リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#22 / ULブランド創業者3人のミニマリズムの思想(後編) Mountain Laurel Designs
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文:リズ・トーマス 訳:平井聖也 写真:リズ・トーマス、TRAILS 構成:TRAILS
リズがULガレージブランドの創業者3人にインタビューをして、その知られざる歴史やフィロソフィーをレポートする全3回のシリーズ記事。
最終回は、Mountain Laurel Designs(マウンテンローレルデザインズ / MLD)のRon Bell(ロン・ベル)です。
今回の3部作は、リズがTRAILSの連載記事『BRAND STORY』にインスパイアされ、スピンオフ企画として出張インタビューをしてきてくれたものです。
リズが駆けつけた場所は、ULガレージブランドが集うMinimalist Party(ミニマリスト・パーティー ※)。2013年のパーティーには、日本からはULギアショップとしてHiker’s Depot、メディアとしてTRAILSが唯一参加。そんなTRAILSとしても思い入れのあるイベントです。
※Minimalist Party:2010年のOR(Outdoor Retailer Show / 世界最大級のアウトドアギア見本市)からスタートしたEvernew主催(当時)のイベントで、ウルトラライトギアのブランドやガレージブランドなどを中心とした、ミニマリストたちのパーティー。
今回のレポートは、MLDの創業者であるロン・ベルのマスプロメーカーに対する強いカウンター意識や、ULガレージブランド、ミニマリズムに対するプライドが感じられ、ULを愛する者にとってはかなり心震える内容になっています。最後には、2020年発売予定の新しいシェルターにも触れられています。
2002年にMLDを立ち上げた創業者のロン・ベル。TRAILSも参加した2013年のミニマリスト・パーティーにて。
ロン・ベル(Mountain Laurel Designs)のミニマリズムとの出会い。
ロン・ベルはギアに対するフィロソフィーとして、つねにミニマリズムを重視してきました。持ち物をできるかぎり少なくする習慣は、彼が特殊部隊のエクスプローラー・スカウト(14〜18歳を対象としたスカウト協会の一部門)だった頃から始まりました。
ロンは8オンス(226グラム)のポンチョタープでキャンプをし、化繊のライナーで寝ていました。すべての荷物をバックパックに入れても、ベースウェイトは5〜6ポンド(2.2〜2.7キロ)。10代の頃に母親のミシンでギアをカスタマイズしたり、自分でオリジナルのギアを縫ったりしていました。
20代でロンは、世界でもっとも優秀なレスキューチームのひとつとして知られる、ヨセミテ・サーチ・アンド・レスキュー(YOSAR)のクライマーになる。そこで彼は目的志向のギアの価値を学びました。
2002年、彼がアパラチアン・トレイル(AT)での週末トリップのために、バックパッキング・ギアを縫い始めたとき、すでにミニマリズムは彼のDNAの一部となっていたのです。
MLDのホームページには、ブランドのヒストリーやフィロソフィーも掲載されている。(https://mountainlaureldesigns.comより)
90年代以降ウルトラライトのシーンが作られはじめ、2002年にMLDを設立。
当時、バックパッキングの世界では、ウルトラライト(UL)のアイデアが注目されていました。1990年代後半、Ray Jardine(レイ・ジャーディン)の書いた『The PCT Hiker’s Handbook』によって、ウルトラライトの考え方が広まっていたのです。
その後 2000年にGoLite(ゴーライト)が生まれ、2001年にはBackpacking Light(※)のウェブマガジンがスタートしました。2002年から2006年にかけて、Six Moon Designs(シックスムーンデザインズ)、Gossamer Gear(ゴッサマーギア ※立ち上げ時の名称はGVP Gear)、Tarp Tent(タープテント)、ULA(ウルトラライトアドベンチャーイクイップメント)などの、ガレージブランドが立ち上がり始めました。
※Backpacking Light(BPL): 2001年に立ち上げられた、ULハイキングの情報を発信する米国のウェブサイト。ハイカーが集う各種のフォーラム(掲示板)では、グラム単位でのきりつめた軽量化のアイディアなども盛んに議論されていた。
当時、インターネット上には、ULギアのアイデアがたくさんありました。またゴーライトはアメリカ中に広告を掲載していました。このような時代背景のなか、マウンテンローレルデザインズ(MLD)も、ULシーンにおける主要プレーヤーになりました。
TRAILSも参加した2013年のミニマリスト・パーティーで撮影した一枚。今回のシリーズ記事で登場したULガレージブランドの創業者たち。
MLDは、DCF(旧称キューベンファイバー)を最初に使いはじめたガレージブランド。
もともとロン・ベルはジャーナリストとして25年間働いていて、彼は趣味としてバックパッキング・ギアを製作していました。MLDができて間もない2002〜2004年までの間、ロンはeBayでギアを販売していました。2004年頃から彼は製品ラインを拡大し始めます。2007年までにはジャーナリズムの仕事はほぼやらなくなり、ロンはMLDを本業にするようにしました。
防水透湿素材eVentを、他社に先駆けていち早くスノーゲイターに採用したのもMLD。
MLDは、DCF(ダイニーマ・コンポジット・ファブリック。旧称キューベンファイバー)をもっとも長く使い続けているブランドで、DCFを最初に使用したミニマリスト・カンパニーです。今ではDCFを使ったタープとシェルターを継続的に生産および販売している、もっとも古いブランドのひとつとなっています。
最近では、Sierra Designs(シエラデザインズ)のような大きなメーカーも含め、DCFを使っているブランドは何百とあります。それに対してロンは「私たちは長い間DCFを取り扱ってきたので、ずっとディテールまで改良し続けています」と語っていました。
MLDのULガレージブランドとしての矜持とフィロソフィー。
ロンは、自身のウルトラライトギアについての考えも語ってくれました。「ULギアには、さまざまなフィロソフィーがある。使い捨ての軽量ギア、スルーハイクのためのギア、さらには大手メーカーが “ウルトラライト” と呼ぶヘビーデューティーなギアなどがあります」。
それに続けて、こう説明しくれました。「大手メーカーは返品や交換の分も、製品価格のなかに組み込んでおかなければいけません。我々は、耐久性を最大限に引き出しながら、冒険の可能性を広げてくれるような、ギアの使い方をしてくれることに、チャレンジしているのです」。
MLDを象徴するシェルター「SOLO MID」。これは生地にスピンネイカーを採用した希少なモデル。今やさまざまなブランドで似たようなデザインがあるが、ピラミッドシェルター(三角テント)と言えば、MLD。
ロンは、「2000年代後半に、私たちが大手メーカーの1〜5%のシェアを取ったことで、大手メーカーは私たちの存在を意識し始めました」と言っていました。大手メーカーも “ライトウェイト” なギアをつくるメーカーとして、リブランドするようになったということです。
しかしロンは今年(2019年)のORショー(※)を見て、次のように感じたそうです。「今年はULギアを出展しているブランドが少ない気がしました。まるで大手メーカーは “ULギアはもうあまり売れないだろう” と言いたいかのように感じました。大手メーカーにとっては、ULギアを作るメリットがないのです。彼らは重いギアと少ないリターンで満足しているのでしょう」。
※Outdoor Retailer Show:世界最大級のアウトドアギア見本市。アメリカにて年3回開催。会場は、以前はユタ州・ソルトレイクシティだったが、2018年からコロラド州・デンバーに。ORあるいはOR showと呼ばれることが多い。
ロンが考える日本のULカルチャーの特徴。
MLDはガレージブランドですが、日本にもたくさんのユーザーがいます。日本人はミニマリストのフィロソフィーやギアの使い方を、よく理解している、とロンは感じています。そして小さなスペースのなかでどのようにギアを使うかを熱心に考えている、と。
ロンは、その背景の一部に日本文化が影響していると思っていましたが、彼はそれ以外の要因もあると考えていました。日本ではウルトラライトのコミュニティにいる人たちが一緒にハイキングをし、そこでアイデアを共有している。こういったカルチャーによって日本のミニマリスト・ギアは、一般的に認知されるようになっていった。そのようにロンは考えていました。
「EXODUS」の旧モデル。生地にダイニーマを用いたシンプルなデザインは、まさにULの代表的なバックパックのひとつ。
ULガレージブランドの強み。来年発売予定の新しいシェルター。
ロンは、ガレージブランドは規模が小さく、機動力もあるため、ミニマリストの分野においては、大手メーカーよりも有利だと考えています。「あたらしい製品をつくるときのコストも、私たちは大手メーカーよりもはるかに少ない金額で始められます」と彼は言います。
ロンは私に2020年に出す予定である、発売前の製品をこっそり見せてくれました。それはMLDが現在販売しているものよりも30%軽く、より耐久性のあるシェルターでした。
MLDのFacebookグループでは、製品フィードバックのために、頻繁にユーザーやファンにアンケートをしていることは、よく知られています。彼らはユーザーと対話することによって、あたらしいギア作りをしているのです。
最後に、ロンはこう語りました。
「軽量化のために我々がすべきことは、マーケティングのギミックではなく、ユーザーのニーズを満たすことなのです」。
TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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