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文・写真:ジェフ・キッシュ 訳・構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

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ジェフがハイカーとして旅した、PNTのスルーハイキング・レポート (全7回) の5回目。他のメディアでは読めない、日本語による貴重なPNTのレポートだ。

ジェフはこれまで、ディレクターという立場からPNTの魅力を伝えてきてくれたが、この全7回の記事では、ハイカー・ジェフとして旅のエピソードを綴ってもらった。

今回は、ワシントン州のなかでもとりわけ僻地で、いまだ原始の自然が残るパサイテン・ウィルダネスのレポートだ。

PNTの西端をスタートしてから、ずっと一人で孤独な旅をつづけてきたジェフだったが、このセクションはある人と一緒に歩くことになる。その人とは、当時ガールフレンドだったハンナさん (現在はパートナー) だ。

気温が氷点下から40℃以上までと、厳しい自然環境のエリアではあるが、それすらもハンナと一緒に楽しみ、まるでウィルダネスを独り占めしているかのような最高のトリップとなったようだ。


パサイテン・ウィルダネスのPNTから見たレンメル山。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


ガールフレンドのハンナと合流し、孤独から解放される。



ハイ、ジェフです! 僕のPNTスルーハイキング・レポートの第5回目をお届けするよ。

オロビルにたどり着くまで、このPNTのスルーハイキングはとても孤独だった。まだ他のスルーハイカーにも会っていなかったし、何日間もまったく人に会わない日がつづいていた。

しかし、ワシントン州の連続する3つのウィルダネスをつらぬくPNTのなかで、もっとも長く、もっとも人里離れた場所をハイキングするために、ガールフレンドのハンナがオロビルに来てくれた。それで、すべてが変わったんだ。


僕と一緒にハイキングするために、オロビルの町まで来てくれたハンナ。手にしているのは、僕が摘んできたハックルベリー。ウエスタン・パサインテンでは、おいしいベリーがたくさんとれる。

オロビルからは、町の西側にあるシミルカミーン川に沿って進んでいく。他のPNT沿いのエリアと同様、このオカノガン高地の気候は、高温で乾燥している。ロング・ディスタンス・ハイカーの多くが通過する8月には、気温が40℃に達することもあるんだ。

1860年、探鉱者がシミルカミーンで金を発見した。それで近くのオロビルは、スペイン語で金属を意味する「Oro (オロ)」と名付けられた。シミルカミーン川に沿ってハイキングをしていると、今でも川で行なわれている小規模な採掘作業を目にすることができる。とはいえ、このセクションでは、お金持ちよりもガラガラヘビに遭遇する可能性のほうが高いけどね。


PNTは、モンタナ州、アイダホ州、ワシントン州の3州をまたぐ1,200mile (1,930km) のロングトレイル。今回のレポートでは、ワシントン州・オロビル〜ロス湖までの約162mile (約260km) を紹介してくれた。


厳しい自然環境のパサイテン・ウィルダネスを歩く。


川の長いカーブを曲がった後、PNTはシミルカミーン川からパサイテン・ウィルダネスに向かって登り坂になっていく。標高が上がるにつれて、環境もどんどん変わっていくんだ。低地のヤマヨモギ地帯でコヨーテに会い、亜高山帯の森ではムースに会う。それが1日のなかで起こるんだ。


アメリカでは、ウィルダネスエリアは「地球と生命の共同体が人間に邪魔されず、人間はそこにとどまることのない訪問者である」と定義された保護地域。指定されたウィルダネスにおいては、舗装道路もなければ、モーターを使用した交通手段や設備もなく、自転車でさえも禁止されている。

パサイテン・ウィルダネスに入ると、標高2,000mから2,400mくらいのところを、ずっとトレイルが続いていて、そこを何日もかけて歩いていくんだ。PNTは緯度が高いので、これくらいの標高でも、森林限界を超えた景色が続くんだ。岩の多い高所の峠を登ったり、高山の牧草地にきらきら光る小さな湖が点在するエリアをトラバースしたりして進んでいく。

パサイテン・ウィルダネスを夏に歩く場合、ハイカーはどんな天候にも対応できるようにしておく必要がある。シミルカミーン渓谷では厳しい暑さがつづいていたが、ハンナと僕は、この地では1年中いつでも氷点下になる可能性があることを知っていたし、実際、僕たちが通過した8月初旬もそうだった。


この築100年のキャビンは、このエリアがウィルダネスに指定される前に建てられたものだが、それでもキャビンや隣接する鉱山を建設するために、道路は作られていない。1900年代初頭、冬の雪の上を馬で引っ張って資材を運んだのである。

嵐のなか、僕たちは運良く、避難場所に入ることができた。そこは古い鉱山宿で、1900年代初頭に建てられたものだった。パサイテン・ウィルダネスの東側には、こういった小屋が残っていて、そのなかのいくつかの小屋は今でもハイカーの避難場所となっているんだ。僕たちは中に入ると、薪ストーブがあったので、それで火を起こして、一晩過ごすことができたんだ。道具や服も、小屋の梁 (はり) にかけて乾かすことができたよ。


トレイルを外れ、カテドラル・ピークでスクランブリングを楽しむ。


翌日、嵐は去り、気温も上昇した。僕たちは荷物をパッキングして、小屋を後にして西へと進んだ。

僕たちが歩いたパサイテン・ウィルダネスの真ん中に、カテドラル・パスがあって、そこがカテドラル湖への入口になっている。このカテドラル・パスはPNTの最高地点なんだ。そこからは、眼下に広がる高山盆地の素晴らしい景色を眺めることができるんだよ。峠の南側には、盆地を見下ろすようにアンフィシアター山もそびえ立っている。


カテドラル・パスの頂上にて。後ろに見えるのは、アンフィシアター山。

トレイルは西に続いているんだけど、ハンナと僕は、ここから北にあったカテドラル・ピークの山頂にサイドトリップをすることにしたんだ。このカテドラル・ピークからの景色が、世界中のどんなハイキングにおいても見たことのない最高の景色だったんだ。

でも、ここへ行こうと思うハイカーは、気をつけてほしい。なぜなら、カテドラル・ピークの頂上にトレイルはないし、しかも上に行けば行くほど難易度が高くなり、スクランブリング (※) を強いられることになるからね。

※ スクランブリング:手足を使って岩場をよじ登りながら頂上を目指したり、縦走したりするアクティビティ。明確な定義はなく、ハイキング、登山、ロッククライミングの中間に位置する。


スクランブリングをしながら、カテドラル・ピークの頂上へ。


PCTと重複するセクションで、PCTのスルーハイカーたちと遭遇する。


その後の数日間は、とにかく素晴らしいハイキングだったよ。カテドラル・ピークからの眺めのように、これまでに見たことのないような景色が広がっていた。

PNTのこのセクションは、パシフィック・クレスト・トレイル (PCT) におけるジョン・ミューア・トレイル (JMT) のセクションに近いかもしれない。PNTのこのセクションには、スルーハイキングのハイライトともいえる広大な景色があるんだ。

260kmにわたり指定されたウィルダネスでは、ハイカーが道路に出くわすことはなく、自然との一体感をものすごく味わえる。


カテドラル・ピークは、カテドラル湖の盆地の東端にそびえ立っている。

JMTと違うのは、ここでは目の前に広がるウィルダネスを、独り占めしているような気分になれるってことだ。PNTを歩いている人以外はまったく人が入らないような、辺境の場所があるんだ。

PNTのなかでも、PCTと交わるセクションでは、少し人が多くなる。PNTとPCTはキャッスル・パスで合流する。西に向かって歩いているPNTハイカーも、そこから5km寄り道すればPCTの北端のモニュメントに訪れることもできるんだ。PNTはこのキャッスル・パスから、PCTと重複するトレイルを約20km南下していく。そしてホルマン・パスのところでふたたびトレイルが分岐して、PNTはそこから西へと進んでいくんだ。


キャッスル・パスにあるPNTとPCTの分岐点。左に行くとカナダ国境、右に行くとはモンタナ州。

ハンナと僕はキャッスル・パスのキャンプ場で一晩を過ごした。このセクションの序盤で天候に悩まされて食料が不足していたけど、スルーハイキングの終盤に差しかかったPCTハイカーたちが、カナダに入る際に荷物を軽くしたいと食料を譲ってくれたので、とても助かったよ。

PNTとPCTの重複区間では北へ向かうPCTのスルーハイカーに遭遇したけど、ほとんどの人がPNTの存在を知らなかった。僕たちは、パサイテン・ウィルダネスを独り占めしたような感じがして、最高にいい気分だったね。


ハンナにとって、今回が初めてのロング・ディスタンス・ハイキングだった。前方に見えるのはジャック山。


このセクションでもっとも好きな、ジャック山の眺め。


ホルマン・パスからは、ロス湖を目指してふたたび西に進んだ。カスケード・クレストの西側を下ると原生林に入っていく。そこで、イースタン・パサイテンで経験したような高山を眺められるトレイルはもう終わりかと思ったけど、ほどなくして、また最高の景色に出会えたんだ。


デビルズ・ドームの近く、PNTから見たジャック山。

PCTとロス湖の間のトレイルで僕がもっとも気に入っているのは、デビルズ・ドームと呼ばれる頂上周辺のセクションだ。PNTはデビルズ・ドームの頂上を通っているんだけど、そこから南側にあるジャック山の眺めが素晴らしいんだ。ここは最高のキャンプ地でもあって、ここでのキャンプを目的にハイキングする人もいるくらいだ。


デビルズ・ドームの頂上にて。

でも僕たちは、ここで長居をせずに、すぐにこの先のロス湖まで進むことにした。オロビルからここまでで、予定よりも長く11日間もかかってしまっていたから。そして、ロス湖に着くと、そこで事前に送っておいた補給用の荷物をピックアップしたんだ。


ロス・レイク・リゾートの波止場。このリゾートにつながる道路はなく、物資はすべてボートで運ばれる。ハイカーは、20ドルの保管料を払えば、ここに補給物資を郵送することができる。リゾートにはレストランがなく、水上コテージは事前にレンタルしなければならない。

標高が高く、絶景が楽しめるセクションを、ハンナと一緒に旅したジェフ。

サイドトリップで出会った、カテドラル・ピークの人生最高と言えるような景色。PCTにおけるJMTのような、PNTの景色におけるハイライトである、まったく人がいないウィルダネスのスペクタクル。PCTと交わるところでの、異なるハイカーとの出会い。これ以上にないと思えるほど、華やかなセクションだ。

次回は、ワシントン州西部へと入っていく。いよいよスルーハイキングの旅も終盤に入る。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

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文・写真:ジェフ・キッシュ 訳・構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

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ジェフがハイカーとして旅した、PNTのスルーハイキング・レポート (全7回) の4回目。他のメディアでは読めない、日本語による貴重なPNTのレポートだ。

ジェフはこれまで、ディレクターという立場からPNTの魅力を伝えてきてくれたが、この全7回の記事では、ハイカー・ジェフとして旅のエピソードを綴ってもらった。

今回は、PNTの3つ目の州・ワシントン州の東部のレポートである。

表紙の写真は、今回歩いたセクションにある、リパブリックという町の景色。昔ながらのアメリカ西部の町のたたずまいを残した場所だ。この景色だけでも旅欲を刺激される。

今回のセクションは、こういったアメリカの歴史に触れるような場所もあれば、カンジキウサギやファイアウィード (ヤナギラン) 、さらにはマウンテンライオンとの遭遇など、野生の動物や植物が多く見られる場所もある。

今回も、アメリカ北西部のカルチャーや自然を楽しみながら、ジェフのPNTの旅を追いかけていきたいと思う。

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PNT沿いにたくさん自生している花と松。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


ワシントン州東部で2番目に高い、アバクロンビー山へ。


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ハイ、ジェフです! 僕のPNTスルーハイキング・レポートの第4回目をお届けするよ。

ワシントン州のメタライン・フォールズに、ペンド・オレイル川に架かる橋があり、トレイルはここから西へと向かっていく。

その先は、ワシントン州東部で2番目に標高が高いアバクロンビー山に向かって、ゆっくり登る。ちなみに、このアバクロンビー山の周辺は、ウィルダネスエリアに指定される予定になっているんだ。

日没前にアバクロンビー山に登頂した僕は、風よけのために、山頂に積み上げられていた石の横にビバークすることにした。

この山にはかつて展望台があったが、今では石積みの階段の一部が残っているだけだ。僕は風よけの内側で横になった。床は、がたがたと動く石で、風よけの壁からもすき間風が吹き込んできた。展望台があった当時は、そのなかに快適な宿泊施設があったんだと思う。

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PNTは、モンタナ州、アイダホ州、ワシントン州の3州をまたぐ1,200mile (1,930km) のロングトレイル。今回のレポートでは、ワシントン州・メタライン・フォールズ〜オロビルまでの約240mile (約380km) を紹介してくれた。


山頂でのビバークで、スリーピングマットがパンクしてしまう。


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アバクロンビー山の山頂にある、古い展望台の跡。

一夜を過ごすべく、スリーピングマットの上に横になってダウンキルトをかけた直後のことだった。山頂にあるフレーク状の岩の角がグラウンドシートを突き破り、スリーピングマットの底をきれいに切り裂いたんだ。

穴は大きくて、簡単に直せるレベルじゃなかった。一晩中、定期的にマットを膨らませてもダメなほど。穴が開いた瞬間、僕は自分がどんな場所で寝ているかを理解したよ。これは長い夜になりそうだ。

寒い朝はいつも、居心地のいいスリーピングバッグからなかなか出られない僕なんだけど、この日は朝陽が出るのと同時に起きたよ。近くの焚き火の煙が、朝陽のオレンジ色の光のなかを立ちのぼり、僕を包み込んでいた。そんな景色のなか、荷物をパッキングして先を目指した。


「ワシントン州で最も古くからある酒場」があるノースポートの町。


アバクロンビー山の山頂から、ワシントン州のノースポートという町に下りてきた。ノースポートは、カナダとの国境のすぐ南、コロンビア川の東岸に位置している。

コロンビア川がこんな場所から流れていることは、あまり知られていない。パシフィック・クレスト・トレイルを流れるコロンビア川からは、何百マイルも離れているからね。

コロンビア川は巨大な川だ。ここから先でスネーク川と合流し、そしてフッド山やアダムス山などの巨大な火山からの水が流れ込んでいく。でも、このペンド・オレイル川と合流する地点では、コロンビア川はまだはじまったばかりなんだ。

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ノースポートへつづくトレイルにある小さな農園。

ノースポートの町にある「ククズ・タベルン」というお店に入って、そこで僕は夕食をとった。このお店は、「ワシントン州で最も古くからある酒場」と言われているお店なんだ。1889年からずっと営業しているらしい。このお店にいた地元の人たちが、僕の旅に興味を持ってくれてね。それで家の裏庭でキャンプをしていいよと言ってくれたんだ。


ファイアウィードの花やカンジキウサギに出会えた「クレスト」。


翌朝、僕は先へと進んだ。目の前には、南北に連なるケトル・リバー・レンジという名高い山々があって、PNTはそこに合流し、山頂に沿ってつづいている。

地元の人たちは、PNTのこのセクションを、「ケトル・クレスト・トレイル」、または略して「クレスト」と呼んでいる。ワシントン州東部の乾燥した森林の中を、アップダウンしながら進んでいくトレイルだ。

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ケトル・クレスト沿いで目にした、カモフラージュされた蝶。

このエリアは、標高の低いところではポンデローサマツ、高いところでは亜高山性のモミやホワイトバーク・パインの木々が並んでいるんだ。

稜線には草木が生えておらず、それが高いところまでつづいている。節だらけの屈曲した低木が、その稜線のまわりを囲むように生えている。

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ケトル・クレストにはファイアウィードが群生していた。

最近、このケトル・クレストの一部は焼失してしまったんだ。それでも、この一帯の景色は美しかったね。黒く焦げた枯れ木が、一面のファイアウィード (※1) の花に囲まれて、ピンク色に染まっていた。

カンジキウサギ (※2) も見かけたよ。カンジキウサギは、夏は柔らかな体毛が茶色になるんだ。夜には、フクロウが空を旋回してる影も見えたんだ。

※1 ファイアウィード:北アメリカ原産の植物。山火事などの跡に生える植物で、日本ではヤナギランと呼ばれる。

※2 カンジキウサギ:主に北米に生息するウサギ。夏毛は茶色く、冬毛は白い。


マウンテンライオンと遭遇。ビクビクしながらテントで一夜を過ごす。


ケトル・クレストは、ワシントン州のリパブリックという町を囲む、馬蹄形トレイルの東側にあるんだ。僕はこの町で補給をすることにしていた。それでケトル・クレストから深い森に下りていったら、野生動物と出会ったんだけど、それは人生で最も興奮した経験のひとつだったね。

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ケトル・クレストで見つけたヘビ。

そのとき、僕がビクビクしていたのは、何かの音を耳にしたからだ。猫はひっそりと歩くことができるけど、この猫は大きすぎて瓦礫のエリアを音を立てずに移動することはできなかった。僕が振り向いて目が合ったとき、お互い固まってしまったよ。だって僕は今、マウンテンライオン (※3) のすぐそばに立っていたのだから。

僕にとっては貴重な出会いだったけど、マウンテンライオンにとってはほんの一瞬の興味にすぎなかったようだ。

僕はトレッキングポールを叩いて、声を上げた。マウンテンライオンはしばらく気にもとめず立っていたが、威嚇するというよりは退屈しているかのように、林の中へと去っていった。

僕はテントを設営して、すぐに中に入った。まだ外に潜んでいるかもしれないという恐怖があったから、長い夜だったね。

※3 マウンテンライオン:ネコ科の大形哺乳類で、北米〜南米にかけて生息している。ピューマやクーガーとも呼ばれる。

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ケトル・クレスト沿いにあるテントサイト。


アメリカ西部を象徴する佇まいのリパブリックで、たっぷり休憩をとる。


リパブリックは山の中にたたずむ小さな町で、古いアメリカ西部を象徴するような風情のある素晴らしい町なんだ。

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リパブリックの中心部。

この町は、ロング・ディスタンス・ハイカーが必要とするものもすべて揃っている。町の中心部には数多くの宿泊施設があり、小さな食料品店や地元のブルワリーもある。この町の郵便局で荷物を受け取るハイカーもいると思うけど、実はここの郵便局長はトレイル・エンジェルでもあるんだ。

僕はその町で存分に休息をとり、パンクしたスリーピングマットも修理した。そして後ろ髪を引かれながらリパブリックを後にして、西へと進んだ。


ゴツゴツした岩場を超えて、PNTの中間地点へ。


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ウィスラー・キャニオンからオカノガン川を望む。

次のセクション、リパブリックからオロビルまでのハイライトは、ウィスラー・キャニオンと呼ばれるエリアだ。

この荒々しい岩場では、野生のオオツノヒツジに出会える可能性があるんだ。その一方で、ここからオカノガン・リバー・バレーに下りていった場所は、猛暑で乾燥しているときだと、ガラガラヘビに注意しなければならない。

オロビルは、カナダとの国境にまたがるオソイヨーズ湖の南端にある。ここは、東のケトルリバー山脈と西のカスケード山脈に挟まれた、低地の農業地帯だ。

パシフィック・ノースウエスト・トレイルの中間地点でもあり、このエリアで最も長く美しいウィルダネスのはじまりでもあるので、PNTのなかでもとても重要な町なんだ。

僕は、この町にある唯一のモーテルにチェックインした。そして2日間滞在して、この先の旅に向けて準備をした。

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ケトル・クレストから見る夕焼け。

全長1,200mile (1,930km) におよぶPNTの中間地点の町、オロビルにようやくたどり着いたジェフ。

今回のセクションは、マウンテンライオンとの遭遇もかなりの驚きであったが、昔からのアメリカ西部の町のたたずまいを残した、リパブリックの景色も印象的であった。

このスルーハイキング・レポートも、残すところあと3回となり、次からPNTの後半戦へと入っていく。次回は、ワシントン州の中央部のエピソードだ。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

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文・写真:ジェフ・キッシュ 訳・構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

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ジェフがハイカーとして旅した、PNTのスルーハイキング・レポート (全7回) の3回目。他のメディアでは読めない、日本語による貴重なPNTのレポートだ。

ジェフはこれまで、ディレクターという立場からPNTの魅力を伝えてきてくれたが、この全7回の記事では、ハイカー・ジェフとして旅のエピソードを綴ってもらった。

今回は、PNTの2つ目の州であるアイダホ州でのエピソードがメインとなる。アイダホは最近までこの地域に固有のカリブーの群れが生息していた、ウィルダネスが多いセクションだ。

またルート・ファインディングが必要なオフトレイルを進む、PNTのなかでも最も険しいセクションのひとつでもある。

今回も、アメリカ北西部の素晴らしい景色を楽しみながら、ジェフの旅を追体験してみてほしい。

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パーカー・リッジへの登りから眺めるクーテナイ・リバー・バレー。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


補給で立ち寄ったボナーズ・フェリーからPNTに戻る。


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ハイ、ジェフです! 僕のPNTスルーハイキング・レポートの第3回目をお届けするよ。(後ろにあるのは愛車のバン)

アイダホ州のボナーズ・フェリーの町で補給した後、僕は車に乗せてもらって、トレイルに戻るために北へと向かった。地元のトレイル・エンジェルが、PNTハイカーの送迎サービスをしてくれているので、その車で送ってもらったんだ。

PNTハイカーが、ボナーズ・フェリーに立ち寄るにはヒッチハイクが必要になる。でもそれを避けたいなら、トレイルのすぐ北にあるフィースト・クリーク・リゾートに行くといいよ。そこは、とてもハイカーフレンドリーなトレイル・エンジェルが、オーナーとして運営している施設なんだ。

ちなみに、ボナーズ・フェリーのすぐ西には、静かな農道沿いを歩けるトレイルがあって、その道をずっと進むと、セルカーク山脈の麓まで歩くことができる。この山脈は、クーテナイ・リバー・バレーの西端に位置しているんだけど、この渓谷とそこを流れる川の名前は、この地域の先住民族が使っていた名前をそのまま使っているんだ。その先住民族は、数千年前からこの地域に住んでいて、現在もこの場所で生活しているんだ。

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PNTは、モンタナ州、アイダホ州、ワシントン州の3州をまたぐ1,200mile (1,930km) のロングトレイル。今回のレポートでは、アイダホ州・ボナーズ・フェリー〜ワシントン州・メタライン・フォールズまでの約100mile (約160km) を紹介してくれた。


アメリカ北西部の高山地帯を一望できるパーカー・リッジ。


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ヒューズ・メドウズにある歴史ある山小屋。

パーカー・リッジに向かって登り始めると、PNTのトレイルは、よくあるようなきちんと整備された登山道に入っていく。このパーカー・リッジは、PNTのアイダホ州のセクションのなかでも、ハイライトとなる景色の一つなんだ。

トレイルは森林限界を超えて、白い花崗岩でできた細い尾根に続いている。その尾根からは、モンタナ州からワシントン州までの景色を一望することができるんだ。

このアイダホ州西部の辺境にある高地には、最近まで、カリブーの群れが生息していたんだよ。この群は、アメリカ合衆国本土に生息していた、最後のカリブーの群れだったんだ。このカリブーは、ツンドラエリアなどに広く分布しているカリブーとは種類が違って、見た目や行動も個性的なカリブーだったんだ。

アイダホのカリブーは、深い雪に沈まないために巨大なヒヅメを持っていたり、標高の高いところで冬を過ごすため、老木にしか生えない地衣類 (※1) を食べて生き延びたり、このエリアに高度に適合した採食行動をとっていたんだ。

このカリブーは、ここ最近は、生息できる場所がなくなったり、オオカミに捕食されたりしているんだけど、生息数を回復させる取り組みが進められてもいる。

※1 地衣類 (ちいるい):菌類の仲間で、藻類と共生している複合体のこと。世界中に広く分布し、身近なところでは、木の幹やコンクリートの側面などに付着している。

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最高の景色が味わえるパーカー・リッジ。

パーカー・リッジは、PNTのなかでも水場が少ないセクションの一つで、長い距離、ずっと吹きさらしのところを歩くから、ハイカーは注意が必要だ。

緊急時には、眼下の樹林帯のなかにある湖まで降りることができるけど、かなりの距離を移動することになるし、またトレイルに復帰するために登り返してくるのもきつい。

僕はハイキング中に脱水症状になりかけたけど、幸いにも尾根の北側に残雪を見つけて十分な水を補給することができた。それで、なんとかその先の水場がたくさんあるエリアに行くまで、持ちこたえることができたんだ。


PNTのなかで最も難しいセクションのひとつが始まる。


パーカー・リッジからPNTは南西に進み、ボール湖へと向かう。ハイカーは、この湖のところで止まって、一泊した方がいい。この先にとても険しいセクションがあって、そこは明るい時間帯にトラバースしたほうがいいからだ。

この湖はキャンプするのに、最高の場所でもあるんだ。湖にはたくさんのトラウトがいて、ウサギの遠い親戚であるアメリカン・ピカ (ナキウサギ) の鳴き声が、まわりの花崗岩に反響して聞こえてくるような場所なんだよ。

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ボール湖から見晴らし山に至るエリアには、大きな岩や倒木の上をスクランブリングして越える必要がある。

翌日はPNTのなかで最も難しいセクションのひとつが始まる。ボール湖でトレイルは終了し、そこからハイカーは、原野のなか自分の力でルートを探しながら進まなければいけないんだ。標識もトレイルもなく、信じられないほど険しい地形も越えなければならない。

ここを越えるには主に2つのルートがあるんだけど、PNTAの地図とGuthookアプリには、その両方が載っているよ。

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プリースト湖のあるプリーストレイク・シーニックエリアは、サーモ・プリースト・ウィルダネスの指定エリアへと続いている。

ひとつは北の上りルート。これは、森林限界の上まで、むきだしの花崗岩の断崖を登っていくルートだ。上まで登ると、見晴らし塔がある。名前もそのまま「見晴らし山」という名前が付いたところで、そこで明瞭な道にふたたび合流することができる。

もうひとつは南の下りルート。生い茂った深い森のなかにある排水路を下っていくルートだ。この道はライオン・クリークに沿って続いていて、山の麓のところでトレイルに合流する。


スクランブリングで岩場を登るハイルートか、藪漕ぎのロールートか。


どちらのルートにも難所がある。北側のハイルートには露出した地形が多く、難しいスクランブリング (※2) が必要になるし、南側のロールートは藪漕ぎが必要で、動物と出くわす可能性が高い。

僕は、みんなによく知られているほうのロールートを選択した。でも、もう一度行くとしたら、ハイルートを選ぶね。

なぜなら、森にはカリブーはもう生息していないけど、グリズリーベアをはじめとする野生動物がたくさんいるからだ。僕はここを横断している時にグリズリーベアには遭遇しなかったけど、ブラックベアの親子の新しい足跡を見つけたし、ヘラジカにも出会ったよ。

※2 スクランブリング:手足を使って岩場をよじ登りながら頂上を目指したり、縦走したりするアクティビティ。明確な定義はなく、ハイキング、登山、ロッククライミングの中間に位置する。

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ヒューズ・メドウズにある、歴史あるキャビンのひとつ。

このセクションの難易度の高さと危険性は、あなどってはいけない。ナビゲーションが難しいだけでなく、地形自体が危険だからだ。事実、最近のハイキングシーズンでは、PNTのハイカーが骨折したり、救助を必要としたりしたことが何度もあったよ。

北ルートでも南ルートでも、PNTの公式ルートに従えば、見晴らし山の山頂まで行くことができる。ここには2つの展望台が立っているんだ。1つは1929年に建てられたもので、現在は史跡として保存されている。もう1つは1977年に建設された新しい展望台で、いまも現役のものだ。


プリースト湖の美しい景色でほっと一息。


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夕暮れ時のプリースト湖の眺め

見晴らし山から見える景色は、絶景だよ。美しいプリースト湖が眼下に広がっていて、さらにこの先にワシントン州へと続いていくPNTのトレイルが、セルカーク山脈の尾根に沿って伸びているのが見渡せるんだ。

プリースト湖は夏のレクリエーションの人気スポットなんだ。そこまでの人里離れたエリアでの険しい藪漕ぎから一転して、にぎやかな湖に出るから、ちょっと戸惑うよ。でも、このエリアはとても美しいし、セルカーク山脈を横切る長いトラバースが終われば、その後は楽で快適なトレイルが待ってるんだ。

湖畔で遊んでいる人たちに、旅の話をしてみるのもいいと思うよ。もしかしたらホットドックやビールをくれるかもしれないしね。


アイダホ州を終えて、PNT最後の州、ワシントン州に入る。


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嵐が過ぎると、目の前にセルカーク山脈が見えるようになってきた。

トレイルは、プリースト湖からはワシントン州との州境に向かって進んでいく。アイダホ州はPNTで最も短い州で、100マイル歩けば越えることができてしまう。

州境までたどり着くには、まずは美しい景色のヒューズ・メドウを抜けていく。その後に、驚くような景観の原生林のなかを登っていく。そうすると、州境になっているサーモ・プリースト・ウィルダネスに入るんだ。

ここからは、地元でジャクソン・クリーク・トレイルと呼ばれているトレイルを登り、シェドルーフ・ディバイドにたどり着く。シェドルーフ・ディバイドは、尾根歩きのセクションで、360度のパノラマの絶景を見ながら歩くことができるんだ。

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雷が落ちたばかりのシェドルーフ・ディバイド。

僕は雷雨の中で、この尾根に着いたんだ。そうしたら、雷がトレイルのすぐ近くに落ちたんだよ。丘の中腹に、雷の焦げ跡ができていて、僕はそれを見ながら通過したんだ。

シェドルーフ・ディバイドを過ぎると、PNTは南に進み、さらに西へと延びて、サリバン湖と補給の町であるメタライン・フォールズに向かっていくんだ。

メタライン・フォールズは、ワシントン州に入って最初に出てくるトレイル・タウンだ。僕は、ここで地元のトレイル・エンジェルと過ごし、これからの旅に備えることにした。

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この原生林を進んでいくと、サーモ・プリースト・ウィルダネスにたどり着く。

今回ジェフが歩いたのは、2つ目の州であるアイダホ州。

PNTのなかで一番短い州だが、そこにもアメリカ北西部に広がる高山地帯の絶景から、ウィルダネスのなかの藪漕ぎ、そしてカリブーのエピソードなど、PNTにしかない旅の要素に溢れていた。

次からは、最後の州・ワシントン州に入る。ここはPNTで一番長い州になるが、この先にどんな旅が続くのだろうか。次回も楽しみだ。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #03 僕がパシフィック・ノースウエスト・トレイルに惚れた理由

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文・写真:ジェフ・キッシュ 訳・構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

* * *

ジェフがハイカーとして旅した、PNTのスルーハイキング・レポート (全7回) の2回目。他のメディアでは読めない、日本語による貴重なPNTのレポートだ。

ジェフはこれまで、ディレクターという立場からPNTの魅力を伝えてきてくれたが、今回はハイカー・ジェフとして旅のエピソードを綴ってもらった。

東の端の出発地点モンタナ州から歩きはじめたジェフは、今回はその西側のアイダホ州へ入っていく。

このセクションも、巨大な湖や、グリズリーベアの生息地など、ウィルダネスが広がる豊かなPNTならではの風景が登場する。

まだ日本からPNTを歩きに行くことは叶わないが、いつかまた自由に海外のロング・ディスタンス・ハイキングができることを願って、PNTのレポートを楽しんでほしい。

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PNTの開発初期に使用していた林道は、今ではこのように自然に囲まれたトレイルになっている。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


コロンビア川水系の源流部エリアを歩く。


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ハイ、ジェフです! 僕のPNTスルーハイキング・レポートの第2回目をお届けするよ。PNTA (PNTの運営組織) のオフィスより。

モンタナ州のユーレカを過ぎると、もともと1901年〜1904年にかけてグレート・ノーザン鉄道の延伸区間として建設された、鉄道の線路に沿ってPNTのトレイルは続いていくんだ。

トレイルは、タバコ川という川と並行して走っている。タバコ川は、北西方向に流れていて、その先でクーカヌサ湖に注ぐんだ。クーカヌサ湖っていうのは、1972年にクテナイ川が堰き止められたことでできた湖だ。

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PNTは、モンタナ州、アイダホ州、ワシントン州の3州をまたぐ1,200mile (1,930km) のロングトレイル。今回のレポートでは、モンタナ州・ユーレカ〜アイダホ州・ボナーズ・フェリーまでの約105mile (約168km) を紹介してくれた。

古い軌道沿いのトレイルを歩いていると、足元の草むらでバッタが跳ねていたり、川の対岸で子鳥が飛び回っていたり、頭上ではハクトウワシやミサゴが飛んでいたり、のどかな光景が広がっていたね。

やがて僕は、クーカヌサ湖にたどり着いた。クーカヌサ湖は、コロンビア川水系の全水量の13%を占めると言われる、とても大きな湖なんだ。

僕は、PNTをこの先も何百マイルも歩くなかで、コロンビア川の支流 (コロンビア川本流も) を何本も渡ることになる。

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パーセル山脈に登る前に、クーカヌサ湖に架かるクーカヌサ橋を渡る。

クーカヌサ湖を渡るときに、モンタナ州で最も長く、最も高い橋であるクーカヌサ橋という橋を通るんだ。ちなみに500マイル先 (いくつかの州を越えた先) では、PCTハイカーたちが「神々の橋 (Bridge of the Gods)」を歩いてコロンビア川を渡っていく。

そんなことを想像すると、とても不思議な感じがするよね。PCTハイカーの足元を流れる川の水の一部は、このモンタナ州にある湖から、PNTに沿って流れていったものなんだからさ。


PNT沿いに広がっているグリズリーベアの生息エリア。


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グリズリーベアが生息していることを警告するサイン。

クーカヌサ橋を渡り切った西側で、「ここはグリズリーベアの生息地です」という大きな看板が目に入ってくるんだ。

実際は、ここまでのセクションにも、グリズリーベアはいるんだけど、ここから先の数百マイルも、PNT沿いには巨大なクマが生息しているということだ。

湖の東側に生息するクマは、ノーザン・コンチネンタル・ディバイド生態系 (※1) に属していて、一方、西側に生息するクマは湖によって隔絶されて生息しているんだ。

そして、それぞれ「キャビネット・ヤーク」 (モンタナ州ヤーク地方の小集団の意味) と呼ばれる自分たちの小さなグループを形成している。僕はこれから数日をかけて、このクマの生息エリアを横断していくことになるわけだ。

※1 ノーザン・コンチネンタル・ディバイド・エコシステム (Northern Continental Divide Ecosystem:NCDE):グレイシャー国立公園と1,000を超えるグリズリーの生息地である大規模な生態系で、モンタナ州北西部の約1万6,000平方マイルをカバーしている。グリズリーベアの回復活動を目的に、小委員会が年2回開催されている。


宿泊も可能な山頂展望台がつづくセクション。


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食べ放題の野生のブルーベリー。

湖を過ぎると、PNTはスイッチバックしながら森の中を進み、パーセル山脈の東側に入っていく。このセクションは、トレイル沿いに熟したベリーがあってね、手や口の中を紫色にしながら、ベリーを食べながら歩いていたよ。

このトレイルを登っていくと、上にはウェッブ山展望台という建物がある。この展望台は、1959年に建てられたもので、その後40年間にわたってこの地域の山火事を監視するために使われている建物なんだよね。

最近では、この展望台は一般の人向けに宿泊できるよう貸し出しているけど、事前予約が必要だから、スルーハイカーにとってはロング・ディスタンス・ハイキングのなかで日程を合わせることは、なかなか大変だろうね。

でもこのPNTのセクションは、他のどのセクションよりも多くの展望台があるから、昔からある有名な展望台とかに興味がある人にとっては、かなり楽しめると思うよ。

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PNTは、モンタナ州北西部に存在する多くの展望台を通過する。

ウェッブ山からは、PNTは山頂から山頂へとつないでトレイルが通っていて、この先にあるヘンリー山まで、東パーセル山脈周辺の素晴らしい景観を見ることができるんだ。ヘンリー山にも、昔からある有名な展望台があるんだよ。

ここからトレイルは、1926年に地元の森林局によって建設されたアッパー・フォード・レンジャー・ステーションという歴史的建造物まで下っていく。ちなみに、ここも宿泊場所として借りることができる建物になっているんだ。


モンタナ州の辺境にある、ヤークという小さな町。


パーセル山脈を横断する約半分の地点では、モンタナ州のヤークという小さな町を訪れることができるんだ。

この町は、近くのハイウェイから森の中を車で1時間ほど北へ進んだところにある辺境の町でね。小さな商店 (補給用のボックスを受け取ることができる) と、2軒のバーがあるだけで、他にこれといったものはない町なんだ。でも、ハイカーにとっては、この他に必要なものもないよね。

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モンタナ州ヤーク渓谷のターナー滝。

僕はこのスルーハイキングのときは、このヤークの町は、出発したユーレカからも、次の目的地のアイダホ州からも近いってことで、素通りしたんだよね。でもスルーハイキング後に、このモンタナ州北西部のエリアには何度も来ていて、PNTハイカーがこの町をみんな気に入っていることを知ったんだ。


このセクションで最も素晴らしい山岳エリアでの野営。


僕はヤークに向かう道の手前にある分岐点を西に進み、辺境地帯の高地を登ってガーバー山に向かっていった。この山にも、昔からある展望台が建っているんだ。

そして、ガーバー山を越えた先にある、このセクションで最も素晴らしいウィルダネス豊かな山岳エリアであるノースウエスト・ピークス・シーニック・エリア (※2) を目指して進んでいった。

※2:ノースウエスト・ピークス・シーニック・エリア(Northwest Peaks Scenic Area):カナダとアメリカの国境に近いモンタナ州の北西部にある、美しい自然エリア。範囲は、クーテネイ国有林の一部である1万9,100エーカーにもおよぶ。標高7,700ft (約2,300m) を超える高山林や湖、ロッキー山脈の山頂がある。

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ノースウエスト・ピークス・エリアでのテント泊。

このエリアを通るルートは2つあって、いずれもPNTのあらゆる地図やガイドブックに明記されているから、ハイカーは好きなほうを選ぶことができるんだ。

1つ目のルートはロック・キャンディー・マウンテン付近を南下し、2つ目のルートはノースウエスト・ピーク (同じくデイビス・マウンテンも) の北側をまわるというもの。

どちらのルートも素晴らしいけど、北側のルートでは稜線のスクランブリング (※3) という冒険も楽しめるから、スルーハイカーのお気に入りのルートとなっているね。

※3 スクランブリング:手足を使って岩場をよじ登りながら頂上を目指したり、縦走したりするアクティビティ。明確な定義はなく、ハイキング、登山、ロッククライミングの中間に位置する。

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モンタナ州とアイダホ州の州境付近の高層湿原。


トレイル上でたまたま出会った、グリズリーベアの生物学者


このセクションで出会ったでグリズリーベアの生物学者が、どんな仕事をしているか教えてくれたんだ。彼は、僕の旅の話も熱心に聞いてくれたよ。

彼の仕事は、森のあちこちにぶら下げた有刺鉄線をチェックして、通りすがりのクマから毛皮の一部が採取できたかどうかを調べることだった。

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有刺鉄線に引っかかっているグリズリーベアの毛。

彼はその地域のすべてのクマを把握していて、採取したサンプルをDNA検査して、クマ同士の関係を調べていた。熱心に話してくれる内容を聞いていると、それが孤独な仕事であることがわかったよ。

彼は、自分が泊まっていた古い猟師用の野営地に泊まることを勧めてくれて、そこに隠してある自家製のお酒もわけてくれると言ってくれたんだ。でも僕は、行程的にもっと先に進まなくていけなかったから、この楽しい会話のあと、アイダホ州境に向かって進みつづけることにしたんだ。


モンタナ州からアイダホ州に入り、この州の最初の補給地であるボナーズ・フェリーへ。


アイダホに入ると、トレイルはルビー・リッジに沿ってモイエ川の渓谷へと下っていく。川を渡るとふたたび登り、ブッサード山の山頂にたどり着く。

夕暮れ時、僕は山頂にスリーピングマットを敷いて、これまで歩いてきた場所とその先にある場所の景色を眺めたんだ。

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ブッサード山の山頂で見た日の出。

眼下の南の谷間には、アイダホ州のボナーズ・フェリーの灯りが夜空を照らしていた。西には、セルカーク山脈が谷底から一気に立ち上がっていた。

星空の下で眠りについた僕は、翌日、今まで見た中で最も輝かしい日の出で、目覚めたよ。そして何枚か写真を撮ったあと、僕はパッキングをして、ハイウェイの交差点に下りていった。そして、ボナーズ・フェリーまでヒッチハイクするべく親指を立てたんだ。

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今回歩いたクーテナイ国有林のエリアは、2014年にジェフがスルーハイクをしていた時、当時まだ数が少なかったこのサインが多く存在しているセクションだった。

今回ジェフが歩いた区間は、PNTのモンタナ州・ユーレカ〜アイダホ州・ボナーズ・フェリーという町までの、約105mile (約168km) のセクションだ。

グリズリーベアも棲むウィルダネス豊かな自然だけでなく、そんな辺境のなかにある小さな町からも、PNTを旅する魅力が伝わってくる。

次回は、アイダホ州を終えて、ラストにして最大の州であるワシントン州へと入っていく。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #05 パシフィック・ノースウエスト・トレイルのスルーハイキング (その1)

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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #03 僕がパシフィック・ノースウエスト・トレイルに惚れた理由

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文・写真:ジェフ・キッシュ 訳・構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

* * *

このジェフの連載では、今回から全7回にわたり、ジェフ自身のPNTのスルーハイキング・レポートをお届けしていく。他のメディアでは読めない、日本語による貴重なPNTのレポートだ。

ジェフはこれまで、ディレクターという立場からPNTの魅力を伝えてきてくれたが、今回はハイカー・ジェフとして旅のエピソードを綴ってもらった。

今はコロナの影響でなかなか旅に出づらいけれど、やっぱりビッグ・トリップのレポートは読むだけで旅欲が刺激されてワクワクしてくるものだ。

出発地はモンタナ州。モンタナの空気感を想像しながら、ハイカー・ジェフによる、PNTのスルーハイキング・レポートをお楽しみください。

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グレイシャー国立公園内のPNTで最もよく知られているのは、このような荒涼とした風景。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


ジェフの人生を変えたパシフィック・ノースウエスト・トレイルの旅


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ハイ、ジェフです。今回から6回にわたって、PNTのスルーハイキングのトリップ・レポートをお届けするよ。PNTA (PNTの運営組織) のオフィスより。

2014年、僕は人生を永遠に変えてしまうような旅にでた。今回の話は、その旅の最初の百数十mileについて書いた物語だ。

ほとんどのスルーハイカーにとって、PNTの旅は最初の一歩を踏み出す前から始まる。多くの人は、モンタナ州のグレイシャー国立公園に行くために、荒野を走る列車に乗ることになるんだ。

2014年、僕はオレゴン州ポートランドに住んでいた。そこは長距離列車エンパイア・ビルダーの最西端だった。

7月中旬の暑く晴れた日、僕はその列車に乗り込み、その季節に初めて北西部を横断し、トレジャー・ステイト (モンタナ州のこと) を目指して出発したんだ。秋の寒さが訪れる頃には、太平洋岸まで歩いて帰るつもりでね。

翌朝早く、モンタナ州西部の荒涼とした風景の中に、日の出の光が差し込んできた。そして列車はグレイシャー国立公園に入り、「次の駅はイースト・グレイシャーです」という車内アナンウンスが流れてきた。

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グレイシャー国立公園にあるPNT沿いの橋。このような建造物は、冬の雪で倒壊しないように秋に撤去される。雪解けの後にスルーハイクのシーズンが始まり、通常6月下旬か7月上旬にこれらの橋の再設置が行なわれる。

国立公園の南西端に位置するイースト・グレイシャーは、小さなリゾートタウンだ。町の中心にグレート・ノーザン鉄道が1913年に建設した「グレイシャー・パーク・ロッジ」という丸太造りのロッジがある。

その建物はポートランドのフォレストリー・ビルディングをモデルにしている、西部のデザイン様式の建物だ。

ただ、モンタナではこれほど大きく育つ木はめったになく、建設に使われた巨大なダグラス・ファー (アメリカ松) とウエスタン・レッドシダーの柱は、カスケード山脈から東に運ばれてきたものなんだ。

イースト・グレーシャーの町は、観光ビジネスによっていろんなスタイルが混在しているんだ。奥がホステルになっているメキシカンレストランとか、上がホステルになっているパン屋とかある。僕は、これから始まるハイキングの準備をするために、そのパン屋併設のホステルにチェックインしたんだ。


スタートの町グレーシャーで、スルーハイクの出発の準備。


ほとんどのスルーハイカーは、1日に限られた枚数だけ発行される先着順の当日パーミット (許可証) を手に入れる。そのパーミットを手に入れるために、国立公園の近くにある小さなレンジャーステーションに行くんだ。

残念ながらイースト・グレイシャーの町には、パーミットを発行する施設はない。でも国立公園のシャトルサービスを利用すれば、簡単にトゥーメディシンのレンジャーステーションまで行けるようになっている。

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PNTのスタート地点は、グレイシャー国立公園からカナダに北上するベリー川沿いにある。公園の中心部に向かって川をさかのぼっていくと、このような美しい湖が現れる。

ハイカーがグレイシャー国立公園内のバックカントリーエリア内でキャンプをするには、PNT沿いにある指定キャンプ場のパーミットを取得しなければならず、指定地外でのキャンプは禁止されている。

僕はレンジャーに見てもらいながら、自分のペースに合った行程表を作り、そして熊対策のビデオも見た。その後、また夜はイースト・グレイシャーの町に戻った。

宿泊したホステルは、旅を始めるのに最高の場所だった。いろんな国の若い旅人がたくさんいた。僕はみんなとお互いの旅の話をしながら、リラックスした夜を過ごしたよ。それぞれが行った場所や、これから行こうと思っている場所の話をしたりしてね。そして翌日、ついに僕の旅が始まることになる。


インディアン居留地を通り、モンタナ州にあるPNTの東端から、ついにスタート。


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PNTは、モンタナ州、アイダホ州、ワシントン州の3州をまたぐ1,200mile(1,930km)のロングトレイル。今回の記事は、スタート地点の「ベリー・リバー・トレイルヘッド」から「ユーレカ」までの約150mile (240km) のレポートだ。

PNTの東端まで行くには、ちょっとした工夫が必要だ。シャトルバスが出ている年もあるけど、その運行はまばら。しかも最近、トレイルヘッドは運行の対象外になり、ハイカーは親切な地元の人や、旅行者のクルマに便乗するしかなくなってしまったんだ。

イースト・グレイシャーとPNTのスタート地点の間には、ブラックフィード・インディアン居留地がある。そこを車で横切っていた時、僕がこれから旅するこの土地で、昔から暮らしてきた人々の歴史に思いを馳せた。

スルーハイクを始めるにも、終えるにも、グレイシャーほど適した場所はない。とにかく景色が最高に素晴らしい。

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PNTのスタート地点、ベリー・リバー・トレイルヘッド。

僕はこの国立公園のなかを、2日半かけて歩いていった。雪に覆われた険しい峰々の息をのむような景色、ベアグラス (ユッカ・フラキダ) など野生の草花が生い茂る高山の牧草地、雪に覆われたストーニー・インディアン・パスの気持ちのいい下り道、コンチネンタル・ディバイド・トレイルと重なるルートを歩けるトレイル。このように、この国立公園にはハイライトもたくさんある。

キャンプ地は、高山の湖の近くにあることが多かった。湖には、標高の高いところにある雪原から流れ落ちてくる滝もあった。国立公園内には野生動物もたくさんいて、グリズリーベアの足跡や毛も見たけど、熊自体を見ることはなかったね。

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モンタナ州のPNT上で見つけた熊の足跡。


ポールブリッジという山の町で、ピザとビールを楽しむ。


グレイシャー国立公園での最終日。僕はかなりの距離をハイキングして、公園の西端にある山の中の小さな町ポールブリッジに到着した。この町の主要な商売は、バー、商店、ホステルの3つで、ハイカーや観光客に人気がある場所なんだ。

僕が到着したのは夜で、この町にある自家発電のみのオフグリッドの生活をしているコミュニティにたどり着いた。そうしたら、バーの前の芝生でライブ演奏していて、僕はそこのバーで、できたてのピザと冷えたビールを楽しんだよ。

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モンタナ州ポールブリッジにて。ノーザンライツ・サルーンの芝生の上でのライブ演奏。

ポールブリッジから次の補給地点であるユーレカまで、PNTはフラットヘッド国有林を横断し、隣のクーテナイ国有林へと続いていく。このセクションでは、ハイカーは国立公園の混雑とは無縁の、信じられないほど美しい景色を楽しむことができる。

トレイルはよりワイルドな感じで、トレイルが少し荒れているところもある。起伏のある高所の稜線で、狭いトレイルを歩くこともあるけれど、だいたいこれらのトレイルは、古い林業用道路につながっていることが多いんだ。

こういったシチュエーションはPNT特有のものではないけど、トレイルが開発されて間もないため、一部のエリアでは多く見られるね。

このセクションのハイライトは、フラットヘッド国有林のホワイトフィッシュ・ディバイド。

稜線をたどりながら、森を抜けていくつもの山のピークをつないで歩いていくんだ。フラットヘッド国有林の管理計画が最近改訂されて、PNTの周辺1mileのエリアが保護対象になり (70平方kmの保護)、北側に見えるエリアを原生地域に指定しようとしているんだ。

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ホワイトフィッシュ・ディバイド沿いのワイルドフラワー。


最初の主要な補給地、モンタナ州ユーレカの町に到着。


クーテナイ国有林の中に入っていくと、トレイルは展望台のあるワム山を通る。この展望台は、1931年に周辺の森林の山火事を見張るために建てられたんだ。

その先には、テン・レイクス・シーニック・エリアにあるブルーバード・ベイスンのトラバースなどのハイライトもあるんだ。

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ストーニー・インディアン・パスの登りでは、この景色を楽しみながら自分がどこから歩いて来たのかを振り返った。PNTは、この谷を通りトレイルの東端に流れ出る川に沿って走っている。

高地エリアを抜けた後は、モンタナ州ユーレカの町に下りてく。僕にとってここが最初の主要な補給地点となった。

僕はクサンカ・モーテルに泊まることにした。料金は安いんだけど、町の北端にあって周辺の商業施設からは離れてしまっている宿なんだ。今ではPNTハイカーは、食事やお酒が飲めるお店が近くにあるコミュニティパークでキャンプできるようになっているよ。

僕はユーレカで2日間休んで、この先の険しいセクションに備えて町の食料品店で補給をした。次の週には、PNTのなかでも辺境のエリアをいくつか横断し、2つ目の州であるアイダホ州に入っていく予定だ。

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PNTの最初の大きな身体的チャレンジは、ストーニー・インディアン・パスの北面をいかに安全に下ることができるか。なぜならここは、スルーハイクのシーズンになると、雪が積もることが多いため。

ジェフのPNTスルーハイク・レポートの第1回は、「旅立ち編」ともいうべき、まさにこれから旅が始まるざわつきが感じられるレポートだった。

今回のレポートでジェフが歩いた区間は、PNTの東端のスタート地点〜ユーレカという町までの、約150mileのセクションだ。

最初の州のモンタナ州を歩き終えたジェフは、次回はアイダホ州へ向かう。どんな景色と旅を綴ってくれるのか、僕たち自身も楽しみです。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #04 パシフィック・ノースウエスト・トレイルの「 “withコロナ” のフィールド安全対策」

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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #03 僕がパシフィック・ノースウエスト・トレイルに惚れた理由

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文・写真:ジェフ・キッシュ 訳:トロニー 構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

* * *

パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)では、アメリカの他のトレイルに先がけて新型コロナウイルスに対する「フィールド安全マニュアル」を作成した。

これはトレイル整備をするクルーたちを、現場でのウイルスの拡散や感染から守るための新しい行動指針だ。

このマニュアルは先進的な事例としてすぐに注目を集め、ほどなくアメリカ全土に広がった。森林局などさまざまな団体も、ジェフたちがつくったPNTのマニュアルを参照して新しいガイドラインをつくったのだ。

新型コロナウイルスに対してロングトレイルは、どのように向き合うべきか。そのヒントをジェフが届けてくれた。

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ウィルダネスにあふれるPNT。ジェフが息子のアトラス君とハイキングした時のひとコマ。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


アメリカで最初のコロナ感染者が出たのは、PNTのあるワシントン州だった。


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新型コロナウイルスの感染防止策を徹底した上で、僕もトレイル整備に取り組んでいるよ。

ハイ、ジェフです。みんな調子はどう? 今回は、新型コロナウイルスのパンデミックが広がっているなか、PNTでトレイルを維持するために、どんな取り組みを行なっているかを紹介するよ。

世界的なパンデミックにおいて、社会から離れた場所で、そのなかでも極めて僻地にあるバックカントリーのトレイルに身を置く。それはいいアイディアのように聞こえるかもしれない。でも、パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) と、その周りにある町や集落も、新型コロナウイルスの影響から逃れることはできないんだ。

PNTは、他のトレイルのようにダートロードが続くトレイルではない。PNTは、ありのままの状態に近い自然があり、そのなかで孤独を存分に味わえる場所として知られている。でもPNTを旅することができるのは、実際は多くの人々の助力があるおかげなんだ。PNTでは、パシフィック・ノースウエスト・トレイル・アソシエーション (PNTA) のスタッフやボランティアを含む、たくさんの人々が働いてくれているんだ。

アメリカで新型コロナウイルスの最初の患者が確認されたのは1月下旬。その場所は、PNT本部があるこのワシントン州だったんだ。しかもPNTの全長1,200mileのうち、900mileがワシントン州を通っているんだ。

当時、アメリカ政府はウイルスの深刻さを甘く見ていて、すぐにこの国からウイルスが一掃されると考えていた。だけど、3月上旬には、そうでないことが明らかになった。


イベントもトレイル整備も中止。どのようにトレイルを維持していけばよいのか?


3月の初め、僕たちはALDHA-West (※) との共同イベント「ノースカスケード・ラック」の企画を進めているところだった。これはPNTAが主催するイベントで、僕らの新オフィスで開催する最初のイベントとなるはずだったんだ。

※ ALDHA-West:正式名称は「The American Long Distance Hiking Association West」で、ロング・ディスタンス・ハイカーおよび彼らをサポートする人々の交流を促進するとともに、教育し、推進することをミッションに掲げている団体。ハイキングのさまざまな面における意見交換フォーラムを運営したり、ハイカー向けの各種イベントを開催したりしている。詳しくは、TRAILSのアンバサダーであるリズ・トーマスの記事を。ちなみに、ジェフとリズは旧知の仲でイベントで一緒になることも多い。

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ALDHA-Westと連携して開催している「ラック」という教育イベント。

PNTAの各地域のコーディネーターは、トレイル整備のシーズンに備え、季節限定スタッフの大規模な採用を始めていた。ボランティア部門の研修生たちは、トレイル全体でボランティアができるように、一生懸命に準備を進めくれていた。また広報のマネージャーは、春に開催するたくさんのイベントの企画で忙しくしていた。

これらはPNTAにとって通常業務だった。でも、すべてが変わってしまったんだ。

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クルーが集まるお馴染みの光景も、しばらく見ることができなくなってしまった。

3月中旬、僕たちは「ラック」の開催を中止することにした。そして、その先に予定していたすべてのイベントも、中止することにしたんだ。3月下旬には、州から「外出禁止令」が発令され、フルタイムのスタッフは全員在宅勤務に移行した。

新型コロナウイルスによって、僕たちがやらなくてはいけない大事なことも、この先の実施が危ぶまれるのは明らかになっていた。このパンデミックの中において、はたして僕たちは、トレイル整備を継続することができるのだろうか?


他のトレイルに先がけ「フィールド・セーフティ・マニュアル」を作成。


いくつもの問題が発生していたし、中断しているイベントや仕事もたくさんあった。そのなかで、僕はスタッフに、まずは新型コロナウイルスに対する「フィールド・セーフティ・マニュアル(フィールドでの安全対策マニュアル)」をきちんと一緒に作りあげよう、と伝えたんだ。

この時点で、僕たちと一緒に働いている土地管理者の人々は、新型コロナウイルスが今後の公有地での活動にどのように影響を与えるか、その内容に何も言及していなかった。でも今のうちに、きちんとしたプランを準備しておくことが、この先に活動の許可が下りたとき、従業員の安全を守る上でベストな方法だと思ったんだ。

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僕たちが独自に作成した「新型コロナウイルス フィールド・セーフティ・マニュアル」。

次の1カ月間、僕たちのチームは、世界の保健医療の専門家がウイルスについてどのようにレポートしているかを、徹底的に調べたんだ。そして、トレイル整備の工程におけるあらゆる要素を精査して、脆弱性がないかを確認した。それをもとに、現場でのウイルスの拡散・感染からチームメンバーを守るための、新しい方針を作成したんだ。

これはエキサイティングな仕事だったよ。というのも、トレイル・クルーが自然のなかで働くということは特殊な状況で、それにもかかわらず僕たちの知る限りでは、その時点でまだ誰も新型コロナウイルスのための包括的なフィールド・セーフティ・マニュアルを作成していなかったからだ。


僕たちのマニュアルが、アメリカ全土に広がっていった。


4月までに、PNTAは「新型コロナウイルス フィールド・セーフティ・マニュアル」の草案を、周りで一緒に働いている人や、米国森林局の太平洋岸北西部地域事務所の代表者に共有したんだ。

そうしたら、このマニュアルはすぐに米国森林局内で注目を集め、他の森林局にも広がり始めた。当時、森林局は独自のリスク評価と安全基準の作成に取り組んでいて、他の提携団体も新型コロナウイルスの対処方法を模索していたところだったんだ。

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トレイル整備の際は、マスクは必須。これもマニュアルで定めている。ちなみに、このマスクは僕のパートナーのお手製。

ほどなくして、全国のレクリエーション団体や自然保護団体から、僕たちのところに電話やメールが届くようになってさ。それで、僕たちが作成したマニュアルを、トレイル整備の仕事や、自然のなかでの仕事に復帰する自然保護の専門家たちがどのように活用しているかを教えてくれたんだ。

僕たちは、自分たちの仕事に満足していたし、関係者や同僚からも賞賛してもらえた。そして自分たちがつくったマニュアルに対する自信も深まっていた。だけど、一方で、現場でのテストはまだできていなかったんだ。6月初旬までには、現場作業をする季節限定スタッフに、今までと異なる指針で作業をしてもらう必要があったんだ。

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驚くことに、アメリカ全土のさまざまなウィルダネスで、僕たちのマニュアルが参考にされるようになった。


万全のコロナ対策の準備をして、ついにトレイル整備を再開。


PNTAでは、トレイル整備の90%以上をトレイル近郊に住む若者たちと一緒に、8~10日間の「ヒッチ」(※) で行なっている。このヒッチのおかげで、メンテナンス・クルーはバックカントリーの奥深くまで行き、アメリカで最も人里離れた地域においても、トレイル整備という重要なタスクを遂行できるんだ。

コロナ禍におけるトレイル整備に向けて、今シーズン最初のヒッチでは、クルー・リーダー (クルー・メンバーの安全やバックカントリーでの仕事に強い責任感とリーダーシップを持つ、高度な訓練を受けた経験豊富な人たち) 全員を集め、トレーニングと認定を受けてもらった。これは僕たちにとっても、新しい安全基準をフィールドで実施することがどれほど困難であるかを知る機会にもなった。

※ ヒッチ (hitch):メンテナンス・クルーによる1週間を超える整備合宿のこと。PNTはもちろん、アメリカのトレイルでは一般的に実施されているイベント。

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トレイル整備で使用する道具を実演するクルー・リーダー。

最初のヒッチのために、チームが集合したのはPNT上のベイカー・レイクだった。トレイルの中でも標高が低いこのエリアは、トレイル整備の作業に適した場所なんだ。というのも、この時期は高地の多くのトレイルが、冬に降った雪からようやく地肌をだしはじめたタイミングだからだ。

マスクを着用し、互いの距離に注意を払いながら、クルー・リーダーたちはこの人気のバックパッキングエリアの修復作業に取りかかった。彼らは、僕たちが作成した新型コロナウイルス・マニュアルの重要事項もテストしてくれた。このマニュアルは夏でも実用的なのか? ということを。

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さまざまな困難を経て、ようやくみんなで集まってトレイル整備をできるようになった。


アメリカの最も美しいウィルダネスで、有意義な仕事をしているという誇り。


トレイル整備は過酷な仕事だ。ましてやマスクやその他の防護ギアを着用したままなら、なおさらだ。でも、PNTAのトレイル・クルーの運営方法ほど、チームの安全確保のために適している方法はないと思ったよ。

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新型コロナウイルスの感染リスクを可能な限り排除し、トレイル整備に取り組んでいる。

PNTAのクルーは少人数制で、夏の間ずっと同じメンバーが専属チームとして生活を共にしながら活動するため、組織内での感染リスクは大幅に低くなっている。

またクルーのメンバー同士は、そもそも安全のためにお互い距離を取りながら仕事をする必要がある。仕事で鋭利な工具を運搬したり振り回したりするから、安全確保のために、感染防止のための距離も必然的に取ることになるんだ。

屋外での生活と作業は、屋内の循環する空気による感染リスクと比べると、そのリスクを軽減してくれる。さらに、激しい作業はクルーの身体と免疫システムを、健康かつ強くしてくれるんだ。

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クルー・リーダーが、工具の使い方と整備の方法を指導しているシーン。

パンデミック下におけるトレイル上の生活や仕事では、今までに経験したことのないさまざまな要素がある。たとえば、ヒッチ前の健康診断をしたり、食事の準備などグループで活動するときに今まで以上に気をつけたり、避難・隔離の詳細なプランを用意しておく必要もある。

でも、こういった普段以上の注意を払うことによって、アメリカの最も美しいウィルダネスで、このような有意義な仕事をしていることを再確認できたんだ。

これを書いている間にも、クルー・リーダーたちは今シーズン3回目のヒッチのために、PNT中をクルーと一緒に回っている。マスクをつけたままではわからないだろうけど、僕はマスクの下には笑顔があふれていると信じているよ。

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当たり前のようにお互いの距離をとるようになった、クルー・リーダーたち。

実は3月頃から、ジェフからTRAILS編集部への連絡が途絶えがちになっていた。アメリカの新型コロナウイルスの感染者数の多さ、そして凄まじい失業者の多さなどをニュースで知っていた僕たちは、真面目なジェフが悩みすぎていないか心配していた。

それは今回の記事を読んでもらってわかるように、まったくの杞憂だった。ジェフたちPNTスタッフは他のトレイルよりも早く、コロナとの具体的な向き合い方を考え、トレイルを存続する方法を模索していた。

今は日本からPNTに行くことは難しいが、誇りと愛情をもった人たちが作っているPNTを、いつか歩きに行きたいという思いが、僕たちのなかでさらに大きく膨らんだのは間違いない。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #02 パシフィック・ノースウエスト・トレイルでのファミリー・ライフ

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TRAIL TALK #006 JEFF KISH / ジェフ・キッシュ(前編)

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文・写真:ジェフ・キッシュ 訳:トロニー 構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

* * *

ジェフの連載3回目は、彼自身が、パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)のどこに魅力を感じているのかを、語ってもらいます。

これまで、彼の仕事の話、家族の話をお届けしてきました。でもそれもこれも、すべてはジェフがPNTに惚れてしまったことがきっかけです。

PNTとはどんなトレイルなのか? 他のトレイルとはどう違うのか? そしてPNTにはどれほどの魅力があるのか?

ジェフいわく「アメリカでもっともワイルドなトレイル」とのこと。その理由を、詳しく紹介してもらいましょう。

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パサイテン・ウィルダネスを通るPNTからの眺め。遠くに見えるはノース・カスケード。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


PNTは、アメリカに11あるNational Scenic Trailのひとつ。


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彼が働くパシフィック・ノースウエスト・トレイル・アソシエーション(PNTA)のオフィスから。

ハイ、ジェフです! みんな、調子はどう? 今日は、僕が愛してやまないPNTの魅力をたっぷりお届けするよ。

アメリカには11のNational Scenic Trailがある。新しいトレイルは、ただ単に全トレイルの総距離を増やすためではなく、世界中から訪れるハイカーやその他の利用者に対して、真に独自の体験を提供するためにつくられているんだ。

1968年にアメリカのナショナルトレイルシステムを確立した法律として知られるNational Trails System Act(国立トレイル法)には、次のように書かれている。

「National Scenic Trailは、(中略)最高の野外レクリエーションの可能性を提供すること。またこの国の重要な風景、歴史、自然、そして文化の特質を保全し享受することを目的に、今後もトレイルをつくっていきます」

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パサイテン・ウィルダネスのPNTにて。目の前にあるのは、ワシントン州のジャック山と氷河の峰々。

ハイカーがPNTで得られる体験は、本当に他にはないものなんだよ。このトレイルがつくられたことによって守られた景観は、他のどのトレイルと比べても、いや世界中のどの景色とも異なるものなんだ。


僕がPNTに人生を捧げることにした理由


1974年、PNTの創設者であるロン・ストリックランドは、『バックパッカー・マガジン』に、PNTに関する彼のビジョンを発表した。PNTでは、その記事は『ロンのPNTマニフェスト』として今も語り継がれている。その記事で、ロンはこう書いている。

「森林限界を超えた景色から、緑豊かな森へ。ある奥地のウィルダネスから、別のウィルダネスへ。さらにウィルダネスのもっとも神秘的な部分である場所 − 湖 − へと。そういった場所に、やがて夢のトレイルは伸びていく。それは熱い心をもったハイカーのためのトレイルだ。それはできる限りウィルダネスをそのまま残したトレイルとなるだろう。アクセスは難しく、道標やシェルターは少ない。そして歩く者がもっている全感覚を、ウィルダネスの体験へと向けさせてくれる」

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ピクチャー・レイクの背後にそびえるシュクサン山。ノース・カスケード国立公園にて。

ロンの記事のようなことを、僕も人から聞いていたんだ。PNTは難易度の高いトレイルで、辺境にあるということを。またパシフィック・ノースウエスト(太平洋岸北西部)のエリアには他にはない景色があるということを、僕は知識として知っていたんだ。温帯雨林のエリアのなかに高低差のあるゴツゴツした山々があり、そこでは昔から生息している動物たちが今もうろうろしているらしい、と。

このようなことがきっかけとなって、僕はPNTを歩くことに決めた。そしてPNTは僕が歩く前に抱いていた期待をすべて超えていたんだ。それが僕がPNTの保全に人生をささげることにした理由になっているんだ。


他のトレイルにはない、巨木の森と氷河に出会えるトレイル。


PNTには他のNational Scenic Trailにない、驚くほど大きい巨木があるんだ。太古から残る温帯雨林の森がカスケード山脈の西に広がっていて、それがアイダホやモンタナの辺境の渓谷のなかにも続いている。

PNTハイカーが出会う最大規模の巨木は、ノース・カスケード国立公園とオリンピック半島にあるよ。これらは世界でもっとも大きい木の種類として有名なんだ。

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古代から生きつづけているレッドシダー(米杉)。僕のバックパックと比較すると、その大きさがわかるはずだ。

そして、何マイルにもわたる氷河が存在するトレイルは、National Scenic TrailのなかではPNTしかない。多くのハイカーの出発地点となるモンタナ州は、氷河にちなんで名付けられたグレイシャー国立公園というのがあるんだけど、実はワシントン州がアラスカを除くともっとも多くの氷河がある州なんだ。

パサイテン・ウィルダネス、ノース・カスケード国立公園、マウントベイカー・スノコルミー国有林、オリンピック国立公園などのいたるところで、PNTハイカーは大昔から残る氷に囲まれながら歩くんだよ。


多様な野生動物たちが生息する、希少な自然の残るトレイル。


とても高い緯度にある隔絶された土地であることに加え、ロッキー山脈から太平洋岸まで多様な生態系が広がっている。だからNational Scenic Trailのなかでも非常にめずらしい種類の野生動物が、PNT沿いには生息しているんだ。

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PNTが通る3つの州のすべてにグリズリーベアが生息しているため、ハイカーの正しい食料保管がとても重要だ。

PNTは、米国で指定されている6つのグリズリーベア生態系のうち4つを横断しているため、ハイカーはPNTが通る3つの州すべてでグリズリーベアとの遭遇に備えておく必要があるんだよ。

グリズリーベアはヒグマの一種として有名だけど、グリズリーはかつて北アメリカ大陸で絶滅寸前になってしまった。けど、いまでは回復への努力がうまくいって、PNT沿いのいくつかの生息域で個体数が増加したんだ。特にトレイルの東のエリアではうまくいっているんだよ。それに加えて、より一般的なアメリカグマについては、PNTのほぼ全域で繁殖しているんだ。

また他のNational Scenic Trailでは、ハイカーがこれほどたくさんのオオカミと一緒に時間を過ごすことはないだろうね。オオカミはかつては北米全域にいたんだけど、いまはアメリカ48州のうち北部エリアを中心に生息しているんだ。そのエリアにPNTが入っている。モンタナ州の起点からワシントン州カスケード山脈の西側にいたるPNTの900マイルは、そういう場所でもあるんだ。

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息子のアトラスは、オリンピック国立公園のPNTからクマを見た。

だけどPNTのハイカーがもっと遭遇する可能性が高いのは、マウンテンライオン(ピューマ)やボブキャットだね。ワシントン州はアメリカのなかでもっとも多くオオヤマネコが生息する土地で、そのすべてがPNT沿いにいるんだ。これらのめずらしいネコ科の動物たちは、ルーミス森林公園やパサイテン・ウィルダネス、ノース・カスケードのエリアで、たまに見られることもあるね。

ちなみにPNTに生息するめずらしい野生動物は、恐ろしい大型肉食動物だけじゃない。PNTハイカーがトレイルで日常的に見ることができるのは、ヘラジカ、ヤギ、オオツノヒツジ、シカ、マーモット、ナキウサギ、ワシ、カワウソ、アシカ、アザラシなど。さらにはクジラだって見ることができるんだ。

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PNTをスルーハイクする際は、ワシントン州のウィルダネス・コーストで数日過ごすことになる。ここでは、アシカやその他の海洋生物とともにシカやクマも観察できる。


人の少ない、アメリカでもっともワイルドなトレイル。


この豊かな土地が驚くべき生物の多様性をつくり出していて、それはまたPNTの体験にも大きく影響するんだ。

まず第一に、PNTが通ってるエリアにはほとんど人がおらず、そのため野生動物が生息する上で十分な自然がある。

AT(アパラチアン・トレイル)に沿った人口密度の高いアメリカ東海岸や、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)沿いの人気リゾート地とは異なり、PNTの近くの町は、ときに1ブロックもしくは2ブロックの長さしかないほど小さく、いずれも山脈の谷あいのところにある。

こういった小さな町では、毎年PNTハイカーが訪れることが、とても大きなできごとなんだ。

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ノース・カスケード国立公園にあるワットコム・パス近くのPNTから望むチャレンジャー氷河。

町の人口と同じく、トレイルを歩く人口も少ない。トレイルの大部分にはほとんど人が住んでおらず、その上、PNTのスルーハイカーは年間100人にも満たない。だからPNTでは、他ではできない孤独を経験することができる。またハイカーは真の自立を実践することによる喜びを、感じることができるんだ。

人口密度が低いのは、岩だらけの地形であることと、その土地の大部分を政府が管理しているから。PNTの約80%は、国立公園か国有林に属している。PNTが通る7つの主要な山脈があって、その山脈と山脈のあいだの低地にいくぶんか住みやすい場所が存在し、そこに町があるんだ。

PNTの端から端までずっと、これらの山脈がトレイルと垂直に交わっている。これがPNTの物理的な障壁になっていて、PNTが他のトレイルと大きく異なる部分でもあるんだ。PNTは、太平洋岸にたどり着くまでに、これらの山脈を越えて行くんだけど、一日に5,000フィート(約1,500メートル)を登ることもめずらしくないよ。

他にもあるんだけど、こういった理由から、僕はPNTがアメリカでもっともワイルドなNational Scenic Trailであると思ってるんだ。

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PNT上にあるオリンパス山の氷河。

ジェフが語るPNTの魅力、伝わったでしょうか。PCTやATの場合、ハイカーがたのしく歩いている姿をイメージしがちですし、実際ハイカーとの交流も醍醐味のひとつです。

でもPNTは、ハイカーが少なく、手つかずのウィルダネスがたくさん残っています。大自然、そしてそこで暮らす野生動物を楽しむ上で、これほどすばらしいトレイルはないかもしれません。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #02 パシフィック・ノースウエスト・トレイルでのファミリー・ライフ

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TRAIL TALK #006 JEFF KISH / ジェフ・キッシュ(前編)

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文・写真:ジェフ・キッシュ 訳:トロニー 構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

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ジェフの連載2回目は、PNTにほど近い町、ベリンハム(ワシントン州)に家族とともに移り住んだ彼の、ファミリー・ライフをお届けします。

前回の記事で、ジェフは週に60時間もPNTの仕事に従事するほど情熱を注いでいると語っていた。一方で彼は、トレイルの近くに家を構え、奥さんと4歳の息子さんとの3人で暮らしている。

大自然がすぐ近くにあり、子どもも遊べるローカルトレイルもたくさんある場所だ。子どもはもちろんジェフも奥さんも、自然の中で家族の結びつきを強くしている。

そんなジェフのPNTでの最高のファミリー・ライフをレポートしてもらった。

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息子が生まれたばかりの時に撮った家族写真。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


妻のハンナと出会い、一緒にPNTを旅し、これからの人生を考えた。


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ベリンハムにあるジェフの自宅にて。

ハイ、ジェフです! みんな、調子はどう? 今回は、PNTのそばで暮らす僕たち家族の暮らしを紹介するよ。

2014年にPNTのスルーハイキングを終えた後、僕の人生はいくつかの点で大きな変化を遂げたんだ。

それまではバンライフを送っていて、太平洋北西部(パシフィック・ノースウエスト)周辺で小さな冒険にあふれた生活を送る資金を手に入れるために、アウトドアメディアのウェブサイトに寄稿したり、週に2〜3日バーテンダーをしたりしていた。

妻であるハンナに出会ったのは、その冒険のひとつ(アダムス山の近くにある秘密の洞窟の探検)でのことだった。僕たちはすぐに恋に落ちた。僕はバンライフをしながら冒険をつづけようとしたけど、でも僕の野性は薄れてしまった。彼女が夜に僕を連れ出すようになって、アウトドアでの活動時間はますます減ってしまったんだ。

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僕の人生が大きく変わったのは、ハンナとの出会いも大きかった。

ふたりの関係が始まって数カ月後、ハンナは僕をオレゴン州ポートランドの駅まで送ってくれた。僕はそこからグレイシャー・ウィルダネス行きのエンパイア・ビルダー(※)に乗り込み、PNTのスルーハイキングを始めた。そして1カ月後、ハンナに再会した。彼女はワシントン州オロビルにあるトレイルの中間地点に来てくれた。PNTの中で最も長い区間のひとつ、パサイテン・ウィルダネスで僕と落ち合う約束をしていたのだ。

※ エンパイア・ビルダー(Empire Builder):アメリカ合衆国のグレート・ノーザン鉄道(Great Northern Railway)が運行を始めた大陸横断列車。区間はポートランド、シアトル〜シカゴまで。現在は、アムトラック(Amtrak)が運行を継承している。

僕たちが一緒に長期のバックパッキングをしたのはこれが初めてで、そして実を言うと、ハンナにとっては最初のロング・ディスタンス・ハイキングでもあった。

彼女がオロビルに到着したとき、パープルの新品のULAカタリスト(※)の中には適切なギアがすべてパックされていて、それを見て感激したものだった。振り返ってみると、PNTのこのセクションを一緒にハイクすることは、僕たちにとって「成し遂げるか、潰れるか」という、本当に「運命を左右する」瞬間だったように思う。

※ ULA:アメリカのULギアブランド「Ultralight Adventure Equipment」(ウルトラライト・アドベンチャー・イクイップメント)。PCTスルーハイカーであるブライアン・フランクルが、2001年に創業。Catalyst(カタリスト)は、同ブランドの中でも大型モデルで、13〜18キロの重量を背負う人向けに作られている。

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買ったばかりのULAのカタリストを背負って旅をするハンナ。

人里から遠く隔たったウィルダネスで11日間をともに過ごし、パサイテンの気が狂ったような天候に耐えながら、1人用のテントを共有する。それは本当に試練の連続だったけど、最終的に僕たちの関係はウィルダネスに入ることで、それまで以上に強くなったよ。

PNTでの最後の日、ハンナはオリンピック・コースト(ワシントン州・オリンピック半島にある海岸)から遠く離れた、西の終点まで迎えに来てくれた。長いドライブの後、僕たちは彼女のアパートに戻り、僕は次に何をするか考え始めた。


子どもが生まれ、ポートランドからベリンハムに移住した。


ブルワリー(※)での仕事を得て、そしてPNTアドバイザリー・カウンシル(PNTの運営管理に関する諸問題を議論する評議会)のポストに応募した。僕たちは彼女のビルの最上階にある、より広いアパートに引っ越し、ふたりで一緒に過ごす生活に慣れていった。数カ月後、子どもを持つことに決めた。そして数週間後、ハンナは僕らの息子、アトラスを身ごもった。

※ ブルワリー:ジェフが働いていたポートランドのブルワリーは、2016年にTRAILS編集部crewの佐井夫妻がファミリー・ハイキングをした際に、たまたま訪れた思い出の地でもある。ここで、ジェフと佐井夫妻は出会った。

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シアトルから北に90マイル(140km)のところにあるベリンハム。豊かな自然が大きな魅力。

現在、僕たち家族はワシントン州ベリンハム郊外の森に住んでいる。PNTAでの仕事を引き受けた後、僕たちはポートランドより北で生きる道を見つけた。僕は2014年以来ロング・ディスタンス・ハイキングをしていないけど、自分の人生はこれまで以上にトレイル中心になっている。

アトラスは今4歳半。彼の初めてのデイハイキングは生後4週間のときだった。そのあと、生後6週間で初めてのキャンピング・トリップをPCT Days(※)で経験し、さらに生後8週間で初めてオーバーナイトのバックパッキングをした。彼はPNTアドバイザリー・カウンシルのすべての会議に出席したし、PNTが通過する3州すべてのセクションをハイクした。PNTは常に彼の人生の一部だった。

※ PCT Days:パシフィック・クレスト・トレイル・デイズは、毎年8月中旬に、PCT沿いのトレイルタウンである、オレゴン州・カスケードロックスで開催されるイベント。ULガレージブランドをはじめさまざまなアウトドアブランドが一堂に会す、ハイカーたちのお祭り。PCTのスルーハイカーも数多く集まる。

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息子のアトラスとは、生後4週間から一緒にハイクしている。


息子とハイキングをするようになって、自然の世界を再発見した。


幼い子どもとハイキングをすることは、なにもかもが一変してしまう。距離で成功が測られる日々は終わりを迎え、その代わりに、僕たちの今の目標、つまり親としての目標は、アトラスが自然の世界と築きつつある好ましいつながりを育み続けられるような、そんな方法でハイキングをすることに変わったんだ。

息子に合わせるようにハイキングのスタイルが変化したことで、そのゆっくりなペースは僕たちの経験も豊かにしてくれた。子どもの目線を通して自然の世界を再発見することで、僕たちは再びそれに魅了されていったし、周囲のランドスケープに関する彼の質問に答えるには、僕たち自身が学ばなければならない。

ベリンハムに住んでいることは幸せそのものだ。僕たちの営み、そのすべての背景に森と山がある。北岸にあるこの小さな町は野生に囲まれていて、それらすべてはPNTで結ばれている。

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子どもの目線で自然をとらえることで、僕のなかに、自然との新しい付き合い方が芽生えていった。

いつか息子が十分成長したら、次は家族でPNTをスルーハイキングしたい。その頃には、トレイルは今とはかなり違うものになっているはずだ。その理由のひとつは、僕が時間をかけて改善してきたからだ。この目でPNTの進化を見ることができたら、そして、僕がこれまでずっと取り組んできたことを息子に見せることができたら、本当に素晴らしいね。


つねにローカル・トレイルがそばにある暮らし。PNTが僕たち家族を形づくっている。


それまでは、僕たちはできる時にトレイルのローカル・セクションを探索するんだ。PCにPNTのマップを保存しておいて、息子がそれらをハイクしたらセクションをハイライトする。そして、その記録のコレクションを見れば、僕たちの冒険を思い出せるようになる。

アトラスが2歳のとき、僕たちはPNT沿いのとあるループを完成させて西の終点に訪れるために、1日に3マイルのハイクした。彼は夫婦岩にあるネイティブアメリカンの岩絵を見たり、アシカやカワウソを目撃したり、潮だまりで水しぶきをあげて遊んだり、人生で初めてヘビを捕まえたりした。

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ネイティブアメリカンの岩絵に興味津々の息子。彼とのハイキングが心から楽しい。

彼が3歳のときにはオリンピック国立公園の真ん中まで行った。ハイ・ディバイド・ループと呼ばれる22マイルのトレイルを踏破するために、毎日5マイルをハイクした。そこはPNTの中でも僕のお気に入りの部分だ。ブラックベアのそばで一緒に野生のベリーを探し回ったり、オリンポス山の頂上にある岩だらけの氷河を眺めたりもした。

4歳のとき、僕たちはマウントベイカー・ウィルダネスでバックパッキングをして過ごした。ベリンハムからクルマですぐのところにあるベーカー山の白いドーム型の山頂は、ここのあたりの地平線に必ず現れる特徴なんだ。

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息子は、新しい世界に触れ、どんどん成長していっている。

今年はPNTの一部をハイキングして、ノース・カスケード国立公園の端にあるハネガン・ピーク(標高1,886メートル)を探検し、チェイン・レイクで水遊びをした。

僕たちがここで築いてきた人生、作ってきた思い出、そしてアトラスがこの環境で成長していく姿を、僕はいま心から楽しんでいる。彼のおかげで僕たちは森の偉大な恩恵を得ることができたし、そして僕たちを通じて、彼は森への敬意を抱きつつある。

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僕たちを通じて、息子も徐々に自然に対してリスペクトするようになってきた。

それもすべてはひとつのハイキングから始まった。PNTは僕たちをベリンハムに連れてきて、それ以来ずっと僕たちの生活と密接につながっていて、僕がPNTを形づくるために働くのと同じように、PNTもまた僕たちを形づくっているんだ。

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PNTは、僕たちの暮らしと密接に関わっていて、そのおかげで家族がいい方向に向かっている。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #01 パシフィック・ノースウエスト・トレイルという僕の仕事

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TRAIL TALK #006 JEFF KISH / ジェフ・キッシュ(前編)

(English follows after this page.)

文・写真:ジェフ・キッシュ 訳:トロニー 構成:TRAILS

What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。

* * *

先日TRAIL TALKに登場してくれたジェフ・キッシュが、TRAILSのあらたなAMBASSADORとして、連載記事を寄稿してくれることになりました(彼を選んだ理由については記事末を参照ください)。

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手つかずのウィルダネスが残るパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)。

PNTという、すでに完成されたトレイルではなく、今まさに現在進行形の、発展途上のトレイルが、これからどのように形づくられていくのか。それを彼の記事を通じて目撃できるのは、本当に貴重なことです。

そして、PNT近くのベリンハムというトレイルタウンに家族(奥さんと4歳の息子さん)と一緒に住まいを移したジェフは、いったいどんな暮らしをしているのでしょうか。

この連載では、そんなPNTとともに生きるジェフのハイカーライフをお届けしていきます。

第1回目の今回は、ジェフが今もっとも情熱を注ぎ、「仕事をしていてこれほどまでに満たされたことはない」と語るPNTの仕事を紹介します。

※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。

※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。


僕がいるパシフィック・ノースウエスト・トレイル・アソシエーション(PNTA)とは?


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パシフィック・ノースウエスト・トレイル・アソシエーション(PNTA)のオフィスにて。

ハイ、ジェフです! みんな、調子はどう? 今回は、僕がPNTでやっている仕事を紹介するよ。

僕が所属しているパシフィック・ノースウエスト・トレイル・アソシエーション(PNTA)は、アメリカでもっとも若いNational Scenic Trailの設立および提唱を目的として、1977年に設立された組織なんだ。

当時、National Scenic Trailには、まだアパラチアン・トレイル(AT)とパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)のたった2つしか認可されていなかった。支援活動(アドボカシー活動)が実を結ぶまでに30年以上かかったけど、2009年、PNTはアメリカでもっとも若いNational Scenic Trailに指定された。そして、それは今も変わっていない。

僕は2014年、PNTの1200マイル(約1900キロ)をスルーハイクしたんだ。モンタナ州・北アメリカ大陸分水嶺にある東の起点から、ワシントン州・オリンピック半島の太平洋岸にある西の起点までね。そして僕の人生は変わってしまった。だから、2016年にPNTAが新しいリーダーを探していることを知って、チャレンジしたいって強く思ったのさ。

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2014年、僕はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)をスルーハイクし、そしてこのトレイルに恋に落ちた。

PNTAには現在、僕を含めて5人の常勤スタッフがいる。毎年夏に雪の中からトレイルが現れると、50〜60人のトレイルクルーを季節限定で雇用する。

エグゼクティブ・ディレクターとしての僕の仕事は、他のスタッフがそれぞれ専門とするすべての業務を監督すること。これには、トレイルの維持管理と開発、トレイルに関する情報の精査、教育イベントの開催、地元、州、連邦政府に対するトレイルの提唱、そしてそれらすべてを賄うための資金調達が含まているんだ。


春〜夏の仕事は、シーズンインに向けての教育、コミュニティづくリ、トレイルメンテナンスなど。


季節が変われば、やるべきことも変わる。

『春』は、奉仕活動、教育、そして期間限定のクルーの採用と訓練の時期だ。この時期にはALDHA-West(※)と提携して、「ラック」という教育イベントを開催している。

このラックイベントは、経験豊富なロング・ディスタンス・ハイカーと、初めてハイクをしようと計画中の人たちを結びつけるもの。コミュニティを構築して、ハイキングに対するぼくたちの愛を、初めてそれを体験してみようとしている人たちと分かち合う場所なんだ。

※ ALDHA-West:正式名称は「The American Long Distance Hiking Association West」で、ロング・ディスタンス・ハイカーおよび彼らをサポートする人々の交流を促進するとともに、教育し、推進することをミッションに掲げている団体。ハイキングのさまざまな面における意見交換フォーラムを運営したり、ハイカー向けの各種イベントを開催したりしている。詳しくは、TRAILSのアンバサダーであるリズ・トーマスの記事を。ちなみに、ジェフとリズは旧知の仲でイベントで一緒になることも多い。

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春、PNTAはALDHA-Westと連携して、ベリンハムで「ラック」という教育イベントを開催している。

それと、春はトレイル・オペレーション・チームが地元の高校や大学を訪問する季節でもある。そこでトレイルについて話をして、生徒たちにサマープログラムへの参加を促すんだ。そして、リーダーを募集して、彼らに必要な訓練を提供する。この国でもっとも自然のままの人里離れた場所であっても、彼らがクルーの安全と生産性を確保できるようにね。

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毎年春には、期間限定のスタッフへのトレーニングおよび認定を行なう、「クルー・リーダー・リトリート」を開催する。

『夏』は、PNTをハイクしてメンテナンスする季節だ。このコースは北緯49度線沿いにあるから、夏は本当に短い。雪が溶けてからふたたび降り始めるまで、つまり、7月頭〜10月頭までの短い間しかハイカーはハイキングができないし、僕たちもその間にしか仕事ができない。

オフィスでは、山火事やその他変化しつづけるトレイルの状況について、コミュニケーション・マネージャーが忙しく最新情報をハイカーたちに提供する。トレイル・オペレーション・スタッフは地図の上に群がり、トレイル・クルー、パートナー、ボランティアの最適な配置を調整する。

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森林局が管轄するエリアでノコギリを扱うためには、リーダーが認証を受けなければならない。

この間、トレイルメンテナンスのために6名のクルーを投入するんだ。ウィルダネス・ファースト・エイドやノコギリを使用するための資格を有する経験豊富な2人のリーダーが、それぞれのクルーを指導。彼らが率いるクルーは、PNT周辺のコミュニティで募集した十代、二十代の若者で構成されている。

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ノコギリでトレイルメンテナンスを行なうPNTAのクルーリーダーたち。指定されたウィルダネスでは、チェーンソーやその他の電動工具の使用は許可されていない。

クルーは、トレイルの中でもっとも彼らを必要とする自然の奥地に行き、一度に10日間働く。それが終わったら、次の自然の中での10日間のために、家に帰って4日間休む。クルーの食料や装備の供給を絶やさないためにも、馬やラバを使いこなせるパートナーを調達して、何度も仕事現場まで重い荷物を運び入れたり、運び出してもらったりするんだ。

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PNTをメンテナンスするクルーメンバーたち。


秋〜冬の仕事は、政府とのやりとり、レポート作成、寄付募集など。


『秋』は、報告の季節。PNTAは、PNTの管理における、米国森林局の指定非営利パートナーだ。日が短くなり、山に雪が戻ってくると、トレイルメンテナンスの状況を分析し、森林局や他の土地管理者に、フィールドでの僕らの成果を報告する。

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毎年2月、PNTの代表者はワシントンD.C.に訪問し、森林局のリーダーと会合を開く。ここに写っているのは、森林局長のヴィッキー・クリスチャンセンと、全National Scenic Trailの代表者たち。

また、この時期は年末の寄付募集の準備が始まるタイミングでもある。これらの寄付は、PNTに夢中になったすべての人たちに向けて、僕たちがトレイルを管理するために手助けをしてほしいと訴えかけることで集まるものだ。メンバーや寄付者のサポートがなければ、僕たちが今しているような仕事はできないからね。

『冬』は、計画を立てたり、支援を取り付けたりする(アドボカシー活動)季節だ。日の短い数カ月間、補助金を申請し、契約を確保し、予算を策定し、そしてパートナーたちと一緒に次年度の作業計画を立てる。

たとえば、馬乗りと荷物を運ぶ手配をしたり、トレイルを維持管理するほかの団体と連絡を取りあって、お互いの邪魔をせずに効率的に作業できるようにしたりね。

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僕は、ワシントンD.C.にいる間、PNTがまたがる州と地区のすべての上院議員と下院議員と会う。

それと、マップやガイドを更新し、次のハイキングシーズンに合わせてインフォメーションを調整する期間でもある。

僕にとっては、冬はワシントンD.C.の米国連邦議会議事堂を訪れる季節だ。年に一度のこの出張で、連邦議会議員や森林局の指導者たちと会って、ぼくたちのトレイルの管理や運営への継続的な支援を訴えるんだ。

そして毎年、このサイクルが繰り返されるというわけ。


やりがいにあふれ、仕事をしていてこれほどまでに満たされたことはない。


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現在PNTAが注力しているのは、トレイルの全長1200マイルに、統一の標識を設置すること。ちなみにこの写真は、僕がオフィス近くの標識を打ち付けているところ。

僕たちはみんな一生懸命に働いている。ときには週に50時間から60時間働くこともあるけど、とてもやりがいのある仕事だ。3つの州、7つの国有林、3つの国立公園、そして私有地を含むさまざまな土地にまたがる1200マイルのトレイルを管理する、これはかなり複雑な仕事なんだ。

公有地の管理には多くの政治や人物が絡んでいる。これは多くの人にとって非常に重要なもので、どのように管理すべきか、それぞれが異なる考えを持っている。

大変ではあるけど、これは素晴らしい仕事だ。僕たちの誰もがすごく情熱を注いでいるし、世界をより良い場所にするものだとみんなが信じている。仕事をしていてこれほどまでに満たされたことはないよ。

PNTはとても特別なトレイルだ。他のトレイルのどれよりも自然そのもので、かつ隔絶されている。ハイカーはここで自然のあらゆる力に真の意味で挑戦できるし、人間が支配してしまった以降の世界だけでなく、原始の、ありのままの世界を垣間見ることができる場所でもあるんだ。

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アメリカ政府から、PNTの諮問委員会に選ばれた証。

PNTの歴史の中でもこの特別なフェーズにおいて、僕たちは、大きな責任を背負っている。将来にわたって、このトレイルが適切に管理され、保護されることを保証しなくてはならない。

僕たちが今くだす決断は、このトレイルを永遠のものとするだろう。今この仕事ができて、そしてこの特別な資源を世界とシェアすることができて、僕は本当に光栄に思っているよ。

いつか、日本のみんなにも遊びに来てほしいね。

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今なお、原始のウィルダネスが残るPNT。

TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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