WRITER

文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第7回目のテーマは、「走る生活」です。

今回、紹介してくれるのは『天狗60耐』(※1) という、高尾山周辺を60時間耐久で走りつづける、自主企画のチャレンジです。

出走者はトモさんひとりだけ。60時間走りつづけるので、なんと走った距離は100マイルどころではなく、140マイル (約224キロ) 。

60時間ということは、2日半も寝ずに走りつづけるわけです。なんでこんなクレイジーなチャレンジをすることにしたのか? その理由とともに、語ってもらいました。

※1 天狗60耐:2018年4月13日〜15日にかけて、高尾で実施されたトモさんの自主企画。1周16km (累積標高1,500m) のループコースを、60時間以内に14周 (合計224km・累積標高2万1,000m)することが目標。

100miler_07_07
天狗60耐のゴールを目指して、一歩一歩進んでいく。


天狗60耐:時間も距離も、途方に暮れるほど長く感じた


2018年3月のバークレー・マラソンズ(BM100 ※2)までは、100マイル41本を、どんな展開になろうともすべて完走してきました。でも、このBM100では5ループ中の1ループ目で制限時間オーバーになり、あっさりと黒星がついたのです。初開催から34年間で完走したのはたった15人という、「世界一過酷なレース」は甘くありませんでした。

帰国の飛行機で窓の外を眺めながら、このレースで起きたことを頭のなかで整理し、完走するためのタスクができました。

でもまずは、BM100と同等の距離と累積標高を走れなければ、再度挑戦する資格すらないと思ったんです。それで、高尾の天狗コース (1周16km・累積標高1,500mのループ) を60時間以内に14周することに決めました。それが、天狗60耐が生まれた背景です。

※2 バークレー・マラソンズ (BM100):アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で毎年3月に開催されている耐久レース。「世界一過酷なレース」とも呼ばれている。1986年に第1回目が開催された。以来、34年間で完走したのはたった15人。発案者は、ラズ(ゲイリー・カントレル)。総距離は100マイル以上、累積標高は2万メートル以上、制限時間60時間。エントリー方法も公開されておらず、謎の多いレースでもある。

100miler_07_03
天狗60耐の途中では、疲れて倒れこむシーンもあった。

実際に走ってみると、とてつもなく長く、先のことを考えると時間も距離も、途方に暮れるほど長く感じました。

気持ちが切れることはなかったですが、ゴールに向けてどうやってメンタルコントロールすれば楽に走れるのか考えたとき、細分化していくことがいいと思いました。

とにかく1周1周の積み重ね。辛くても楽でも、一歩一歩進まなければゴールすることはない。考え方ひとつで楽になる、という自分のフォーミュラ (方程式) があったからこそ走りつづけることができました。

100miler_07_04
城山山頂にある天狗と記念撮影!

気持ちの浮き沈みの多いウルトラ (※3) では、このようなフォーミュラを技として持っておくことが大事ですね。

結果としては、58時間3分かけて14周 (224キロ) を達成。この挑戦をするにあたって、サポートしてくれた仲間や、途中で一緒に走ってくれた仲間がいてくれたことが、とにかく嬉しく、感謝しています。

※3 ウルトラ:ウルトラランニング (長距離レース) のことで、ロードであれば100キロ、トレイルであれば100マイル (160キロ) を指すことが多い。

100miler_07_06
一緒に走ってくれた仲間に、心から感謝。


【走る生活 (その1):レース1〜2週間前】 通常レースとは違い、運動強度を落とさず練習した


天狗60耐を決行したのは、BM100を終えて帰国してから、たった2週間後でした。

通常レースの2週間前であれば、練習の運動強度をピーク時から40%落とします。1週間前であればピーク時から60%落とします。

100miler_07_01
当時は神奈川県川崎市在住で、生田緑地で練習を重ねていた。

でも、今回は60時間行動しつづけるという未知のチャレンジということもあって、練習量と強度を落とさずに臨むことにしたんです。

走る距離は、1週間で100kmくらいを目安にしました。


【走る生活 (その2):レース直前】 60時間行動しつづけるために、寝溜めにもトライ!?


そもそもBM100は、もちろん完走するつもりでした。でも、これまで34時間以上走ったことはありませんでした。

振り返ってみれば、60時間も行動したことないヤツが、BM100にはじめて行って完走するなんて、鼻で笑ってしまうほどおかしなことなんです。

100miler_07_11
睡眠時間を増やすという、これまでやったことのないことにもチャレンジ。娘のさくらと寝る時間も増えた。

60時間動きつづけるためには、何が必要か。効果があるかどうかはわかりませんが、試しに寝溜めもやってみようと。レース1週間前から、なるべく寝る時間を増やしました。

あと、レース自体が2日半にもおよぶ長丁場なので、補給も大事です。今回は、ジェルをいっさい使わず、おにぎりをはじめ、普段食べ慣れているリアルフードで計画しました。

こんな感じで、走ること以外のことをいろいろ考えていましたね。


【走る生活 (その3):レース直後】 大好物のラーメン & ライス大盛りが完食できないほど、疲れた


レース直後に、大好きな八王子の家系ラーメンに行ったんですけど、いつものラーメン & ライス大盛りを頼んだものの、完食することができませんでした。

人生初の60耐を経験したということもあり、自分が思う以上に、疲労が蓄積していたんでしょうね。

100miler_07_10
疲労回復のための休息もかねて、家族と潮干狩りへ。

普段であれば家族と過ごす週末を60時間にわたってレースに費やしたので、翌週末は、家族と真鶴に行って潮干狩り。おかげで、心身ともにリフレッシュすることができました。


【走る生活 (その4):レース2週間後】 次のBM100に向けて、再始動!


2週間くらいは、ジョギングレベルの低強度のトレーニングです。そこから次のBM100に向けて、とにかく自分に足りないタスクをメニューに入れて、本格的なトレーニングを開始しました。

足りないタスクっていうのは、60時間動きつづける強靭な体力、60時間起きて集中しつづける睡魔に対する耐性、地図読みのスキルなどです。あと、運を味方につけるグッドラックもね。

100miler_07_02
Answer4のコバくんがチャレンジした自主24時間イベント (現・穂坂24耐) では、ペーサーを担当。これもトレーニングの一環。

失敗は、失敗をしてそこに立ち止まらなければ、ただの通過点にしか過ぎないんです。失敗をしても自分に成長する術が少しでもあるのであれば、いつまでも挑戦しつづけようと思っています。

100miler_07_09
現在は高尾に引っ越したものの、当時は川崎に住んでいて、仲間と一緒に生田緑地を走りまわっていた。

バークレー・マラソンズ (BM100) からおよそ2週間後に、人生初の60耐に臨むだなんて、やっぱりトモさんはクレイジー過ぎる。

しかも、そんなチャレンジすら、しっかりコンプリートしてしまうのは、さすがとしか言いようがない。

こうやって人を驚かす荒唐無稽なチャレンジを掲げては、そのチャレンジを自分で楽しみながら乗り越えていくところに、トモさんの真髄があるように思う。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

関連記事
trails_100mile_06_main
井原知一の100miler DAYS #06 | 家族との生活(WTK100)

trails_100mile_05_main
井原知一の100miler DAYS #05 | 食べる生活(からすてんぐ100)

文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第6回目のテーマは、「家族との生活」です。

今回は2020年の12月に開催され、57本目の100マイル完走となった『Welcome to Kyoto 100 (以下、WTK100)』(※1) を紹介してくれます。

WTK100は、草レースというよりも、仲間たちと勝手に走る “勝手100マイル”。言ってみれば、トモさんが企画・主催している『TDT (ツール・ド・トモ)』(※2) と似たようなスタイルのイベントです。

実はこのレースの後に、トモさんは手、鎖骨、肋をはじめ5カ所も骨折する事故をしてしまいます。その後は、家族のサポートを受けながら、ケガからの回復に専念する日々。

というわけで、今回は京都のインディペンデントな100マイルレースと、骨折の話をしてもらいました。

※1 Welcome to Kyoto 100 (WTK100):2020年12月12〜13日に、京都で開催された招待制の100マイルイベント。京都のピラティス・ヨガスタジオ「Nadi kitayama」を起点に、鴨川・大文字をつないだ1ループ約26.7kmを6周 (total 160km) する。制限時間は31時間、累積標高は約2,600m。

※2 TDT:ツール・ド・トモ。2010年にトモさんが自ら企画した100マイル走で、トモさんが初めて走った100マイルでもある。スタート&ゴールは多摩川の河口、羽田空港近くにある鳥居で、高水山常福院を往復するコース。ロード8割、トレイル2割。

100miler_06_11
出走者と話しながら楽しく走り続けた100マイル。photo by Hideki Wachi


WTK100:僕の大好きな、勝手100マイル!


57本目の100マイルとなったWTK100は、京都のピラティス・ヨガスタジオ「Nadi kitayama」の店長SATORUくん主催の、勝手100マイルです。

彼との出会いは、2019年にトレイルランのイベントのお仕事で呼ばれた時でした。その後、100マイルのイベント開催の話を聞き、ぜひ参加させてほしい! とお願いしていたのです。

100miler_06_03
スタート前に、WTK100の出走者たちと記念撮影。右から4番目 (僕の隣) がSATORUくん。photo by Hideki Wachi

今回走るにあたって、僕が目標としていたのは下記3つです。

1. 出走者、サポーター、すべての関わってくれた方々とたくさん話す
2. sub24 (24時間以内での完走) を目指すSATORUくんと一緒に走って目標を達成させる
3. ノーダメージで100マイルを走り終える

100miler_06_04
手作りあふれるエイドは、ローカル感満点で、“勝手100マイル” ならでは。photo by Hideki Wachi

1は、出走者とはゆっくり話せましたが、エイドでサポートしてくれた方々とは、エイドでの滞在時間が短かったこともあり、あまり話すことができませんでした。でも、いつ戻ってくるかわからないランナーを待ってくれていて、本当に感謝の気持ちしかありません。

2は、見事達成です! ゴールはいつも嬉しいですが、仲間と運命共同体で走ってきて、調子のいい時も悪い時もともに過ごし、仲間の夢が叶う瞬間に立ち会えるなんて、最高に贅沢な時間でした。

3は、ほぼ無傷での完走でした。2020年はコロナの影響で軒並みレースが中止になり、自分のコントロール下でやれることはごくわずかだったと思います。そんな中で地道に練習に取り組んできたのですが、結果、今まで走ってきた100マイルで一番ダメージもなく、うまく走れたと思います。次の100マイルにつながる手応えを感じました。

100miler_06_05
主催者かつRD (レースディレクター) のSATORUくんと一緒にゴール。目標のsub24を達成! photo by Hideki Wachi


【家族との生活 (その1):レース1カ月前】 娘のボルダリング姿に、日々刺激を受ける


娘のさくらの存在が大きかったですね。彼女が大好きなボルダリングを頑張っている姿を見られることが本当に嬉しいのです。

100miler_06_08
ボルダリングジムで、コーチと一緒にルートを確認するさくら。

ボルダリングのスクールや個人レッスンには、妻が週に3回連れて行ってくれているのですが、自分もなるべく一緒に行くようにしています。

それは、さくらの今この瞬間を、できる限り目に焼き付けておきたいからです。

自分が走りはじめてから人生が変わったように、ボルダリングがさくらを幸せにしてくれるきっかけになればと思っています。

100miler_06_06
真剣にボルダリングに取り組むさくらから、たくさんの刺激をもらっている。


【家族との生活 (その2):レース2〜3週間前】 家族で過ごす時間が、なによりの幸せ


ちょうどこの時期は、僕が関わっているレースの運営や開催の準備があって、週末は家族と過ごす時間がとれなかったんです。

でも会社員を辞めて独立してからは、平日は基本的に自宅で仕事をしています。おかげで、平日に家族との時間が多くとれるようになりました。

100miler_06_10
家族との時間が、100マイルでのより良いパフォーマンスにもつながる。

なにか特別なことをしてるわけではないのですが、一緒に同じ家の中で同じ空気を吸っているだけでも幸せですね。

井原家は、99%外食をしないんです。僕が決めたわけではないんですが、家で妻と娘と一緒にゆっくりと食事をするのが好きなんです。心身ともに安らぎますし、レース前はなおさら大事だと思っています。

いつも美味しい手料理を作っている妻には、とても感謝しています。

100miler_06_01
家でもボルダリングのトレーニングに励むさくら。これも井原家の日常。


【家族との生活 (その3):レース直後】 自転車の事故により、5カ所を骨折


WTK100を終えてからすぐに、自分が手がけている『Tomo’s Pit』というコーチングの仕事などがありました。

事件が起きたのは、外出先から家に戻るときのことでした。自転車に乗っていたのですが、手に持っていた荷物が前輪にはさまってしまったのです。

気がつけば後輪が跳ね上がり、次の瞬間には自分の顔が道路に打ちつけられていて、アスファルトの匂いがしていました。一瞬なにが起こったのかわからなかったのですが、あたりを見回して、落車したんだと認識しました。

100miler_06_02
自分にとって人生初の大ケガ。事故直後は、PCのタイピングすらままならない日々を過ごす。

でも状況を把握したのもつかの間、カラダの右側が叩きつけられたため右半身に激痛がはしりました。幸いにも目の前にファミリーマートがあったので、とりあえずピットイン。

落ち着きを取り戻して、とりあえず壊れた自転車をひきずって帰ろうかと思ったのですが、足を一歩出すにも激痛がはしるので、タクシーを呼んで帰宅しました。

そのあと、妻に病院まで連れて行ってもらったのですが、手、鎖骨、肋をはじめ5カ所も骨折していました。

100miler_06_07
5カ所を骨折しながらも、家族と楽しいクリスマスを過ごした。


【家族との生活 (その4):レース1週間後】 家族の多大なサポートを受けて、ケガを克服


骨折をしてからしばらくは、家族がいつも以上に優しかったです (笑)。

骨折をするとこんなにも生活自体が不便になるのだと、しみじみと感じました。たとえば、なにかを取る、開ける、服を着る、歯をみがく、お風呂に入る……そんな普通にやってきたことが、困難になるのです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
すべては妻と娘のおかげ。

いつも当たり前のように家族と過ごしているけど、これがもし一人だったらもっともっと大変だったろうなと。家族がいたおかげで、なにかと手伝ってくれたので助かりました。

あとはとにかく仕事に影響を与えないように、1日でも早く治すべく努力しました。カルシウム、コラーゲン、ビタミンを摂取し、酸素カプセルにも入り、睡眠も10時間以上とり、有酸素系の機能が低下しないようバイクでトレーニングもしました。

100miler_06_12
家族のサポートもあって、事故から3週間後にはトレーニングも再開! (東京は聖蹟桜ヶ丘にある『TREAT トレーニング&治療院』にて)

結果、骨折から3週間後には走れるようになりました。振り返れば、家族がものすごくサポートしてくれたからこそです。こうやって、ふたたび普段の日常に戻って、両手でタイピングできていることに感謝しています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
リビングにずらっと並べてある、家族との思い出の品々。いつも感謝!

「手、鎖骨、肋など5カ所も骨折」と話を聞いたときはかなり心配しましたが、さすがトモさん、回復へのアプローチも栄養摂取、酸素カプセル、睡眠時間を伸ばすなど、集中した対策をとって、驚異的なリカバリーを果たしたようです。

タフな100マイルを走っているトモさんでも、このような大ケガのときは、家族サポートが一層ありがたかった、というのはとても心にしみる話です。

家族との絆がさらに深まったトモさんの、次の100マイルが楽しみだ。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

関連記事
trails_100mile_03_main
井原知一の100miler DAYS #05 | 食べる生活(からすてんぐ100)

trails_100mile_03_main
井原知一の100miler DAYS #03 | 家族との生活(AC100)

文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第5回目のテーマは、「食べる生活」です。

今回は10月に開催され、56本目の100マイル完走となった『からすてんぐ100』(※1) を紹介してくれます。

コロナにより多くのレースも中止となったため、今回はトモさんにとっても実に9カ月ぶりの100マイル。しかも、仲間たちがインディペンデントに作り上げた草レースということで、トモさんもかなり楽しみにしていたようです。

またコロナによる自粛をきっかけに、トモさんの肉体にも大きな変化がありました。下にあるトモさんの写真も、なんだか前より痩せたような気がしませんか? そのワケを今回のストーリーで語ってくれます。

※1 からすてんぐ100:2020年10月9日〜11日に、島根県松江市・かんべの里 (てんぐの森) で開催された100マイル走。今回が第1回目。この地には「からす天狗」の民話があり、これがモチーフとなっている。そのため、1.5kmの周回コースを109周、開催日も10月9日となっている。制限時間48時間、累積標高9,592m。

100mi_05_11
久しぶりの100マイルを、じっくり噛みしめながら走るトモさん。photo by Satoru Watanabe


からすてんぐ100:100マイルをはじめた頃を思い出させてくれる、手作り感満点の草レース


1年前の10月4日、ランニングイベントのために島根県松江市にある「かんべの里」を訪れました。その際、イベントの主催者に「ここの周回コースで100マイルを開催してみたら?」と話したのがことの始まりです。

それがきっかけで、やりましょう! となるのは珍しくないのですが、すごいのは、RD (レースディレクター) の西山さんが、なんとこれを1年後に実現させたことです。

100mi_05_12
エイドも、ご覧のとおりほのぼのとした雰囲気。レースというよりは、みんなで100マイルを楽しんでいる感じ。

「からすてんぐ100」は、100マイルをこよなく愛する僕としてはたまらない、手作り感満点の100マイルでなんです。ほとんどの選手がはじめての100マイル。しかも一般的にはおじさんおばさんと言えるような年齢の人たちが、人生初100マイルにチャレンジしているんです。その挑戦者の初々しさが、またたまらないんですよね。

自分も10年前はまったく同じでした。ただ経験値があがった今では、はじめてならではのドキドキや不安などの感覚は忘れていたけど、当時の気持ちや新鮮さが蘇りました。

100mi_05_13
無事ゴールして、第1回目の「からすてんぐ100」の木製プレートをゲット。

今年はことごとくレースがなくなったこともあり、自分のベースを上げるべく、スピード・持久力・レース特化など、期間を決めてプログラムを組んでいました。「からすてんぐ100」のフェーズとしては、スピード練習を終えたタイミング。

長距離の練習はあまりしていなかったので、目標だったsub27 (27時間以内) というタイムもsub30くらいになればと切り替えて走りました。


【食べる生活 (その1):レース3〜4カ月前】 禁酒! 大好きなビールをやめてみた


実はお酒をやめました。きっかけはコロナです。

自粛期間中にこれまで以上に飲む量が増えて、夕方5時になると飲みたくなっている自分に気がついたんですよね。で、これはちょっとヤバイなと思いはじめて、ためしに禁酒してみることにしたんです。

100mi_05_01
夕食時の白米が最高! 愛娘のさくらちゃんもマネして白米をかきこむ。

正直なところ、3日も持たないだろうと思ってました。それが意外や意外、さほど苦労なくやめられました。

もちろん最初のころは、夕食の際に飲みたくなることもありましたが、そういうときは、大好きな白米をかきこんで満腹にすることで、これじゃビールなんて飲めない! ってくらい余地をなくすという技を編み出しました。

100mi_05_02
庭で友人家族とバーベーキューをするのも、楽しみのひとつ。お肉と野菜と、もちろん白米!

これまで晩ごはんといえば、お酒とタンパク質、サラダなどの組み合わせでしたが、それがワンパクだった中学生の頃に戻った感じですね。焼肉の日に、お肉にたっぷりとタレをつけて、お米にワンバウンドさせて食べる! その瞬間が、昔も今もたまらなく好きです。


【食べる生活 (その2):レース1〜2カ月】 甘党になるも、体重は例年よりも減少傾向


お酒を飲まないようになってから、味覚も変わったのか、甘いものを進んで食べるようになりました。

これ!と言った好きなものがあるわけではないのですが、仕事中にコーヒーを飲みながらビスケットやチョコを食べたり、コンビニに行くとどうしてもお菓子やデザートコーナーで立ち止まってしまいます。

100mi_05_10
以前は素通りしていたのに、最近ではついつい立ち止まって眺めてしまう。

ファットアダプテーション (※2) をしていたこともあり、自分の身体からエネルギーが枯渇していくタイミングがわかるようになったんですよね。それで、お菓子を食べたときに身体に糖分のエネルギーが補充されて、この感じだと自宅の裏山をこのくらい走って帰ってこれるな! なんていう感覚も芽生えました。

炭水化物をとる量も増え、甘いものも以前より多くとっているのですが、逆に体重は減りました。

※2 ファットアダプテーション (FAT ADAPTATION):安静時、運動時に脂質をエネルギーとして利用しやすい身体に調整すること。脂質の摂取と計画的なファスティング、脂質代謝を高めるトレーニングを行なうことで、より高負荷でも高い脂質代謝を保つことが可能になり、高負荷の運動を無理なく継続できるようになる。http://fatadaptation.net

100mi_05_03
トモさんの誕生日。これまではホールケーキをひと口くらいしか食べなかったのに、甘党になって迎えた今年はほとんど一人でたいらげてしまった。

おそらくお酒を飲まなくなったことで、睡眠力がアップして、しっかりとリカバリーができてているから練習の質も上がり、高強度の練習が可能になって、代謝もよくなっているのだと思います。

例年この時期に体重は75〜78kgを行き来するのですが、現在の体重は72kgまで落ちてきています。まだ微妙に減りつづけているので、年明けのレースには目標としていた65〜68kgで臨めそうです。


【食べる生活 (その3):レース直後 】 スパゲッティとカツ丼のダブル炭水化物!


100mi_05_04
スパゲッティは好物のひとつ。

レースで走っているうちから、終わったらあれ食べたい! これ食べよう! 食べた瞬間に速攻で寝るぞ! といった、普段ならできない贅沢なことばかりを考えてました。たとえば、ラーメン屋でラーメンを2つ頼んで2種類の味を交互に楽しむとか。

レースが終わった日は、そのままキャンプをしたので、レース後にまずはコンビニに直行して大盛りスパゲッティとカツ丼という、普段ではあり得ない組み合わせのダブル炭水化物! でキメてみました。

100mi_05_06
醤油ラーメンだけでは足りずに、味噌ラーメンもオーダーして、余裕で完食。

翌日は雑誌の取材だったのですが、合間にラーメン屋に直行して、あっさり醤油にしようか、コッテリ味噌にしようか、迷った末に2つ頼みました。

店主にお二人ですか? と聞かれましたが、はい一人です、と。後半は少し味に変化を加えたくて醤油ラーメンの麺を味噌ラーメンの汁に入れて、つけ麺風にしてみましたが、ただの味噌ラーメンの味でした。


【食べる生活 (その4):レース1週間後】 タンパク質と野菜中心のバランスのとれた食生活


現在の練習プログラムとしては持久力を磨くステージに突入していて、食事で意識していることは、充実した練習後に良質なタンパク質をしっかりとること。

100mi_05_08
お肉をガッツリ食べてタンパク質をチャージ。これも身体づくりの一環。

食べるものによって自分が形成されているので、ダメなものを食べれば、それなりの姿になってしまう。だから練習で頑張れば頑張るほど、良いものを取り入れて自分の身体をつくっていきたいと思っています。

100mi_05_09
56本目の100マイルを完走することができたのも、奥さんのこの手料理のおかげ。

1日のメニューの例としては、こんな感じです。

■ 朝食:ごはん、味噌汁、納豆、サラダ
■ 昼食:カツ丼 + ライス (普通のカツ丼ではごはんの量が少ないので)
■ 夕食:ごはん、味噌汁、サバと大根の煮付け、サラダ、漬物

いつもながら食事管理は妻がしてくれるので、とても安心だし、助かります。

この調整で体をつくっていきたいと思っています。次の目標は、年明け2月上旬の香港のHK4TUC (※3)、そして3月下旬に出走確定となった北米のバークレー (※4) です。

※3 HK4TUC:Hong Kong Four Trail Ultra Challengeの略称。2012年に、香港在住のウルトラランナーであるアンドレ・ブルームバーグによって創設された。香港にある4つのロングトレイル (マクリホース・トレイル、ウィルソン・トレイル、ホンコン・トレイル、ランタウ・トレイル) をつなげた、全長298kmのレース。4日間かけて走るステージレースとして始まったが、翌年に3日間に短縮、2014年からは制限時間60時間となった。ただし、75時間以内にゴールすればサバイバーとして認定される。

※4 バークレー・マラソンズ:アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で毎年3月に開催されている耐久レース。「世界一過酷なレース」とも呼ばれている。1986年に第1回目が開催。以来、34年間で完走したのはたった15人。発案者は、ラズ(ゲイリー・カントレル)。総距離は100マイル以上、累積標高は2万メートル以上、制限時間60時間。エントリー方法も公開されておらず、謎の多いレースでもある。

100mi_05_07
1年前からコーチングさせてもらっている木村さんの初100マイルを、一緒に走れて嬉しかった。

以前から、「ビールが大好き」と自ら公言していたトモさんが、まさかお酒をやめるだなんて思ってもみなかった。

コロナによる自粛で、「ここままじゃ毎日自宅で5時から飲むダメ人間になる」という危機感がきっかけだったが、禁酒によりタンパク質と野菜中心の食生活がより徹底され、睡眠力も上がり、結果的にはかなり体質改善が進んだようだ。

いつも以上に身体もしぼれつつあるトモさん。次の100マイルでどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、とても楽しみだ。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

関連記事
trails_100mile_04_main
井原知一の100miler DAYS #04 | 走る生活(HK4TUC)

trails_100mile_03_main
井原知一の100miler DAYS #03 | 家族との生活(AC100)

文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第4回目は、第1回につづいて「走る生活」です。

今回は48本目の100マイル完走となった2019年の『HK4TUC』(※1) を紹介してくれます。

100マイル完走とは言ったものの、このレースの距離は185マイル (298km)。制限時間は60時間。実は知る人ぞ知る過酷なレースなのです。

そんなレースに臨むときも、緩急のメリハリをつけた生活を送っていたり、どんなレースでも日々のトレーニングは標高600mにも満たない地元の高尾山をベースにしていたり、そういったルーティンはとてもトモさんらしい “DAYS” です。

※1 HK4TUC:Hong Kong Four Trail Ultra Challengeの略称。2012年に、香港在住のウルトラランナーであるアンドレ・ブルームバーグによって創設された。香港にある4つのロングトレイル (マクリホース・トレイル、ウィルソン・トレイル、ホンコン・トレイル、ランタウ・トレイル) をつなげた、全長298kmのレース。4日間かけて走るステージレースとして始まったが、翌年に3日間に短縮、2014年からは制限時間60時間となった。ただし、75時間以内にゴールすればサバイバーとして認定される。

100miler_04_12
ゴール付近で、サポートしてくれた仲間やレースのスタッフに迎えられるトモさん。


HK4TUC (Hong Kong Four Trail Ultra Challenge):レースで泣いたのは、人生で初めて


このレースのことは前から知っていて、出たいと思いつつもいいタイミングがなくて。

ただ、前年の2018年にバークレー (※2) でDNF (Do Not Finish) となったのがきっかけになりました。というのも、HK4TUCの制限時間がバークレーと同じ60時間で、点と点がつながり出走することにしたんです。

※2 バークレー・マラソンズ:アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で毎年3月に開催されている耐久レース。「世界一過酷なレース」とも呼ばれている。1986年に第1回目が開催。以来、34年間で完走したのはたった15人。発案者は、ラズ(ゲイリー・カントレル)。総距離は100マイル以上、累積標高は2万メートル以上、制限時間60時間。エントリー方法も公開されておらず、謎の多いレースでもある。

100miler_04_14
『HK4TUC』のスタート地点、マクリホース・トレイルのトレイルヘッドにて。

ここまで47本100マイルを完走してきて、それなりの自信はありました。だから60時間以内にかならずゴールできると思っていました。

でも、香港特有の死ぬほど階段を上り下りさせられるコースや、トレイルとはいえほとんどがアスファルトという硬いサーフェスは、想像以上にキツかった。

「もうこれ以上走れない」という脚を、無理やり動かして何百段もある階段を下るときは、一歩ごとに歯を食いしばっていたほどです。

100miler_04_11
57時間が経過。ゴールはもう目の前。

57時間が経ち、約2日半の旅も終わりゴールが見えたときは自然と涙が出ました。これまでレースで泣いたことなんてありませんでした。でも、HK4TUCはレースではなく、あくまでチャレンジなんです。

主催者のアンドレがやりたいからやっているこのチャレンジに、ウルトラ (※3) の新しい楽しみ方だったり、人の温かさ、サポートクルーへの感謝、そして新たな壁を乗り越えた自分にホッとしたような、いろんな気持ちが混ざった瞬間でした。あらためて、ウルトラは過酷さが魅力で、それが楽しさなのだと思いました。

※3 ウルトラ:ウルトラランニング (長距離レース) のことで、ロードであれば100キロ、トレイルであれば100マイル (160キロ) を指すことが多い。

100miler_04_goal (1)
自然と涙が出たトモさん。レースで泣いたのは人生で初めてとのこと。


【走る生活 (その1):レース16日前】ハワイの100マイルレース『HURT100』に出場


HK4TUCの次に控えていたバークレーを見据えて、『HURT100』に出場しました。バークレーの2カ月前だったので、刺激入れの意味合いと、現時点の自分の実力をはかるためでした。

結果は4位。そこまで頑張らなかったけど結果がついてきたので、調子がいいなと感じました。

100miler_04_07
2019年の『HURT100』。エイドでトモさんをサポートする愛娘のさくらちゃん。

ただ、バークレーに向けて追い込みすぎたこともあって、ダメージは大きく、『HURT100』が終わってから1週間はしっかり休んで、ウォーキングやサウナやマッサージで疲労回復に努めました。

100miler_04_09
『HURT100』のあと、行きつけの治療院でマッサージを受ける。


【走る生活 (その2):レース直前】30kmで累積標高が3,000mある高尾のコースを走る


レース7日前から、HK4TUCというよりバークレーを意識した練習をしました。

具体的には、30kmで累積標高が3,000mあるような高尾のコースを、2日に1回のペースで走るというもの。

100miler_04_takao (1)
雪の日の地元高尾。天候にかかわらずコツコツと練習をつづけた。

今振り返ればHK4TUCに合わせた練習をしていれば、もっと当日には疲労も抜けていたんでしょうけど、このときはバークレーしか頭になかったのでしょうがないですね。

SUB60 (※4) の自信はありましたが、HK4TUCにはトレイルの標識はあれど、コースマーキングが一切ない。つまりルートをしっかりと覚えておかないといけなかったので、ここだけが心配でした。

※4 SUB60:60時間以内に完走すること。SUB (サブ) とは英語で「下」を意味する単語。

100miler_04_05
『HK4TUC』のコースを頭に叩き込むべく、地図を何度もくまなくチェックした。

大会前日にコースのGPSデータを携帯アプリに入れて、走っている間も音声ガイドをしてもうツールを教えてもらったことが、功を奏したと思います。


【走る生活 (その3):レース直後】 冷却シートで疲労回復


HK4TUCが終わって、サポートしてくれた仲間のみんなで食事をしました。お酒も食事も美味しく、このレースを通してあらためてお会いできた素晴らしい仲間に感謝です。

100miler_04_03
サポートしてくれた仲間たちとの楽しい打ち上げ。

どの100マイルであっても、走った後の7日間はしっかり休んで、カラダの声を聞くようにしています。

どこか悲鳴をあげていれば、7日後には走れるように、セルフケアや治療院に行ってメンテナンスをしてもらっています。

自分の場合、やるときはとことんやるので、このように休む時もとことん休まないと、いざやる時にモチベーションが保てないんですよね。こういうメリハリをつけてやることがルーティンとなっています。

100miler_04_02
レース後は、かならず冷却シートで疲労回復。下半身はもちろん、腕振りで酷使した上半身のリカバリーも大事。


【走る生活 (その4):レース1週間後】バークレーに向けて高尾で走りまくる


7日間しっかりとレストをして、カラダに異常もなく、蓄積された疲労もとれてきたので、バークレーに向けて練習を再開しました。

100miler_04_08
夜中の高尾練。

バークレーはとにかく距離が長く、上りが多い。そこで地元高尾で高低差400mくらいの山を一気に上り下りして、最低でも距離に対して斜度が10%を超えるコース(例:50km / 5,000m)を選びながらフィジカルを鍛えました。

また、苦手な夜間のナビゲーションを克服するために、夜に登山道から外れた谷や尾根など、いろんなトレイルをとにかく走りまくりました。

100miler_04_10_01
この高尾の林道は、お気に入りのコース。

いつも楽しんでいる表情が印象的なトモさんが、ゴール後に涙を流したことには驚かされた。でもそれは、このHK4TUCが「レース」ではなく、「チャレンジ」だったからだろう。

競うのではなく、その過酷さを存分に味わい、楽しむ。100マイラーのトモさんの真骨頂と言えるのではないだろうか。

次のチャレンジは来春に控えたバークレーだろうか? その時、トモさんがどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

関連記事
trails_100mile_03_main
井原知一の100miler DAYS #03 | 家族との生活(AC100)

trails_100mile_02_main
井原知一の100miler DAYS #02 | 食べる生活(信越五岳2019)

文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第3回目は、「家族との生活」です。

トモさんは100マイラーであると同時に、一児のパパであり、夫でもあります。

そして日頃から「家族の支えがあってこそ、100マイルを走ることができる」と言っています。

家族にどんなサポートをしてもらいながら、100マイラーとしてのトモさんと、パパとしてのトモさんを両立しているのでしょうか。

今回は、家族とともにレースに臨んだ、2016年の『Angeles Crest 100 Mile (以下AC100)』(※1) における「家族との生活」を紹介してくれます。

※1 AC100:Angeles Crest 100 Mile Endurance Runが正式名称。アメリカはカリフォルニア州にある、エンジェルス・ナショナル・フォレストにて、毎年8月の第1週に開催される100マイルレース。第1回目が1986年に開催された歴史ある大会でもある。制限時間は33時間。

100mile_03_07
レース後のロードトリップで訪れたタホ湖の近くにあるギフトショップ。


AC100 (アメリカ・カリフォルニア州):自分を100マイラーとして成長させてくれたレース


2013年、2014年、そして今回の2016年と、AC100はこれまで3回走りました。

1回目は何も知らないがゆえに、恐れず突っ込んだらうまく行ってしまって、結果はSUB24の総合5位。

翌年は、優勝を目指したものの、制限時間ギリギリの31時間19分27秒(制限時間は33時間)で完走。

100mile_03_02
毎年、暑くて乾燥していることで有名なAC100。2016年のレースで3回目の出場となりました。

2回目のAC100では、実は途中で補給を失敗して、50マイル地点で人生初のリタイアを考えました。

このときは、途中で嘔吐しまくっていて、もう最後に出るものといえば、自分の目ん玉くらい……という感じでした。

でも、サポートをしてくれていた美恵子さん (現地在住の先輩トレイルランナー) に何度も説得されて踏ん張りました。

このときに美恵子さんが次のようなことを言ってくれたんです。

「この先ウルトラランニング (※2) を続ける上でこのような辛い経験はたくさん待ち構えている。もし今やめて楽になっても、明日自分の顔を鏡で見たときに絶対に後悔する。一生後悔するよ」

この言葉は、いまも忘れられません。

※2 ウルトラランニング:長距離レースのことで、ロードであれば100キロ、トレイルであれば100マイル (160キロ) を指すことが多い。

100mile_03_01
エイドステーションにて。身内はもちろん、地元のたくさんの人が支えてくれる素敵な雰囲気の大会です。

この日から今までウルトラでツラい場面と向き合ってきたけど、いまだにこれ以上のものには出会ってません。AC100は、自分を100マイラーとして成長させてくれたレースだと思います。

ちなみに、2016年は28位でした。たまたま2度目の日の出のタイミングでゴールしたこともあり、セカンドサンライズと呼ばれる幻のバックルを手に入れることができました。

100mile_03_12
上:24時間以内にゴールした人がもらえるシルバーバックル 左:2度目の日の出時刻にゴールした人がもらえるセカンドサンライズバックル 右:33時間以内にゴールした人がもらえるブロンズバックル


【家族との生活 (その1):レース1〜2カ月前】娘のさくらが主役の生活


日々、家族と一緒に過ごしていますが、主役は娘のさくらです。

ボルダリングをやっていて、週に3回ジムに行きます。自分はボルダリングをやらないので技術的なアドバイスはできませんが、ボルダリングに夢中になれること、そして夢を追い続けられるような環境をサポートをすることが自分の役目だと思っています。

100mile_03_15
さくらは、自分の部屋の壁に憧れの選手の切り抜き写真を貼ったり、部屋にあるうんていで自主トレをしたりと、オリンピックを夢見ています。

とにかく夢中で大好きなことをやっている彼女の姿が大好きです。彼女のボルダリングであれば、何時間でも見続けられる。喜んでいる姿や、悔しくて泣いている姿も全部好きですね。

100mile_03_18
とあるボルダリングジムのコンペで3位になったこともあります。

スポーツはもちろんすべてにおいて、がんばる意欲があれば上達するし、夢は叶うと思えるものです。

さくらにとってそれがボルダリングなのであれば、これからもその夢がブレないように見守ってあげたいし、それに対しては、僕もトレイルランニングと同じくらい夢中になれるんです。


【家族との生活 (その2):レース直前】リラックス気分で、カリフォルニアを満喫


100mile_03_05
アメリカに向かう飛行機にて。ちょっとした旅行気分。

レース4日前にカリフォルニアに入って、家族と楽しく過ごしました。

レースに向けて精神統一するとか、一人になるとか、特別そういうのがあるわけではありません。もはやレースは生活の一部になっているので、緊張もしませんし、家族とも普段どおりです。

100mile_03_17
レース前だからといって、家族との生活はいたって変わらず。

カリフォルニアのチャイニーズシアターに行ったり、宿泊先のプールで泳いだり、日本から来ている仲間たちと一緒にご飯を食べたりと、カリフォルニアを楽しみました。


【家族との生活 (その3):レース直後】レース後の授賞式に、娘と一緒に参加


この頃は、さくらも4歳と幼かったこともあり、「自分がやり遂げるところを見せたい」という思いで走ってました。なので、妻も含めて一緒に手をつないでゴールできたのは良かったですね。

100mile_03_09
家族みんなでゴール!

翌日のアワード (授賞式) では、完走したランナーにバックルが手渡されるのですが、それもさくらと一緒にもらいに行きました。

さくらも「パパは足が痛いから」と言ってくれたりして、この時ばかりは、一瞬ではありますけど僕が主役という感じでしたね。

100mile_03_08
アワード (授賞式) でもらったバックルを手にするさくら。パパが頑張ったことを少しはわかってくれたみたいです。


【家族との生活 (その4):レース1週間後】約1,000kmのロードトリップ


アワードが終われば、僕の時間は終わって家族の時間。

レンタカーを走らせ、ロサンゼルスからサンフランシスコまで行き、ヨセミテ、マンモス・レイク、タホ湖など、点々と宿泊しながら1週間かけて約1,000マイルを旅しました。レースのたびにこんな旅ができるわけではないので、とても楽しかったですね。

100mile_03_06
マンモスマウンテンの山麓にあるマンモス・レイクで、のんびりランチ。

いつからか、家族で旅行するときは目的地を事前に決めず、その日に行きたい場所に行くのが、自分たちのスタイルになりました。綿密に決めてしまうと、せっかくのバケーションなのに時間に追われるというか、普段の生活みたいになってしまうんです。

ドライブしながら、美味しそうなアイスクリーム屋さんがあればそこで止まって食べて、その店主のおすすめスポットがあればそこに行ったり、あるいは何もしない!となればホテルのプールでダラダラ泳いだり。とにかく贅沢な時間です。

100mile_03_03
サンフランシスコにも行きました。本当に贅沢なロードトリップでした。

『生涯で100マイルを、100本完走』という夢をかかげるトモさんは、自分の夢を追いかけるだけでなく、娘のさくらちゃんのボルダリングの夢にも最大限のサポートをするパパだった。

きっとお互いの夢を応援し、サポートしあうことこそが、トモさんファミリーの家族のかたちなのだろう。

「レースは生活の一部」とトモさんが語っていたが、家族も同じようにトモさんの「100マイラーという生活」を一緒に過ごしているのだと感じるエピソードだった。レース後のマンモス・レイクでのさくらちゃんの写真を見ながら、そんなことを強く感じた。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

関連記事
trails_100mile_02_main
井原知一の100miler DAYS #02 | 食べる生活(信越五岳2019)

trails_100mile_01_main
井原知一の100miler DAYS #01 | 走る生活(HURT100)

文:井原知一 写真:井原知一、TRAILS 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第2回目は、「食べる生活」です。

過酷なレースを走る100マイラーは、きっと食べるものにも気をつかっているはず。

そんなわけで、今回はトモさんが普段どのような食生活をしているのか? という側面から、100マイラーのリアルに迫ってみたいと思います。

ちなみにトモさんは、「走る、食べる、寝る、遊ぶ、すべてにおいて毎日後悔がないように楽しみたい!」という全方位全力スタイルの性格。

食べるよろこびと食事制限をどのようなバランスで実践しているかも気になります。

今回は、昨年の「信越五岳トレイルランニングレース」 (※1) のときにトモさんが実践した食生活を紹介します。

※1 信越五岳トレイルランニングレース:SFMT (Shinetsu Five Mountains Trail)。2009年に第1回目を開催した日本を代表する歴史あるトレイルランニングレース。トレイルランナー石川弘樹プロデュースのレースとしても有名。SFMこと信越五岳は、新潟・長野県境にある斑尾山、妙高山、黒姫山、戸隠山、飯縄山、5つの独立峰の総称で、北信五岳とも呼ばれる。2017年からは100マイルのカテゴリーが新設された(ただし、2017年は悪天候により110キロの短縮コースになった)。

100mile02_01
レース後半、徐々に順位を上げていくトモさん (左) とペーサーのJR田中さん。


信越五岳:個人的に、日本の100マイルレースでいちばんおすすめ


信越五岳は、海外の人にも国内の人にも、日本の100マイルの中で特におすすめしたい大会です。

なぜなら、石川弘樹さんの豊富な経験が詰まっていて、アメリカの100マイルのカルチャーに日本の良さをプラスしたレースだから。あとは、ぼくの生まれ育った長野の魅力があり、さらにその地元が盛り上がることを考えた運営をしているからです。

100mile02_02
スタート直前。最前列で淡々と準備を整えながら号砲を待つ。

ウルトラ (※2) の鉄人たちが「はじめの70マイルは賢く走れ、残りの30マイルを気持ちで走れ」と言うように、前半は、ラスト30マイルを目標タイム内で走れるようなペース配分でした。

このレースにはペーサー制度 (※3) があって、今回は、普段一緒に練習することが多いJR田中さんにお願いしました。

結果は4位と、TOP3に惜しくも入れず。最後の大きな登りで3位の選手の背中をとらえて頑張ったけど、気持ちで負けてしまったなと。

100mile02_03
ペーサーのJR田中さん (左) と一緒に、4位でゴール。

終盤になれば誰でも疲れてくるので、残りは気持ちで走るもの。でもその頑張れる気持ちっていうのはミラクルのように降ってくるものではなく、今まで頑張ってきたからこそ出てくるものなんです。そこで大事になってくるのは、走る練習はもちろんですが、今回のテーマである食生活でのカラダづくりなんです。

3位以内には入れませんでしたが、やっぱり100マイルという長い距離を約1日かけてゴールしたときの気持ちは格別です。まして一生懸命に練習してきた仲間とのゴールは、もっと格別です。

※2 ウルトラ:ウルトラランニングのこと。長距離レースのことで、ロードであれば100キロ、トレイルであれば100マイル (160キロ) を指すことが多い。

※3 ペーサー制度:ペーサーとは、選手と一緒に走る伴走者のこと。アメリカのレースでは一般的だが、日本においては、この信越五岳が初めてペーサー制度を導入。100マイルカテゴリーは102キロ地点からペーサーをつけて走ることができる。ペーサーは、選手と並走しながらコースプロフィールを教えてくれたり、路面状況を共有してくれたり、最適なペースでリードしてくれたり、叱咤激励してくれたりと、さまざまな面で選手の支えになってくれる。


【食べる生活 (その1):レース4カ月前】 大好物の炭水化物を摂らない、ややストレスフルな生活


信越五岳のときは、本格的に「ファットアダプテーション」 (※4) を取り入れてみました。

「ファットアダプテーション」は、脂質をエネルギーとして利用しやすい身体に調整する方法。レース4カ月前は、フェーズ1の期間になります。

1日の摂取バランスとしては、糖質は5%以下で、脂質は70%以上。

実は、ぼくはライスの上にライスをおかずとして乗せるくらい、大のライスイーターなんです。

しかし今回は糖質を制限するために、それをガマンする生活が始まりました。

※4 ファットアダプテーション:安静時、運動時に脂質をエネルギーとして利用しやすい身体に調整すること。脂質の摂取と計画的なファスティング、脂質代謝を高めるトレーニングを行なうことで、より高負荷でも高い脂質代謝を保つことが可能になり、高負荷の運動を無理なく継続できるようになる。http://fatadaptation.net

100mile02_04
このくらい朝飯前なのに、ガマンしなくてはいけない。

ファットアダプテーションを導入した、フェーズ1の1日の食事のメニューはこんな感じです。

■ 朝食:MCT (※5) とコーヒー
■ 昼食:サラダ、ゆでたまご、サバ缶、シーチキン、チーズ、アボカド、ピーナッツなど
■ 夕食:冷しゃぶサラダ、チキンのグリル、カリフラワーライス、茶碗蒸しなど

※5 MCT:Medium Chain Triglycerideの略で、中鎖脂肪酸のこと。ココナッツやパームなどに含まれる天然成分で、一般的な油よりも消化・吸収が早く、エネルギーになりやすい。

100mile02_14
朝食は、MCTを入れたコーヒーのみ。

100mile02_05
夕食の一例。チキンのグリルとサラダ。この時期は、ほとんど炭水化物を摂らなかった。

このように大好きな炭水化物をガマンする食生活です。

特にこの最初のフェーズでは、ほとんど炭水化物は摂らないので、ストレスが溜まることもありましたね。


【食べる生活 (その2):レース3カ月前〜レース直前】 週1回チートデイ (好きなものを食べていい日) をつくる


ファットアダプテーションのフェーズ2。フェーズ1に比べて、ゆるめの糖質制限になります。

このフェーズでは、1日の摂取バランスの目安は、糖質は15〜30%で、脂質は50〜60%です。

100mile02_06
とある日の昼食に食べた、タコライス。

ファットアダプテーションのフェーズ2のメニューは、こんな感じです。

■ 朝食:MCT、コーヒー、ヨーグルト、果物
■ 昼食:サラダ、ゆでたまご、サバ缶、シーチキン、チーズなど
■ 夕食:蒸し鶏サラダ、魚の塩焼き、繊維質の多い野菜など

フェーズ1ではほぼ炭水化物は摂りませんでしたが、フェーズ2では週に1度のチートデイ (好きなものを食べていい日) をつくって、その日には大好きなラーメンを食べることで、さほどストレスなくつづけることができました。

100mile02_07
週1回のチートデイに食べる大好物のラーメン!


【食べる生活 (その3):レース直後 】 リミット解放のバカ喰いで、ストレス発散


ファットアダプテーションを実践したこともあって、冒頭で紹介したように、信越五岳では自身最高順位の4位というパフォーマンスを発揮できました。

糖質を制限することで脂質代謝にすぐれた体質になり、それがレースの結果にもつながったと思います。

レースが終わった後は、もうリミッターを外しました。なにしろ、大好きな炭水化物やビールをずっとガマンしてきたわけですから。

こってり濃厚なラーメンにライス、ハンバーガーとポテト、ビールも好きなだけ。このときは、とにかく頭に思い浮かぶ食べたいものを、とことん食べました。

自分の性格上、強弱をつけることでモチベーションを持続できるんですよね。

100mile02_08
こってり濃厚な家系ラーメンにライスもつけて。

100mile02_09
ハンバーガーとフライドポテトも最高。

ぼくはこのスポーツを90歳までつづけたいので、目先の成果にとらわれすぎて短期間でバーンアウトすることがないように気をつけています。

そのため、ランニングを生涯スポーツ前提として考え、小さなストレスが蓄積していかないように、時にはストレスを発散しながら継続することがポイント。なので、レース後のこのやりたい放題の期間はかなり大切ですね。


【食べる生活 (その4):1週間後】 奥さんのサポートを受けながらバランスの良い食生活


さすがに1週間も好き放題食べていたら飽きてくるので、通常の食生活 (家族と一緒) に戻します。

100mile02_13
奥さんがバランスを考えてつくってくれる食事によって、トモさんの強靭なカラダがつくられる。

ランナーにとって食はすごく大切で、これも練習の一環です。ぼくはバランスを重視しているんですが、奥さんがいつも健康を考えて調整してくれているので、とても助かっています。

ファットアダプテーションに関しては、今回のようにフェーズ1、フェーズ2とトータル4カ月かけて究極のファットアダプテーションをやるスタイルと、そこまでやらずにレース1カ月前くらいから適度にやるスタイルがあります。

100mile02_11
ホットプレートは家族団らんに持ってこい。パエリアも好物。

どっちを選ぶかは人それぞれですが、ぼくは、走る、食べる、寝る、遊ぶ、すべてにおいて毎日後悔がないように楽しみたい! というスタンス。

だから、ファットアダプテーションは結果を出したいAレース (その年の一番重要なレース) 前に集中してやって、それ以外では好きなものを食べて、たくさん走って、というのが性に合っているんだろうと思っています。

100mile02_12
高尾を走っている途中で立ち寄った、地元のとうふ屋さん。美味しい豆腐とおからドーナツをゲット。買い食いも大好き。

トモさんの100マイラーとしての食生活、いかがだったでしょうか。

以前に私 (根津) がトモさんと遊んだとき、サイゼリヤで大盛りカルボナーラにミラノ風ドリア、さらにサイドメニューまで頼んで、それを一人でむしゃむしゃ食べている彼の姿に驚かされました。

トレイルランナーには、菜食中心の人や、グルテンフリーをしている人、お酒をひかえている人もいるなか、100マイラーにしては食べすぎじゃないの? レース前はどうしているんだろう? と不思議に思ったのです。

でも今回の記事で、とにかく楽しみたいことをクレイジーなまでに全力で、というトモさんのスタイルを聞いて納得しました。食事制限するならば、それも徹底的にやってみる。ストイックにやった後は、また欲望を解放する。

それが「90歳まで100マイルを走りつづける」ための、トモさんなりのやり方なのだと。

次回は100マイラーの「家族との生活」をお届けしますので、お楽しみに。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

関連記事
trails_100mile_01_main
井原知一の100miler DAYS #01 | 走る生活(HURT100)

trails_talk07_main
TRAIL TALK #007 Tomokazu Ihara / 井原 知一(前編)

文:井原知一 写真:井原知一、TRAILS 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

TRAIL TALKに登場してくれたトモさん (井原知一) が、TRAILSのあらたなアンバサダーとして、連載をスタート(彼にオファーした理由については記事末を参照ください)。

『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる100マイラーのトモさんは、現時点 (4月8日)で、55本の100マイルを完走している。

その実績もクレイジーだが、TRAILSが興味を持ったのはそれ以上に、100マイラーという人生を選んだ、トモさんの普段の生活だった。レース以外の日常にこそ、100マイラーらしさ、トモさんらしさがあるのではないかと直感的に感じたのだ。

この連載では、トモさんの暮らしを「走る生活」「食生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうと思う。

今回は、55本目の完走となった『HURT100』 (※1) について、そのレース前後の「走る生活」を紹介してくれます。

※1 HURT100:The Hawaiian Ultra Running Team’s Trail 100-Mile Endurance Runが正式名称。ハワイ (オアフ島) の100マイルレースで、20マイルのループコースを5周する。制限時間36時間、累積標高7,500m。

100miler_01_02
大好きなHURT100を走りながら、アドレナリンがあふれ出るトモさん。


HURT100 (ハワイ・オアフ島) :7回も走っているレースは、このHURT100だけ


HURTへの参加は、今回で7回目です。コースの99%がトレイルで、1%がアスファルトと、トレイル率がすごく高い。

木の根っこ、ガレ場、渡渉などが多く、しかもほぼフラットな場所がないので、タフでテクニカルなレースですね。
100miler_01_05
エイドステーションでは、応援してくれる仲間たちと会える。手前にいるのは娘のさくら。HURTは毎年家族も連れてきています。

7回も走っているレースは、このHURT100だけ。2013年に初めて参加したんですけど、もう人生が変わるくらインパクトのあったレースで。

特にRD (レースディレクター) のジョンと彼の奥さんのピージェイをはじめとしたHURTのコミュニティがすばらしいんです。だから、レースに出場しなくても「毎年あの場に行きたい!」っていうランナーもいるくらいです。

ぼくが毎年参加してるのも、まるで同窓会のごとくその仲間たちに会えるからでもあるんですよね。

100miler_01_01
レースディレクターのジョンと彼の奥さんのピージェイ。毎年、二人と会えるのを楽しみにしています。

ちなみに今回の結果は、順位は総合4位、タイムは23時間57分 (過去2番目に良い)。24時間切りが目標だったので、それは達成できた感じです。


【走る生活 (その1):レース1〜2カ月前】累積標高を意識して、近所の高尾を走る


朝5時〜12時までの7時間は仕事タイムなので、それを終えてから午後に高尾の山を走りに行くのが僕のルーティンです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
走るのはもっぱらホームマウンテンの高尾。中でもこの南高尾エリアは、ぼくの大好きなエリアです。

普段走る内容は、次の100マイルや、直近で目標にしている100マイルに合わせて少しずつ変えています。

2019年度は、もともとこの3月に出場するバークレー (※2) が本命レースとしていたので、HURT前も基本的にはバークレーに向けた練習をしていたんです。だからHURTは、自分のパフォーマンスがどのくらい上がっているかを確認するためのもの、という感じでした。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
高尾はバリエーションに富んでいるので、あらゆる練習がここでできます。

11月は、月間走行距離が548kmで、累積標高が約2万5,000m。12月は、月間走行距離が508kmで、累積標高が約2万5,000m。かなり累積標高を意識して練習していました。

※2 バークレー・マラソンズ:アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で毎年3月に開催されている耐久レース。「世界一過酷なレース」とも呼ばれている。1986年に第1回目が開催。以来、34年間で完走したのはたった15人。発案者は、ラズ(ゲイリー・カントレル)。総距離は100マイル以上、累積標高は2万メートル以上、制限時間60時間。エントリー方法も公開されておらず、謎の多いレースでもある。トモさんは、2017年、2018年に出場してDNF(Do Not Finish)。2020年も出場予定だったが、COVID-19のため中止になった。


【走る生活 (その2):レース直前】暑さ対策のため、毎日サウナ通い


この時期は、特にHURTに向けてサウナ練をやっていました。これ、練習とはいえまったく走らないんですけど、めちゃくちゃ大事で。普段も週1回は行ってますが、HURT直前の2週間は毎日行ってました。

サウナ練っていうのは何かというと、「サウナ10分 – 水風呂2分」を5セット繰り返すだけです。慣れてきたら「サウナ12分 – 水風呂3分」にします。

100miler_01_12
サウナ練といえばここ、「竜泉寺の湯 八王子みなみ野店」。

疲労を取ったり、血流を良くしたり、老廃物を出したりっていう効果もあるんですが、一番の目的は暑さ対策。HURTは常夏だから冬も暑くて、気温でいうと20〜26℃くらい。この暑さに対応できないとHURTはダメなんです。

サウナ練をすることで、汗を出しやすく、かつナトリウムが出にくくなるカラダになる。つまり暑い中でもずっといいパフォーマンスで走りつづけることができるようになるというわけ。

もうサウナの暑さに慣れすぎちゃったから、ハワイに着いた時には、ハワイ来たなーって感じしなかったですよね (笑)。


【走る生活 (その3):レース直後 】最低1週間はレストウィーク


レース直後は、どの100マイルを走った後も同じなんですけど、最低1週間はレストウィークです。

だから今回もほとんど走らなかったけど、何もしないのも良くないので1日30分程度のウォーキングをしました。4日後くらいからは軽いジョギングもしたりして。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
レース直後は、家の近所を歩いたり、軽くジョグしたり。

前にも書いたように、HURTはあくまでバークレーに向けての確認作業でしかないので、レース中も無理をしませんでした。おかげでダメージも少なくて、1週間後にはスムーズに練習を再開できました。


【走る生活 (その4):1週間後】バークレーに向けて、ナビゲーションスキルを高める


ここからまたバークレーに向けた練習を本格化しました。とにかく高尾のキツイ斜面を登りまくりましたね。どのくらいキツイ登りかっていうと、斜面にキスできるくらい!

100miler_01_04
アドベンチャーレーサーの武井正幸さんと一緒に夜中の高尾へ。

さらに、ナビゲーションスキルを磨くために、アドベンチャーレーサーの武井正幸さんにコーチングをお願いして、高尾を夜の11時から朝の6時まで走りまくるっていうのを6回くらいやって。

100miler_01_06
武井さんが作ってくれたマップ。ここに記されたポイントをたどっていく練習を繰り返しました。

武井さんが設定してくれたポイントを、地図を読みながら追っていくんですけど、ポイントごとに武井さんがアドバイスをくれて、すごく勉強になった。まあ、バークレーでしか活かすタイミングはないんですけどね (苦笑)。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
高尾を走っていると、地元の仲間に会うことも。こうやっておしゃべりするのも楽しいんです。

トモさんの100マイラーとしての「日々の生活(DAYS)」。今回は「走る生活」ということで、当然ながらHURT100に向けてかなり走りこんでいたわけですが、なんだかとても楽しそうなのが印象的でした。

練習が好き、走るのが好き、高尾が好き。そんなトモさんを垣間見れた気がします。

次回は100マイラーの「食生活」を紹介します。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

関連記事
trails_talk07_main
TRAIL TALK #007 Tomokazu Ihara / 井原 知一(前編)

trails_talk07-2_main
TRAIL TALK #007 Tomokazu Ihara / 井原 知一(後編)

ライターA群

WRITER