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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが、今回レポートしてくれるのは、ヨーロッパ最大のパックラフト・イベント『Packrafting Meet-up Europe』。

2018年から毎年5月にスロベニアで開催されている、このイベント。2020年は、新型コロナウイルスの影響で延期が決定。場所も変更となり、9月にオーストリアで開催されることとなった。

今回の目玉は、3つのメーカーのパックラフトを試せる試乗会。出展していたのは、アルパカラフト、ココペリ・パックラフトに、チェコのロブフィン・パックラフトを加えた3メーカー。これらのメーカーのパックラフトを、いろいろ乗り比べできるイベントだったようだ。

試乗会に加え、例年どおり、パドリングのクリニックや、レスキューやリペアのワークショップも含め、多彩なコンテンツが行なわれた。

ヨーロッパにおけるパックラフティング・カルチャーの今が、体感できるレポートとなっている。コンスタンティンの試乗インプレッションも、お楽しみください。

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オーストリアのヴィルダルペンに、10カ国から約50人のパックラフターが集結。


開催場所を変更し、規模縮小しながら開催にこぎつける。


2020年9月、第3回『Packrafting Meet-up Europe』に参加してきました。昨年は、いつもとは異なった開催になりました。まずはその背景を説明します。

このイベントの第1回目と第2回目は、5月初旬にスロベニアで開催されました。しかし今回は、9月中旬にオーストリアで開催されることとなりました。他の多くのイベントと同様に、新型コロナウイルスの影響を受けたためです。

5月はコロナウイルス第1波のピークで、ヨーロッパのほとんどがロックダウンの状態。それで年内中の延期が決定し、結果的に、9月中旬に開催することになりました。この時期は、新型コロナウイルスの感染者数も比較的おだやかな状態でした。

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パックラフト・ヨーロッパのホームページ。すでに2021年のミートアップも発表されている。(https://packrafteurope.com/より)

とはいえ、スロベニアは安全を期して国境を閉鎖したため、隣国オーストリアのザルツァ川沿いにあるヴィルダルペンに場所を移すことになりました。ちなみに、主催者であるパックラフト・ヨーロッパ (※1) のセオンとミカエラもオーストリア在住です。

このような変更もあって、イベントは開催されたものの、規模は縮小しました (それでも10カ国から50人ほど参加しました)。このイベントを楽しみにしていた北欧の友人たちは、今回は参加を断念せざるを得ませんでした。帰国後に2週間の隔離期間を取らなければならないことがネックになりました。

※1 パックラフト・ヨーロッパ (Packraft Europe):オーストリア出身のセオンとミカエラが立ち上げたパックラフトの会社。アルパカラフトのディーラーであり、パックラフトのガイドやトレーニングも行なっている。2018年からは、『Packrafting Meet-up Europe』を主催。

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オーストリアでの開催となったことで、隣国のチェコからの参加者が増えた。

一方で、場所が変わったことで、新しい人たちがたくさん参加できるようにもなりました。たとえば、隣国のチェコからも多くの人が参加していました。


開催地は、オーストリアにあるパドラーに人気のザルツァ川。


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オーストリアの田舎町、ヴィルダルペンの街並み。

開催地のヴィルダルペンは、人口数百人の小さな村ですが、のどかな山の景色が広がるとても美しい村です。ドイツ語で「Wild Alps (野生のアルプス)」を意味するこの村は、大都市からも幹線道路からも離れたところにあります。

この村の最大の魅力は、ザルツァ川。パドラーに人気の川です。イベントでは、ヴィルダルペンの村にあるキャンプ場2つが使われていて、私たちはそのうちの1つに滞在しました。

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美しく、バリエーションに富んだザルツァ川。

ザルツァ川には、ヴィルダルペンより上流にある穏やかなクラス I〜II (※2) から、川を下った先の小さな渓谷にあるクラス III まで、さまざまなレベルのセクションがあります。

天候に関係なく楽しめる川で、私が滞在した3泊4日の間に、雨や霧の日から晴天の日までありましたが、このイベントはまったく問題なく開催できました。

※2 クラス:瀬(川の流れが速く水深が浅い場所)の難易度。クラス(グレードや級とも表現される)が I〜VI(1〜6級)まであり、数字が大きいほど難易度が高い。ちなみに、I は飛沫もなく静かな流れ、II はやや高い波があるが規則的、III は高い波が不規則にあり流れも強い。


アルパカラフト、ココペリ・パックラフト、ロブフィン・パックラフト、3ブランドの試乗会も開催。


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3ブランドのパックラフトをすべて試乗できる貴重なチャンス。

今回のイベントでは、試乗会も開催されました。今回は、アメリカのアルパカラフトとココペリ・パックラフト、チェコのロブフィン・パックラフト、この3つのメーカーが参加していました。

試乗会では、パックラフトを借りて試すことができます。これは、まさに私がやりたかったことでした。そして、私は3日間の滞在中、毎日違うパックラフトを漕ぎました。

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同じ川でも、パックラフトが異なればまた違った印象になる。

私はアルパカラフトのデナリリャマ (※3) を持ってきていたのですが、ミートアップの期間中、自分のパックラフトを一度も使わず、自分のテントの前に置いたままでした。その代わりに、毎日新しいパックラフトを試すことができたのです。

※3 デナリリャマ (Denali Llama):アルパカラフトのスタンダードシリーズ中、最も大きいサイズのパックラフト。


試乗1:アルパカラフト


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1日目に試乗したのは、アメリカのアルパカラフト (手前の青色の舟)。

初日には、アルパカラフトのウルヴァリン (※4) のホワイトウォーターデッキを借りることができました。私は数年前、アメリカのグランドキャニオンで、このパックラフトのカスタムメイド版を漕いでみたことがあります。

今回は通常バージョンのもので、私は気になっていることがありました。それは、このモデルが、身長が低く、体重が軽い人向けのものであると聞いたことがあり、その点についてでした。私は、身長192cmで体重90kg以上なので、対象外なのではないかと思っていたのです。

実際乗ってみると、クイックネスがとても良く、サイズも小さすぎる感じもなかったです(数日間のトリップで多くの荷物を運ばなければならない場合は、また違うかもしれませんが)。

※4 ウルヴァリン (Wolverine) :ホワイトウォーター向けのハイパフォーマンス・モデル。従来のホワイトウォーター向けモデルである、やや大型のナーワル (Gnarwhal) と小型のアルパカリプス (Alpackalypse) の2つの特徴をあわせ持つ。


試乗2:ココペリ・パックラフト


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2日目に試乗したのは、アメリカのココペリ・パックラフト (手前の黄色の舟)。

次の日は、乗り慣れているアルパカラフトではなく、ココペリ・パックラフトのセルフベイラー (自動排水機能) モデルを試してみました。私は、今までセルフベイラーのモデルには乗ったことがありませんでした。

全体的に操作性は良かったです。ただ、タイストラップ (膝を固定するストラップ) がすぐに緩んでしまうのが気になりました。膝から外れてしまわないように、結び目をつくって対応しました。

これがよく発生してしまう問題なのか、それとも通常3点式のタイストラップの中央部分がなかったことが原因なのかは、はっきりしませんでした。私が使ったときは、前にこのパックラフトを使用していた人たちが、中央部分のストラップを、どこかに置き忘れてしまっていたのです。


試乗3:ロブフィン・パックラフト


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3日目に試乗したのは、チェコのロブフィン・パックラフト (中央の赤色の舟)。

最終日は、チェコのロブフィン・パックラフトを漕ぐことができました。

いろんな種類のモデルを乗ったので、正直、どれに乗ったかちゃんと覚えられていないのですが……。ロブフィン・パックラフトの経営者であるロバート・カジック氏と彼のチームは、いろんなサイズのパッククラフトを試乗用に持ってきてくれました。いずれも、3つの気室 (2つの側面と底面) を別々に膨らませるタイプの舟で、デザインも非常にユニークでした。

これらのパックラフトはPVC (ポリ塩化ビニル) 製なので、かなり高い圧力まで膨らませることが可能です。底面の気室はキール (※5) がしっかりあって、通常のカヤックにも似ています。この効果はすぐに実感できました。エディキャッチ (※6) やフェリーグライド (※7) が、非常に楽にできるようになるのです。

※5 キール:カヤックの船底に張り出している筋状の部分。直進性を高めるために設けられている。

※6 エディキャッチ:岩などの障害物に流れがぶつかると、その下流には水がとどまり渦巻いている箇所が生まれる(エディ)。本流から抜け出てこのエディに入るテクニック。下流を観察したり、水上で休憩したり、上陸する際に必要な止まる技術。

※7 フェリーグライド:水の力を利用して、流れの中で左右に移動するテクニック。船首(バウ)を斜め上流に向け、ボートの底で流れを受け止めながらパドリングし、水の力を使って効果的に横方向にスライドする技術。

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底面にキールと呼ばれる筋状の部分が設けられているのが、特徴のひとつ。

ロブフィンのパクラフトを借りた他の人たちは、座り心地が悪いと言っていましたが、私は何の問題もありませんでした。ロングトリップだとどうかはわかりませんが、半日レベルではすごく快適でした。

このように、ミートアップの3日間、私は毎日違うパックラフトを漕ぎました。これは、とても貴重な体験になりました。


技術やTIPSが学べる、ワークショップやトレーニングも実施。


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パドリング技術を学ぶ、実践的なトレーニング。

最終的には、ワークショップやクリニックのプログラムも少し変わりました。初日にはいくつかのワークショップがあり、再乗艇、ホワイトウォータースイミング、スローバッグの使い方などの重要な安全技術のほか、エディキャッチやフェリーグライドなどのトレーニングも実施されました。

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スライドショーではレスキューのTIPSも紹介。

これらのプログラムは、経験豊富なボランティア・スタッフが、企画、運営してくれました。さらに、いくつかのリクエストに応えて、主催者のセオンは遠征準備のためのワークショップや、パックラフトの修理方法のデモンストレーションも行ないました。

ロブフィンのロバートはPVCボートを修理したエピソードを語り、アラスカのパックラフターであるクレイグは悪天候時の修理のTIPSを教えてくれました。最後に、セオンがブーフ (※7) のワークショップを開催しました。

※7 ブーフ:滝やドロップ (落ち込み) に安全に通過するための技術。大きめのドロップなどの場合、直下に落ちると危険なので、前方に飛び出して着水する必要がある。着水後は、ひきづりこまれないように、すぐに漕ぎ出す。

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パックラフトの修理に関するワークショップ。

全体の感想としては、新しい技術を学び、古い友人と再会し、新しい友人も作ることができた素晴らしいイベントでした。また、自分自身はじめてオーストリアでパドリングできたのも良かったです。私は、きっとまたここに漕ぎにくるでしょう。

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またいつか、このザルツァ川をパックラフトで下りたい。

パックラフターがこれだけ集まるイベントが開催できるなんて、なんとも羨ましい限りである。そして、パックラフトの中心地である北米だけでなく、このように世界各地でパックラフターのコミュニティが形成されていることに、ワクワクさせられる。

ちなみにアメリカでは、アメリカ・パックラフト協会 (American Packrafting Association) がRoundupを毎年主催しているが、こちらは2020年はコロナにより中止となってしまったようだ。

2021年は、少しずつこのようなコミュニティが再活性化していくことを願うばかりである。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS

TRAILSアンバサダーのコンスタンティンが住むオランダでは、冬のあいだ、夜間外出禁止令が続いています。そのような状況で、コンスタンティンもすべての旅の計画をいったんストップしていました。

ところが、突然やってきた春の陽気に、外出時間制限を守りながら、急遽ローカルの川に仲間と一緒にデイ・パックラフティングに出かけることにしました。期せずして訪れた、パックラフティングのシーズン・イン。

仲間のパックラフターは2歳の子どもも連れてきて、のんびりおだやかなパックラフティングを楽しんだようです。

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オランダとドイツの国境に沿って流れるディンケル川。


突然の暖かさによって、急遽パドリング・シーズンがスタート。


今年の2月は、異常な気候が数週間続きました。まず、前触れもなく、北極からの風が吹き、寒気と雪を運んできました。オランダでは、夜の気温が−10℃以下という日が1週間以上も続きました。そして、数年ぶりにあらゆる運河や湖や川に、氷が張りました。ロックダウンから解放されたかのように、たくさんの人々が、一斉に自然の中に飛び出しました。雪で遊んだり、自然にできた氷の上でスケートをしたりして、みんな楽しんでいました。

そうしたら、突然に風向きが変わり、今度は南から暖かい空気が流れ込み、これまでにないほどの暖かさになりました。南からの風は、サハラ砂漠からの砂も運んできました。これによってものすごく綺麗な夕日と日の出が現れました。その色を「サーモン」と、オランダの気象学者は表現していました。

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急に気温が上がり、雪もとけて水位が上がった。

今度は、日中気温は15℃を超える日が1週間近く続きました。2月としては、記録的な暖かさです。この暖かさで雪はすぐにぜんぶ融けてしまい、川の水位も上がりました。

春のような暖かな気候に、豊富な水量。これは私にとっては逃すことのできない、素晴らしい組み合わせです。これはと思って、パックラフティング仲間と一緒に、このタイミングで今年のパドリングシーズンをスタートさせることにしました。


コロナの外出時間制限を守りながら、ローカルの川のワンデイ・トリップへ。


私たちが向かったのは、ディンケル川というオランダとドイツの国境にある小さな川です。漕いだセクション (ロッセル 〜 ルッテルザンドまでの15km) は、もとのままの自然の特徴と魅力がたくさん残っているところで、昔の風景の中を川が曲がりくねりながら流れています。

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ディンケル川には、昔からの自然が今なお残っている。

今回一緒に漕いだ友人とは、年初の頃に、2月末あたりで一緒に週末トリップをしようと話していました。しかし、1月末からオランダ全土で夜間外出禁止令 (21時〜4時半までは外出禁止) が施行されてしまいました。それによって計画はすべて保留にせざるをえませんでした。しかし、今回の天気予報を見て、週末トリップの計画を決行することにしました。

もちろん宿泊を伴う旅は問題外ですが、日帰りであれば大丈夫です。21時までに確実に帰宅できる方法さえ考えれば行けるはずでした。

今回は、過去の記事でも登場したレミ (詳しくはコチラ) と、ディディエというオランダのパックラフター仲間と一緒に行きました。ディディエは、昨年オーストリアで開催された『パックラフティング・ミートアップ・ヨーロッパ』で知り合った仲間です。

ディディエは、パックラフトの経験は比較的浅いものの、経験豊富なアウトドアズマンでありパドラーでもあります。しかも彼はアラスカとベリーズ (※1) でパックラフトを使った遠征をした経験もあります。

※1 ベリーズ (Belize):中央アメリカの東岸に位置する国。ジャングル地帯があり、そこにはマヤ文明の遺跡が残されている。

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2021年に開催された『パックラフティング・ミートアップ・ヨーロッパ』で知り合ったディディエ。

そして4人目のメンバーはレミの息子のセン。彼は2歳になったばかりですが、すでに両親と一緒にキャンプやパックラフティングをしています。

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レミと、息子のセン。


雪解け水による増水で、前回とはまったく違う川に。


ディンケル川を漕ぐには、この地域の河川管理会社であるウォーターシャープ・ヴェクトストロメンの許可証が必要になります。この許可証は無料で、取得すれば10月1日〜3月31日まで川を漕ぐことができます。最近はいろんなものがオンラインで入手できますが、この許可証もオンラインで手続きできます。今回は、あっという間に手続きが終わり、1営業日以内にメールで許可証を送ってきてくれました。

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ディンケル川の標識。この川を最初にパックラフティングしたのは2014年のこと。

ディンケル川は今回が2度目で、2014年の10月に一度、漕いだことがあります。前回は今回の行程とは全然違って、ドイツのグローナウまで電車で行き、川沿いの少し歩いてオランダ側に戻り、そこから27kmのパドリング・トリップを始めました。

水深が浅く (膝くらい)、透明度の高い川で、両岸が高い土手になっています。太陽に照らされた砂地の川底には、何百匹ものザリガニがいました。こんなに大量のザリガニを間近に見るのは初めてでした。ほんとに手の届くところにいるので、2匹のザリガニをつかまえて、まじまじと見ました。

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川と岸辺がわからないほど水位が上がっていた。

しかし、今回の旅では川の様子がまったく違っていました。雪解け水のために、水位は以前よりはるかに高くなっています。事前にウェブカメラのライブストリームをいくつか見ましたが、川と水没した草原の境がほとんどわからなくなっていました。

幸い、私たちが現地に着いたときには、川の氾濫の一部はおさまっていました。それでも、川の水は、高い土手の上まで達していました。川の水は、あたりの草原に流れ込んだり、川の蛇行箇所が水で埋まって、「ショートカット・ルート」ができたりしていました。川の深さを確かめようと、パドルを水の中に入れてみたのですが、パドルが底まで届かないほどの深さになっていてびっくりしました。もはや以前漕いだ時とは、まったく異なる川になっていたのです。


突然の春の陽気に、たくさんの人で川沿いは賑わう。


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ディンケル川は、オランダとドイツの国境付近を、北に向かって流れている。今回は、ロッセルの町の近くからスタートし、デ・ルッテの町の近くにあるルッテルザンドにゴールした。

私たちは、それぞれ別の場所から現地に向かうため、ゴール地点で集合することにしました。そこにディディエと私の車を置いて、レミの車でスタート地点に向かいました。

今回の旅は、どれくらいの時間がかかるかはわかりませんでした。ディディエは、オランダのなかでも真反対にある、北海に近くに住んでいます。彼はディンケル川から2時間半以上かかる、遠いところまで帰らないといけなかったので、外出禁止時間前に確実に帰るためにも、彼の車をゴール地点に置いておき、できるだけ早くここを出発できるようにと考えたのです。

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ロッセルという町の近くからプットイン。

プットイン・ポイントとして選んだ、ロッセルの町のあたりは、たくさんの人で賑わっていました。数日前の川の氾濫で、泥だらけのところも残っていましたが、何十人ものサイクリストやハイカーが、ドイツまで続く『スマグラーズ・パス (Smugglers path)』(毎年開催される自転車イベント) で使用される道を通っていました。

川にも、人がたくさんいました。私たちがパックラフト (レミはアルパカラフトのヌー、ディディエはアルパカラフトのナーワル、そして私は、ロシア製パッククラフトのブラックパイク・アドバンスド) の準備をしていると、カナディアンカヌーに乗ったパドラーのグループを何組か見かけました。その中にはレンタルの人もいれば、自前のカヌーを持ってきている人もいました。

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カナディアンカヌーでディンケル川を下っている人たち。


意外なポーテージの落とし穴。フェンス越えでトラブル。


しばらくして、そのグループの一人が橋の近くをポーテージ (※2) しているところに、私たちは追いつきました。以前ここを下った時は、橋の下を漕いでくぐることができましたが、今回は水位が高くなっていて通ることができませんでした。

※2 ポーテージ:舟を担ぎ上げて、陸路を歩いて障害物を越えること。

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水位が高く、橋の下を通過できずにポーテージした。

今回ポーテージしたところでは、川岸がすべて有刺鉄線で囲われていて、ポーテージのときに苦戦しました。私は自分のパックラフトの長さをきちんと把握せず、フェンスにぶつけてしまい、パックラフトが破けそうになりました。幸いにも、私の舟は穴が開かずにすみましたが、ディディエはアンラッキーでした。ランチタイムで休んでいた時に気づいたのですが、彼の舟には小さなピンホールのような穴が開いてしまっていたのです。

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ランチタイムで、舟に小さい穴を見つけたレミだったが、リペアキットのパッチで応急処置。

ディンケル川が流れるエリアは、オランダとドイツの国境線上を流れています。そのため、草原の真ん中や、道路の上に、小さな石標があるのを、ときどき見かけます。私は、国境というものが、これほどまでに「透明」であることが、以前からずっと興味深いなと思ってきました。


2歳の子どもも、パックラフトの旅に大満足!


ゴール前の最後のパートでは、ルッテルザンドと呼ばれるとても美しいエリアを通りました。自然保護区となっている場所で、最大8mもある高い砂の崖があります。その砂崖の上が松林になっていて、特徴的な景観が形作られています。

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ルッテルザンドと呼ばれる名所。上部に松林がある高い砂の崖が広がっている。

この砂崖は、現在も浸食が続いているのですが、過去2回の氷河期に形成されたものと考えられています。初めて訪れたときは、人が少なく、静かにその美しさを楽しむことができました。しかし今回は、ピクニックをしたり、犬と遊んだり、春の暖かさのなか日向ぼっこをしたりなど、たくさんの人がいました。

約15kmの距離を漕いで、時間に余裕を持って17時前にゴール地点にたどり着くことができました。素敵な仲間と一緒に、美しい景色のなか、のんびりした旅ができました。特にレミの子どものセンが最高でしたね。センも、パックラフトに乗ることを、本当に楽しんでいました。

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このデイ・パックラフティングを一番楽しんだのは、レミの息子のセンだった。

天候にも恵まれて、とても暖かく、風のない日でした。舟を降りてパックラフトをパッキングした後、レミ、セン、私の3人はディディエと別れました。「また近いうちに会おう」と約束して、そして「次はチューリップの中を漕いでみようよ!」と私は提案しました。

たぶん次はそこに行くと思います。でもこの強い日差しがおさまれば、また冬らしい気温に下がります。またいつも通りの気候に戻り、その後に、春が来るのを待つ必要があります。

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次は、花が咲く季節に下りたい。

コロナ期において、ルールとマナーを遵守しつつ、限られた時間であってもパックラフティングへと繰り出すコンスタンティン。制約の中でも工夫して遊ぶそのスタンスは、さすがはパックラフト・アディクトです。

それにしても、川旅が終わった後の、セン君の笑顔は最高でしたね。彼にとっては、大きな冒険の一日だったことでしょう。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS

ステイホーム中にインスタグラムで見つけた写真から始まった、今回のコンスタンティンの旅。

ポーランド語のウェブサイトをGoogle翻訳で調べまくって、ようやく川旅の情報をゲットしたものの、いざスタートしてみると、初日から川をふさぐほどの藪で立ち往生。

今回の後編では、旅の2日目から最終日の4日目までのレポートをお届けします。どうやら2日目以降も、困難オンパレードのストラグルしながらの旅が続いたようです。

レポートの最後では、事前の情報収集において、なぜ探して探しても古いトリップ・レポートしか出てこなかったのか、というオチも明かしてくれました。まずはコンスタンティンがボロボロになりながら旅する姿を、楽しみながらお読みください。

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DAY1で、想像以上に手強いことがわかったウォブジョンカ川。果たしてDAY2からはどうなるのか。


「願いごとをするときは気をつけなさい」。


ポーランド北西部のウォブジョンカ川を、4日間かけて下るパックラフティング・トリップ。2日目は、のんびりとした朝から始まりました。テントを乾かしながら、ゆっくりと朝食を食べました。そばの森の中を歩いて、昨晩に気配のした動物の痕跡がないか、探してみました (結局、何も見つけられませんでした)。

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今回の舞台は、ポーランド北西部を流れる「ウォブジョンカ川」。べルスクの町の近くからスタートし、4日間かけて約60km南下し、ビジスクの町でゴールする行程だ。後編はCAMP1からはじまるDAY2〜DAY4のレポート。

地図と古いトリップ・レポートを見ながら、2日目のルートには何があるのかを確認しました。見た限りでは、2日目はほとんどが森の中を漕いでいくようでした。

森の中を進むのは、私にとってはとても嬉しいことでした。前日のようにイグサと格闘したくはないのですが、日差しを遮ってくれる日陰があることを強く望んでいたのです。実は、旅の準備をしている時に、なぜだか帽子と日焼け止めを持っていくのをすっかり忘れてしまったのです。スタート直前に妻が渡してくれたカラフルなスカーフがなかったら、首がカリカリに日焼けているところでした。

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漕ぎ始めて早々に倒木が現れ、昨日に引き続きハードワークが始まった。

「願いごとをするときは気をつけなさい。(それが叶ったときにどうなるかも考えて)」ということわざがありますが、実際、私は日陰がたくさんあるところを漕げましたが、その一方で、新たな問題も発生しました。

倒木で川が塞がってしまっている所が、たくさんあったのです。パドリングというより、障害物レースです。すごい数の倒木を、乗り越えたり、下をくぐったり、歩いて迂回したりしなければなりませんでした。最初は倒木の数を数えてやろうと思いましたが、あまりに多すぎてすぐに諦めました。

さらに先に進んでいくと、今度はパックラフトに穴が開いていることに気づきました。どこかはわかりませんが、空気が抜ける音が聞こえ、舟の片側から泡が吹き出ているのです。幸いにして大事にはいたらず、不安は残りましたが (意識的にそれを考えないようにして)、そのまま旅を続けることができそうだったのでよしとしました。

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パックラフトに穴が開くトラブルがあったものの、大事には至らずホッとひと安心。

障害物レースの森を抜け、開けた場所に入ると、またもやイグサとの戦いが始まりました。でも、実際にはそんなにぼうぼうに茂ってはいなかったのか、それとも私が対処法を習得したのかはわかりませんが、前日ほど辛くは感じませんでした。


パックラフトの穴を修理するために、早めにキャンプ地を探す。


7kmほど進むと、第二水力発電所のあるムロンスキ池に到着しました。広い池なのですが、かなり浅い池で、しかもところどころに背の高い草が生えていました。そのため反対側までたどり着くためには、きちんとルートを見定める必要がありました。

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ムロンスキ池は水深が浅く、渡るためのルートを見つける必要があった。

ところがそのときに、ちょうどモーターボートに乗った釣り人がこの先のダムに向かっているのを見つけて、状況は好転しました。彼は水深が深いポイントを知っているようだったので、私は彼の後を追っていくことにしました。

岸辺で、彼がクルマにトレーラーを付けてボートを引き上げているところで、私は彼に追いつきました。「いつもこんなに水が少ないんですか?」とその釣り人に訊くと、「いいや、今年の夏は本当にひどいよ」と教えてくれました。

ビトロゴシュチダム (河口から39km地点) をポーテージ (※) で迂回した後、またたくさんの倒木がある森の中を数km漕いで進みました。そして、そろそろキャンプ地を決めようと、ここで切り上げることにしました。

※ ポーテージ:舟を担ぎ上げて、陸路を歩いて障害物を越えること。

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ちょうど良さそうなキャンプ地を見つけ、穴が開いたパックラフトの修理をしたりと、のんびり過ごした。

まだちょっと早い時間でしたが (午後6時)、あまり開けた場所でキャンプをしたくなかったし、また、パックラフトの穴を修理するための時間も必要でした。

川のすぐそばのところに、良さそうなキャンプ地を見つけました。後でわかったのですが、どうやらそこは動物の通り道になっている場所だったようです。夕方に、対岸から川を渡ろうとしてきた鹿が、私を見てすごく驚いていました。

私はまずは川を泳いですっきりして、それからパックラフトの修理をしたり、妻と電話で話したりして過ごしました (この場所はケータイの電波が驚くほど良好でした)。

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キャンプ地は動物の通り道にもなっていたらしく、近くに鹿もいた。


古いトリップレポートに書いてあった「もっとも魅力的なセクション」。


3日目の朝。この日も遅めにスタートすることにしました。ちょっとだけあたりを散策してみようと、川の脇の草原を越えて丘の上の森を抜けると、大きな麦畑があってそこで農作業している人々の風景がありました。

この日の夕方に何が起こるか知ってさえいれば、私はもっと早くに漕ぎ始めていたのですが……。実際にスタートしたのは11時でした。

スタートして、(倒木も越えながら) 数kmほど漕ぎ進むと、小さな池と発電所があるウォブジェニツァの町 (河口から33km地点) に到着しました。

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DAY3の途中で立ち寄ったウォブジェニツァという町。

町に上陸して、まずは川で拾ったペットボトルのゴミを捨てて、それから次のプットインポイントを探しました。古いトリップ・レポートによると、ダムの右側にあるはずだったのですが、アクセスできそうな場所はどこも立ち入り禁止でした。しばらく町の中を歩いた末に、ようやく民家の裏から川に出られるポイントを見つけることができました。

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パックラフトを担いで町を歩きながら、プットインポイントを探す。

ウォブジョンカ川は、このあたりで川幅が広がり、開けた場所を流れていきます。町を出てすぐのところに広がっていた景色は本当にきれいでした。川の流れも漕ぎやすいところです。

ここでカワセミのつがいを見ることができました。めったに見られない鳥ですが、その鳥を近い距離でこんなにまじまじと見られることは、なかなかありません。しかも、つがいの一羽が小魚を獲るところも見ることができて、めちゃくちゃ嬉しかったです。これは間違いなくこの日のハイライトでしたね。

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町の周辺は倒木が少なく、景色も良く、漕ぐのが楽しかった。カワセミのつがいも見ることができた。

さらに数km進むと、またしても川に草がぼうぼうと生えているところが出てきました。イグサの中にハマって進めなくなってしまったときには、またパックラフトを引き上げる羽目になりました。それでも今回は、リカバリーするために、前回ほど長く歩く必要はありませんでした。その先で、ウォブジョンカ川は小さな支流が合流して流れが強くなり、勢いよく漕ぎ進めることができて、とても気持ちがよかったです。

午後5時半頃、第四発電所であるコシチェジン・ビエルキ (河口から25.5km地点)に到着しました (ここで、その日にまた拾ったペットボトルのゴミを、リサイクルボックスに入れました)。

古いトリップ・レポートに書いてあった「この川のもっとも魅力的なセクション」というのが、この発電所の先にあります。

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古いトリップ・レポートに書いてあった「この川のもっとも魅力的なセクション」。

トリップ・レポートに書いてあったように、たしかにそこはとても素晴らしいセクションでした。川は狭い渓谷のなかを進んでいきます。崖には背の高い木々が生えていました。流れも早くなり、岩もあって、小さな瀬も出てきます。このセクションだけ、山間の川のようでした。

ただ、欲を言えばもっと水量があると良かったですね。このときは水深が浅すぎて、何度もパックラフトから降りて、舟を引っ張ることになりました。美しいところなのですが、短いセクションで、3kmほどでおわってしまいました。


大量の倒木に塞がれた、悪夢のセクションが始まる。


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こんな光景は、これまでの数々のパックラフティング・トリップの中でも初めてのことだった。

次に待ち構えていたのは、悪夢です。狭い鉄道橋 (河口から22km地点) を抜けると、ウォブジョンカ川は深い森に入っていきます。そこで、倒木が川をほぼ完全に塞いでしまっていたのです。こんなことは、これまで経験したことがありませんでした。

数十本ものの倒木が、数mおきに次々と現れ、私の行く手を阻みました。うろ覚えですが、たしかにYouTubeの動画の中に、こんなのがあったような記憶がありました。早く終わってほしいと思いながら、私は精一杯の「丸太ジャンプ」に挑み始めました。

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倒木エリアがまったく終わらないので、森を出ることにした。

古いトリップ・レポートには 「時々、カヌーを引きずらないといけない倒木がある」と書いあったはずです。 そう「時々」と。だから、この悪夢はすぐに終わるはずでした。しかし、進めば進むほど、この悪夢には終わりがないことを悟りました。お腹もすきましたし、もうだいぶ疲れていました。そして、この川を進むことを諦めて、森から出ることにしました。

最初、草むらの中にある古い林道を見つけて、そこを進もうとしました。しかし、すぐにその道は消えてしまいました。藪の中で道を探さなければなりませんでした。私は来た道をたどって、川に戻ることにしました。YouTubeの動画は春先のものだったのですが、私は夏だったので、尖ったイラクサやワラビの茂みと、戦わなければならなりませんでした。しかも私は短パンでした……。

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困難にぶつかりながらも、なんとかクリアーしながら旅を続けた。

3回目のルート・ファインディングのチャンレンジで、ようやく川に入れる場所を見つけました。そこは川がせき止められている箇所も少なさそうでした。しかし、もうその頃には日が沈みかけていました。雲も出てきて、小雨が降り始めました。私は「真っ暗になる前に森から出ることは無理だ」と独りごとをつぶやきました。そして適当なキャンプ地はないかと探し始めました。

そうしたら、すぐにいい場所が見つかって、だいぶホッとしました。比較的フラットな地面があり、憎きイラクサもない場所でした。ほとんど真っ暗闇の中でテントを張って、すぐに冷たい夕食を食べ、寝袋に入りました。30分以内で眠るだろうと思っていました。しかし、擦り傷だらけの足がかなりほてっていて、すぐには寝つけません。

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とにかく早く寝たくて、お湯も沸かさず冷たい夕食をとった。

最初は、痛みを無視して無理やり眠ろうとしました。でも2時間後、私は別の方法を試すことにしました。携帯電話の電波が入ったので、イラクサによる傷の痛みを減らす方法をググりました。すると、患部にアルコールを塗るとよい、という手当ての方法を見つけました。

幸いなことに、新型コロナウイルス対策に使うための、アルコール度数の高い消毒液を持っていたので、それを脚に塗ってみました。これが見事に効きました。塗ったときに、ワラビの引っかき傷は痛みましたが、イラクサによるほてりはこれで治まりました。ようやく眠ることができそうです。

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アルコールの消毒液のおかげでほてりがおさまり、気持ちよく朝を迎えることができた。


旅の最終日。家族の待つビジスクの町へ。


4日目の朝は、それまでと違って、私は早起きして9時半前に川を下り始めました。昨晩、妻に午後の早い時間にビジスクの町まで迎えに来てほしいとお願いしておきました。まだ10kmほど下らないといけなかったので、のんびりしている時間はありませんでした。

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家族の待つビジスクに向けて、4日目は朝早くにスタートを切った。

続いていた森の中のセクションには、また倒木がたくさんありましたが、そのほとんどは、パックラフトから降りることなく、乗ったまま倒木の下を漕いで抜けることができました。一部、パックラフトから降りなくてはいけない箇所もありましたが、冷たい川の水の中にヒザまで浸かると、脚のほてりが和らいだので気持ち良かったです。

数km進むと、ウォブジョンカ川の5番目の発電所であるクリーク発電所 (河口から17.5km地点) に着きました。パックラフトを持ち上げてポーテージして、水路にあるエントリー地点まで来てみると、そこにまた障害物が横たわっていました。最近倒れたであろう、巨大なヤナギの木です。その幹と枝が、通路を完全に塞いでいました。もはや、パックラフトを担いでそれをよじ登って越えることしか、方法はありませんでした。

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今日は、これまでとは違って、倒木の下を漕いで抜けることができた。

ビジスクの町までの残りの5kmは、比較的開けたエリアでした。しかし、これまた驚くほどたくさんの古木 (直径2m以上のものもありました) が川を塞いでいました。その古木には、この地域に生息しているらしきビーバーの歯型が残っていました。

午後2時頃、私はようやく妻と娘が待っているビジスクの町の中心部 (河口から12km地点)にたどり着きました。

今までにないほど、のろのろとしか進まず、疲れ果て、極度のフラストレーションがたまる川旅は、こうして終わりました。

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なんとか無事に、ビジスクの中心部にゴール!

すべてはインスタグラムの写真から始まりました。それが、小さな冒険へと変わっていきました。すべてのセクションで、ウォブジョンカ川は私に試練を与え、結果的にそれは忘れられない経験になりました。いつもとは違った意味での面白さでしたけどね。

(帰りに妻がこんな話をしてくれました。彼女はビジスクで私を待っている際に地元の男性と話をしたそうです。するとその男性は、「何度かウォブジョンカ川を漕いだことがありますよ。でも、ここ数年は漕いでないですね。前よりも川に草も生い茂って、倒木も多くなっちゃったのでね」と言っていたそうです。それを旅する前に聞いておきたかったです……)

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ゴール後にパックラフトを畳む私と、笑顔で迎えてくれた娘。

プラン通りに行かずにボロボロになったけれど、思い出としては最高で、つまりそれは最高の旅をしたんだってことが、ひしひしと伝わってくるレポートでした。

日本だけでなく世界各地でパンデミックが再拡大していますが、そんなときでも、今回のコンスタンティンのように、別格な旅ができる日を来ることを、待っていたいと思います。ぼやぼやせずに、次にある自分の最高の旅に向けて、準備をしておかなくては。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS

ロックダウンで移動が厳しく制限されたヨーロッパ。そんななかTRAILSアンバサダーのコンスタンティンは、たまたまインスタグラムで見つけたある川の写真に激しくインスパイアされます。

「ロックダウンが解除されたら、この川に行きたい!」という強い衝動で、インスタグラムの投稿者に連絡を取ると、それはポーランドの川だとわかります。

まったくわからないポーランド語のウェブサイトを、Google翻訳で調べまくって、川下りの情報をゲットしたコンスタンティン。情報が乏しい異国の川でも、ビビっときたらとにかくすぐに飛び込むのが、コンスタンティンらしいところです。

いざ行ってみたら、困難オンパレードで、ボロボロにされたみたいですが (笑)、旅感が溢れるトリップ・レポートになっています。この旅を、前後半に分けてお届けします。

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森と森の間を、蛇行しながら流れるウォブジョンカ川。


ステイホーム中にインスタで見た川の写真にヤラれる。


こんなにのろのろとしか進まず、こんなに疲れ果て、極度のフラストレーションがたまる川旅は、おそらく今までにありませんでした。

56kmの距離を漕ぐのに、4日間で約26時間もの時間をかけて漕ぐことになりました。この旅のあいだ、あまりに絶望して、川から離れたのが2回。少なくとも100本以上の倒木を乗り越えました。足を擦って出血もしました。パックラフトにも穴が空きました。

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序盤から倒木だらけで、幾度となくパックラフトから下りることになった。

ウォブジョンカというのが、私を打ちのめした川の名前です。ポーランドの北西部にある川です。まずは、この旅の始まりについてお話しましょう。

私がこの川に出会ったのは偶然でした。去年の春先、ヨーロッパのほとんどが新型コロナウイルスによる最初のロックダウンで、どこにも行くことができなくなりました。

何か面白いことはないかとインスタグラムを見ていたら、小さな川でカヤックをする人たちをドローンで撮影した、美しい写真が目に入ってきました。その写真は、ポートランドのフォトグラファーが撮ったものでした。

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ポートランドのフォトグラファーがインスタグラムに上げていた、ウォブジョンカ川の写真。

晩秋で色づいた草原と、落葉した黒い森に囲まれた、美しい景色のなかを流れる小さな川の写真でした。川面は、太陽の光を受けて輝いていました。インスタグラムのキャプションには、「写真やカヤックの旅に最高」と書いてありました。

「もしかしたらパックラフトで行けるかも」と私は独り言をいい、このフォトグラファーに「これはどこの川ですか」とメッセージを送ってみました。すると彼は、川の名前は覚えていないけれど、ポーランドのズウォトゥフという町の近くにある川ですよ、と返答をくれました。

その町の名前を頼りに、Googleマップで、その川を探してみることにしました。30分ほど探していたら、森に囲まれた草原の中を流れる川を見つけました。それはウォブジョンカ川という名前の川でした。ポーランド国内の県境を流れる川で、その県の1つは私の妻の生まれた場所でした。いつかチャンスがあればこの川を漕いでみようと、そのときに自分の心のメモに残しておきました。


Google翻訳を駆使して、ポーランド語の川情報をディグる。


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8月のポーランドは、カラッとした暑さで晴れわたっていた。

8月の初め頃、パンデミックは少し勢力を弱めつつありましたが、第二波が来ると言われていました。新型コロナウイルスの規制が解除され、ヨーロッパ圏内の移動はできるようになったものの、国境がまたいつ閉鎖されるかわからないという状況でした。

私たち家族は、妻の実家に帰るためにポーランドで過ごしていました。妻の母は90歳で体調も良くないため、とても気をつけて、できるだけ人との接触を少なくするようにしていました。そのようななかでしたが、時間が作れれば、パックラフティング・トリップに出かけようと考えていました。

天気は最高でした。気温は30℃くらいで、カラッとしていて気持ちがいい暑さでした。そんな気候のせいもあり、私はまた川のことを思い浮かべていました。あの春先に発見した川のことです。その川での川下りについて、もっと情報がないか探していました。ただ、私が見つけることができた情報は、ほぼすべてがポーランド語でした (Google翻訳があって良かったです)。

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カヤックで倒木をくぐりながらウォブジョンカ川を下る。(YouTubeチャンネル「Tom AniolS」より)

見つけられたのは、その川についての一般的な情報ばかりでしたが、そのなかに古いトリップ・レポートを見つけました。そのトリップ・レポートには、複数のセクションについて、詳細な情報が載っていました。またそのレポートでは、この川は倒木によってポーテージ (※) が必要な箇所が複数あるから、注意した方がよいと書かれてありました。

YouTubeの動画もいくつか見つけました。その動画でも、森の中でカヤックを引っ張っているカヤッカーが映っていました。ウィキペディアのウォブジョンカ川のページでは、カヤックのルートについて、難易度、魅力、障害物という3つの観点で紹介されていました。

※ ポーテージ:舟を担ぎ上げて、陸路を歩いて障害物を越えること。

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ウォブジョンカ川を上がり、カヤックを引きづりながら移動する。(YouTubeチャンネル「Urząd Miejski Gminy Łobżenica」より)

ちなみに障害物に関しては、ウォブジョンカ川は、6段階のうちのレベル4と表記されていました。それはつまり「やっかいである」という意味です。たとえば、川から脱出する必要があったり、障害物を越えるためにかなりの時間がかかることがある、ということです。

「でもこれはあくまでカヤックに限ったことだ」と私は自分に言い聞かせました。「パックラフトだったら、もっと簡単にいけるはずだ!」

他にも水位が充分かという心配も残っていました (私が見つけた情報のほとんどは春のカヤッキング・トリップのもので、夏のものではありませんでした)。それでも出発することにしました。妻に車で一番遠くにあるスタート地点まで送ってもらい、そして数日後に迎えに来てくれるようお願いしました。さあ、旅の始まりです。


ロックダウン明け、ふたたびリバー・トリップができた感動。


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ウォブジョンカ川は、ポーランド北西部を流れる川。今回は、べルスクの町の近くからスタートし、4日間かけて約60kmを下り、ビジスクの町でゴール。

チジズコフスキー・ムリンという場所からスタートしようと考えました。そこはウォブジョンカ川の河口から62km地点にある場所で、小さな水力発電所があるところでした (ちなみにこの水力発電所は、ウォブジョンカ川にある6つの水力発電所のうち、最初に建てられたもので、かつその中で一番小規模の施設です。水力発電所があると、水位の予測が難しくなります)。

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妻にスタート地点まで車で送ってもらい、パックラフトを膨らませる。

充分な水量がないことが多いため、ここはあまり一般的なスタート地点ではありません。実際、今回も水量はあまり多くなく、次に川にプットインできるポイントである、ベルスキ橋 (河口から58km地点) までは、歩いて15kmもの回り道をしなければなりませんでした。

あっという間に、時間は午後5時を過ぎていました。でもまだ数時間は日が沈まなそうだったので、どうにかして漕ぎはじめたいと思っていました。私の見立てでは、このベルスキ橋のすぐ上流あたりが、この春にインスタグラムの写真で見た場所だろうと見当をつけていたのです。

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いざスタート! 久しぶりのパックラフティング・トリップが始まる。

その場所は川幅が4mほどあり、流れもちゃんとありました。写真よりも水草が多かったものの、パッククラフトが通れるくらいのスペースは充分ありました。倒木もありましたが、漕ぎながら下をくぐることができるものか、そうでなくても簡単に避けることができました。

晴れた空に暖かい夕日が差し込んでいました。少し離れた草原からは、何羽かのクロヅルが鳴いているのが聞こえました。このときに、また川旅をすることができて、本当に良かったと感じることができました。

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スタート直後は、思った以上にスムーズで、気持ち良く川を下ることができた。


川を漕いでいるのか、イグサのなかを這って進んでいるのか。


素晴らしいエリアは、あっという間に通過してしまいました。さらに下っていくと、川底にイグサが生い茂ってきて、それをかきわけないと進めなくなりました。快適なパックラフティング・トリップから一転して、ハードワークな状況に突入しました。

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徐々に、イグサだらけのエリアになり、思うように進めなくなった。

植物が茂りすぎているポイントでは、手でイグサをつかみながら、数十cmずつパックラフトを前に押し進めました。もはや漕いでいるのではなく、這って進んでいるような感じです。

ウォブジョンカ川が、私を試しているかのような気がしました。「この川はずっとこんな感じなのだろうか?」と、私は疑問に思い始めました。

絶望の中、土手にあがり、イグサの中でほとんど見えなくなっていたパックラフトを引っ張り出しました。そしてパックラフトを肩に担いで、草が茂っていない場所を探して河岸を歩きました。何度か良さそうな場所を見つけては、すぐにダメだとわかり、そうしてふたたびパックラフトを担いで歩き続けました。

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イグサの中に埋もれたパックラフトを引き上げることも。

ようやく30分ほど探して、ふたたび川に戻ることができました。完璧と言える場所ではありませんでしたが、もうこれでパックラフトを担ぎ上げずに、イグサの中を進んで行くことができそうでした。しばらくすると、川幅も少し広くなって、楽しく漕げるようになりました。ウォブジョンカ川が課してきた最初のテストに、合格した気分です。

暗くなり始めた頃、キャンプするのによい場所も見つけることができました。川と小さな森の間にある丘の上です。そこでさっとテントを張って、冷たい夕食を食べ、寝袋に入りました。一晩中、そばの森の中で、大きな動物が採食をしているような音が聞こえていました。でも私は、それを気にとめることもできないくらい、すっかり疲れきっていました……。

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DAY1はヘトヘトになって、のんびりくつろぐこともなくすぐに就寝。

いきなり旅の初日から、満身創痍でボロボロにされたコンスタンティンでしたが、全身で旅をしている姿には羨ましさを禁じ得ません。こんなクソ疲れる長旅をまたしたい、と思ってしまうのです。

さて、このポーランドの川旅はどのような続きが待っているのでしょうか。後編では、DAY2〜DAY4の旅のレポートを、コンスタンティンから届けてもらいます。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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パックラフト・アディクト | #35 オランダのラウテン・アー川でバイクラフティング

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パックラフト・アディクト | #30 ドイツ・ルーア川 2Days Trip

(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:トロニー 構成:TRAILS

今回のコンスタンティンのレポートは、パックラフトと自転車を組み合わせたバイクラフティングの旅。

2人用のパックラフトの前部に (通常は前に漕ぐ人が座るところ)、自転車とキャンプ道具を積み込んで、オランダの景色豊かな川を漕ぐ旅に出ました。

自転車の陸での機動力を活かして、川のスタートポイントまでの移動や、キャンプ地のまわりの探索など、すべて人力で移動するスタイルにワクワクします。

では、コンスタンティンのバイクラフティングのレポートを、お楽しみください。毎度ながらの旅のハプニングもあります。

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流れの緩やかなラウテン・アー川。


引越しと新型コロナが重なり、ぜんぜん遊べなかった日々。


実は最近、家族で新しい家を買ったんです。それで3カ月以上、その手続きや引っ越しのことをやっていました。加えて、新型コロナウイルスのこともあって、春と夏の旅の計画はすべてキャンセル、もしくは変更か延期になってしまいました。

ようやく短い休みを取ることができたのが、ついこないだでした。それで住んでいるところの近くで、手軽なパドリング・トリップをすることにしました。

新しいご近所さんのティアードも誘ったら来てくれて、彼も短い時間ながらも外で遊ぶことができて本当に楽しそうにしていました。彼は舟もハイキングも大好きなのですが、パックラフトはこれまで一度もやったことがなく、とても興味を持っていたのです。

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隣人のティアード (左) と私。


折りたたみ自転車を舟に載せて、1泊2日のバイクラフティング。


彼の「処女航海」のために私が選んだ川は、ドイツとの国境からほど近い、オランダ北東部フローニンゲン州の東部を流域とするラウテン・アー川です。

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ウェッデの駐車場に車を停め、そこから自転車でラウテン・アー川のプットインポイントへ。

この川は、オランダ人の友人がオススメしてくれた川で、彼はこの春にガールフレンドと2回ほどこの川で漕いでいて、とてもよかったと言っていたのです。

その友人は川を漕いだ後にハイキングで戻ってくる、という日帰りのパックラフティングだったらしいのですが、「1泊2日の旅もできるよ」と彼は教えてくれました。そして、川で野営できるキャンプ適地もいくつかオススメしてくれました。

さらに、道路から簡単にアクセスできそうな、2つのプットインポイントとテイクアウトポイントも教えてくれました。そして「上流のスタートポイントから、下流のゴールまでだいたい6時間くらいだけど、素晴らしい旅だったよ」と言っていました。

私たちはもっと長いルートを下りたかったのですが、車は1台だけだし、コロナのこともあるので公共交通機関を使いたくありませんでした。それで私とティアードは、折りたたみ自転車を持って行くことにしたのです。そんなことで、今回はミニ・バイクラフティングの旅になったのです。


まず川のプットインポイントまで自転車で!


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手前にある私の自転車は「Brompton / P6R」(ブロンプトン / ピーシックスアール) 。後ろにあるのがティアードの「Cumberland / Hopper」(カンバーランド / ホッパー) 。大半の荷物はパニアバッグに収納。それ以外に、私はフロントにパックラフト (2人艇) とパドルを、リアにパックラフト (1人艇) を外付けし、ティアードはリアにテントを外付けしている。

夕食後に自宅のあるレーワルデン (※1) から出発した私たちは、1時間強かけてウェッデに向かいました。ここが川下りのゴール地点として、友人にオススメされたところです。

そこに小さな城があって、近くの駐車場に車を停めました (残念ながら城はクローズしてました)。そしてパックラフトやキャンプの道具を自転車に積み込み、川のプットインポイントまでは、1時間ほどのサイクリング・トリップです。

私たちが住んでいる場所からはそんなに離れていませんが、馴染みのない土地をサイクリングしていると、しっかり休みの日を楽しんでいる気分に浸れました。

そこには麦やジャガイモの畑、雑木林、小高い丘などの風景が広がっていました。私が慣れ親しんでいるフリースランド北部の、木の少ない平らな草原に水路や運河がたくさん流れているような景色とはだいぶ違っていました。

※1 レーワルデン (Leeuwarden) :オランダ北部にある都市で、フリースラント州の州都。北緯53度にあり、北海道の北端 (北緯45度) よりもかなり北に位置する。夏は極端に日が長く、冬は日が短いのが特徴。夏は午後10〜11時ごろまで明るい。現在、コンスタンティンが住んでいる町でもある。

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車から川までのサイクリングでは、さまざまな風景に触れることができて、とても楽しかった。

道中では、ラウテン・アー渓谷のサイクリング・ルートの看板を何度か見かけました。小川に沿って道が走り、近くで川が流れているのを見ることができる、本当に景色のよいルートでした。

所々で小川の土手がとても新しくきれいになっていて、草もほとんど生えていないところがあり、不思議に思いました。これには理由があって、それは後になって知ることになります。

途中で何度か小休止をしながら、1時間強かけてテル・ウォルスラーゲの近くにあるプットインポイントに到着しました。ラウテン・アー川の源流はさらに数km南の地点にあるにもかかわらず、私にはここが川の始まりのように感じられました。

道路の下の土管の中を流れていた川が、ここでまた地上に姿を現してくれていました。しかもここにはちゃんとした木製のカヤックの乗り場がありました。まさに漕ぎ始めるには最適な場所です。


2人艇に自転車2台を積んでスタート。


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プットインポイントにて。自転車を積んだ2人艇は主に私が漕いだが、時々ティアードにも貸した。

40分ほどでパックラフトの出発準備をしました。今回は2台の自転車と2人の荷物があったので、2人乗り用のアルパカラフト・オリックスと、ティアードのために妻のユーコン・ヤック (※2) を持っていきました。

どちらもカーゴフライ (※訳注:舟本体のチューブの中に、荷物を入れられる仕様) が付いていない舟なので、自転車と荷物は私が漕ぐ2人艇のオリックスに積み込みました。そしてティアードにはパックラフトを存分に体験してもらうことにしました。

ティアードは初めてのパックラフトでしたが、とても気持ち良さそうにしていました。彼の漕ぎ方を見て、パドリング経験が十分にあることがすぐにわかりました。

※2 ユーコン・ヤック (Yukon Yak) :アルパカラフト社の3サイズあるスタンダードシリーズのなかの、Mサイズの舟。

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「Alpacka raft / Oryx」(アルパカラフト / オリックス) という2人艇に2台の自転車を載せた。

最初の1kmほどは、川は蛇行しながら流れていて、川の中は水草で覆われています。その中をスイスイと漕いで進んで行きます。興味深いことに、ラウテン・アーという名前の由来は、前半が「葦 (あし)」 、後半が 「水」 を意味するゲルマン地方の方言だと言われています。

その後、川の景色が少し変わってきます。川幅は広くなり、水草は見かけなくなり、その代わりに「高い」砂の土手がでてきます。また何箇所か「人工的な瀬」を通っていきます。真ん中をカヤックが通れるようになっている、水面から10〜15cmくらい出ている木製の小さな堰堤があるのです。だいたいこれが何段か連続していて、階段を下りるような感じで下っていきます。(次の日も同じような瀬がたくさん出てきました)


目立たない森の中で、星空を眺めながらのキャンプ。


スタートして1時間ほど経って、日が沈み始めました。ティアードは私に「今日のキャンプ地まで、あとどれくらいある?」と聞いてきました。「残念ながら、まだ何kmか先だと思うな」と私は答えました。そういうわけで、そこで私たちは野営できそうな適当な場所を探しはじめることにしました。

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川から離れた森の中でのキャンプ。

民家からも道路からも距離のある、川の上の砂地の裏手にある小さな森の中に、すぐにいい場所を見つけました。テントを張る頃には、すっかり真っ暗になっていました。でもテントの前室からは大きな星空が見えました。

疲れていたし、目立ちたくなかったこともあり、ティアードと私は静寂の暗闇の中で、ソーセージとトマトが入ったインスタントのマッシュポテトを夕食にしました。テントに入ったのはもう真夜中近くだったので、明日は遅めに起きようとティアードと話し、ゆっくり寝ました。

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テント泊の翌朝、自転車であたりを散策してみた。

翌朝、キャンプの荷物をまとめる前に、自転車に乗って辺りを探索することにしました。探索していると、思っていたよりもずいぶんと広い森だということに気づきました。

森の隣には小さな荒地があり、その周りに標識のついた道がいくつかありました。その道から近いところで私たちは野営していたので、朝食を食べる前に私たちは撤収することにして、キャンプをした痕跡をすべて消しておきました。


風景が変わり続ける自然豊かな川。


川に戻るとすぐ、レンタルのカナディアンカヌーに乗った、子ども連れの家族グループと出会いました。流れは緩やかで、川の流れと反対側に向かって漕ぐこともできます。「あの木の階段 (小さな堰堤) をどうやって乗り越えていくんだろうね」とティアードは不思議がっていました。

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しばらくカナディアン・カヌーに乗った家族たちと一緒だった。

前日と同じように、この川はずっと景色が変わり続けます。開けた野原や雑木林から小さな村へ。高い砂地から平坦な沼地へ。そして小さな岩の瀬もあります。ラウテン・アー川ではずっと驚きが続きます。

その中でもびっくりしたのは、私の友人がキャンプを勧めてくれた最初の場所に到着したときのことです。そこは彼が言っていたような人が少ない場所ではなく、すぐ横には重機があり、歩道橋を作っている人が何人かいました。川底もかなり新しく作られたように見えました。友人が言っていた小さなダムは、どこにも見当たらなかったのです。

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驚くほどいろいろな景色や植生を楽しむことができた。

しかし、最大の驚きは、もう少し先にありました。現在地を把握するために、私は携帯電話でグーグルマップを使っていました。でも、ジプシンハイゼン村の隣で完全に迷ってしまいました。村のなかを流れてるはずの川が、そこにはなかったのです。その代わりに、村のまわりには新たに曲がりくねった川床が作られていて、グーグルマップではまるで畑の真ん中をパドリングしているように見えました。


現在、川の再生プロジェクトが進んでいるラウテン・アー川。


あとで読んで知ったのですが、ラウテン・アー川はもともと第二次世界大戦後に水路化された川で、その一部は排水路として使われたそうです。

しかし、排水を促進した結果、土地が干上がってしまい、自然環境に悪影響をおよぼすようになりました。そのため、20世紀末には、川をより自然な状態に戻し、蛇行を復活させる計画が立てられたのです。

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近年は川の再生が進んでいて、このように、魚が遡上できるような小さな堰が増えている。

これは川の保水能力を高めるのに役立つと考えられています。川を再生させるために、川の中にいくつも作られた小さなダムを、小型の堰に置き換える計画を立てました。これによって、魚も産卵のために川を遡上できるようになります。

この地域を再開発し、ハイキングやサイクリングにも適した道を作ることで、もっとたくさんの観光客が来てくれるだろうと期待されています。

2000年代初頭に始まったこの再建プロジェクトは、今年の春には最終ステージが終了する予定でした。しかし、当初の計画より時間がかかっているようで、私の友人が今年のはじめに漕いだ後に、新たに追加された区画もあったのです。実際、まだ地図に反映されていない、新しい区間もありました。

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川を下り終えて自転車に乗り、駐車場へと向かう。歴史的な建造物などを見ることで、この地の歴史や文化を知ることもできた。

スタートが遅れたことと、思いがけない回り道もあったため、私たちは川を漕いでウェッデまで到着することはできませんでした。時間がなくなってきたので、私たちはレネボルグ村の橋の隣に出て荷物をまとめ、自転車で車に戻りました。

この時は、城の公園のゲートが開いていたので、旅が終わる前に城を間近で見ることができました。この城もラウテン・アー同様、この地域の歴史に重要な役割を果たしたものです。


人生初のパックラフティングを経験したティアードの感想。


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水を得た魚のように楽しんでいたティアード。

旅がおわった後、ティアードにパックラフティングの印象を聞いてみたので、さいごに彼の感想を紹介します。

「必要なものをすべて持って、のんびりと川下りができるのは最高だったね。僕はハイキングも舟もやるから、すべての荷物を持って移動する感覚は、もともと好きなんだ。でも、すべての荷物をこんな軽くて小さな舟に載せられるなんて、本当にすごいね。

あと、漕いでいるあいだに舟がずっと動いているのもいいね。もう少し水の流れがあったほうがよかったとは思うけど。改めて、他の手段ではなかなか行けない新しいエリアを開拓しながら、アウトドアの冒険を楽しむことのできる最高の方法だと思ったよ」

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ラウテン・アー川は流れが緩やかなので、パックラフティング初心者でも安心して楽しむことができる。

最初はバイクラフティングのレポートと聞いて、もっとワイルドな旅を想像していたが、いい意味でその想像は裏切られた。

コンスタンティンは、緩やかな川でパックラフトと自転車を組み合わせることで、身近なフィールドを冒険的なフィールドに変えて楽めることを教えてくれた。

川下りに、自転車の陸での機動力が加われば、身近な場所でも旅の楽しみ方はもっと広がる。コンスタンティンの新しい旅のレポートが、また待ち遠しくなった。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:トロニー 構成:TRAILS

今回は通常のトリップレポートとは一風変わった、「国境の川」というコンセプチュアルなテーマのレポートを、TRAILSアンバサダーのコンスタンティン (HikeVentures) が届けてくれました。

「国境」は、ソビエト連邦 (ソ連) で生まれ育った彼にとって、とても大きな存在でした。ソ連では、ビザの取得も難しく、国境を越えることは簡単ではありませんでした。

だからこそ彼にとって、いまパックラフトで国境を自由に旅できるということは、特別な意味を持っているのです。

今回のレポートは、私小説のように、国境をめぐるさまざまな情景が描かれています。パックラフトの旅を通して、彼のなかで強固な存在であった「国境」のイメージが変わっていく様子が伝わってきます。

話は小さな頃のソ連の思い出から始まります。

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モンテネグロとボスニア・ヘルツェゴビナの国境を通るタラ川でのパックラフティング・トリップ。


ソ連生まれの私にとっての国境とは?


私はソ連で生まれました。その私にとっては、国境とは、永久不変であり、越えられないものであり、重い存在でした……。

隣国に入るのに、簡単に国境を越えることはできないのです。ビザを取得するのにも、長く大変なプロセスを経なければいけませんでした。しかも、もし手に入るならば、という話です。また、場合によっては出国用のビザも必要でした (ソ連にもそういうものがあったのです) 。

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生まれ育ったソ連の風景。

その後、国境検問所に行き、数時間待ってから、両方の国で国境警備隊や税関職員による非常に厳しくて、信じられないほど不愉快なチェックを受ける必要があります。

そうして、ようやくその国に入国することができたのです。また、国境の検問所以外の部分は、有刺鉄線、監視塔、シェパード犬、地雷原、無人地帯が立ち並び、横切るのは困難を極めました。

オランダに住み始めてからもう19年近くが経ちます。オランダに住む前にも、ヨーロッパへは旅行で訪れたことがありました。そしてヨーロッパ内の国境では、みんな緊張状態ではないことを知りました。

社会主義の時代に生まれたポーランド人の妻ですらも、私が国境を怖れたり、魅惑されたりする気持ちを理解できないようです。ポーランド人にとっては、今もなお私の感覚とは違うのでしょう。

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ソ連で暮らしていた時、私の父親はよくカヌーで川をくだっていました。

国境に対する私のスタンスは、1990年に公開されたソ連のコメディ映画『パスポート』(ゲオルギー・ダネリヤ監督)の中でよく表現されています。

この映画は、イスラエルに移住することになった異母兄弟の一人を描いた作品です。内紛によって、もう一人の兄弟が国外退去を余儀なくされるのですが、彼がソ連に戻るまでの間、いくつもの国境 (中には有刺鉄線や地雷原もある) を越え、結果的に刑務所に入れられてしまうという、不運の旅路が描かれています。

この映画の主人公が横断する最後の国境は、単なる浅い川にすぎません。その対岸に、彼が帰りたかった故郷がありました。


ヨーロッパ各地の「国境の川」をめぐる旅。


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私がこれまでにパックラフトで旅した、ヨーロッパにある7つの国境の川。

川はもともと人々を分かつ自然の障壁でした。それがやがて、さまざまな国の国境として利用されるようになりました。

私がこういった国境の川に興味を抱くのは、国同士の関係が複雑になることが多いなかにおいて、川だけは自然のままで、人間による影響をあまり受けないからです。

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ベルギー (左岸) とオランダ (右岸) を隔てるマース川にて。

私が最初に漕いだ国境の川は、グレンスマース (国境のマース川という意味) にある川でした。そこにあるマース川の47kmの区間は、オランダとベルギーの国境になっています。

この区間の川は比較的浅いのですが、小さな瀬 (※1) もあります (川の流れのほとんどが運河に流れ込んでいます)。小さくとも美しい川です。

一緒に旅をしたのは、HikeVenturesを一緒に運営している友人のパトリックでした。

この頃は、まだ私たちはパックラフトを始めたばかりでした。なので、クラスI〜II (※2) くらいの小さな瀬でも、十分にエキサイトしていました。

実際、初心者のパドラーが最初に漕ぐのにもピッタリの川です。年間を通して十分な水量もあるし、川を漕ぐための許可証 (パーミット) も必要ありません。

※1 瀬:川の流れが速く水深が浅い場所。瀬を越えるのはスリリングかつ、難易度が高くなるほどテクニックも要するため、ダウンリバーにおける醍醐味のひとつでもある。

※2 クラス:瀬の難易度。クラス (グレードや級とも表現される) が I〜VI (1〜6級) まであり、数字が大きいほど難易度が高い。

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ドイツとオランダの国境をまたぐディンケル川。

グレンスマースは私が漕いだ最初の国境の川でしたが、それ以降、ディンケル川 (ドイツ – オランダ)、ツイード川 (スコットランド – イングランド)、ドゥナイェツ川 (ポーランド – スロバキア)、タラ川 (モンテネグロ – ボスニア・ヘルツェゴビナ) を2回、ドンメル川 (ベルギー – オランダ)、ルーア川 (ベルギー – ドイツ) も下りました。

グレンスマースへは、2度訪れています。2回目に旅したときは、オランダ人とベルギー人のパックラフターのグループと一緒でした。

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ベルギーとオランダの国境をまたぐドンメル川。


「国境の川」の面白さを一番感じたのはルーア川 (ドイツ・ベルギー国境)


こういった川の中には、ドンメル川のように国境を横切るだけのものもあれば、ディンケル川のように二国間を数百mにわたって平行に流れるものもあります。

また、グレンスマース、ツイード川、ドゥナイェツ川、タラ川などは、川自体が国境の一部分となっています。

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スコットランド (左岸) とイングランド (右岸) を隔てるツイード川にて。

しかし、これらの川は私が子どもの頃に考えていた国境とは違っています。私が思うような場所や川も実在するのですが、まだそういった場所で漕いだことはありません。

私が漕いできた中でもっとも興味深かった、「永久不変」の国境の川はルーア川です (ルーア川のトリップレポートはコチラ)。

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ベルギーとドイツの国境を行き来するルーア川。歴史的建造物も印象的でした。

ルーア川は一般的な国境の川とはちがってとても特殊で、国境のあたりを複雑に蛇行して流れています。

ベルギーとドイツの国境を越えてドイツに入ったあと、数十mドイツを流れ、ふたたび国境を越え (ベルギーで10〜15m)、また越えて (ドイツで数百m)、また越えて (ベルギーで10〜15m)、また越えて (ドイツで数百m)、さらに越えて (ベルギーの10〜15m)、最終的にドイツに入るまでの間、しばらく国境を行き来します。

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これが旧ドイツの鉄道として知られているフェンバーン。

こんなにややこしい国境になった理由には、フェンバーン (フェン鉄道) というかつてのドイツの鉄道路線の影響があります。10〜15m幅の鉄道敷地だけが、第一次世界大戦後に部分的にベルギー領となったのです。そのため、このエリアにはドイツの飛び地が点在する複雑な国境線になったのです。


「国境の川」は、2つの国を同時に旅する楽しさがある。


川のなかにどのように国境が引かれるかについては、共通のルールはありません。川の地理的な中央部の場合もあれば、水の流れの中央部の場合もあります (これは異なるものを指します)。

あるいは、堤防が国境になっていることもあります。国境線のルールは常にわかりやすいわけではないのです。(川を漕いでいるときは)地図上で自分の位置を常に確認するわけではないので、その時々で自分がどちらの国にいるのか、わかっているわけではありません。これは私にとって、とても面白いことです。

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モンテネグロを流れるタラ川。後ろに見える山々はボスニア・ヘルツェゴビナ。

たとえば、あなたが誰かと一緒にパックラフティングをしているとき、二人はそれぞれ別の国にいるかもしれないのです。あるいは、あなた自身が2つの国にまたがる場所にいることもあるでしょう。変な感じだけど、面白いですよね。

しかし、国境を流れる川を漕ぐ旅は、こういった気持ちの面での楽しさだけではありません。

独自の言語、伝統、考え方といった、2つの異なる文化に触れることもできるのです。

ポーランドとスロバキアの国境を流れるドゥナイェツ川を漕いでいたときには、私は地元料理に興味があってスロバキア側でランチをとりました (私の妻はポーランド人で、ポーランド料理は慣れ親しんでいたからです)。しかも、お値段もお手頃でした。

文化の違いや物価だけではなく、国によって川の扱い方も大きく異なっている場合もあります。

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ヨーロッパのグランドキャニオンと呼ばれるタラ渓谷。

たとえば、モンテネグロのタラ渓谷のパドリングの場合、そのほとんどはドゥルミトル国立公園を通っていて、その利用には許可が必要です (しかも高額です。詳しくは私の過去の記事をご覧ください)。

地元のパドラーたちからは、モンテネグロでは川の下流 (国立公園の先) のパドリングも同様に許可制にしようとしていると聞きました。でも、ボスニア側はそれを望んでいなかったため、下流部は誰でも入れるようになっています。


パックラフトの旅を通じて変化した「国境」のイメージ


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ルーア川のドイツエリアにて。

この7年間を振り返ってみると、パクラフトを持っていたおかげで、たくさんの面白い場所を訪れることができました。

また、国境に対する私の考え方も少し変わりました。

国境の川は、単に境界の役割を果たすだけではなく、何かを結びつけるものでもあります。こういった捉え方が、私が持っていた考えを変えるきっかけになりました。川はもはや障壁ではなく、探検への道なのです。

私は、これからもたくさんのそういった川を、パックラフトで旅したいと思っています。

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スロベニアのソチャ川は、透明度が高く、エメラルドグリーンの色をした水面がとてもキレイでした。

コンスタンティンがレポートしてくれた、ヨーロッパにある国境の川をめぐる旅。

ソ連出身であるコンスタンティン自身の個人史とむすびついた、とても興味深い内容でした。

島国である日本では体験できない、隣り合う二国の異なる文化を一度に味わうことのできるパックラフティングの旅。しかし日本でも、川をまたげば文化が異なるようなところもたくさんあるでしょう。まずは国内の川でチャレンジしてみようと思います。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:安藤駿 構成:TRAILS

モンテネグロのリバートリップの後半戦。モンテネグロに、パックラフトを楽しめるスポットがこんなにたくさんあるなんて、僕らも知りませんでした。

コンスタンティンと仲間たちは、ホワイトウォーターが楽しめるリム川の76kmのセクションを、数日かけて下る予定でした。しかし実際は、トラブルによって早々に切り上げることに。

なかなかプラン通りにいかない一行。しかし旅の打開策として、アドリア海のほうに向かいました。そしてバルカン半島最大の湖として有名な「シュコダル湖」を漕いだり、世界遺産の町「コトル」があるコトル湾に浮かぶ島を漕いだり、結果的にはかなりバリエーションに富んだトリップになったようです。

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リム川からシュコダル湖へ向かう途中の風景。


今回のTRIP MAP


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①リム川 (Lim River):プラヴ (Plav) からスタートし、76km下る予定だったが10km地点のムリノ (Murino) で終えることに。②シュコダル湖 (Lake Skadar):ゼータ (Zeta) 駅のそばの川から漕ぎ出して湖へ。③コトル湾 (Bay of Kotor):コトル湾に浮かぶ2つの小島を巡る。


リム川の起点、プラヴの町でのテント泊。


リム川は、モンテネグロで3番目に大きい川で、長さでいうとタラ川に次いで長い川です。モンテネグロからセルビア、ボスニア、ヘルツェゴビナへとリム川は流れています。

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当初は、リム川の76kmのセクションを下るプランだった。

プラヴ湖を水源とし、そこから76kmの区間では、クラスI – II から III – IV (※) までのホワイトウォーター (急流) を楽しむことができます。トップレベルのパドラーにしか楽しめないであろうクラスVの激しい瀬もひとつだけあります。

モラチャ川と同様に、リム川でパドリングが楽しめる主な時期は4〜6月です。

チェコのカヤックサイト (水位をはじめとした川の情報はもちろん、パドリングに関するさまざまなコンテンツが掲載されているWEBサイト。http://rivers.raft.cz/) によると、今 (7月) でも十分な水量があるようでした。実際、私たちがバスから川を見た時も、十分な水量があるのがはっきりと確認できました。

しかしリム川に対する最初の印象はあまり良いものではありませんでした。タラ川やモラチャ川と違って、リム川は自然の中の川ではないのです。

川の両岸には農家の家が建っていて、村や街のなかも通ります。旅がスタートしてから何日も自然の中で過ごしてきたこともあって、無理やり文明の世界に連れ戻されたような感じがしました。

※ クラス:瀬 (川の流れが速く水深が浅い場所) の難易度。クラス (グレードや級とも表現される) が I〜VI (1〜6級) まであり、数字が大きいほど難易度が高い。

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リム川のプットインポイントであるプラヴのキャンプサイト。

私たちはパドリングのスタートポイントのプラヴに到着し、川の近くにあるキャンプサイトを見つけました。ただ、残念ながらそこはかなり混んでいました。このキャンプサイトで濡れた道具を乾かしながら、一晩を過ごしました。このとき私たちはここに来たのがよい決断だったのか、まだ少し不安に思っていました。


楽しいホワイトウォーターを期待したのに、パックラフトは傷だらけに。


次の日の朝は晴天でした。私たちは荷物を川まで引きずって行き、パックラフトの準備をしました。辺りの山々の景色は美しく、水位も問題なさそう。目の前を流れる川は、この先にクラスIII – IVの瀬がある10kmのセクションがあり、さらにその先にクラスII+ の17kmのセクションが続きます。間違いなく、今日はいい日になるはずです。

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キレイだと思っていたリム川は、石やゴミがたくさんあり、困難を極めた。

しかし、漕ぎはじめてすぐに、そんな私たちの希望は消えてしまいました。遠くから見た時はキレイで透きとおっていた水は、近くで見るとかなり汚れていました。川の水からは嫌な匂いがし、ゴミもたくさんありました。タラ川でもよく見たようなクルマのタイヤではなく、ここでは満タンのゴミ袋が川底に引っかかっていました。Why Montenegrin people!?

パックラフトの船底を何度も石でこすりながらも、この急流をなんとか進んでいきました。

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途中、ドライスーツが破けてしまったジーヴァ。

だんだんと、みんながこの川に対して嫌な気持ちを感じはじめていました。ほんの数km進んだところで、ジーヴァは川のなかに入ったときにドライスーツが破けてしまいました。シャシュクはパドルが壊れました (幸運にも、私たちはスペアを持っていました)。イルマールはパックラフトがパンクしました。急いで穴を塞いで、私たちは進み続けました。

私のパックラフトも尖った石でこすってしまい、表面にこまかな傷がつき、小さな穴もできてしまいました。シャシュクにいたっては、パックラフトの底がぱっくりと切れてしまいました。かなり深い傷で、シート部分までダメージを受けてしまったようでした。無傷で済んだのはシモンだけでした。

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シャシュクのパックラフトの船底はご覧のとおり。

状況はどんどん悪くなっていました。もうすでに随分とひどい目にあいました。みんなで話し合って、とり返しのつかないダメージを受ける前に、この川からエスケープしようと決めました。

最初はビイェロ・ポリエまでの76kmを漕ぐ予定でしたが、10km漕いだ地点のムリノという小さな町で上陸することに。そこからポドゴリツァまでバスで戻ることにしました。

これは前日と全く同じルートでした。ひょっとしたらバスも同じだったかもしれません。


アドリア海近くの、バルカン半島最大の湖「シュコダル湖」へ。


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翌朝は、みんなでパックラフトのリペアタイム!

翌日、午前中はみんなパックラフトの修理をしました。次の日にはイルマールとシャシュクがロシアに帰ることになっていたので、近場で簡単に遊べそうなシュコダル湖をみんなで漕ぐことにしました。

シュコダル湖は、カルスト湖 (石灰岩が雨水に溶食されたカルスト地形にできた湖) で、大きさは南ヨーロッパ最大です。場所は、モンテネグロとアルバニアの国境沿いにあります。湖のモンテネグロ側は、国内最大のナショナルパークに囲まれていて観光客にとても人気のあるところです。

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次なる目的地「シュコダル湖」へ電車で向かう。

私たちは湖に直行せずに、まずは海(アドリア海)へ向かう電車に乗り、ゼータという小さな駅まで行きました。その駅はモラチャ川から数百m離れたところにあって、そこから湖へと漕いでいくことにしたのです。

ゼータに流れている川は、広くゆったりとした流れで今の気分にぴったりでした。その日は40度ととても暑く、持っていた水もすぐに飲みきってしまいました。幸運なことに、水はハウスボートに住む地元の人に分けてもらうことができました。ついでにそこで少し泳いで、クールダウンしました。

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雄大で開放感にあふれるシュコダル湖。


「シュコダル湖」で国立公園のレンジャーとちょっとした口論に。


シュコダル湖に着く少し前に、モーターボートに乗った2人のレンジャーが近づいてきました。「ナショナルパークに入るには、一人5ユーロ払ってくださいね」とレンジャーは話しかけてきました。ジーヴァがスロバキアから来たことがわかると「あぁ、あなたは私たちの一員だから払わなくていいですよ。でも残りの4人は払ってくださいね」と説明してくれました。

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モーターボートに乗ったレンジャーに呼び止められる。

湖まで漕いできた頃には、もう十分にフラットウォーター(流れのほとんどない静水)を漕ぐのを楽しんでいました。そしてなにより「いま一番必要なものは冷たい飲み物だ!」ということで、湖の対岸まで漕ごうという予定はそっちのけで、地図で見つけた近くのレストランに直行しました。

都合の良いことにポドゴリツァに戻る列車の駅の近くに、そのレストランはありました。しかし残念なことに、湖の周遊船に乗りに来た日帰りの観光客で、お店はごった返していました。何艇かの船がレストランの前に停留していて、他にもまだここに向かってきている船もありました。そして、ちょっと先に目をやると、50mくらい先にある公衆トイレのようなところから、臭い水が湖に流れこんでいるのが見えたのです。Why Montenegrin people!?

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レンジャーが去ってからは、のんびりと湖上パックラフティング。

これからどうしようか思って立ち止まっていたら、そんな私たちにパークレンジャーが気づいたようでした。レンジャーは「シュコダル湖ナショナルパーク」と書いてある (さっきのトイレの隣の) プレハブから近寄ってきました。

そして「ここを漕ぐなら料金を支払ってもらう必要がありますよ」と言ってきました。すでにそれは支払ったと伝えましたが、「それは入場料です。ここで漕ぐには、それとは別に1時間20ユーロを払ってもらう必要があるんですよ」と。

しかしレンジャーの説明はおそらく間違っていました。実際、彼の言った金額はカヤック自体を借りる値段であることが、ナショナルパークのサイトを見てわかりました。それを彼に口頭で伝えるだけでは理解してもらえず、そのサイトを見せてやっと彼は料金の要求を取り下げてくれました。Why Montenegrin people!? そんなこんなで、この大きな湖を巡る、私たちのささやかな冒険は終わりました。

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いろいろありながらも、シュコダル湖のパックラフティングを楽しんで次の目的地へ。


世界遺産の町「コトル」を散策。


次の日、イルマールとシャシュクがロシアに帰って行きました。シモンとジーヴァと私は、コトル湾へと向かいました。コトル湾は、ヨーロッパ最南端のフィヨルドと言われたりしているところです(実際は違うそうです)。

しかしその歴史と自然から、このエリアは世界遺産に登録されています。このエリアのコトルとペラストという2つの小都市は、とても人気があるスポットになっています。

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世界遺産にもなっているコトルの街並み。

一泊することにしたコトルの町は、古代ローマ時代のような町でした。実際、この古い町にあるものは、中世やベネチア期から残っているものがたくさんあるのです。興味深いことに、この国の名前 (モンテネグロは黒い山という意味) にまつわる話は、この場所に関連しています。近くのロブチェン山という名前も、その昔、深く暗い森に囲まれていたことに由来します。

サン・ジョバンニ要塞は、コトルで行くべき場所のひとつです。崖の上にあって、湾をのぞむ素晴らしい風景を楽しむことができます。

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サン・ジョバンニ要塞を目指して、デイハイキング。

サン・ジョバンニ要塞のある崖の上に登るには、8ユーロを払って曲がりくねった階段を登るか、あまり知られていないのですが、要塞の後ろに出る道を使うこともできます (この道自体も面白いです)。

このルートは、公式ルートと違って無料です。ルート上にはいくつか古い遺跡もありますし、しかも野生の山羊たちを見ながら歩くことができます。シモンとジーヴァと私も、みんなそれを楽しみながら歩きました。


ラストは、コトル湾に浮かぶ2つの小島へ。


最後の2日間は、ローカル・バスに乗ってペラストというところに遊びに行きました。そこで海のすぐ近くにある、2つの小さな島のまわりを漕ぐことにしました。聖ジョージ島 (St. George Island) と岩礁の聖母 (Our Lady of the Rocks) という島です。

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湾岸から小島を目指してプットイン。

その2つの島は近くにあるのですが、まったく異なる島です。

聖ジョージ島は、自然の島です。12世期ベネディクト会修道院に占領された島で、今もその修道院が所有していて、特別な許可を得ないと入ることができません。

岩礁の聖母は、人工の島です。この島には地元の言い伝えがあります。航海から無事に帰還できた船員たちが、海に石を投げ込んでできた島だと言われているのです (地元の人は、言い伝えにならって、毎年6月22日に船から石を投げ込むそうです)。

この島には美しいカトリックの教会と博物館があり、多くの旅行者が訪れます。もし私たちもこの伝統を先に知っていたら、石を持っていったでしょう。

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世界遺産の街並みを背景に、小島へと向かう。暑さも落ち着き、とても気分のいいひと時だった。

これで私たちの今回の冒険はほぼ終わりです。すべてが計画どおりに進んだわけではありませんが、それでもうまくいったと言えるでしょう。

しかも最後の最後にも、私たちは大きな雷雨が海から近づいてきたために、すぐにこの島から脱出しならればらないという事態になりました。まったく思うように物事は運ばないものですね……。

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トラブルやハプニングもありましたが、仲間たちとモンテネグロを存分に楽しむことができました。

前編・後編でお送りした、コンスタンティンと仲間たちによるモンテネグロでのパックラフティング・トリップ。

本人たちにとってみれば、苦労や困難もあったでしょうか、読んでいる側としては、行ったことのないモンテネグロの魅力がふんだんに詰まっていて、テンションが上がるレポートでした。

TRAILS編集部crew全員、「いつかコンスタンティンと一緒にモンテネグロを旅してみたい! 」と思わずにはいられませんでした。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

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パックラフト・アディクト | #30 ドイツ・ルーア川 2Days Trip

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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:安藤駿 構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるHikeVenturesのコンスタンティンから、バルカン半島の国「モンテネグロ」でのトリップレポートが届きました。

モンテネグロといえば、以前コンスタンティンが、ヨーロッパのグランドキャニオンと言われるタラ渓谷をくだる3泊4日の川旅 (詳しくはコチラ) を紹介してくれました。

モンテネグロは、タラ川だけでなく、他にもパックラフティングを楽しめる川がたくさんあるようです。今回のレポートは、以前のタラ川のトリップの続編とも言える内容。タラ川を仲間とくだった後に、ホワイトウォーターとして有名な「モラチャ川」をくだるプランを立てたところから、トリップストーリーが始まります。

のっけからハプニングがあったようですが、それも旅の醍醐味。その山あり谷ありの模様を、前編と後編にわけてお届けます。

まず前編は、タラ川からモラチャ川へと向かう道中の話です。

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タラ橋から見たタラ川と周辺の山々。


東欧の大渓谷・タラ川のトリップを終えて、バスでモラチャ川へ。


2019年の夏、コンスタンティンと彼の仲間たちは、10日間でモンテネグロにある複数の川をくだるリバー・トリップに出かけた。まずタラ川をくだり終え、次に目指すは……。

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①タラ川 (Tara River):モイコヴァツ (Majkovac) からスタートし、5日間のツーリング。 ②モラチャ川 (Moraca River):モイコヴァツ近郊の地点からスタートし、首都ポドゴリツァ (Podgorica) まで下るプラン。しかし渇水により今回は断念。 ③リム川 (Lim River):プラヴ (Plav) からスタートしモイコヴァツ近くの地点まで下るプラン (詳細は後編にて)。

私たち (シモン、ジーヴァ、シャシュク、イルマールと私) は、モンテネグロの首都・ポドゴリツァの町からモラチャ川のプットイン・ポイントへと向かうバスに乗っていました。

私たちのモンテネグロでの10日間の夏のアドベンチャー・トリップも後半戦に入っていました。

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タラ川のパックラフティング・トリップを終えて、次なるポイントへ向かう。

その日は真夏で気温も40度を優に超えていました。ここ数週間のあいだ、モラチャ川のエリアはあまり雨が降っていませんでした。局所的な大雨があって、川の水量を上げてくれたようでしたが、一部分だけだったようです。

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タラ川のゴール地点。5日間にわたってホワイトウォーターと渓谷美を存分に楽しんだ。

しかし幸いにも、タラ川のほうは水位が高くなっていたのです。2年前に漕いだときよりも、かなり水位が上がってくれていました (2017年のタラ川については過去の記事を参照)。おかげで今回は、2年前よりも上流のモイコヴァツから漕ぎはじめることができました。

タラ川には、デビルズ・キャニオンというクラス V (※) の大きな瀬があります。デビルズ・キャニオンに行くには特別なパーミッション (許可) が必要で、実はそのパーミッションを取るのに6時間もがかかってしまいました。急ぎめの行程でしたが、それでもなんとか私たちはタラ川を5日間で漕ぐことができたのです。

※クラス:瀬 (川の流れが速く水深が浅い場所) の難易度。クラス (グレードや級とも表現される) が I〜VI (1〜6級) まであり、数字が大きいほど難易度が高い。

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意図したわけではなかったのですが、私たちは2種類の別々のパドリング・パーミット (川を漕ぐための許可証) を取得しなければなりませんでした。

1つは、ナショナルパークに入るための1日分のパーミッションでした。残り3日分のパーミッションについては、また翌日に戻ってきて取得するように、レンジャーに説明されたのです。なぜそんな面倒なことをしなければならないのか? 結局それはわかりませんでした。レンジャーたちが説明したくなかったのか、 あるいはうまく説明ができなかったのか……。

この一件によって、私たちのあいだで “ Why Montenegrin people !? ” というお決まりフレーズが生まれました。


巨大なアーチ状の橋として有名なタラ橋。


タラ川での5日間の川旅を楽しんだ一行は、スケジュールにゆとりがあったため、モラチャ川に向かう前に「タラ橋」に立ち寄ることにした。

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全長365m、地上高172mのタラ橋。歴史ある建造物として一見の価値あり。

タラ川を漕いだ後もまだ十分に時間が余っていたので、タラ橋 (Đurđevića Tara) に遊びに行きました。タラ橋は全長が365mもの長さがあり、川から高さ172mのところに架かっている橋です。

橋は5本のアーチで支えられています。この橋が完成した1940年当時、タラ橋はアーチ状の橋としてはヨーロッパ最大のものでした。そしてこの橋は、クルマでタラ渓谷を渡ることができる唯一の場所でもあるのです。

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タラ橋からタラ川を眺める日本人のシモン。彼は、休暇を奥さんとトルコで過ごす予定で、そのタイミングで遊びに来た。

私とイルマールが初めてタラ川を漕いだ時は (※訳注:2017年のトリップ) 、この橋を下から見上げていました。でも今はその上を歩きながら、川を見下ろしています。灰色の高い山々に囲まれたなか、緑に覆われた谷を削るように、銀色の線のタラ川が流れています。

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タラ橋からタラ川を見下ろす。これだけ離れているにもかかわらず透明度の高さが一目瞭然。


洞窟のなかにある神秘的な湖を、パックラフトで探索する。


タラ橋の近くには、実は洞窟と地底湖が存在する。友だちからのアドバイスにより、今回は地底湖をパックラフトで楽しむことにした。

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洞窟を目指して、探検隊のごとく連なって歩いていく。

私たちは、タラ橋の観光だけで終わらせず、洞窟の中にある地底湖を探検しに行くことにしました。タラ川のなかでも最も美しい滝の上部に、その洞窟があるのです。

初めてこの洞窟に訪れた時は、滝の美しさに目を奪われて、その上に神秘的な美しい湖が隠れているなんて、まったく思ってもみませんでした。

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ついに洞窟に到着。あたりは静かで、神秘的な雰囲気がただよっている。

でも今回は、ちゃんとパックラフトを持って、洞窟があるところまで歩いて上がってきました。そしてみんなで1つのパックラフトを交代で使って、その地底湖のなかを漕いで遊びました。

実は地底湖に行けたのは、アニカのおかげでした。彼女のアドバイスがなければ、私たちはまちがなく今回もこの洞窟を見逃していました。

アニカはパックラフト・トーレン (ドイツにあるラフティングガイドの会社) にいる女性で、何度もこの川のあたりに来たことがありました。彼女はガイドでお客さんを連れてきたりもしていて、このエリアの川をよく知っていたのです。

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洞窟内部の湖をパックラフティング。


ホワイトウォーターが楽しめるモラチャ川。


タラ橋や地底湖を堪能したコンスタンティンたちは、今回の旅の目的地のひとつ「モラチャ川」へと向かった。そこはどんな川なのか?

チェコのサイト copy
水位をはじめとした川の情報はもちろん、パドリングに関するさまざまなコンテンツが掲載されているチェコのサイト。 (http://rivers.raft.cz/より)

モラチャ川は比較的小さな川ですが、ホワイトウォーターを楽しめる川として、とても人気があります。モラチャ川は、モンテネグロ北部に水源があり、美しく深い峡谷を通り、首都ポドゴリツァへと流れています。

モラチャ川の上流部16kmのセクション (レディス村〜モラチャの修道院) はクラス IV〜Vの難易度の高いセクションですが、修道院から下流は徐々に漕ぐのが簡単になってきます。修道院からの18kmはクラス III~III+ のレベルで、首都までの残り22kmはクラス I~IIのレベルです。

モラチャ川のホワイト・ウォーターセクションをくだることができる主な時期は、4〜6月 (または10月) です。しかし、私たちが訪れたのは7月の終わり。それがそもそもの間違いでした。

私たちは、この旅を計画している時、チェコのカヤックサイトを見つけました。このサイトには、ヨーロッパのいろいろな川の情報が載っていて、川の水位の最新情報もありました。このサイトに、モラチャ川の情報も掲載されていました。

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スロベニア人の友だち、ジーヴァ。スロベニアとモンテネグロはかつてユーゴスラビアの一部であったにもかかわらず、彼女はタラ川のエリアに一度も行ったことがなかった。

このサイトを見て、タラ川の水位が次第に下がっていることを知りました。私たちがタラ川を漕ごうとしていた時期は、水位はほとんど平均を下回っていたのです。でも水位が実際にどれくらいの状態なのか。それがパックラフトだったらまだ十分に漕げる水位なのか。その時の私たちには、判断できませんでした。

タラ川でのトリップで最後に泊まったキャンプ・グラブというキャンプ場で、モラチャ川をよく知る地元のパドラーに出会いました。彼にモラチャ川の水位を訊ねると、嬉しいことに、タラ川の水位と同じくらいだから、パックラフトをするには十分ではないか、と教えてくれたのです。

それで、冒頭に書いたように、私たちは首都ポトゴリツァからモラチャにある修道院に向かうバスに乗っていたのです。


新たな川旅の舞台に決まったリム川へ。


目前にして、なんとモラチャ川の水位が低すぎることが判明。無理やり漕ぐか、あきらめるか……コンスタンティンたちは判断を迫られた。

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モラチャ川をあきらめて、バスでリム川へ。左端がシャシュク、その隣がイルマール。この二人のロシア人の友だちとは、一緒に何度も旅をしている。

しかし実際にモラチャ川を見てみると、まったく絶望的な水位でした。

「十分な水位があるとは思えない」と私はシモンにこぼしました。彼も同意見でした。ずっと後になって、その地元のパドラーは、私たちがモラチャ川の難易度を聞いたのだと誤解したのだろう、と気づきました。川のレベルとは、難易度ではなく水位のことだったのに……。映画『ロスト・イン・トランスレーション』のような言語問題を表す話です。“ Why Montenegrin people !? ”

これからどうしようか? バスを降りてポトゴリツァに戻る次のバスに乗ろうか? それとも途中で浅くてスタッグしてしまうリスクを承知で、川を漕いでみようか? それかなにかまったく違うことをしようか?

軽い話し合いのあと、私たちはもう少し先のところにある、リム川を漕いでみることにしました。私たちがさらに信頼するようになったチェコのウェブサイトには、十分な水位があると書かれていたのです。幸運なことに、乗っていたバスの行き先は、リム川のスタートポイントであるプラヴの街でした。

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リム川のスタートポイントとなるプラヴ。山と湖に囲まれた自然豊かな街。

私たちは現実を受け止め、このプランを採用しました。バスの運転手に残りの代金を払いこのバス旅を楽しみました。バスは元々の目的地であったモラチャの修道院を通り過ぎて、はるか北にある、たった5日前にこのタラ川のトリップを始めたモイコヴァツへと進み、人口の多いリム渓谷沿いの山々を越えて、東モンテネグロのプラヴの街へと向かうのでした。

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タラ川のゴール地点で撮った集合写真。

ホワイトウォーターを楽しみにしてたモラチャ川が、まさかの水位不足で漕げなくなってしまったコンスタンティンたち。

でも、大渓谷にまたがる巨大なタラ橋に興奮したり、さらには洞窟を探して、その中の湖を漕いだりと、仲間たちと一緒になんだかんだで楽しんでいる姿が印象的でした。

また、すぐさまプランが変更できるのは、自然豊かなモンテネグロならでは。果たして次なる目的地のリム川は、無事くだることができたのでしょうか? 後編をお楽しみに。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:中村真奈 構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるHIKEVENTRESのコンスタンティンから、冬のトリップレポートが届きました。

今回は、ドイツ西部を流れるルーア川の2Days Trip!

昨年末のクリスマスに、彼が住んでいるオランダから近いエリアを探して見つけたのが、この川です。

ルーア川を初めて耳にする人も多いと思いますが、このエリアでは唯一とも言えるホワイトウォーターが楽しめる川とのこと。

あいにくの雨、しかもパックラフトにトラブル発生……などなどハプニングもあったようですが、それも含めてアドベンチャラスな旅を満喫したようです。

ドイツならではの自然や街並みも見どころですので、ぜひお楽しみください!

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レミとハロルド、2人の仲間とともに、いざルーア川へ。


オランダのパックラフティング・コミュニティの仲間(レミ & ハロルド)と旅へ。


オランダのパックラフティング・コミュニティはまだ小規模です。でも、なかにはかなり積極的に活動している人がいて、その人たちをよく知っている私はラッキーだと思います。

そのうちの2人が、レミとハロルド。2人には、2018年にスロベニアで開催された『Packrafting Meet-up Europe2018』で出会いました。そして昨年、私はRescue3コース(※1)にハロルドを連れて行きました。レミとは一緒にモンテネグロのタラ渓谷や、オランダとベルギーをまたがるドンメル川を漕いだことがあります。

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40代の3人のなかで最年長のレミ。パックラフトの経験が豊富で、舟も3つ所有している。最近、息子が生まれたばかりということもあって、川下りの時間がなかなか取れなくなった。

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ハロルドは、オランダやドイツ、フランスの川も下っていて、数年前にルーア川も経験している。彼はハイカーでもあり、世界中を旅してはハイキングを楽しんでいる。

私たち3人は、住んでいる場所の近くで、一緒に漕げないかという話をしていました。それで去年、私たちはドイツの川で2日間のパドリング・トリップに行こうと決めたのですが、クリスマス直前の週末までそれを実現するチャンスがなかなかなかったのです。

※1 Rescue3:世界33カ国に支部がある世界最大のネットワークを持つ民間トレーニング組織。具体的には、スイフトウォーターレスキュー(急流救助)やテクニカルロープレスキューなどの講習を実施している。本部はアメリカ・カリフォルニア州にあり、日本にも支部(Rescue3 JAPAN)がある。


ルーア川は、ドイツ西部でホワイトウォーターが楽しめるレアな川。


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DAY1は、中世の街並みが残るモンシャウからキャンプ場のあるハマーまでの約10km。DAY2は、ベルギーとドイツの国境付近にあるキュッヘルシャイトからモンシャウまでの約9km。

その川は、ベルギー東部にあるハイ・フェンズの高地エリアから始まり、川の大部分はドイツのなかを流れています。最後にオランダに入り、そこでマース川に合流します。

ルーア川が流れるエリアは、第二次世界大戦における要衝であり、1945年の初めには、ここは激しい戦地にもなりました。今でも、その時代からの多くの要塞が残っていて、ルーア渓谷周辺でそれらを見ることができます。しかし、そういった歴史がこの川を選んだ理由ではありません。

私たちがこの川を選んだ理由は、ルーア川がこの地域で唯一のホワイトウォーター(急流)であり、自分たちが住んでいるオランダに近いエリアで、おそらく最高の川であるからです。3人はみんな、ホワイトウォーターを漕げるよい場所を探していました。そこで、ハロルドが以前に漕いだことがあるこのルーア川を、私たちに強くレコメンドしてくれたのです。

私たちはオランダの別々のエリアから合流する必要があったため、ルーア川沿いのハマーというエリアにある小さな村のキャンプ場で落ち合うことにしました。インターネットで確認したところ、このキャンプ場は冬に開いている数少ない場所のひとつのようでした。

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前泊するハマーのキャンプ場に着くも、スタッフ不在でチェックインができない。

午前7時頃に家を出て、途中でハロルドを迎えに行き、一緒に待ち合わせ場所に向かいました。天気予報ではルーア地方はかなり気温が低く、雨も降るだろうとのことでしたが、道中の天気は意外に良く、私たちも希望的観測をもっていました。

でも残念なことに予報は正しかったみたいで、12時45分頃にハマーに到着したときには小雨が降っていました。また、キャンプ場の人たちは長い午後の休憩をとっていたのか、チェックインの手続きをしてくれる人を見つけることができませんでした。

しかし貴重な日中の時間(その日は1年でもっとも短い日でした)を無駄にしないために、川沿いにある小石だらけの砂地のキャンプ場にテントを張りました。対岸には絵のように美しい15mほどの崖がそびえていました。

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石だらけのキャンプ場だったものの、3人で宴会を楽しんだ。


中世の街並みが残るドイツの街・モンシャウからスタート。


川の水位はかなり低いように見えましたが、パックラフトには十分で問題ないレベルでした。まさに私たちが望んでいた環境です。レミが到着したとき、私たちは彼のキャンプギアを私のクルマに素早く移してそれらをキャンプ場に残しました。そしてパックラフト用の荷物をレミのクルマに詰めて、スタート地点であるモンシャウに向かいました。

モンシャウは非常に美しい小さな町で、その歴史ある町の中心部には、石板、木組みの家屋、狭い小路など、古いものが丁寧に保存されています。それらは300年間ほとんど変わることなく残っているのです。ルーア川は印象的な中世の城の下を流れていて、この町は多くの人が訪れる人気の観光名所でもあります。

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中世の建造物が今もなおいい状態で残っているモンシャウからのスタート。

私たちが訪れたとき、クリスマス・マーケット(クリスマスのイベント)もあったので観光客であふれていました。クルマ2台が通るのがギリギリなほど狭い道路は、歩行者でいっぱい。私たちが目星をつけていた駐車場は満車で、順番待ちの列がありました。ようやく見つけることができた場所が、トレーラーハウスのキャンプ場でした。

そこは道路の突き当たりにあり、にぎやかな中心部から離れ、川のすぐそばにあるキャンプ場で、駐車するのにベストな場所でした。私たちはそこにクルマを停めることにしました。

モンシャウとハマーの間のセクション(約10km)はかなり簡単で、ほとんどがクラス I または II です(※2)。いくつかの良いエディ(※3)や水上で遊べる場所もありましたが、時間がなかったので、フルに楽しむことはできませんでした。

※2 クラス:瀬(川の流れが速く水深が浅い場所)の難易度。クラス(グレードや級など表現はまちまち)が I〜VI(1〜6級)まであり、数字が大きいほど難易度が高い。
※3 エディ:岩などの障害物に流れがぶつかり、その下流側に水がとどまり渦巻いている箇所。

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石で造られた橋は、苔むしていて歴史を感じさせるたたずまい。スピードを落としてじっくり味わった。


パックラフトにトラブルが発生。


実はハロルドと私は、パックラフトにテクニカルなトラブルが発生していました。

ハロルドは、ホワイトウォーター・スプレー・デッキ(ホワイトウォーター用の防水カバー)のデナリ・リャマ(※4)を持っていましたが、スプレー・デッキ・コーミング(スプレー・スカートを引っかける所)を忘れてきたため、スプレー・スカートを使えずにいました。そのため急流のアップダウンをいくつか越えると、漕ぐのをやめて、舟のなかに浸水した水を出さなくてはいけませんでした。

私の場合は、パックラフトの防水ジッパー(Tジップ)からの漏れが起きていました。タイベック・テープで漏れている箇所をふさごうとしましたが、結局はハロルドと同じように、定期的にパックラフトから降りては、その対応するはめになりました。

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浸水が見られたジッパー部分を、タイベック・テープで応急処置。これでなんとか乗り切れた。

セルフベイラーのナーワル(※5)に乗っていたレミだけが、問題なくパックラフトを満喫することができました。

※4 デナリ・リャマ(Denali Llama):ALPACKA RAFTのスタンダードシリーズにおける大型モデル。
※5 ナーワル(Gnarwhal):ALPACKA RAFTの製品の中でもホワイトウォーターモデルで、艇内に侵入した水を排水するセルフベイラー機能が搭載されている。


おいしいディナーも観光も楽しめないブルーな夜。


私たちは、暗くなり始めた頃にハマーのキャンプ場に到着しました。レミはすぐにテントを張り、みんなで私のクルマに乗り、レミのクルマを回収しにモンシャウに戻りました。

私たちは「そこで夕食を食べて、町を見渡せるんじゃないか?」と考えました。でもそれは実現しませんでした。なぜかというと、レミのクルマが停めていたキャンプ場のゲートは閉じてロックされていたのです。そして周りには誰も見当たりませんでした。

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テンションが下がったまま、ハマーのキャンプ場でテントを設営。

見逃していたのですが、入口の横に小さく案内板があってその場所は冬の間は閉まっていることを知りました。 ショックを受けた私たちは、次に何をすべきかわからずゲートの前に突っ立っていました。

案内板に書かれている番号に電話をかけましたが、誰も応答しませんでした。目的を果たせなかった私たちはハマーのキャンプ場に戻り、あらためて翌日、運を試すことにしました。

その帰り道はとても長く感じました。運転をしている間も、みんなほとんどしゃべらずにいました。たまにイケてない冗談を誰かがぼそっと言うだけでした。その雰囲気のままテントの隣にある小さな砂地で夕食の準備をしました(テントを張る前にチェックインしなかったことについてキャンプ場のオーナーから言われましたが、オランダではよくあることです)。

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ぐったりして覇気のないハロルド。

一日中降りつづいていた雨はさらに激しくなりはじめたため、私たちはやむなくテントに入り、早々に寝ることになりました。


地獄から天国へ。エキサイティングなダウンリバー。


翌朝目が覚めても、まだ雨が降っていました。前日からの重い気分と悪天候もあいまって、「自分は今日、本当に漕ぎたいのかな?」という思いが頭に浮かびました。

そう考えていたのは私だけではありませんでした。レミとハロルドはどちらもかなりどんよりとして、やる気がありませんでした。次のステップについて簡単に話し合い、まずはレミのクルマを回収することが優先事項であり、パドリングが次であると判断しました。そして再びモンシャウに向かいました。

そこからは幸運の連続でした。トレーラーハウスのキャンプ場に着いたとき、そこに何人かの人がいて、クルマを取り戻すことができました。そしてその日の旅のゴール地点のすぐ前に駐車スペースを見つけました。そしてプットインの場所(ベルギーとドイツの国境付近にあるキュッヘルシャイト)に到着すると、雨はほとんどやみました。

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雨も止んだし、今日こそは楽しいトリップになることを期待。

水位も少し上がったこともあって、この上流部のセクションは気持ちよく漕ぐことができました。ライヒェンシュタインでは通常、カヤッカーはもう少し低いところからスタートします。というのも、この2.5kmの長さのセクションのほとんどはクラス I か II ですし、木々が川をふさいでいる箇所もあってポーテージも必要だからです。

でも、パックラフトの場合はポーテージは大した問題にはならないため、そのセクションも楽しむことができました。次の4kmはエキサイティングなクラス III(+)の瀬があります。このセクションのおわりには、「クノッヘン・ブレッヒャー」(ザ・ボーン・クラッシャー)という恐ろしい名前がつけられた堰があります。

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ホワイトウォーターを乗りこなしているうちに、3人ともテンションが上がってきた。

言わずもがなですが、私たちはこの堰を味わいたくなかったので、パックラフトを担いで回避しました。ラスト2kmは、町の中心部を通り、ゴールである「ファーボリーテン・テーター」(キラー・オブ・フェイバリット)と呼ばれる堰にたどり着きました。

この日は長い行程でしたが、川の流れは比較的まっすぐでした。そしてラストのでっかいスプラッシュが、クリスマス前の2日間の旅の最後を飾ってくれました。

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余裕の表情で瀬に入っていくハロルド。

今回は、まさに山あり谷ありの旅となりました。最高に楽しいときもあれば、あまり楽しさを感じられない時間もありました。それでも私たちはいくつかのあたらしいことを発見できた旅となりました。

私はルーア川を漕ぎに、またここに戻って来たいと強く感じました。そしてまたこのエキサイティングな川をまた味わいたいと思っています。

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また、このルーア川に戻ってきたいと思っています!

日本にはとても情報の少ない、ヨーロッパのパックラフティング・カルチャーをレポートしてくれるコンスタンティン。

前回のオランダのアーバン・パックラフティングに続き、今回はドイツの川を紹介を紹介してくれました。この川の情報もとても貴重なものです。

TRAILS編集部メンバーのなかも、ヨーロッパのパックラフト遠征に行きたい欲求がむくむくと育っております。また次のコンスタンティンのレポートが届くのが楽しみです。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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パックラフト・アディクト | #29 アムステルダム運河・デイトリップ

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パックラフト・アディクト | #28 ホワイトウォーター・レスキュー・コース

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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:トロニー 構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるHIKE VENTRESのコンスタンティンから、運河でパックラフティングしたトリップレポートが届きました。

場所は、オランダの首都アムステルダム。運河の街としても知られるこの都市で、仲間とともに、ワンデイのパックラフティング・トリップを楽しんだそうです。

アムステルダムの街中に流れる運河を漕ぐ。今回コンスタンティンは、軽量で携行性に優れたパックラフトならではの遊び方を、示してくれました。

ドイツのパックラフトブランド、Anfibio Packrafting(アンフィビオ・パックラフティング)の新作レビューもしてくれたので、そちらもあわせてお楽しみください。

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アムステルダムの街をパックラフトで散策するコンスタンティンと、友だちのペギー。


友人からの誘いでアムステルダムへ


「やぁ、コンスタンティン。たしかキミは、アムステルダムに住んでいるんだよね? 11月に行くかもしれないんだ。どうだろう、会えるかな? スヴェンより」

昨年の10月中旬、ドイツのAnfibio Packraftingの共同経営者のひとり、スヴェンから短いメッセージを受け取りました。

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今回のトリップの発起人、Anfibio Packraftingのスヴェン。

僕は以前、彼らのストアで買い物をしたことがあったし、昨年スロベニアで行なわれた『Packrafting Meet-up Europe 2019』(前回のレポート記事を参照)で彼と一緒にパドリングをしたこともあります。

まあ実を言うと、僕はアムステルダムではなく、もうちょっとだけ北東のほうに住んでいるんだけど、スヴェンからの手紙は、この大都市でまた彼とパドリングができるいい口実になると思いました。それで、その誘いに乗ることにしたのです。


アーバン・パックラフティングに適した都市


都市と川について考えるとき、かなりの確率で最初に思い浮かべるのは、運河で世界的に有名なイタリアのヴェネツィアでしょう。

あまりにも有名なので、同じように運河のある他の場所を指すときにも、その名前が使われたりします。たとえば、僕は「北のヴェネツィア」という場所を、少なくとも3つは知っています。そのうちのひとつが、アムステルダムです。

だけど、それについてちゃんと比べてみたのだろうか?(ヴェネツィアが一番なのだろうか?) 僕はそう思っていません。その理由を説明します。

まず、ヴェネツィアには150の運河があるのに対して、アムステルダムには165もの運河がある。運河の全長も、アムステルダムの方がヴェネツィアよりも長い(50km vs 42km)。橋の数でいうと、ヴェネツィアは403ですが、1281のアムステルダムには遠くおよびません。

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アムステルダムは、運河の街です。

そして、アムステルダムの運河は、はるかに多様性があります。もっとも古い運河は14世紀に建設されたもので、もっとも新しい運河は1995年に完成したもの。ちなみに、市の中心部にある運河のほとんどは16世紀と17世紀のものです。

その運河は、壮大なキャナル・ハウス(ホテル)とともに、アムステルダムが世界でもっとも重要な貿易の中心地であったオランダ黄金時代の栄光を象徴しています。その歴史的な重要性が評価されて、いくつかの運河群は、2010年に「キャナル・リング」として世界遺産に登録されました。

そのため、アムステルダムを訪れる観光客にとって運河に沿って街を散策することがもっとも人気のアクティビティのひとつであるのは、当然と言えるでしょう。そして、パックラフトを使えば、運河に沿って水面からも街を散策できるのです。

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アムステルダムならではの、歴史ある街並み。

しかもアムステルダムでは、ボートを使用するための免許や許可証も必要ありません。いくつかの交通ルールや制限速度、レクリエーションが禁止されている区域もありますが、できることとできないことを明示した標識があるので、ルールを守りやすい。

だからこそ、この非常に多くの人が密集した都市であっても、隅々まで、何時間も、何日もかけて探検できるのです。


アムステルダムの運河での小さな冒険


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アムステルダムの、網の目のように張り巡らされた運河をパックラフティング。中央駅近くをぐるっと1周してから700メートルほど歩き(点線部分)、再乗艇してゴール地点へ。

冒頭で、僕が「もう少しだけ北東に住んでいる」 と言ったのは、アムステルダムまで電車で2時間半くらいかかるから。だから、いつもお昼ごろにならないと着かないんです。

スヴェンと彼の同僚であるペギーは、すでに2日近く市内に滞在していて、僕らは駅で会うことになっていました。なんと彼らはホステルから駅までパックラフトで来ていました。

合流して「どこに行きたい? 何を見たい?」と訪ねたら、「ここはどこも最高だね」と彼らは答えました。「街を探検しよう!」。僕たちがやったのはまさにそれでした。

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中央駅の近くから運河にプットイン。

僕たちは、中央駅の前のエリアを出発して、アムステルダムの中心の格子を形成するいくつかの小さな運河に出ました。

「ダンシングハウス」 に囲まれたある美しい運河は、同じくらい美しい運河につながっていきます(アムステルダムでは、細長いレンガ造りの家がよく見られるのですが、これが 「ダンシング」 と呼ばれるのは、沈下によっていろんな角度に傾くことが多いからです)。

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ちょっとした冒険気分を味わいながら、狭い水路を通っていく。

クルマや歩行者、自転車が一段高い堤防や頭上の橋を通ります。何人かは僕たちを見つけて手を振り、僕たちも手を振り返しました。

クレイジー・ジェイコブ・タワーという、決して正確な時刻を示さない時計塔(だからこんな名前がついた)、国立オペラハウスと同じ建物を共有する市庁、歴史あるユダヤ人地区のそばを通り抜けました。

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水面からクレイジー・ジェイコブ・タワーを見上げる。

悪名高いレッド・ライト地区の主要運河をくだり、セント・ニコラス教会の裏にある狭い水路を使って、私たちは駅前の出発地点に戻りました。

そこはレクリエーション用の船が禁止されていた地域だったので、パックラフトを持って運河を出て歩かなければなりませんでした(途中でホットチョコレートのために足を止めましたが)。

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船の禁止区域は、パックラフトを担いで歩くことに。途中、カフェでホットチョコレートを飲んだ。


世界遺産の運河で、ナイト・パックラフティング。


堤防の高さが1.5〜2メートルもあるため、もう一度運河に戻るのは想像以上に難しいことがわかりました。ちょうどいい水位の場所を見つけることができず、最終的には、アムステルダムの至るところで見られる堤防の中の小さなハシゴを下りることにしました。

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運河の縁にある小さなハシゴを利用して、上り下りした。

僕たちが入ったエリアは、世界遺産の一部でした。ここにある4つの主要な運河(ヘレングラハト、プリンセングラハト、キーザーグラハト、シンゲル)は、いままで僕たちがパドリングした運河よりもはるかに広かったし、多くの家がより大きく、より精巧に装飾されているようでした。なかには「ダンシングハウス」もありました。

そこもまた水量がすごく多く、いくつかの運河は一方向にしか漕ぐことができませんでした。それによって、今回のトリップにちょっとしたパズル要素が加わりました。

あたりがだんだん暗くなり、混雑している運河の危険が増してきました。ところが、スヴェンは素晴らしい解決策を用意していました。

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デコレーションされた街が幻想的な、夜のアムステルダム。

彼は電池式のクリスマスの電飾をいくつか取り出すと、それを自分たちに巻きつけました。僕たちはまるでクリスマスツリーのようでしたが、それは街の景観にとてもよく合っていました。

というのも、1カ月あまりのクリスマス期間で、運河沿いの橋や木の多くがライトアップされていたのです。毎年11月下旬〜1月中旬にかけて開催されるアムステルダム・ライト・フェスティバルのために、インスタレーションを準備をする人たちも見かけました。

実を言うと、この明かりが灯っている間、アムステルダムはまるで違う街のように見えて、もう少しここに残って舟を漕いでいられたらな……と心から思いました。

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運河のパックラフティングが楽しすぎて、すごく名残惜しかった。

でも、また2時間半かけて家に帰らなければならなかったので、その日はお開きすることにしました。僕たちは、スヴェンとペギーが泊まっていたホステルからそう離れていない土手でハシゴを見つけ、通りの高さまでよじ登りました。そしてパックラフトを担いで、彼らのホステルまで数百メートル歩きました。

1時間と少し経ったころ、僕はすでに電車に乗って帰路についていました。長い一日でしたが、間違いなく素晴らしい一日でした。

まず、しばらく外出できたのは良かったし、また、Anfibio(アンフィビオ)のRebel2K(レベル2K)という新しいパックラフト(フラットウォーター・パドリングにとても向いてると思いました)を試せたのもすごく楽しかった。

でも何よりも、この 「究極のパックラフティング・シティ」 で、同じマインドを持った仲間たちと一緒にパックラフトを漕ぐ機会を得たことこそが、最高でした。

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友人であるスヴェンとペギーと一緒に漕げたことが、最高の思い出となった。


Anfibio Rebel2K(アンフィビオ / レベル2K)のインプレッション


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今回、スヴェンが借してくれたAnfibio Rebel2K(アンフィビオ / レベル2K)。

軽くて小さいのに、とても快適でした。スプレーデッキ(コックピットに水の侵入を防ぐためのカバー)を閉じるためのファスナーとマジックテープの組み合わせも気に入りました。

これのおかげで、スプレーデッキは非常にスッキリしていて、水が溜まることがありませんでした。スケグ(方向を変えるためのヒレのようなもの)があるのもとても良かった。

でも、スケグには注意しなければならない。どうしてかわからないのですが、そのうちの1つを失くしてしまったのです。

運河でしか使わなかったし、サイズも1つしかないので、個人的には数日間のホワイトウォーター・パックラフティングには持っていかないと思います。

ただ、昨年の春にスロベニアで、スヴェンがそのプロトタイプで簡単にクラス3の急流を漕いでいたのも事実です。

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3人は、ワンデイトリップながら、アムステルダムの運河でパックラフティングを存分に楽しんだ。

コンスタンティンたちによる、運河の街アムステルダムを舞台にしたパックラフティング。

日帰り(しかも昼くらいから)のトリップにもかかわらず、こんなに楽しめるフィールドだとは思ってもいませんでした。

こうやって自由に都市や運河を楽しむことができるのも、パックラフトの大きな魅力。さまざまな国で、アーバン・パックラフティングにトライしてみたくなりました。

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(英語の原文は次ページに掲載しています)

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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:石黒シエル 構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるHIKE VENTURESのコンスタンティンから、「レスキュー講習」のレポートが届きました。

パックラフトをはじめとした川遊びは、川がフィールドゆえ、つねに危険が伴う。そのため、緊急時の対処スキルは欠かせません。

コンスタンティンは、万が一危険な状況に直面した際に、果たして自分自身の身を守ることができるのか? 仲間を助けることができるのか? と疑問を抱いたことがきっかけで、レスキュー講習に参加することにしたそうです。

今回は、彼が参加した講習の内容についての詳しいレポートです。この記事が、読者のみなさんにとってレスキュースキルを見直すきっかけになれば嬉しいです。

そして、より多くの人がこのスキルを習得し、より安全にパックラフティングを楽しめるようになることを願っています。

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レスキュー講習は、『Packrafting Meet-up Europe 2019』の会場であるスロベニアのソチャ川で開催された。


これまで、パックラフトの優れた性能のおかげで危険な目にあわなかった。


パックラフトを初めて買ったとき、最初はホワイトウォーターで使用するつもりはありませんでした。もし使うとしても、自分にとって難し過ぎると感じた急流はとにかく慎重に対応し、時にはポーテージします。もちろん、最初の頃はほとんどすべてが私にとって急流だったので、そうしましたけど。

でも次第に、ある時は間違えて、ある時は意図的に、私はあの恐ろしい急流にトライするようになり、実際に急流をパドリングできるようになったのです! しかも思ったより簡単に。

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パックラフトで急流を下るようになったコンスタンティン。

その理由は、パックラフトの性能によるものでした。パックラフトは本当にしっかり広々としていたので、無敵とまでは言いませんが、本当に安心することができたのです。はじめに私がポーテージをしていたようなクラスII(※)の急流は、一度見ただけで下れるようになりました。

そして、フランスで4日間のホワイトウォーター・パックラフティング・コースを受講して、クラスIII(※)以上の急流にも挑むようになりました。ひっくり返ったかって? それはもう、何度もね。でも、どの状況においても、たとえ私が水中にいる時でさえ、パックラフトが「私を守る魔法」をかけてくれているように思えていたので、危険だとは感じませんでした。

※ クラス:瀬(川の流れが速く水深が浅い場所)の難易度。クラス(グレードや級など表現はまちまち)が I〜VI(1〜6級)まであり、数字が大きいほど難易度が高い。


友人から事故の話を聞いて、急流に対する恐怖が増した。



講義風景。インストラクターの話を真剣に聞く参加者たち。

しかし時間が経ち、私は自分が本当に困った時に乗り切れる実力と運を持っているのか、疑問を持ち始めました。自分自身の身を守る時、あるいは別のパドラーを助ける時に、どのように反応し、何をすべきか、私は知っているのだろうか?

私はフランスのパックラフティング・コースでホワイトウォーター・スイミングとスローロープの基本を学び、その後もソチャ川のミートアップで開かれたワークショップで、これらのスキルを簡単におさらいしました。でもそれでは不十分でした。良いロープも適切なPFDも持ってなかったですし、水上で困難な状況に直面した場合にどうすればよいかも、まったく知らなかったのです。

急流に対する恐怖は、昨年私の友人がホワイトウォーターにおいて、パドリングパートナーの命を失った話を聞いてから、より深くなりました。私の友人はパートナーを助けることができなかったのです。それで私は、パックラフティングを続けるならもっと学ばなければならない、と考えるようになりました。


理論と実習で構成された、急流救助に関する専門講習を受けることにした。


幸運なことに、今年開催されたスロベニアでの『Packrafting Meet-up Europe2019』の直前に、Rescue3 Europe(※)のトレーニングの一環として講習がありました。

それは、パックラフト・ヨーロッパを経営するセオンとスロベニア人のインストラクターによる、2日間のパックラフトに特化したホワイトウォーター・レスキュー・トレーニング。私はこれを受講して認定をもらいました。

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『Whitewater Rescue Technician – Recreational(WRT-REC)』コースのテキスト。

コースの正式名称は「Whitewater Rescue Technician – Recreational(WRT-REC)」で、対象としているのは、「パドリング中または仲間との、ホワイトウォーターにおける救助能力取得を希望するパドラー」です。 (https://rescue3.com/wrt-rec/)。8時間の座学と8時間の実習を行なう2日間のコースです。

一連のプログラムは、Rescue3の哲学とトレーニングの基礎の紹介から始まり、河川の水圧や危険性、コミュニケーション、および危機管理方法についての学習という内容です。


リバー・レスキューの基本装備も再確認。ここにあるPFD以外にも、クイックリリース・ベルト、スローロープ、リバーナイフ、ホイッスル、牽引用のロックカラビナ&ストラップなども詳しくレクチャー。

それから、個人&グループ用装備がパックラフトに適したものかをチェックし、川の流れや医療上の懸念事項についての議論をします。プログラムには理論の講義や議論、個人およびグループでのさまざまな演習が含まれていました。

学んだ理論は一般的に使われるものではありましたが、より広い文脈においてパックラフター用にカスタマイズされていました。それは、講師であるセオンがパックラフターだったからです。彼はサブのインストラクターでしたが、私たちに多くの学びをくれました。

※ Rescue3:世界33カ国に支部がある世界最大のネットワークを持つ民間トレーニング組織。具体的には、スイフトウォーターレスキュー(急流救助)やテクニカルロープレスキューなどの講習を実施している。本部はアメリカ・カリフォルニア州にあり、日本にも支部(Rescue3 JAPAN)がある。


急流に逆らって泳いだり、ロープを投げて人を助けたり、何度も実習を繰り返した。


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実習に向けて事前に細かいレクチャーが実施される。

両日とも、はじめに理論を4時間学んだ後、ドライス​​ーツに着替え、PFDとヘルメットを着用し、実習が行なわれる川まで歩いていきました。初日に私たちが学び、実践したことは、スローバッグを正しく使用する方法でした。

蓋を開けてみると、使用法には複数あって、その時の状況に最適なものを見つけることが必要でした。私がもっとも自信を持っていたアンダーアームスローと比べ、ヘタなオーバーアームスローでは同じ精度も距離も出せなくて、もっと練習する必要がありました。

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必要な道具の名称や正しい使い方も、いちから習得する。

また、ホワイトウォーター・スイミング(急流に逆らう泳ぎ方、急流に沿う泳ぎ方の両方)を練習し、木などが倒れ込んで進めない箇所に向かう場合の対処法(もちろん、この状況に陥らないことが最善ですが)と、瀬を横断するテクニックを学びました。

また、一人が川の中で意識を失った人の役をし、もう一人がスローバッグにPFDのクイックリリース・チェストハーネスを付けて川に飛び込み、溺れた人を確保するというテザーレスキューにも挑戦しました。

川岸にいる人が安全を確保するビレイヤーとして行動し、救助導線を管理します。最初から常にすべてを正しく行なえるとは限らないため、参加者は一人ひとりすべての役割を数回担当しました。(もちろん意識を失って溺れた人になること以外を)


溺れてしまったパドラーを、いかにして救助するか。


2日目は、ロープの扱い方の練習、さまざまな結び方とアンカーシステムの習得、テンションのかけ方と交差のさせ方に集中しました。また、意識がある状態とない状態の「溺れた人」をそれぞれ想定して、岸から対岸に対角線に張ったロープを使って運ぶこと、流れに角度をつけて張ったロープを使用する技術も実践しました。


救助を想定した、実践的な講習。

この日のハイライトは、溺れた人(今回は人形)の足が引っかかり、水面下に引きずり込まれた場合の練習でした。ストレーナーとサイフォン(※)、これらはパドラーにとって最悪のケースである可能性が高いうえ、自分でどうにかできるケースも少ない。そのため、かなり限られた時間の中でパドリングパートナーにすべて頼る必要があります。

※ ストレーナー:川にある倒木や流木などの障害物のこと。
※ サイフォン:水の流れの一部が岩などの水没した物体の下を通過するときに発生する急流。

私たちのロールプレイングの講習では、救助活動は成功し「溺れた人」は生きて助かりました。しかし、実際にこの救助活動をする日が来ないことを本当に願っています。とはいえ、貴重な学習体験でした。

これまで習得する時間がほとんどなかった新しい知識とスキルが詰め込まれ、疲労困憊の2日間を終えました。私はRescue3がなぜこの全てのコースの最初のステップとして扱っているのか、その哲学を完全に理解し始めていました。これが実践、経験、判断の発展に繋がっていくのです。

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川に入る前に地上でデモンストレーションも行なわれた。


講習を受けること以上に、それを実践し続けることが大切。


この講習は間違いなく非常に重要で貴重なレッスンでしたが、これは実践し続けることが大切だと私は考えています。

だからこそ、私は今回の認定証が3年間有効であるにも関わらず、その期限が切れる前にまた講習に参加したいですし、機会があれば次のレベルのトレーニングであるWhitewater Rescue Technician Professionalに挑戦したいと思っています。

もし次のレベルに挑戦したら、私は今、PFDにつけているものよりクールなバッジと笛を手に入れるでしょう。

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パックラフティングを安全に楽しむためには、単に講習を受けてできた気になるのではなく、復習し続けることが大切。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:堀 晃 構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるHIKE VENTRESのコンスタンティンから、ヨーロッパのパックラフトイベントのレポートが届きました。

コンスタンティンが参加したのは、今年で2回目の開催となった『Packrafting Meet-up Europe 2019』。これはヨーロッパ最大のパックラフト・イベントとも呼べるもので、今年5月1日〜4日の4日間、スロベニアのソチャ川にて開催されました。

ヨーロッパ各国からパックラフターたちが集まったこのイベント。コンテンツもとてもリッチで、パドリング技術と川のレベル別に分かれたダウンリバー・トレーニングや、レスキューのワークショップ。さらに、さまざまなパックラフト・メーカーも集まり、製品をテスト使用することもできる、というなんとも羨ましいコンテンツばかりです。

北米とはまた違った形で、ヨーロッパでもパックラフトのカルチャーが根付いてきているのを感じるイベントです。

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開催地のソチャ川。透き通るほどきれいなエメラルドグリーンの川。(packraftingmeetupeurope.com/より)


プロローグ


60人ほどの参加者は、防寒着を着込み、ポケットに手を入れ、円形に集まっています。

今は太陽が出ていて雨はもう降っていないのに、去年のような暖かさはどこにもありません。5月2日だというのに、私たちがいる渓谷のまわりを囲む山々の頂には、まだ雪が残っています。


ミートアップの開会式。主催者の一人セオンによるスピーチで始まった。

私のそばに立っていた主催者の一人であるセオンが開会のスピーチをし、参加者の私たちを歓迎してくれました。

今日から開催されるパックラフトのイベント、第2回『Packrafting Meet-up Europe2019』が、ここスロベニアのソチャ川にていよいよ始まります。


ヨーロッパのパックラフターの交流の場。


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ヨーロッパを中心に各国からパックラフターが集まった。

パックラフティングは近年ヨーロッパでも人気が高まっていますが、最近まで異なる国々のパックラフター同士がお互いの経験や情熱を話して交流できるような機会は多くありませんでした。

ベルギーやイギリス、イタリア、フィンランドといった国々では、パックラフトのローカルイベントが開催されてきましたが、規模は小さく参加する人のほとんどは地元のパックラフター。スウェーデンのパックラフティング・ミートアップは、他と比べると国際的になってきましたが、それでもまだ参加者は北欧に限られていました。


ソチャ川は美しく変化に富み、ミートアップに絶好の川だった。

真のヨーロッパ全体のミートアップと言えるほど、参加者の出身地が多様になったのは、ここスロベニアで開催された2018年5月のミートアップの時でした。

主催は、スロベニア在住のフランス人マックスと、当時家族とオーストリアに引っ越してきたばかりのオーストラリア人のセオンでした。

2人が構想したのは、ホワイトウォーター(急流)での安全や技術トレーニング、さらには川の保全についての関心を惹くようなイベントでした。

初めての開催にもかかわらず2018年のミートアップは見事成功を収め、そのおかげで、毎年ここで開催することが決まりました。


開催場所は、アルプスの南側、ヨーロッパの中心近く。


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イベント会場は、スロベニアのソチャ川。

ソチャ川がこのイベントの開催に適していることには、いくつかの理由があります。

まずソチャ川の支流であるコリトニカは、ヨーロッパで有名かつ人気のホワイトウォーターのある川です。透き通るほど美しいエメラルド色の水に加え、コリトニカには、緩急ある川の特徴も相まって、パドリング初心者から上級者までが楽しめるコースがあります。

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ソチャ川はバリエーションに富んでいて、いろんなレベルのワークショプが開催された。

ビギナー向けのクラス I や II、中上級者用のクラス III(※)、さらに難易度が高いクラス IVもあります。そして、こうしたコースはそれぞれ近くに位置していてパドリング・テクニックを学ぶには最適な川なのです。

※クラス:瀬(川の流れが速く水深が浅い場所)の難易度。クラス(グレードや級とも表現される)が I〜VI(1〜6級)まであり、数字が大きいほど難易度が高い。

また、スロベニアという立地も理由のひとつです。ソチャ渓谷は特にアルプスの南側、ヨーロッパの中心近くにあるということです。


ヨーロッパ各国から集まったパックラフターが、キャンプしながら4日のイベントを楽しんだ。

イベントの開催地に一番近い街であるボヴェツは、イタリアやオーストリアから車でラクに来れるほどの距離です。ヨーロッパ以外から飛行機で来る場合も、いくつかの空港を選ぶことができます。

ボヴェツからは、スロベニアの首都であるリュブリャナ、イタリアのヴェネツィアやトリエステ、オーストリアのウィーンやグラーツに行くこともできます。

たいていの場合、ボヴェツに行くにはレンタカーで行く人が多いですが、公共交通機関を使うこともできます。また、ミートアップに向かう参加者の車に同乗させてもらって一緒に行くという参加者の人もいるそうです。


ヨーロッパ各国のパックラフターと、パックラフトメーカーが参加。


第1回目の昨年と比べて、参加者は大幅に増えました。開会式にいた60人(パックラフターとその家族など)に加えて、次の数日でさらに多くの人が到着しました。

ただ、期間中は冷え込んだり、雨が降ったりと天候に恵まれなかったため、参加登録したものの実際には参加を見送った人も多くいたようです。


さまざまなパックラフトメーカーの製品を、テスト使用することもできた。

参加者の出身地は、去年と同じくドイツとオーストリアからの参加者が多かったです。しかし今年はイギリスやオランダ、フィンランドにベルギー、スペイン、ポーランド、フランス、チェコ、スイスの人もいて、そしてスロベニアからの参加者も1人いました。

ホスト国であるスロベニア唯一の参加者であるその女性は、主催者のセオンから「スロベニアのトロフィーだ!」と歓迎されていました。

ヨーロッパ以外からも、オーストラリアからパックラフトの経験豊かなマーク & ジェン・オーツ夫妻が参加しました。彼らは、旅行とパックラフトのために数カ月休暇を取り始めたところで、このミートアップは夫妻にとって最初のヨーロッパ滞在になりました。

またマークは、このミートアップで行なわれるパドリング技術のワークショップを開いてくれることになっていました。

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参加者にアドバイスをするマーク・オーツ(手前)とジェン・オーツ(奥)。

また一般の参加者に加えて、パックラフトメーカーの人も参加し、彼らの商品をテスト使用できることになっていました。

というのも、主催のセオンが経営するパックラフト・ヨーロッパは、アルパカラフトの中央ヨーロッパにおける公式ディストリビューターだったからです。さらに、スヴィンが代表を務めるアンフィビオ・パックラフトの商品もありました。

ドイツのココペリ・パックラフトのディストリビューターであるマークは、製品を持ってくる予定でしたが、税関でのトラブルのため残念ながらパックラフトを展示することができませんでした。

他にも、ロシアのタイムトライアルというメーカーも参加する予定でしたが、諸事情のため実現には至りませんでした。マーケットにおける新しい顔ぶれの製品をいろいろ見れたら、もっと面白かっただろうと思うと少し残念ではありました。

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ソチャ川のいろいろなポイントで、ワークショップを開催。


参加者が学び、交流し、そして楽しめるプログラム。


去年の開催趣旨に沿って、今年のミートアップもみんながパドリングを楽しみ、経験を共有できる場を設けらるよう、余裕をもってプログラムが組まれていました。

もちろん、セーフティスキルとパドリングスキル習得の必要性を伝えるプログラムも含まれています。そのため、何人かの参加者は自らワークショップを行ないました。

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パドリングの技術講習をはじめ、興味深いワークショップがたくさん。写真の女性がアニカ。

セルフレスキュースキル、スローバッグの投げ方、ホワイトウォーターでの泳ぎ方、応急処置、エディ(※)での漕ぎ方、パドリングのテクニックなど学ぶことができました。

※エディ:岩などの障害物に流れがぶつかり、その下流側に水がとどまり渦巻いている箇所。

毎日いくつものワークショップを行ってくれたオーツ夫妻以外にも、ドイツにあるラフティングガイド会社であるパックラフト・トーレンのアニカは、ソチャ川の上流で川下りの練習にたくさんの時間をかけて教えてくれました。

またドイツのラフティングガイド会社、ランド・ウォーター・アドベンチャーズのセバスチャンは、パックラフトによる遠征および悪天候でのパッキングについてレクチャーをしてくれて、これは私も実際に聞いたのですが非常におもしろかったです。


イベントでは久しぶりに会う仲間だけでなく、ワークショップに参加しながらあたらしい仲間もできた。

ワークショップはいくつもが同時に行なわれるので、どれを聞くかは参加者が何を知りたいのかによるのですが、どのワークショップもおもしろそうで本当に選ぶのが難しかったです。ダウンリバーもレベル別に少人数のグループに分かれ、ソチャ川のさまざまな場所で行なわれました。

夕食の後は毎晩、交流会をともなったプログラムがあります。初日は、2人のプレゼンテーションがありました。

自らの冒険や旅について情報発信しているアウトベンチャラスのガブリエルはグリーンランドでの経験を話してくれ、私はグランドキャニオンでのパックラフティング・トリップについて話しました。

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プレゼンテーションや映画の上映もあった。

2日目の夜は、リビング・リバー財団(ベルリンにオフィスを構える環境団体)のトビアスが川の保全の重要性を訴える映像を何本か見せてくれました。そして最終日はバルカン・リバー・ディフェンスの設立者の1人であるロック・ロズマンによる、映画の上映とトークがありました。

彼の団体は、メンバーの多くがパドラーで、ダム建設によって脅かされる川の保護に取り組んでいます。近年では、2900近くのダムがバルカン半島に建てられる予定だそうです。ここは、ブルー・ハート・オブ・ヨーロッパ(ヨーロッパの青い心臓)と呼ばれるほど自然豊かなエリアなのです。

このミートアップでは、参加登録費や寄付で集まったすべてのお金(今回は集まった金額は2000ユーロ以上でした)をこうしたNGOへ寄付します。環境保護への貢献も、このミートアップ開催の重要なテーマです。


また来年!


開会式から3日後、私たちは急いで帰りのパッキングをしていました。気温は3度、激しく降る雨。天気予報によれば、これから雪が降る可能性もあるとのこと。雪が降り始めれば、山の中で立ち往生してしまうかもしれません。

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今回宿泊したキャンプ場。

翌日には飛行機で自宅に帰らないいけないので、当然私はそんなことになりたくありませんでした。昨日までテントでいっぱいだった広場もいまではほとんど跡形もありません。ほとんどの人はパッキングをを終えて帰ってしまっていました。残っていた何人かは、グループテントのなかで肩を寄せ合っていました。

彼らに別れを告げ、60キロ南にある海を目指し、ミートアップ会場から出発しました。この刺激的な数日間は悪天候ながらも、面白い経験と新しいスキルを学ぶ可能性をたくさん感じることができました。

旧友に再会したり、新しい出会いにも恵まれました。来年のミートアップでは、とにかく良い天気で迎えられるのを期待するばかりです。


また来年も参加したい、すばらしいイベントだった!

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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ライターA群

WRITER