TRAILS環境LAB | 松並三男のSALMON RIVER #09 こめ油を使った川鮭の新レシピ開発
文・写真:松並三男 構成:TRAILS
What’s TRAILS環境LAB? | TRAILSなりの環境保護、気候危機へのアクションをさまざまなカタチで発信していく記事シリーズ。“ 大自然という最高の遊び場の守り方 ” をテーマに、「STUDY (知る)」×「TRY (試す)」という2つの軸で、環境保護について自分たちができることを模索していく。
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『TRAILS環境LAB』の記事シリーズにおいてスタートした、松並三男 (まつなみ みつお) くんの連載レポートの第9回目。
松並くんは一昨年パタゴニアを退職し、山形県鮭川村に家族で移住した。そして鮭川村の鮭漁の現場で、「鮭」をテーマに環境問題に取り組んでいる。この連載を通じて、僕たちも環境保護の「STUDY」を深めていく。
山形では伝統食として、川鮭を寒干しにした「ようのじんぎり」などはあるが、それだけでは使い切れずに無駄になる川鮭が存在する。
伝統食にはない、川鮭をおいしく食べられる調理方法が見つけられれば、あらたな川鮭の循環のあり方をつくれるはずだ。
そんな思いをぶつけてみたところ、快く協力してくれたのが、今回登場するこめ油メーカーさんだ (経緯については前回の記事にて紹介。詳しくはコチラ)。
今回の記事は、そのこめ油メーカーのテストキッチンを借りて、プロの栄養士のサポートも得ながら、川鮭の新レシピ開発の実験をしたレポートである。
こめ油製造をしている三和油脂株式会社のテストキッチンでのレシピ開発。
春の釣りを妄想しながら、手作りルアーを仕込む日々。
こんにちは! 松並です。今年は雪が多くスノーボードが楽しすぎて若干遅れ気味になってしまったのが、春にむけたルアーづくりです。
春に向けたハンドメイドルアー制作。僕の作るルアーは、会津桐を削り、色も塗らずにアルミを貼るだけ。
今作っているのは春のサクラマスに向けたものですが、シーバスやブラックバスなど、だいたいなんでも釣れてしまう万能選手。
東北の木で東北の魚を、ということで会津桐を使っているのですが、硬さ、浮力、加工のしやすさ、ルアーを作るうえではどれをとっても素晴らしい木材だと思います。ストーブの前で春を妄想する幸せな時間です。
「伝統食で使い切れない川鮭」を、どうやって食べるか。
さて、本題です。今回は川鮭の新たな調理法を紹介したいのですが、そもそもなぜ新しい調理法が必要なのかを説明します。
鮭川村の「鮭の新切り (ようのじんぎり)」は、塩と乾燥による伝統食のひとつ。鮭の旨味が最も引き出される。
まず重要な前提ですが、僕は、鮭の個性が一番際立つのはあくまで伝統的な保存食だと考えています。
塩引き、鮭とばなど、古くから伝わる鮭の伝統食は呼び名や細かい違いはあれど、塩と乾燥という基本要素はすべて同じです。
冷蔵庫がない時代に保存性を高めるために生まれた方法ですが、旨味についても大きな強みがあります。
塩漬けにより身の水分が抜け、寒風の中でゆっくりとタンパク質が旨味のアミノ酸に変化していきます。気候風土を活かした最も無駄のない方法であり、鮭特有の旨味に関しては、これを超える方法を僕は思いつきません。
この前提の上で、それでも新しい調理法を模索する理由は、伝統食で使い切れない鮭が存在しているからです。
孵化事業のための鮭漁においては、傷だらけの鮭も多い。こうした個体は、丸ごと使用する伝統食には向いていない。
川での鮭漁では、傷のある雄や、卵を抱えて身が痩せた雌が、数多く水揚げされます。しかし、傷だらけの個体や痩せた個体は見栄えが悪く、塩引きなどの丸ごと干すような方法には、使いにくいという現状があります。
また、伝統的な保存食は旨味とともに魚特有の香りも強く、現代の食生活では好みがわかれるというのも正直なところです。
そのため、こうした伝統食で使い切れない鮭に対して、子どもから大人まで誰でも食べやすい方法が必要だ、と考えるようになりました。前置きが少し長くなりましたが、これから紹介する新しい調理法の実験は、この「伝統食で使い切れない鮭」についての食べ方の模索です。
こめ油メーカーの協力を得て、新しい調理法を実験。
前回の記事で少し触れましたが、2月2日に山形県天童市でこめ油を製造している三和油脂株式会社の協力のもと、こめ油を使った新しい調理法をテストしてきました。ここからは、その結果をレポートします。
まずは鮭を3枚におろし、皮をひいて切り身にします。こうすることで、傷などの見た目は関係なくなります。切り身としてさばくときに発生する頭やアラも、無駄なく使うために魚醤にします。切り身での良い調理法さえ作り出せれば、水揚げした川鮭すべてを、無駄なく美味しく使い切る道筋が見えてくることになります。
こめ油の原材料は国産の米ぬかのみです。米が主食の日本において、米ぬかは精米時にかならず発生する副産物でありながら、米の栄養素のほとんどが含まれています。
癖が少なく、酸化しにくいという特性から揚げ物や和食に合うと言われています (今回使用したこめ油の詳細。https://sanwa-yushi.co.jp/riceoil/)。
それに対して、今回比較用に使った菜種油はキャノーラ油とも呼ばれ、日本では最も多く消費されている一番身近な食用油です。
新しい食べ方 #1 鮭のからあげ
粉2種類 (米粉、片栗粉) 、味付け2種類 (マヨネーズ有り無し、米ぬかパウダー有り無し)、油2種類 (こめ油、菜種油) の全組み合わせ8パターンを試してみました。
全体的にはどれも美味しかったのですが、特に群を抜いていたのは「米粉、こめ油マヨネーズ、こめ油」の組み合わせでした。
淡泊な川鮭にコク、甘み、酸味が加わり、まさに子どもから大人まで食べやすいと思われる美味しさでした。
油の違いについては、菜種油と比べると、こめ油は酸化安定性が高いことにより後味が軽く、優しい甘みがありました。
この甘みは、こめ油特有の栄養素であるγオリザノールが加熱されてバニリン (バニラの香りのもととなる物質) に変化するためだそうです。
米ぬかパウダーは、三和油脂株式会社の「ハイグレフ」というきな粉に似た食べる米ぬかなのですが、ぬかの香りが強くて少し粉っぽくなってしまったので、味ではやはりマヨネーズに軍配が上がりました。
新しい食べ方 #2 鮭のさつまあげ
鮭の切り身をミンチにし、卵、はんぺん、玉ねぎ、大葉を混ぜて油で揚げたものです。
からあげと同様に2種類の油を使って揚げましたが、こちらも菜種油と比較するとこめ油は甘みがあり軽い仕上がりとなりました。
これも子どもから大人までおすすめできる美味しい食べ方でした。
新しい食べ方 #3 鮭マヨネーズ & 鮭フレーク
焼いて、ほぐして、マヨネーズやこめ油と和えるだけ。超シンプルな食べ方。
オーブンで焼いた鮭をほぐしたものに、こめ油マヨネーズを和えた「鮭マヨネーズ」と、こめ油を和えた「鮭フレーク」を作りました。
こめ油マヨネーズは市販されているマヨネーズよりも酸味をおさえた優しい味のため、鮭の味をいい塩梅で引き立ててくれました。
鮭フレークもこめ油を和えるだけで原材料である米由来の優しい甘みとコクが加わるため、シンプルながらこれも美味しかったです。
新しい食べ方 #4 鮭のオイル煮
オイル煮は、脂が少ない魚におすすめ。低温調理は油の個性が出る。
オイル煮は、いわゆるツナ缶的な感じになります。脂が少ない魚を釣った時などにおすすめのレシピで、僕自身もシイラなどでよく作っていました。
今回は鮭と油の相性を確かめるため、にんにく、鷹の爪、油だけのシンプルなレシピで試作しました。
材料をいれて弱火で煮るのですが (100℃以下)、シンプルなだけに油の個性がはっきりでました。
比較すると菜種油はさっぱりしていて味が薄いのに対し、こめ油は甘みとコクがあり、鮭の味を引き立ててくれました。
こめ油と川鮭の相性の良さは間違いない。
特に美味しかったのは鮭とこめ油マヨネーズの組み合わせで、和えるだけでそのまま食べるのはもちろん、下味に使う場合もコクと深みがでることがわかりました。
こめ油特有の優しい甘みは、特にオイル煮で強く感じました。こめ油と鮭との相性を確かめるために行なった今回のテストは、全体的に狙った通りの美味しさで、相性の良さは間違いありません。
ここからさらに新しいアイディアも出はじめているため、引き続きこめ油を使った川鮭の美味しいレシピをブラッシュアップしていく予定です。
今後はレシピが定まってきた段階で、まずは地元の人たちや飲食店へのレシピ提案からはじめていき、ゆくゆくはなんらかのカタチで製品化し、食材のストーリーとともに多くの人に届けられるように頑張ります!
今回のテストで、こめ油と川鮭の相性の良さが実証され、川鮭の新しい食べ方においてまた一歩前進した松並くん。
次回は、川鮭を用いた伝統的な保存食「鮭の新切り (ようのじんぎり)」にフォーカスを当てた内容だ。
新しい食べ方にトライしつつ、既存の伝統食をどう広めていくか。この課題に対する松並くんのチャレンジの模様を、レポートしてもらう。
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