WOMEN HIKE John Muir Trail | #02 JMTが私たちに与えてくれたこと
文・構成:TRAILS 写真:提橋真由美、伊藤範子、原靖子、TRAILS
『WOMEN HIKE John Muir Trail』の第2弾は、ハイキング編。衝動的にJohn Muir Trail(JMT)に行くことに決めた3人の女性が、どのような旅をしたのかをお届けします。
初めてのJMTである原靖子さん(やっちゃん)と伊藤範子さん(のりちゃん)は、圧倒的な自然に心を解放され、「すべてが自由!」と感じるようなJMTのハイキング & キャンプのスタイルに、がっつりヤラれてしまいます。
2回目のJMTである提橋真由美さん(さげちゃん)は、前回よりもハイカーと積極的にコニュニケーションをとるようになり、ハイカーとの触れ合いを楽しみました。
では、3人の女性それぞれが感じたJMTを、お楽しみください!
今回もファシリテーターとして話を聞いたのは、TRAILS編集部crewの佐井和沙。彼女も2010年にJMTを歩いただけに、共感できる部分も多かった。
ロストバゲージ!? のっけからハプニング!
ーー 佐井和沙(以下、カズ):そもそも日本を発つ前にハプニングがあったみたいだね。
原靖子(以下、やっちゃん):わたし、山で足を捻っちゃって痛みがあったんです……。前から、さげちゃんとのりちゃんに、ケガには気をつけてよー! って言ってたくせに。加えて、風邪をこじらせて副鼻腔炎になったり、仕事でもうまくいかない案件があったりして。直前は本当にバタバタで考える余裕がなくて。いま思えば、すべてをリセットするための旅だったのかも。
伊藤範子(以下、のりちゃん):ケガのことを聞いて、私が懇意にしている先生を紹介したりしてね。だから今回、私は「やっちゃんのお付き」でJMTに呼ばれたんだと思ったの。
提橋真由美(以下、さげちゃん):私は私で、出国の数日前に、トレイルの終点に着く日がレイバーデーでバスに乗れないってことが発覚して。それで現地のタクシー会社に連絡してたんですけど、なかなか手配できなくて。結局、マンモス・ヨセミテ空港に着いてから、そこにあるタクシー会社に直接相談してなんとかなったんです。余裕を持って準備してたはずなんですけど、かなりドタバタしてしまいました。
マンモス・ヨセミテ空港。まさかここに着いてからもハプニングがあるとは……。
ーー カズ:荷物が受け取れなかったって聞いたけど、どういうこと?
やっちゃん:ロサンゼルスで国内線に乗り換えてマンモス・ヨセミテ空港に着いたんだけど、荷物が出てこなくて。どうやら、飛行機のドアが故障して荷物が取り出せなくなってしまったらしいんです。
のりちゃん:荷物は翌朝6時に宿泊先のホテルに届けてくれるって言ってたけど、心配で。というのも、空港はマンモスレイクスにあるんですけど、私たちの宿はビショップという町だったから。
やっちゃん:私は時間どおり届くだなんてまったく信用してなかったけどね(笑)。空港では、さげちゃんの帰りの交通問題とかも含めていろんなドタバタ劇があったもんで、ビショップ着はかなり遅れて18時くらいだったかな。そこから、ハイキングに持っていく食料を買い出しにスーパーに行って、宿にたどり着いたのが20時頃。
さげちゃん:もうその時は、疲労もマックス。
やっちゃん:夜ごはんを食べに近くのクラフトビール屋さんに行ったら、もうフードは終わりでビールだけだってなって。
のりちゃん:おなかすいたー、温かいもの食べたいーって言ってた時にマックを見つけて! でも店内は清掃が始まっていてドライブスルーオンリー。
やっちゃん:じゃあ、ウォークスルーしてみようよ! って、マイクに向かってどれにしよっかー? とか話してたんだけど、クルマじゃないとダメだ! って言われて。そしたら、さげちゃんが激怒(笑)。
のりちゃん:なんでなんだよー! って地団駄踏んで。ドライブスルーに並んでたクルマの人にも文句言ったりして。よっぽどおなかすいてたんだなと。
やっちゃん:もう私とのりちゃんは大爆笑。結局、ガソリンスタンドに併設されてるコンビニで日清のカップヌードルを買って食べるっていうね。
今回のルートマップ
■ やっちゃん & のりちゃん(4泊5日 / 約100キロ)
空港のあるマンモス・レイクスからバスで宿泊先のビショップへ。さらにバスとヒッチハイクでスタート地点のトレイルヘッドへ。2日目にJMTに合流し、5日目にJMTを離脱してゴール地点にたどり着く。
■ さげちゃん(8泊9日 / 約196キロ)
ミューア・パスの少し先までは、やっちゃん & のりちゃんと同じルート。ただしJMTから離脱せず、JMTの最東端であるホイットニー・ポータルまで歩き切った。
ハイキングスタート。こんな大きな荷物を背負って、本当に歩き続けられるの?
ーー カズ:航空会社の話どおり、翌朝6時に荷物が届いて良かったですね。さげちゃんは届いた直後にトレイルヘッドに向かい、やっちゃんとのりちゃんは翌日のスタート。日本にいた時からの懸念材料、荷物の重さ問題はどうでした?
さげちゃん:食料は日本で買いそろえてきたんですが、こっちに来たらいろいろ安売りしててついつい買い足しちゃって。当然入りきらなくてスタッフサックにもいれて結局また外付けすることになって。
ーー カズ:そもそも8泊9日なのに、さらに荷物が増えて、相当な大きさになったんじゃない?
バックパックに入りきらなかった荷物(スタッフサック)を、虎ロープで固定してくれる優しいベテランハイカー。
さげちゃん:外付けもうまくいかず、初日に会ったハイカーが見るに見かねて、虎ロープみたいなヒモで縛ってくれました。3日目の朝にバックパックの重量を測ったら17キロもあって。でも、不思議とあまり重くは感じなくて。たぶん日本で練習してたからだと思います。
ーー カズ:やっちゃん、のりちゃんはどうだった?
やっちゃんとのりちゃんは、荷物の重さを感じることなく笑顔でスタート。
やっちゃん:荷物は重いはずなんだけど、それがぜんぜん気にならなくて。たくさん休憩してたからだと思う。
のりちゃん:30分に1回立ち止まって、1時間に1回バックパックをおろす。これを無意識にやっていたんです。
やっちゃん:べつにふたりで決めていたわけじゃないの。そろそろ肩まわりが痛くなりそうだなっていう感覚ってあるじゃん。その前にふたりとも自然とおろすようになっていて。日本で一緒に練習したりしてたのが大きかったんだと思う。
比較的アップダウンが少なく、とにかく歩いていて気持ちがいい。
のりちゃん:距離は1日20キロペースで、4泊5日で100キロの行程。日本ではありえないくらい休憩してました。
やっちゃん:トレイルは起伏が少なく、しかも整備されていてすごく歩きやすかったので、1日20キロという距離はぜんぜん余裕でした。
すべてが自由! 見たことないスケール感の自然とハイカーとの出会い
ーー カズ:さげちゃんは2回目のJMTだったけど、去年との違いはあった?
さげちゃん:私から外国人のハイカーに話しかけることが多かったです。去年は、緊張してたり英語も話せなかったりでぜんぜん声をかけられなかったですけど。まあ語学力は何も変わってないんですが、自分から話しかけましたね。
ーー カズ:今年は話しかけるぞ! って思ってた?
さげちゃん:そんなことはないんですが、挨拶をきっかけに話がつづくようになってそれが楽しくて。それぞれどういう経緯で歩きに来ていて、どういう行程なのかとか。楽しみ方や旅のスタイルもさまざまな人がいるんだなーって。
テント場で一緒だったハイカーが、さげちゃんを気にかけて翌日のパス(峠)で待っていてくれた。
私の場合、後半は毎日1〜2個のパス(峠)を越えるルートだったんですけど、たいていのパスのところで、前日テント場で一緒だったハイカーが待っていてくれて。そこで喋って、どこまで行くの? って話になって「同じだね、頑張ろうね!」と言い合ったり。
一人で歩いてたんだけど、一人じゃない感じがずっとありました。
ーー カズ:さげちゃんと違って、やっちゃんとのりちゃんは2人で歩いていたけど、どうでした? しかも2人とも人生初のJMT。
やっちゃん:星がすごすぎた。北アルプスなんて比じゃないほどで、オリオン座がどれかわからないくらい星がわーーーってあって。
のりちゃん:天の川って川なんだねーって。今日も川だねーって毎晩言ってました。
JMTでのタープ泊がこれほど自由で楽しいとは思ってもみなかった。
やっちゃん:あと何がいいって、すべて自由なとこ。テント場に何時に着かないといけないとか、今日はここまで歩かないといけないとかもない。近くに泊まってる人もいないから、気をつかうこともない。とにかく制約がない。考えることが少ないのが本当にラクで。日にちや曜日もわからなくなっちゃうくらいで。
のりちゃん:たかだか5日でこうなるわけだから、もっとロングハイクしたらやばいよね(笑)。あと毎日ファイヤーサークルのあるところに泊まっていたから、焚き火も良かった。薪としてつかう枝とかもそこら中にあったし。
ーー カズ:毎晩、焚き火しながら星空を見る。もう最高ですね。
やっちゃん:もうね、なにも考えなくなるよね。日本では気をつかう毎日だったら、完全に解放された! 毎日、ただ歩いて食べて寝るだけ。ほんとそれだけなのに、なんで楽しいんだろうって。
のりちゃん:みんなこれが楽しんだなーって思った。あと、絶不調だったやっちゃんが日に日に元気になっていったよね。
JMTを歩く前と歩いた後。私たちのビフォーアフター。
ーー カズ:JMTを歩く前と歩いた後で何か変化したことある?
やっちゃん:私、仕事柄、マニュアルに忠実であることが求められていたんです。こうなったらこうする、みたいな。もうそれがバカバカしくなりました。
いまの仕事があってこういうこともできてるので、辞めるとかはぜんぜん考えてないですけど、仕事のスタンスは変わったかな。決められたことをその通りにやるんじゃなくて、もっと臨機応変にやったらいいじゃんって。
のりちゃん:たった5日間でも、起きて太陽を感じてお腹が空いたら食べて歩いて寝るというシンプルな繰り返しがとても心地が良くて。あぁ、私はここに呼ばれたんだなと思いました。これは始まり。もっともっとトレイルを歩きたい。そう思うきっかけになりました。
さげちゃんが、エボリューション・レイクのテント場で仲良くなった女性ハイカーたち。後日トレイル上で再会したりと、一緒に楽しい時間を過ごした。
さげちゃん:ハイカーとの触れ合いを通じて、そこから生まれた出来事を楽しんだり、時には葛藤する時間さえも、自分にとってはロング・ディスタンス・ハイキングの醍醐味であって、景色や踏破すること以上に大切にしたいことだと気づきました。
そんなハイカーたちを魅了するトレイルは、JMT以外にどんなものがあるのか、さらにアメリカのハイキング観やアウトドア観まで興味がわいてきちゃって。いまはアパラチアン・トレイル(AT)や、ATのTRAIL DAYSがすごく気になっています。
次回、『WOMEN HIKE John Muir Trail』の3回目は、3人が旅に持っていった装備を紹介します。JMTでいったいどんなギアが役に立ったのでしょうか。
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