピースロッド、コンパクトロッドなどとも呼ばれる。3本以上に分割できるロッドを指す。仕舞寸法 (収納時の長さ) が短くコンパクトにできるため、バックパックにも収まりやすく、持ち運びん適している。
ULハイカー向けBPLオリジナル・テンカラロッド「HANE」をTenkara USAと共同開発。ケースなしで持ち運べる丈夫さ、コンパクトさ、ファーストアクション。
BPLがTenkara USAとコラボレーションして作ったオリジナルロッド「HANE」。
佐井:2010年に、BPLはTenkara USAとコラボレーションしてオリジナルロッド「HANE (羽)」を作ったよね。このオリジナルロッドの開発は、どのように始まったの?
ライアン:2008年に最初に僕が使った「AYU」は約13フィート (4.2m) の長いロッドだったから、Tenkara USAのダニエル (創業者) に、「短くてコンパクトなロッドを作れないか?」という相談をしたんだ。
佐井:ULハイカーがバックパックに入れて持ち運びしやすいように、「コンパクトに」ということだね。
ライアン:そう。あとBPLのコミュニティメンバー限定で販売するプロダクトにしてくれないか?とダニエルに頼んだんだ。
ダニエルにとっても、短いハイキング用のテンカラロッドは、まだフライフィッシングの小売店で売れるかどうかわからなかったから、BPLのオンラインメンバー向けの販売は、良い実験になるだろうと捉えてくれたみたいでね。
それでダニエルも、BPLのオンラインメンバー向けの独占販売についても、快く承諾してくれたんだ。
佐井:「HANE」を開発するにあたって、スペックはどのような目標を持って設計したの?基本スペックでいうと、全長277cm、仕舞寸法42cm、重量77g (※3) のロッドですね。
ライアン:BPL用にテンカラロッドを作るにあたって、3つの基準を設けたんだ。
1つ目は、ケースなしでバックパックに入れて持ち運べる丈夫さがあること。
2つ目は、バックパックに収まる、短くコンパクトなサイズであること。
3つ目は、ファーストアクション (反発・復元が早いロッドアクション ※4) の、短いロッドにすることでした。
佐井:開発の際の基準がとてもクリアだね!
※3 Tenkara USA 「HANE」(BPL model):現行で販売しているHANEとはスペックが異なる。BPL modelは全長:277cm, 仕舞寸法:42cm, 自重:77g。現行のHANEは、全長:329cm, 仕舞寸法:38cm, 自重:99g。
※4ファーストアクション:ロッドの根本から中間部分が硬く、先端側 (ティップ) だけが柔らかく曲がりやすい構造で、反発・復元力が早いロッドアクションを指す。初心者でもキャスティングしやすい、魚が食いついたときの感度がよいなどの特徴がある。
ハイキングで持ち運べる丈夫さ、アメリカの魚に合わせたロッドの硬さ。
HANEを使った釣行。
佐井:まず1点目について、「ケースなしで持ち運べる丈夫さ」を設定した背景を教えてもらえる?
ライアン:テンカラロッドは通常ハードケースに入れて出荷されるよね。そして、ハイカーはそのケースをそのままハイキングに持っていくよね。
ケースの重量は追加になってしまうということ。あと山の中をハイキングして持っていくときに、従来のロッドのような壊れやすいものは向かないのではないか、ということも考えたんだ。
それでロッドを太めに設計して、衝撃に対する耐久性の高いロッドにしたんだよね。
佐井:なるほど、だから太めのロッドにしてたのね。
小川:僕からロッドの硬さについて、追加で質問させてもらってもいい?日本と比べてアメリカの方が、全般的に釣れる魚のサイズが大きいと思うんだけど、ロッドを硬めにしたのは、そういった大きい魚を釣るための、強度や耐久性という点も考えた?
ライアン:それも考慮したよ。ロッドのバット (※ロッドの一番グリップ側) を太くしたんだけど、それは大型の魚を釣り上げる強度を持たせるためなんだ。
最初はこのHANEで、大型で25~30インチ (約60~76cm) もあるブルトラウト (※5) を釣るのに耐えられるかを、実験してみたんだ。これがうまくいって、これで大型魚を釣るロッドとしても使えるぞ、という感じになったんだよね。
写真はモンタナ州で、全長49cmのブラウントラウトを釣り上げたダニエル。
※5 ブルトラウト:北アメリカ北西部原産のサケ科のイワナ。最大で体長103cm (41インチ)、体重15kg (32ポンド) という記録がある。以前は「ドリー・バーデン」(S. malma)と呼ばれていたが、1980年に別種として分類されている。
ULバックパックへの収納できるコンパクトさ。小さな渓流でも振りやすいファーストアクションのロッド。
小さな渓流でも釣りやすいよう、短くて、ファーストアクションのロッドに設計。
佐井:次に開発ポイントの2つ目に挙げてくれた、全長277cm、仕舞寸法42cmという、ロッドのコンパクトさについて聞きたいんだけど、これにはどのような意図があったの?
ライアン:まずはバックパックに入れて持ち運ぶのに、仕舞寸法をコンパクトにするのは最低限満たすべき条件だったね。最初に使った「AYU」のプロトタイプは、バックパックから飛び出してしまっていたから。
あとロッドの全長についてはは、茂みに覆われた小さなクリーク (小川) でも使えるように、9〜10フィート (約270〜300cm) にしたいと考えていたんだ。
佐井:3つ目に挙げたファーストアクションについてのこだわりは?
ライアン:ファーストアクションのロッドであれば、密集した茂みにある渓流でも、キャスティングのときに大きなアクションをせずに、ほんの少しフリック (短く素早い動作) をするだけで、フライを投げられるからね。だから短くてファーストアクションのロッドであることは、ハイキング用のロッドを作る上で、必須条件と考えていたんだ。
あと狭いクリークだけで使うわけではなく、高山の湖でも使えるようにしたかった、というのもあるね。短めのロッドでもファーストアクションであれば、湖でも長いラインを投げやすくなるだろうと考えたんだ。
あとファーストアクションについては、子供でもキャスティングしやすいロッドということも考慮に入れていたね。
ULハイキングにテンカラを組み合わせて、ハイキング・トリップをするライアン・ジョーダン。
佐井:ライアンは今でも「HANE」を愛用しているよね。
ライアン:いくつかのプロトタイプを作ってみて、ダニエルが「これでいいと思うよ!」というものを、最後に僕も実際にテストしたんだ。それはもうすべてが完璧だったね。そうやって「HANE」が誕生したんだ。
本当に気に入っているテンカラロッドのひとつで、今でも愛用しているよ。
テンカラ周辺ギアのUL化。ミニマルさを追求したポーチとフライボックス。
フライボックス等テンカラのギアを入れるポーチ。Hartford Gear Co. / Trail Pouch。写真は以下のサイトより。https://www.hartfordgearco.com/product/zipper-pouch-2-92oz-dcf/60
佐井:「HANE」の開発をしていたとき、ロッド以外のギアでも軽量化のチャレンジをした?
ライアン:テンカラのギア一式を軽量化するために、テンカラのギアを入れるポーチと、あとフライボックスも、ミニマルなものを追求したんだよね。
当時、市販されていたフライフィッシングのギアを入れるポーチは重かったから、キューベンファイバー製 (※現在のDCF) の生地を使って、シンプルで小さいポーチを作ったんだよね。タテ10cm ×ヨコ13cm x 奥行 2cmのコンパクトなサイズのもので、コードを通すループを付けて、首や肩にかけられるようにしたんだ。
フライボックス、ライン、ティペット、あとフォーセップやラインカッターを入れるための、最小限のサイズを考えたんだ。残念ながらこのポーチについては当時の写真はないけど、最近だと似たもので0.3オンス (8g) のHartford Gear Co.のTrail Pouchとかを使ってるね。
BPLで販売していた超軽量なフライボックス。画像は以下のサイトより; https://backpackinglight.com/forums/topic/31460/
佐井:フライボックスも、ULなものを追求したんだね。
ライアン:そう、市販のフライボックスはプラスチック、金属、木とかで作られている重いものが多かったから、当時、僕とダニエルはいくつかの業者にかけあって、発泡スチロール製の小さなフライボックスを作ったんだ。発泡スチロール製のフライボックスは当時もあったんだけど、よりミニマムなサイズにして作ってもらったんだ。
その後、BPLでもフライボックスを作ったんだけど、中はフォーム材を使っていて、外は竹を使ったもので、重さは0.6オンス (約17g)。クレジットカードサイズ(7.6cm x 5.0cm x 0.5cm)で、12個くらいのフライを収納できる設計にしたんだ。
佐井:なるほど。2010年の時点で、そうやってテンカラのギア一式で200g未満という、ハイキングに持って行くのに適したシステムを作ったんだね。
現在のライアン・ジョーダンのテンカラ・スタイル。「HANE」と長いロッドの組み合わせが定番。
ロッドは写真上から、[Tenkara USA / HANE (BPL model)] 全長:277cm, 仕舞寸法:42cm, 自重:77g
[Tenryu / Tenkara Furaibou TF39TA] 全長:330/363/390cm (3段階調整), 仕舞寸法:36cm, 自重:79g
[Tenkara USA / SATOKI] 全長:308/372/421cm, 仕舞寸法:57cm, 自重:99g
[Tenkara USA / RHODO] 全長:271/299/320cm (3段階調整), 仕舞寸法:53cm, 自重:60g
[Tenkara USA / ITO] 全長:396/448cm, 仕舞寸法:65cm, 自重:111g
佐井:ここからは、現在のライアンの「ULハイキング × テンカラ」のスタイルについて聞かせてください。ライアンは、年間でどれくらい山のなかに入っているの?
ライアン:山のなかをハイキングしてオーバーナイトで過ごすのは、だいたい年間で30日から50日くらいかな。オーバーナイトで行く時は、より標高の高いところに行ったり、より人がいないところまで行ってるね。
和沙:私からいいですか?ライアンが住んでるコロラドは、釣りができるフィールドがたくさんありそうだけど、ファミリーとも一緒にハイキングやテンカラをするの?
ライアン:よく妻と一緒にハイキングに行くよ。妻と一緒のときはデイハイキングで湖まで行くことが多いかな。そこでもテンカラができるんだよね。
僕が住んでいる町に流れている川にもトラウトがたくさんいてさ、そこでも釣りができるんだよ。だから毎日釣りができる環境にいるんだよね。
和沙:ライアン自身もお父さんから6歳のときにフライフィッシングを教えてもらったと言ってたけど、ライアンも子どもを連れて行ったりするの?
ライアン:よく行ってるよ。息子には、6歳くらいのときにテンカラを教えたんだ。息子は今27歳なんだけど、今も高山の湖でテンカラをするのが、僕たちファミリーの楽しみのひとつだね。
利根川:僕からもいいですか?ハイキングでは、どれくらいの頻度でテンカラロッドを持っていっているの?
ライアン:ハイキングのときは、テンカラロッドは、毎回必ずバックパックの中に入れてるよ。
利根川:毎回なんだ!ライアンはかなりの釣り好きなんだね。
ライアン:ちょっとした小さな川でも魚がいるかもしれないからね!ハイキング・トリップのときはもちろん、ビジネス・トリップのときも必ずテンカラロッドを持って行ってるよ(笑)。
ライアン・ジョーダンのフライボックス。
佐井:フライ (毛鉤) は、いつも何種類くらい持って行ってるの?
ライアン:10種類くらいかな。フライについては、僕はどこでも使いやすいように汎用性を重視してます。
持って行っているのは、ほとんどがテンカラ用のフライだね。シルク糸のボディに、暗い色、明るい色とかいろんな色 (ダークブラウン、ミディアムオリーブ、クリーム、オレンジ) が付いた、#12から#16 テンカラ用のフライ、あと他にフライフィッシングでも使うソフトハックル(※6) のフライを入れているよ。
ULハイキング × テンカラのスタイルで旅する時のパッキング。写真のバックパックは、Atom Packs / The Atom (30L)。
佐井: テンカラロッドは、いつも何本持っていっているの?
ライアン:いつもテンカラロッドは2本持っていってるね。1本はHANE。これは主に狭い場所で使うもの。もう1本は、より繊細で正確なキャスティングができる、長くて柔らかいロッドを持っていくようにしてるよ。
HANEはファーストアクションのロッドだから、長いラインで正確にキャスティングするのは向いていないからね。だから、もう1本のロッドは、長いレベルライン (※7) をより正確にキャストできる長いロッドを持っているんだ。
柔らかいロッドであれば、より長いラインをキャストできるし、特に風が吹いているときには、ラインの着地位置をよりコントロールできるよね。風があるときや、難しい流れに対応するために、繊細なキャスティング・テクニックを必要とする場合は、長くて柔らかいロッドの方が適していると思うんだよね。
こんな感じで、狭いクリークではHANEを、柔らかいアクションが必要なときは長いロッドを使うんだ。長いロッドとしては、Tenkara USAのAMAGO (410cm) とかを使っているよ。
Tenkara USAのRHODOについて説明するライアン・ジョーダン。
佐井:ライアンはTenkara USAのRHODO (ロード) を使ってるよね。RHODOは、どんなときに使うの?
ライアン:RHODOの、271cm〜320cmまで長さを調整できる機能は、とても面白い独自の特徴だよね。
RHODOも、僕のお気に入りのロッドのひとつで、小さな渓流で使ってるよ。
RHODOは、繊細でソフトなロッドだから、小さいフライを投げたりするのにも、とても効果的だよね。水面のフライを、繊細に動かすのにも向いているよね。
佐井:日本の源流域は、とても川幅が小さくて、木々で囲まれているところも多いから、RHODOの271cmの短さでも、320cmのスタンダードな長さでも使えるのは、とても有効なんだよね。だからTRAILSではRHODOをレコメンドしているんだよね (※詳細はコチラ)。
ライアン:なるほどね。RHODOは、小さい川におすすめのロッドだよね。2.1オンス (60g) と超軽量なのもいいしね。キャストも非常に簡単で、テンカラをこれから始めたい人にとっても、よいロッドだと思うよ。
※6 ソフトハックル:柔らかい鳥の羽根 (ハックル) をボディに巻いた、ウェットフライの一種。
※7 レベルライン:均一な太さのフロロカーボン単糸。現在主流のタイプで、風に強く、フライ (毛鉤) 自然に流すのに適している。ラインは、好きな長さに切って使うことができる。
ハイキング・トリップでは、食べるために釣る。特に長期のハイキングではULになる。
食べるために釣るという、ライアン・ジョーダンのUL理論。
佐井:最後にライアンの「ULハイキング × テンカラ」のスタイルについてもう少し聞きたいんだけど、ライアンはハイキングの旅で、食料調達のためにテンカラをしている、という発信もしているよね?
ライアン:そう、僕は食べるために釣りをする、というスタイルでやっているんだよね。テンカラのギア一式 (ロッド、ライン、フライ等) を持っていけば、担ぐ食料を減らすことができて、ハイキング・トリップの間の栄養不足も補えるからね。
僕のテンカラのギア一式はだいたい85gだけど、これは夕食1回分の重量にもならないんだよね。だからこの分の食料を担ぐよりも、大きめのトラウトを1匹釣れた方が、栄養的も収穫は大きいんだよね。
佐井:そういったファクトにもとづいた合理的アプローチで軽量化をしていくスタンスが、とてもBPLらしいよね。
ライアン:特にタンパク質を摂るための食料は、ジャーキーとかプロテインパウダーとかかさばるし、重くなりやすいからね。例えば約40cmのトラウトが釣れたとすると、それでタンパク質75gが摂れるんだよね。これと同等のタンパク質をジャーキーで摂取しようとすると、140gぐらいのジャーキーを担ぐ必要があるんだよ。
長期の旅になればなるほど、この効果は大きくなるよね。2匹釣れば元が取れて、それ以上釣れば、1匹釣るごとに実質的な荷物の重量が減ることになる。そして旅を通しての栄養バランスも向上するはずだからね。テンカラは持ち運べる「栄養補給システム」の中で、最も軽量で効率的なもののひとつと考えると面白いよね。
僕もサバイバルするのが目的じゃないから、1匹も釣れなくても大丈夫な分の食料は持った上で、プラスアルファの重量は担がないというスタンスでやってるんだけどね。なにより釣りは、効率のためというだけではなく、楽しいものだし (笑)。
テンカラのギア一式の重量は、2匹釣れば元が取れて、それ以上釣れば実質的な軽量化になるという考え。
佐井:「テンカラ=UL」というのは、ギア自体の軽量化だけにとどまらず、栄養を摂りながら食料の軽量化さえ実現できるポテンシャルがあるという話だよね。しかも、最高に楽しい!
ライアン:本当に、そうだよね!
佐井:ちなみに、この特集記事でライアンの前に登場した僕たちの仲間の寺さん (寺澤さん) という、日本でレジェンド的なULギア・ブログを書いていたハイカーがいるんですよ。寺さんも「ジョン・ミューア・トレイルを歩くときにタンパク源確保のために釣り道具を持って行って、担ぐ食料を減らせればULになる」と話していたんだよね。
ライアン:「Terasawa」さん!?
Terasawaさんは、BPLのメンバーになってくれてた日本人だよね!!昔に投稿してくれたりしていたのを、よく覚えているよ!
佐井:まさか、最後に「寺さん」でつながるとは思わなかったね (笑)。
今回は座談会では、「UL×テンカラ」について、僕たちが思ってた仮説を確認できたり、新しい視点もアップデートすることができて、とても楽しかったです。ありがとうございました!
ライアン:こちらこそ、ありがとう!また話をしましょう!
「UL × テンカラ」を10年以上続けているライアン・ジョーダン。
これにて「Fishing for Hiker」の「ULハイキング × テンカラ」の特集を締めくくる。最後は、ULのレジェンドであるBPLのライアン・ジョーダンに登場してもらった。「テンカラ=UL」の真価をいち早く突き止め、長きにわたり続けてきたライアンならではの視点と経験が随所に感じられる座談会であった。また「Fishing for Hiker」のプロジェクトは続いていくのでお楽しみに!
<Fishing for Hiker | 日本の伝統釣法「テンカラ」が世界中のULハイカーに与えた衝撃>
#02 Tenkara USAに聞く、アメリカのULハイカーと”テンカラ”ムーブメント
#03 日本のULハイカーとテンカラの出会い / 「山より道具」寺澤英明 (前編)
#04 日本のULハイカーとテンカラの出会い / 「山より道具」寺澤英明 (後編)
#05 アメリカのULハイカーとテンカラの出会い / 「Backpacking Light.com」ライアン・ジョーダン (前編)
#06 アメリカのULハイカーとテンカラの出会い / 「Backpacking Light.com」ライアン・ジョーダン (後編)
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